討也が魔王との戦いを始めたころ、討也の相棒であるベリタスは、西大陸にいた。
というより、アドレナクによって飛ばされた。
『あの野郎、なんで別々の場所に飛ばしやがった……!?』
アドレナクに対して文句を言いながらも、彼は立ち上がる。
立ち上がった。
さて、なんで今立ち上がったの強調したよ?と思った人もいるだろう。いや、そう思った人がほとんどだろう。
だが、ベリタスが立ち上がるというのはひどく不自然な事なのである。何故なら、ベリタスは魂だけの存在。つまり自分の肉体を持っていない。その代わりに、ロード・トゥ・ドラゴンの世界で討也が作ったベリタス専用の身体「器」がある。
つまり、今のベリタスは器をその魂に纏っているのだ。
この世界に来たの自体、討也とは少しずれたタイミングだった。つまり討也が「器」を自分渡したとは思えない。が、アドレナクなら討也が作った異空間の倉庫内にあったはずの自分の「器」を取り出す程度は、人間が呼吸をするのと同じくらい当たり前のようにやってのけるだろう。
考えても答えが出るわけではないので、ベリタスはとっとと考えるのをやめると、近くにある気配を探る。近くにはいくつもの人間とは異なる気配があるが、討也はこの近くにはいない。
ベリタスは、その場に立ったままで、索敵範囲を広げる。人間とは異なる気配の中でも、ひときわ強い気配を五つほど確認できた。そして、おそらく人間だとは思うが何か違和感の残る気配を、自分がいる場所から決して遠くない位置に一つ。そして、五つの中の気配のうち、中央にある気配の近くから、正体の解らない二つの強力な力を確認できた。二つのうち大きい方の力は間違いなく討也のもだろう。もう一つは良く分からない。
今ので気が付いた人もいると思うが、討也が先ほど言っていたように、ベリタスの索敵能力は非常に優れている。それこそ、このエンテ・イスラ全体を把握できるくらいの能力がある。軽くチートだ。
が、ベリタスは本来、「器」が無ければ物質に一切干渉できないどうしようも無い存在なのだ。それこそ戦闘では絶対に役に立たない。そもそも、そのような事情があり、ロードラの世界で「器」を作ることになったのである。
そして、今現在、ベリタスには「器」という肉体があった。
ベリタスの器は、鎧のようにも、機械のようにも見える外装をしていた。そう、外装はそう見えるのだ。討也とベリタスは、ロードラの世界ではもちろん町や村に立ち寄ることもあった。そういうところに行くのに、鎧のような姿をしていれば、あまり不審な目で見られることも少ない。そう考えたのだ。
そして、ベリタスは迷うことなく外装をパージした。もともと、外装は見てくれを変えるためにごちゃごちゃとパーツをつけているため、ただでさえ戦闘では邪魔になるし、この外装には防御力のかけらもないのである。
「器」の本体は、パージした外装の中身にある。
外装をパージした本体は、白と灰色の奇妙なデザインをした、機械のような、人形のような形状をしていた。これは、ロードラの世界の「四兵器」のデザインとかなり似ている。というか、「四兵器」の一体だと言われても信じてしまうくらいには同じである。唯一違うのは、右手が人間の手と同じような形状をしていること、そして、地面に立てそうな足があることくらい。違いと言えばそれくらいである。
まあ、つまり。どこからどう見ても人間には絶対に見えない。
『この体に入るのも久しぶりだな……』
呟きながら、ベリタスは外装に取り付けられていた日本刀を右手で鞘から抜いた。
ちなみに、右腕には「量産型時間兵器」がつけているような射撃武器が取り付けられている。
『討也は……あんまり一か所から動いてないみたいだし、しばらくほっとこう。どうせ俺が気配を探った時に向こうもこっちの居場所が分かっただろうし』
だったら自分は何をしようか、とベリタスは考える。
近くには小さな、人間とは異なる気配。
『それじゃあ、前の世界で使った分の「魂」を補充しますか………』
ゆらりとベリタスが振り向けば、そこには、ロードラの世界で7000年近くの時を過ごしたベリタスにも見たことのない生き物が何匹もいた。
『討也じゃ無ぇけど……楽しませてもらおうか……』
ふわりと、地についていたベリタスの足が浮き上がり、のっぺらぼうの額に浮かぶ一つだけの眼が、嗤うように赤く揺れた。
それから数日後、西大陸で、悪魔を狩り続ける謎の異形の存在が噂され始めた。