一瞬で魔王との距離を殺した討也は、ロードラの世界のほとんどのドラゴンならその一撃だけで沈める事が出来る拳をノータイムで魔王に叩きつけた。
魔王はそれに気づくことはできなかった、討也が文字通り光の速度で接近したことで、討也が視界から一瞬消えたことにすら気づく暇はない。
何が何だか分からないままにただ殴られた衝撃で吹き飛ばされ、壁に叩きつけられた。
激痛と、殴り飛ばされたという理解できない状況に顔を顰めながら、魔王は何とか立ち上がった。
「ぐッ……やはり、只者では無いな……ッ!」
魔力をその身にまとわせ守りを固める。
一撃で圧倒的な格の差を見せつけられてもなお戦意を失わない魔王に討也は心の中で賞賛を送るが、同時にすでに一撃で満身創痍となった魔王にがっかりもしていた。
それから何かを考えるように黙っていた討也は、めんどくさそうにしながら踵を返して言った。
「ああ、うん一発殴ってすっきりしたからもう良いや、俺帰るよ」
正直、討也にとって魔王はあまりにも相手にならなさ過ぎた。
「いや、待て。それはおかしい」
あまりの急展開に魔王は突っ込んだ。というか、討也がこの場に現れてから色々急展開すぎるのだが。
「というか、途中で真剣勝負をやめるとかどういう神経をしているんだ貴様?」
「は?」
魔王の言葉に、討也は呆れたような表情を浮かべた。
「お前ごとき弱者の相手をするのに、この俺がマジになると思ってんのか?」
捉えどころのない、楽しげな、それでいてそれだけで相手を殺せるほどの気を発しながら、討也は笑いながら魔王に言う。
「ッ!?」
弱者と言われた怒りは湧いた。だが、同時に、目の前の存在に対して魔王は恐怖を抱いた。怒りにも勝る恐怖を。
楽しげに笑う人間の姿をした目の前の何かは、自分が到底敵うような相手ではない気がした。
魔王は、討也の放つその気配に、思わず自分が身を引いたのには気づかなかっただろう。
その気になれば討也が自分を倒す事は一瞬だろう。
だが、討也は魔王に向けていた気配を消すと、かなりどうでもよさそうに。
「まあ、そうだなあ、俺とどうしても戦いたければ、せめて魔力弾で俺にかすり傷付けるくらいには強くなってからにしてくれ」
そんなんじゃ勇者にも勝てないよ?と言おうと思った討也だがさすがに口には出さなかった。
「…………………どうすればそこまで強大な力を得られる?」
魔王は、自分が最強ではないにせよかなり強い部類にいると思っていた。だが、討也はその程度ではダメージすら与えられない。魔力弾を素手で叩き消すなど聞いたこともない。
「うん?まあ……………そうだなぁ…」
実際、討也の強さは、ロードラの世界で付けたものである。それでも、1番目特典の効果を神様製のこの肉体の自力が上回るのに200年は過ぎている。だが、魔王とて300年程度は生きている。もしかすると、身体強度などはこれからパワーアップすることも可能かもしれない。
その考えに至った討也は、楽しげな、それも悪だくみをする子供のような笑みを浮かべると、良い暇つぶしを得たとばかりに言った。
「そうだな、少しくらいならお前のパワーアップに付き合ってやろう」
神様も殺せる化け物は、魔王の強化をすると言い出したのだった。