3.はたらく魔王さま!の世界に転生   作:錯也

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チート(討也)、堕天使の翼を毟る

 

 突然感じたその「力」はまっすぐにこちらに近づいてきた。

 だが、その姿をとらえることはできないまま。

 突然、水面が膨れ上がる。少し遅れて轟音が響いた。水が打ち上げられ、視界をつぶす。

「!?」

「なんだ?」

「ん?」

 それぞれが、それに反応を示す。

 水面から何かが現れたのだろうかとエミリアたちは思った。だがそれは違う。

 辛うじてルシフェルは、上空から何かが飛来したことを理解していた。もっともその姿をとらえることはできなかったが。

 やがて空中に打ち上げられた水が湖面に戻っていき、視界が晴れた。

 そして、全員が戦場に乱入してきた謎の存在をとらえる。

 全員が訝しむような視線をそれに向けていた。

 

 姿は全く人間と変わらない。違うのはルシフェルやベリタスを軽く凌駕する圧倒的な存在感。

 髪の色は黒、着ているのは黒いコートと黒いズボンと、服装もそれほど違和感はない。

 見た目に違和感が少ないからこそ、その異常な「力」が少年から感じられるのが不思議なのだ。

「あー、制限のせいで空中に足場を作れなくなったのは痛いなぁ……」

 水にぬれた黒髪をガシガシと無造作に掻きながら、少し恨めしそうに上空を見上げる。

 それから、見上げた上空に黒い翼をもつルシフェルと、光を纏った勇者を見て、楽しげな笑みを浮かべた。

 いつの間にか、水面が少年を中心に凍り付いている。

「その手があったか……」

 と、アルバートが呟いた。

「どこの誰かは知らないけど……君もこいつ等と一緒に殺してしまっていいのかな?」

 ルシフェルが上空で魔力球を作り出し、言う。

 だが少年は、つまらなそうな顔をした後に。

「あー……うん。いいよ。やれるならやってみろよ」

 その少年の態度に、今まで笑みを浮かべていたルシフェルの顔が怒りの表情に変わる。

「やれるならやってみろだと?頭に乗るなよ人間!」

 怒りの声と共に魔力球を少年に向け上空から放つ。

 エミリアが、慌てて割り込んで防ごうとしたが、間に合わない。

「誰に喧嘩売ってるか分からねぇみたいだなオイ?」

 ペチッと、そんな軽い音と共に、ルシフェルが放った魔力弾は少年の平手ではじかれ水面に叩きつけられる。

「!?」

 ルシフェルが驚愕の表情を浮かべる。いや、ルシフェルだけではない。その場にいた少年以外の全員だ。

「へ、へぇ……見た目通りの存在じゃあ無いってことかな……」

 防がれた…いや、あっさりと弾かれたことに動揺しつつも、ルシフェルは余裕を崩さない。

 が、それは少年も同様。トントンと、凍り付かせた水面に足を叩きつけた少年は、ルシフェルを見て楽しげな笑みを浮かべる。

 その瞬間、ルシフェルは嫌な予感を感じた。

 だが何か対応をする前に。

 

 ―――沈めよ

 

 そんな声と共に、ルシフェルは後頭部に衝撃を感じた。

 

 様子を少し離れた位置から見ていたオルバ、アルバート、エメラダの三人には、上空を見た討也の姿が消えたように見えた。消えたのではないと分かったのは、先ほどまで討也が立っていた氷が、割れたからである。

 一体何が起きたのか、それを三人が理解する前に、声も上げる暇もなく、ルシフェルが凍り付いた水面に高速で叩きつけられた。

 

 討也は、凍らせた水面をを蹴って上空へ跳び上がる。そのまま再び空中を蹴り黒い翼をもつ堕天使の背後へ、その後頭部を右手でつかむと、再び空中を蹴り、その顔面を氷に叩きつけた。

「くははははははッ!遅すぎて話にならねぇよ!」

 そう言いながら、討也は堕天使の後頭部を踏みつけて、その顔面を氷にめり込ませていく。

 踏みつけるたびに、ずしりと重い衝撃がエミリア達にまで届いた。

 もう死んでるんじゃね?と思うほどである。

 さらに、討也は黒い翼をつかんで、顔が氷にめり込んだルシフェルを引きずり出す。

 空気を割く音と同時に、ルシフェルが湖の周囲の地面にものすごい速度で叩きつけた。

「「「「 」」」」

 もはやエミリア達は呆然としたままで動けないでいた。

 しかしながら、すぐにエミリアたちは身構える。あれだけされたルシフェルがまだゆらりと立ち上がったからだ。

 が、それは無駄だった。

 立ち上がったルシフェルの前に、水面を蹴った討也が降り立つ。

「ひッ!?」

 討也の楽しげな笑みを見て、血に濡れた顔面を恐怖の表情に歪めたルシフェルは慌てて黒い翼をはためかせ飛び立とうとした。

 

 が。

 

「おいおい、どこに行くんだよ?」

 楽しげな笑みを浮かべた討也が、ルシフェルの翼を掴んで地面に引き戻す。

 体重差がそれほどあるようには見えないのに、簡単に引き寄せられた。

 引き寄せられてなお逃げようともがくルシフェルは、不意に、ブチリという不快な音を聞いた。

 それと共に、背中にすさまじい激痛が走る。

「ぐおおおおッ!」

 あまりの激痛に涙を浮かべつつも、ルシフェルは何が起きたのかと、首だけを捻って後ろを見た。

 そこには楽しげに笑う黒い少年の姿。それだけでもうルシフェルは身を竦ませる。そして、さらにその右手には信じられない者が握られていた。

 黒い翼。

 それが自分の翼だと認識した瞬間に、ルシフェルは更なる痛みを感じる。

「ぎゃあああああああッ!」

 ゆらりと、討也はゆっくりと一歩ルシフェルに近づく。

「来るな……来るなッ……来るなぁああァああああッ!!」

 ルシフェルは必死に叫び離れようとするが、討也はそんなことは気にしない。

「さて………どこのどいつか知らないけど……身の程ってのを教えてやるよ」

 ルシフェルが討也から逃れる術は無い。これから何が起こるのか分からず、ルシフェルはその未知の恐怖に怯え、敵であエミリア達すら遠巻きに同情のこもった目を向けていた。

 自分に向けられる4人の目は、「うん。これを止めるとか無理」と全員が力強く語っている。

 と、そんな状況の中で、大したこともないというように声が掛かる。

『いや、さすがに可哀そ過ぎるだろそれは。ていうか俺久しぶりにお前を呼んだこと後悔したよ?あとそいつはルシフェル。お前も知ってると思うんだけど?』

 いつの間にか、ベリタスが湖の近くに来ていたのだ。

 そして、エミリアたち4人は初めて思った。

 

「まさか……」

「あの人って~」

「ベリタス殿の相棒とかいう御人か?」

「確か……神無討也だっけ?」

 それに気が付いた討也は、4人を観察するように眺めつつ。

「あれ?そいつら俺のこと知ってるの?」

 と言った。

 それは自分が神無討也だと言っているのと同じである。

 楽しげな笑みを浮かべる討也を見て、4人が思ったことはほぼ同じだった。

 一人で悪魔大元帥瞬殺どころか虐殺ってどうゆう事だよ?いくらなんでもあり得ないだろ?と。

 討也は4人が何を考えているかなどどうでも良いとばかりにルシフェルの方を振り返ると。

「さて、ルシフェル君?だっけ?続きを始めようじゃないか?」

 と、楽しげな声で、一方的な戦いにもならない虐殺の再開を宣言した。




戦ってる場所が湖なのは、アニメで確かそんな描写が有った気がしたからですよ
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