何が起きたか理解するのに、アルシエルはしばらく時間がかかった。
いつの間にか地面に叩き伏せられている。
いや、まるで当然のようにそこに寝転がされていた。
あおむけの状態で視線を足元に向けると、神無討也が楽しげな笑みを浮かべたまま立っていた。
その笑みに寒気すら覚える。
アルシエルは乾いた声で、自分の敗北を認めたのだった。
簡単に説明するならば、討也は目にも止まらないほどのスピードでアルシエルに接近して背後に回り、肩をつかんで引き倒したのちアルシエルの前に再び回り込んだだけの話である。
もっとも、それを文字通り目にも止まらない速度でやってのけたので、アルシエルは自分が何をされたのか気づくことが出来なかった。
討也にとっては特に物凄い技を使ったとかそういうわけでも無いし、実際衝撃だって地面に倒れたときのだけだろう。が、アルシエルにとっては討也がそんなことをしたとは思わないので得体が知れず恐怖したのである。
ちなみに討也に恐れを抱いたのはアルシエルだけではない。
ちらりと討也が見ると、物陰に隠れた悪魔たちがビクリと身を竦ませた。
そんな部下の悪魔たちの様子を見て不甲斐ないと思いたいアルシエルだが、正直討也に関わりたくないというのは自分も同じである。悪魔大元帥という立場でなければとっとと逃げ出している。
「ところで…神無様は一体どのようなご用件でここに?」
アルシエルは自分がまだ討也がここに来た理由を聞いていないのを思い出して尋ねた。
考えてみれば向こうが用件を言う前に戦わせろと言ったのである。討也が気まぐれでなければこんな程度のダメージでは済まなかったかもしれない。
そんなことを考えていると先ほどの戦闘の傷がまた痛みだして、アルシエルは顔を歪めた。
「ああ、そういえばまだ言ってなかったっけ?」
どうやら討也本人も忘れていたようである。
「あ、その前にほら」
そう言って討也がアルシエルを指さすと、先ほどの戦いで負った傷が一瞬で消えた。
「なッ!?………これは!?」
「ああ、回復魔法みたいなもんか?正確にはセイント・ヒールっていうスキルだが、まあ、それは良いだろう。俺がここに来た理由はな………んーと」
「…………?」
なぜか討也が考え出したアルシエルはその行動の意味が分からず内心で首をかしげる。
「(物覚えが悪いのだろうか?それとも別に用事があったわけではないとか?)」
アルシエル君大正解。
「特になんも無ぇな………強いて理由を挙げるなら暇だったからだ」
暇つぶしでほとんどの戦力一人でぶっ潰したのかよ、誰かが呟いたが、討也がそちらをにっこりとした笑顔で見るとすぐに沈黙した。
「」
アルシエルに至っては絶句したまま固まっていた。
魔王様が警告してきたのも分かるなと、機能した僅かな思考でそんなことを思っていた。
とりあえず討也がここに来た理由は分かった。と言うか特にない事が分かった。
正直なところすぐにでもお引き取り願いたい。壊した城壁もボロボロにされた味方の被害についても何も言わないからすぐにでも帰ってほしい。
が、そういうわけにもいかないだろう。魔王様から失礼のないようにと言われているし、これ以上のとばっちりを食らうのは御免である。
「分かりました……どうぞ、ゆっくりして行って下さい」
できればこれ以上見方を傷つけるのはやめてほしいと付け加え、心の中で早く帰ってくださいと全力で叫びながら、アルシエルは神無討也という化け物を引き攣った笑顔で歓迎したのだった。
その数時間後。
魔王のもとに、北のアドナメレクが打ち取られたと言う報告と、東にいるアルシエルから、神無討也が来ているのですが助けてください、という連絡がほぼ同時に届いたのだった。
そろそろ魔王さんには勇者の存在に気づいてもらわないとね。
次いつ更新できるかわかりませんが続けていきます。