閑話 お誕生日は生まれてきたことをお祝いする日
「あ、松永さん、3組の結城さんが来てるよ」
「あ、ありがとう」
荷物をまとめていると教室の入口に友奈が佇んでいる。
年末からバレンタインデーまで、勇者部と一緒に行動していたから、天の神の業務が溜まってるから今日くらい帰ろうかなって思ってたけど、何かあったのかな?
「どうしたの? 友奈~」
「えっとね。部室まで来て。今日はお誕生会だから」
ん? 今、友奈はなんて言った?
「お誕生会? 私と友奈の誕生日は21日だからまだ先じゃないの?」
「あ、違うよ。勇者部の3月生まれの人全員だから。わたしとシズ先輩、それから沙耶」
「ああ、そうなんだ」
これは夢なんだ。誰かが、もしかしたら私が願った夢。
私の制服だって讃州中学じゃないのに、全然目立ってない。
「ふふ、そっか、うん、わかった。じゃあ一緒に行くね」
「うん、それじゃあ、行こう」
友奈と合流した東郷さんと一緒に勇者部まで歩いていく。
それにしてもおかしい。神様になった私が夢を見るなんて。
確認したけど私はちゃんと眠る必要なく今もバーテックスを使って世界中を灰にしている。
まあ、意識をたくさん分割できるようになったから、こういうこともできるんだけど、
無意識が制御されていないとは思わなかった。
これは弱点になるかもしれない。歌野に負けそうになったこともあるし、より完全な神として…
やめよう。夢の中で考えることじゃない。
「それでね。私は東郷さんにお願いしたの。今年は東郷さんのが見たいって」
「ええ、任せて友奈ちゃん。しっかり用意したわ」
何だか、二人を見てるとこっちまであったかくなる。
こんな事夢にも思ってないとつもりだったけど、夢に出てきたってことは、ホントはこうしたかったんだよね。
友奈がいて、友奈の新しい友達もたくさんいて、ずっと毎日がいっぱいで。
どこかにこんな世界があれば、今度こそ、私は天の神の力のすべてで続けていきたいと思う。
友奈にひとめ会いたくて手を伸ばした力なんだから。
「さあ、着いたよ」
家庭科準備室の扉が開く。光が満ちて何だかフワフワいい気持ち。
「ボク、お誕生会なんて知らない。それなあに? ゆうなちゃん」
「えっとね、さやとわたしが生まれた日をおいわい? するんだよ」
「おいわい? おいわいってなあに?」
「えっと、えっと、おいわいはぁ、えーっと」
ボクとゆうな二人であたまを揺らしながらふしぎにしてる。
むかしのおんなじ日。ゆうなのお家でケーキを見ながら、ふたりで話してる。
「そう、みんなでおめでとうっていうの。テレビでいってたよ」
「おめでとう・・・うん、いい、それすごくいいね。」
「うん、そう、だからおたんじょうかいをやろう」
「うん、やろう。おいわいだから・・・ボク、ケーキつくる」
「じゃあ、わたしは、ほかのおりょうり、お母さんにおねがいしてくるね」
はじめて作ったケーキは失敗ばかりで、でも、そんなことにも気が付かなくて、
友奈のお母さんがこっそり直してくれていた。
だから、次の年からわたしは頑張ってケーキを作れるようになろうとしたんだ。
まだ、幼稚園のお友達もそんなにいなくて、ふたりだけだったころ。
世界はすごく狭くて、でも、だからふたりだけであったかくて、
友奈が喜ぶものは私も嬉しくて、私が嬉しいことは友奈も嬉しくって、どっちがそう思ったのかも分かっていなかったころ。
すこし、かたむいたお日様が眩しかったそんな日のこと。
ボクが笑って、友奈も笑って、友奈のお母さんもお父さんも、みんなが笑ってた。
ボクが私になる前のなんにもない代わりに、友奈がいてくれたそんな日のことを思い出した。
そして、今は私は神様になって、すべてを持ってるのに、誰も笑ってない。
時間さえも自由に支配できるのに、どんな場所にだって思うだけで行けるのに。
欲しいものは願うだけで現れるのに、人の心だって操れるのに。
永遠に生きることだってできるのに、みんなが欲しいと思うものは何でも持ってるのに。
そこは傾いた夕日も、笑顔のボクも、嬉しそうな友奈もいなかった。
いつか、どこかで、またボクは友奈とお誕生会をできるようになりたい。
あの頃よりもずっと上手になったケーキを食べてみてほしい。
心の底から、そう願った。
祈る神はもういないと解っていながら。