ノックの音を聞いて、芦屋四朗はふと顔を上げた。
またテレビ局の人だろうか?もしそうなら「うちにテレビはありません」と言おうか、などと考えながら、包丁をまな板の上に置き、軽く手を拭いてから扉を開け…。
はて、と首をかしげる。
そこにいたのは、赤い目をした黒い髪の……少女だった。
一体誰だろうか?と考えながら、要件を聞こうとした芦屋は、次の瞬間にはその身をギクリと固まらせる。
なぜなら、その少女がこんなことを言い出したからだ。
「や、アルシエル君。久しぶりだねぇ」
と。
向こうはこちらの事を知っている。が、自分はこの少女のの事は見たことが……と、そこまで考えてふと思う。
久しぶり?という事は自分も知ってる人物だろうか?
なんて考えてるうちに、その少女は右手に持っていたビニール袋をこちらに差し出しながら、笑顔で「ハイ、これお土産」と言った。
中身を見てみると、さまざまな食品が入っていた。正直ありがたい。
それから、もう一度訪問者の顔をよく見て自分の記憶と照らし合わせ、そして思い出した。
「あ、まさか…神無さん!?」
「ん?おいおいもしかして気づいてなかったのかよ?サタン君はどうしたのさ?」
とりあえず、上がってくれと言うと、討也はその言葉に従い部屋に入り、ゆらりと見回してからそう聞いてきた。
「魔王様は今アルバイトの面接に出かけております」
「あー、………マグロナルド?」
「…………何故分かったのですか?」
「まぁ…ただの勘だよ」
勘でそんな事分かるのだろうか?と内心で首をかしげつつも、芦屋はそれよりも自分が感じている疑問を先に解決してしまおうと討也に質問してみることにした。
「あの、ところで神無さん。貴女……男性ではありませんでしたか?」
一瞬、キョトンとした表情になった討也だったが、すぐに納得したような表情をすると、ポケットから白いリボンを取り出して後ろで髪を一つにまとめながら答える。
「いや、アルシエル君、こんな見た目で男なんだぜ」
確かに、髪をまとめた今の討也なら、男だと言われれば納得できる。逆に言えば女だと言っても信じられる。
「…はあ…髪型と服装で随分と印象が変わってしまいますね…」
「うん。まあ今までの世界でもよくあることだったから慣れてるけどね?」
やはり討也を見て女だと思ったのは自分だけでは無かったか。
「あ、サタン君いつ帰ってくるの?」
「えーと…そうですね。もうしばらくすれば帰ってくるとは思うのですが…」
「そうかい。ま、それなら待たせてもらうとしようか」
あくびをしながらそう言う討也に、芦屋は魔王様に用があったのか?と尋ねる。
「や、暇だから遊びに来た」
………。
エンテ・イスラで会った時も思ったが、本当に自由な人である。
やがて、階段を誰かが上ってくる足音が聞こえてきた。
言うまでもなく、真奥貞夫こと魔王サタンである。
その足音を聞いて、討也が心底楽しげな笑みを浮かべたのももはや言うまでもない。