エミリアたちが、アドナメレクを打倒してから数か月が過ぎ、東大陸からアルシエルが中央大陸へと撤退した。
そして、いよいよ勇者一行が中央大陸へ攻め込む時が来た。
この数か月の間に南のマラコーダも打倒されている。が、それに討也は参加していなかった。勇者一行を手伝ったのは、どちらかと言うと討也の相棒であるベリタスの方だった。
討也は、ベリタスからこれから魔王以上の力を持つ存在が現れる、と聞いたので一応パワーアップをしておくことにしたのだ。一応討也はロード・トゥ・ドラゴンの世界で「神」を相手に勝利していたりはするが、この世界の住人がどれほどの力を持っているかは分からない。それ故のパワーアップ。もっとも、魔力の量が増えたとか、拳の威力がかなり上がったとか言うわけではなく、単に力の扱いに慣れただけの話である。
まあつまり、原作を知らないと不便だということである。
さて、エミリアたちはあっさりと魔王城の入口にたどり着いていた。聖剣からは、先ほどから紫色の光線が出ている。エミリア達はこの光が魔王の居場所を示すものだと考えているようだが、ベリタスの話ではどうやらセフィラの欠片の場所を示しているらしい。
恐らくベリタスは原作を知っているのだろう。考えてみればベリタスは涼宮ハルヒの憂鬱も原作の事をすべて知っていた。討也は原作小説一巻のそれも途中までしか知識が無い。そのため原作知識についてはベリタスが言っていることの方が正しいのだろう。
まあ、そのベリタスが「セフィラの欠片って?」と聞いたら「さあ?」と答えるのだから使えない事この上ないが。
「まあベリタスが使えない役立たずなのはどこの世界でも同じだったか(笑)」
『なんか言ってやがるか?基本自分が楽しめること以外やらないくせに』
そんな会話を討也とベリタスは魔王城の中を歩きながらしていた。さすが互いに7000歳を超える化け物である。エミリア達から見れば緊張感が無さ過ぎる光景でありやり取りである。
「あのー、ここ敵の本拠地なんだがなぁ?」
見かねたオルバが注意するが、異形と化け物の二人の返事は相変わらず軽いものだった。
「そういえばサタン君に会うの数か月ぶりだな……元気でやってるかねえ」
「お前が来るって分かったら玉座で震えてるだろうな。まあ、とりあえず一応テキトーに気を付けては置きますか」
途中に悪魔が現れていたりはするのだが、それは討也とベリタスがおしゃべりの片手間に撃破し続け、勇者一行は難なく魔王が待つ部屋へとたどり着いたのだった。
中央大陸へ攻め込む前の事である。討也とベリタスは二人だけで相談をしていた。
内容は、魔王が決戦で地球に逃げたとき、と言うよりも確実にそうなるのだが、その時自分たちはどうするかと言うことである。討也はもちろん自分も異世界へ渡る気でいた。討也は魔王を軽く凌駕する魔力や、天使に匹敵するほどの聖法気を扱う事が出来る。これが異世界に行ったときどうなるかは分からないが、討也にはそれでなくても神様製の身体があるし、ダークマターを作ることもできる。ついでに言うならロードラの世界のスキルは問題なく使用することができる。もっとも討也の魔力と聖法気はこの世界の人間とは異なり、アドレナクが与えた特典によるものなので異世界に行っても影響がない可能性は高い。つまりパワーダウンの心配はほとんどないのである。
同じことはベリタスにも言える。が、ベリタスの場合、討也には無い致命的な欠点があった。
それがエミリアたちが「異形」と称する姿である。実際、涼宮ハルヒの憂鬱の世界ではベリタスは基本「器」から出て魂だけで行動していた。これは魂の状態でなら人間の眼には触れないためである。
が、ベリタスは魂だけではほとんど何も力を持たない。つまりベリタスが異世界に渡った後に役に立つ可能性は少ないのだ。
そこでベリタスが出した結論は、討也だけが異世界に行くという事であった。
どうやらエンテ・イスラに残っても面白いイベントが何かあるらしい。
討也としてはそれに興味が無いわけではなかったが、予定通り一人で異世界にわたることになったのだった。
扉が開けられ、4人の人間が入ってきた。
魔王は玉座から立ち上がり、4人の人間を無言で出迎える。隣に立つアルシエルも、いつ戦闘になってもいいようにそっと魔力を高めた。
「ここまでたった4人でたどり着いたことは褒めてやろう」
ガラスをひっかくときの様な耳障りな声でアルシエルが言った。
が、その声にその4人は「ん?」と不思議そうな顔をした。
「「「「4人?」」」」
そう言いながらたった今入ってきた扉の方を振り返る。
当然誰もいない。
「いやー相変わらず良い眺めだねぇ……思わず城ごと吹き飛ばしたくなるほどだ」
『危ない発言してんじゃねぇよ……あーでも確かに高いとこから見下されるのってムカつくな、こりゃぶち壊したくもなる』
「だろ」
「「「「「「待て」」」」」」
いつの間に入ってきたのか、討也とベリタスは部屋の横にある大きな窓の近くにいた。
「っていうか、なんで師匠が居るんですか?隣にいるのは?」
『あ、ベリタスだ、よろしくなサタン君』
「あー……ハイ」
「貴様…魔王様に向かって……いや、その前にそこの二人どうやって入ってきた」
「お、久しぶりじゃんアルシエル君」
「お久しぶりです神無さん。ってそうじゃなくて聞いてることに答えてください!」
「あの~」
二人のせいでぐだぐだになったところに、エメラダからの申し訳なさそうな声が割り込んだ。
そちらを見てみると、エミリアも戸惑いながらも聖剣を抜き殺気を魔王に叩きつけている。
「とりあえず~、始めちゃって良いですか~」
「『あ、どうぞ』」
戦闘を開始して良いかと言うエメラダに、二人はノータイムで答えた。ベリタスだけが日本刀を抜き二歩ほど前に出る。
どうやら討也は参加しないようである。
それだけでも魔王とアルシエルは内心でほっとしていた。日本刀を構えた異形が何者かは知らないが、討也が敵に回らないならまだ勝ち目はあるかもしれないのだ。
魔王たちも勇者一行も、緩んだ気を引き締め戦いを始めた。
討也とベリタス以外は。