異形が、ゆらりとこちらを振り返った。
そのことに、エミリアたちは驚いた。
まさか言葉が通じるとは思わなかったから。
しばらく唖然としていると、その異形が声を出した。決して口を開いたりはしていない!というか口がない!
『呼びかけておいて、黙ってるのって無ぇんじゃねえの?』
「「「「「しゃべった!?」」」」
『俺もう行っていい?』
うんざりした口調で異形が声を出した。
「あ、ええと……私はエミリア・ユスティーナ、教会騎士よ」
エミリアは横にいるオルバを見る。
「おお…私は六人の大神官の一人、オルバ・メイヤーだ」
「仙術道士アルバート・エンデだ」
「セント・アイレ帝国宮廷法術士のエメラダ・エトゥーヴァです」
『………神無討也の相棒、ベリタスだ』
なんで自己紹介されたんだろう?と思いつつも、ベリタスも自分の名前を教えた。
「ナシトウヤ…という名前の神ですか?これまた変わった御名前の……」
オルバが、そんなことを口にする。
『違ぇよ』
仕方がないので、ベリタスは神無討也が普通に人間の姿をした人物であることを教えてやった。
『(それにしても………成程ここは…はたらく魔王さま!の世界だな)』
ベリタスもようやく原作に気づいた。そしてもう一つ彼は気づいたことが有る。
『討也……あの野郎、魔王と遊んでやがるな…』
ベリタスは、討也が一か所から動かない理由が、魔王にあることを察していた。
もっともベリタスは一つ間違えている。討也は別に魔王と遊んでいるのではない。
魔王「で」遊んでいるのだ。
『それで?一体何の用だ?』
大方、何となく引き留めたのだろうと思いつつも、ベリタスは理由を尋ねた。
「えーと」
答えに困ったエミリアが、横にいるオルバを見た。
「なんで私を見るのだ……」
そんなことをオルバが小声でつぶやく。もちろんベリタスには聞こえている。
仕方なく、オルバが口を開いた。
「その……圧倒的な力をお持ちのようですが……」
と、オルバはベリタスの周りに転がる悪魔の群れを見つつ言った。
『まあ、確かに、お前らからしたら凄いかもな』
その声に気取った様子はない。まるで自分より上などいくらでもいると言わんばかりである。
さて、どうしようかとオルバは考える。そして考え付かなかったので、直球で行くことにした。
「……できたら、その力を我々人間のためにお貸しいただけませんか?」
『…………』
成程、とベリタスは考える。が、別にそれはオルバたちの事ではない。討也の事だ。
討也は討也で中央大陸で魔王相手に自分のやりたいようにやっているのだろう。だとしたら、自分もやりたいようにやるべきではないか?と。
『いいぜ、そのかわり、俺が倒した悪魔の魂は俺がいただく』
というわけで。ベリタスは勇者に協力する片手間に魂の回収を続行することにした。
エミリアたちは自分の拠点に帰還していた。オルバは現在何か用があるらしく、ここには居ない。
「で…ベリタスさんはなんでそんな姿をしてるんだ?」
アルバートは、人間には見えないベリタスの姿を見ながら尋ねた。白と灰色を基調とした、独特のデザインの人型に近い形状をしているベリタスは、悪魔のようなまがまがしい姿とは違う。
『ああ、俺は魂だけの……幽霊みたいな存在だからな。体を持たない。だから俺の相棒…討也が用意してくれたんだ』
つまりそのデザインは討也という人物の趣味か、とアルバートは勝手に思った。
「その…討也さん?は何処にいるんですか?」
エメラダが次に質問する。
『この世界の居るのは間違いないな。気配からすると……中央大陸じゃねえかな?』
「「「は!?」」」
中央大陸は、魔王本人に支配されている。そんなところにいるとは…。
「ちょっと!?大丈夫なのその人!?」
エミリアが少し慌てて聞いた。
『大丈夫じゃねえの?』
気配はするんだし、とベリタスは気楽に答えた。
だが、魔王がどれほど自分が相手にしている悪魔と格が違うかを知っているエミリアは、続けた。
「あなた…魔王がどれほど強いか知ってるの!?」
どれくらいだろう?とベリタスは考える。確かに魔力を使えるのはすごいのだが、器がある今の自分なら負ける気はしない。そして討也はそんな自分より遙か高みにいる存在である。
ロードラの世界では「神殺王」という名で神からも恐れられたほどだ。実際幾つもの神を倒している。この世界でどのような特典を渡されたかは知らないが、やはりチートであることに間違いはないだろう。気配で分かる。故にベリタスはやはり気楽に返す。
『じゃあ……お前は……討也がどれくらい強いか知ってるのか?』
俺くらいの強さなら、片手も使わず倒せるぜ?とそう言ったベリタスの赤い宝石のような一つ目は、楽しげにゆらゆらと輝いていた。