これからよろしくお願いします。
全話にて甘口、辛口、どちらの感想もお待ちしています。
ジャパンカップ。日本で初めて認められた国際競争。
「世界に通用する強いウマ娘」を育てるために、このレースは国の名前を背負って生まれた。
栄えある第1回目の優勝者は、アメリカから来日してくれたウマ娘。GⅠ未勝利だったのに当時の日本のコースレコードを1秒も更新し、日本のウマ娘は5着が最高だった。ホームアドバンテージも虚しく、最初の10年で勝てたのはルドルフ会長を含めた2人だけで、当時関わった人の悔しさは想像もつかない。
そのまま黙って負け続けたわけじゃない。直近の3回は、あのトウカイテイオーさんから始まり全て私たち日本のウマ娘が勝っている。それでも、通算14回で日本は5勝。世界の壁がなくなったとは口が裂けても言えない。ここは、国内一線級のウマ娘たちが世界のウマ娘とぶつかる大舞台。
『1番人気、3番ナリタブライアン』
中でも物凄い歓声を浴びたのは、史上5人目のクラシック三冠ウマ娘であるブライアンちゃん。皐月賞では「大人と子供の戦い」、ダービーでは「1人だけ別次元」とまで言われた絶対強者で、ハヤヒデちゃんの妹で、今年の夏はリハビリ仲間でもあった。怪我明けで心配されているけれど、私は絶対に油断しない。すればあの子と、私自身を否定することになるんだから。
2番人気は7枠12番のヒシアマさん。メイクデビューの年に阪神JFを制して、去年のエリザベス女王杯で戴冠している鬼脚の持ち主。私も、寮を越えてどれだけお世話になったか数えきれない。でも、レースでは置き去りにするつもりで走らなきゃいけない。あの人のタイマンと、自分の歩みを穢さないために。
4番人気は5枠9番、タイキストームちゃん。私の前走で、クビ差だったあの子。
『4番ラント、7番人気』
そして忘れてはいけない海外勢。今紹介されたラントさんは、故郷ドイツのダービー覇者。国内最強を決めるバーデン大賞を2連覇して、去年は年度代表に選ばれている。イタリアのジョッキークラブ賞とミラノ大賞にも勝っていて、海外のレースに不安はない。
3番人気のクレイピットさんは、リオデジャネイロ地区三冠のうちフランシスコパウラマチャド大賞とクルゼイロ・ド・スル賞……ブラジルのダービーを獲っている二冠ウマ娘。そのあとは北米に移籍してG1オークツリー招待ステークスにも勝ち、去年のジャパンカップでは1番人気だった。
6番人気のアワードさんもアメリカ大陸出身。今年の夏のアメリカアーリントンミリオンでは、そのクレイピットさんをも下して優勝している。伝説の三冠ウマ娘の名前を冠したセレクタリアトステークスや、100年の歴史を誇るマンハッタンステークス等のGⅠも勝った人だ。
フランスのエヌナンドさんは8番人気。2戦目を初勝利で飾ってから4連勝でフランスダービーを勝つ鮮烈デビューを果たし、さらに海を渡ってアイリッシュダービーでも2着。あわや国を跨いで複数のダービーを獲る所だった。あの凱旋門賞で2着に入ったこともある。
なんて舞台に来たんだろう。なんてすごい人たちと戦うんだろう。ジュニア級の私が聞いたら、腰を抜かしちゃうかもしれない……でも今、自分の番に備えて歩み出した脚に震えはない。
格好悪く震えさせたら、この脚の本当の持ち主に申し訳が立たないもの。
『そして4枠7番――』
『ワァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!』
ブライアンちゃんより控えめ……じゃない? 5番人気だというのに、同じくらい歓声をくれたスタンドのみんなに手を振る。ビリビリと震える空気、何度も呼ばれる自分の名前。息を吸えば、その熱気が体中に広がる錯覚すら――ううん。たぶん本当に、物理的に熱くなっている。
『3度の大怪我を乗り越えて舞い戻った、不屈のウマ娘です。無事に走り切って欲しいですね』
ああ、私は帰ってきたんだ。この熱狂の中に。
「シアーーーーー!」
感慨に耽りそうになったところで意識を目の前のレースに引き戻してくれたのは、どんな喧噪の中でも埋もれないひと際大きな声。今までどれだけ、この声に元気をもらってきただろう。魔法のような応援に、もう一度手を挙げて応える。
私をいちばん最初に変えてくれた、あの声に。
ここに立つ最初の一歩を踏み出せたのはあなたのおかげだよ。苦しいことも辛いこともいっぱいあったけど、ここまで来て良かったってみんなに笑って伝えるためにも、今日はありったけを詰め込んで走るよ。
だから見ててね……チケちゃん。みんな。