松永沙耶は神である   作:スナックザップ

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そして、永遠への旅が始まる

――勇者は旅を続けます。魔王をやっつけるために――

 

 

 

みんなが力を貸してくれます。

 

 

 

 

一緒に戦うと言ってくれたヒトがいました。

 

 

 

 

少ない食べ物を分けてくれた人がいました。

 

 

 

 

 

とうとう、勇者は魔王のいる城に到着です。

 

 

 

 

 

「さあ、魔王。もう嫌がらせは止めるんだ」

 

 

 

 

 

いざ、魔王と対決! 勢い勇む勇者ですが…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

友奈は今どうしているのか。一時的に高天原にいたことは間違いない。

高天原以外に連れていかれたのならどこだろう? あの世とか?

やめよう。縁起でもない。

 

一度友奈の様子を見ておこうか?

 

 

これもやめよう。

 

多分、次に打ちのめされたら私は…ボクは立ち上がれないような気がする。

それでも、なんて言いながら立ち上がれるほど、友奈ほど強くはなれない。

 

とにかく、私の魂と肉体は一つに戻れた。

なら、友奈の魂だって見つければ元に戻す方法はあるはずだ。

 

このメカニズムが分かれば、友奈の魂を肉体に戻すこともできないだろうか?

 

あれから、いろんな素粒子に変化しながら、宇宙中を駆け回ったけど、友奈の魂について手がかりは得られなかった。

 

そもそも、宇宙のほとんどは炎の世界に書き換えられていた。

無理やり結界を突破しても廃墟の地球と何もない宇宙が広がっていただけだった。

 

不思議なことに、結界の一部を壊してすり抜けても、バーテックスは私を攻撃しなかった。

ただの人間なんて取るに足らないってことなんだろう。

 

いいよ。そのまま空の上でふんぞり返っていればいい。

別に友奈さえ助けられれば後のことは大赦にでも任せれば良い。

 

子供の…それも素人の私が何かするより、ずっと良い方法を考えてくれるはずだ。

今は、行き詰って満開なんて手段を撮ったみたいだけど、

私が手に入れた方法を提供できれば、きっと何か考えてくれる。

 

だから私がやるべきことは、友奈を取り戻す方法だ。

 

ここまで来たら次の手だ。

 

 

――時間移動――

 

 

そもそも、友奈が辛い目に会うこと自体が間違っているのだから、そんなことが起きないようにすれば良い。

 

 

本来なら荒唐無稽な妄想だけど。

 

どこぞのえらい学者が言うには本来時間は対称性があるから未来に移動するなら、過去にも移動できる…らしい。

 

つまり時間にも方向…ベクトルがあるのだから、逆方向のベクトルを持てば時間を遡ることもできる。

 

ただし、それも計算上だったり、原子とかよりも小さいレベルの話なので、人間には関係ない…はずだった。

 

けれど、どうやら私はもう人間じゃなくなってるみたいだ。

 

無我夢中だったから気が付かなかったけど、高天原でレオに吹き飛ばされた時、無理やり空間の"場"を励起させて、素粒子レベルから復帰できた。

できて…しまった。

 

生身では無理でも、人でないならできることもあるかもしれない。

なんか、都合が良すぎる気もするが、便利なのでこのまま使っていこう。

友奈を助けるのに有用なら、ご都合主義に参加したって構わない。

 

(だからさあ、手っ取り早くタキオンとかいうのになれないかな…)

 

まずは超光速、これはインフラトン変換で見かけ上は可能できているけど、あくまで時間の流れは一方向って感じだ。いったん保留っと。

 

次はブラックホールはどうかな。

 

(とりあえずブラックホールを事象地平面がシュバルツシュルト半径を超えるまで回転させて、電荷も与えたほうが良いかな。

電気でアプローチもできるかもしれないし)

 

もしかすると、結界を超えられれば適切なブラックホールがないかな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっぱり、そんな都合の良いブラックホールはないかぁ。いいですとも、私が作って見せましょう」

 

漂うバーテックスに話しかけてみるくらいには疲れている。

 

場所は地球から10パーセクほど離れたところで始めることにした。

育成ゲームみたいに楽しければ良いんだけど、これが面白くない。

やっぱり見た目が…なんかね。

とりあえず、あと3時間ほどで電荷を帯びて回転を始めると思う。

 

(やっぱり天体規模の災厄は大変だ。これだけやっても20年程度で蒸発しちゃうなんて)

 

問題は狙った時間に移動できるかだけど、実のところ過去方向に行けさえすれば後はそれほど気にしていない。

最悪でも130億年程素粒子になって漂っていれば、現在に戻ってこれるはず。

 

注意が必要なのは未来方向に飛んでしまうことだけど、ブラックホール外周で中性子を回転運動させて、降着円盤の物質を特異点の内側に取り込んでやればいい。

その結果を見ること自体は可能だと思う。

 

初めて天沼矛が使われた時代。

渾沌の中に取り込まれそうになったときは、10億年単位のオーダーで、数えて、数えて、とうとう数えきれなくなった。

たった、その5、6倍待てばいいだけだ。

 

ブラックホールの基本は質量と密度。大雑把に言えば泥でも金属でも集まりさえすればいい。

問題はその質量をどうやって集めるか?

 

答えは一つしかない。集めるのではなく本当に"作ればいい"。

宇宙空間そのものを励起して、真空のエネルギーを無理やり上げていく。

 

これは相転移と逆の現象。"固めている"状態になる。

 

私がレオに吹き飛ばされた後に再生できたのもこれのおかげだ。

 

「まずは1つっと、あと70個くらいはほしいかなあ」

 

あとは、物質が集まりだしたら、少し重力が強くなるレベルで

大きさを縮めて集めていく。

 

素粒子の変換の次に目を付けた方法。

 

いろんな力の数値を変更する。

パラメータとかステータスとかっていう変数を増やしても宇宙自体の限界がくる。

 

それなら、変数ではなく定数のほうを変更してやればいい。

定数を2倍強くすれば乗数的に強くなる。

 

今回も一定空間の重力定数を2000くらいに引き上げてやれば、

ブラックホールの作成も不可能じゃない。

必要無くなれば定数を元の値に戻してやれば良い。

 

大体1つのブラックホールを作成するのに2、3時間くらいかな。

 

その間に他の時間移動手段も調べてみる。

光の速度は超えても未来方向にしか移動できない。

 

もちろん特殊な状況だったら過去方向にずれることもできるみたいだけど、

きちんと確立した理論はなかった。

 

素粒子よりも小さい宇宙ひもっていうものの、周囲を移動する方法があるけど、

結局重力がよくわからないからできるかもって方法なんだよね。

だったら、最初からブラックホールを準備したほうが分かりやすい。

 

定数変化によって大幅に時間短縮できてこその抜け道だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ブラックホールが完成する。

 

 

回転速度の計算上からもホーキング放射の状態からも電荷と回転は予定の値を超えている。

 

後は私の気持ちだけ。

 

複数の素粒子に変換しながら、それぞれの素粒子に私にとって大事な情報を1つずつ持たせる。

こうしておけば、一番懸念している情報…記憶の消失についても、できる限りの対策はしたつもりだ。

 

一回だけ、自分の頬を両手でパンと叩く。

 

「突入!!」

 

以前の時は過去の記録でのことだったけど、

今度は正真正銘、現実のブラックホールに落ちていく。

私から変換した素粒子ばバラバラになっていく。

記憶の結合が解けていく。

 

 

 

――何も言わずに引っ越した時。友奈と一生会えなくなると思ったら…――

 

――すごく後悔した。――

 

 

――友奈とケンカして口も聞かなくなった時。きっと、この時――

 

 

――家を出た時の記憶――

 

――両親は神樹様の名前が着く小学校に行ってほしかった。けど、私は――

 

 

――ただ、無情に雨に煙る外を眺めていた時――

――なにも感じていなかった日々。友奈が私を見るまでそこには何もなかった――

 

 

1つずつ、少しずつ、ちょっとずつ、私の思い出は削れていく。

分解され、崩壊され、最小化されていく。

 

 

こうやって、意識保てているのはエンタングルメントのおかげだろうか?

 

 

最悪、死んでも良いと思っていたのかもしれない。

 

もう2度と友奈と会えなくなるのは嫌だったのに、その2度とが起こってしまった時からこうなることを望んでいたような気がする。

 

 

それでも、私はここにいる。

 

 

死んでも良いけど、死にたいわけじゃない。

 

私ができることがあるから…

私がそうなりたいと思うから…

私がそうしたいと願うなら…

 

 

「私は…私は絶対にあきらめない」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一瞬か、永遠か、とても長い時間が経った気がする。

 

高天原の先、かつて記録で見た渾沌の海。

 

 

再結合…完了。

 

ホーキング放射…終了。

 

エルゴ領域…終了。

 

 

(始まる…普通なら宇宙よりも長い時間が必要なブラックホールの蒸発)

 

それはあっけないほど一瞬で終わっていた。

 

エントロピーの限界を超えたブラックホールがその力を失い、大量の粒子となって宇宙に散っていく。

 

このまま放っておくと私が変換した粒子も散り散りに飛び去ってしまう。

その前に再構成を済ませないと。

 

できるタイミングは一瞬。

 

ブラックホールが蒸発して特異点の消滅と同時に、時間の流れが通常に戻る。

その瞬間だけはブラックホールの力でバラバラにされない…たぶん。

すごく微妙な力と時間のタイミング。

 

何も起こらないくらいの短い時間。

思考どころか意味すら起こらない瞬間。

最初の相転移が起こるよりも短い瞬間。何も起こらないはずの時。

 

(これで…3度目の正直)

 

「通れぇぇええー」

 

実際には声なんて存在していないはずだけど、自分の声を聞いた気がした。

 

光が闇に変わり、静寂が鼓膜を震わせる。

 

「ここは…宇宙。そうだ今は? って、しまったー。今がいつか測る方法考えてなかったー」

 

とりあえず背景放射から計算して…ってダメじゃん。

人の一生分じゃ誤差にもならないよ。

 

時間を移動すれば何とかなるのでは? 

と考えていたけど、そもそも自分がいる時間が分からない。

 

「とりあえず地球を目指そう。何回かインフラトンになって飛び続ければ、きっとすぐに四国にたどり着けるはず」

 

 

 

その時の私は過去を変えることで悲劇は変えられると思っていた。

けれど、その影響で何が起こるかを本当の意味で分かっていなかったんだ。

 

だから、この時の私は気が付かない。過去を変えた先に何があるのか。

そして、現実が真実よりも優しいことがあるのだと思い知らされる。

現実が厳しいほうがよっぽど幸せだったってことに気づくことになる。

 

 

それでも、すべてを知っていたとしても、きっとこの道を選択したと思う。

それも間違えなく本当のことだ。

 


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