松永沙耶は神である   作:スナックザップ

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区切り方が分からない。まだまだ修行が足りないです。


帰ってきた女子

勇者さん、貴方が一緒に畑を作ってくれて、初めて一緒にご飯を食べて、一緒に眠れて。

そして、ようやく、私は初めて生きていていんだって思えたんです。

勇者さんがそう言ってくれたような気がしたんです。

 

 

私は勇者さんが励ましてくれたから、

こんなにたくさんお野菜も果物も作れたんです。

この世界に希望を見つけることだってできたんです。

だから、だから、ありがとう。

 

 

 

私はもう、ちっともさみしくない。とっても幸せです。

私を助けてくれた私の勇者さん。

逢えなくても私はずっと勇者さんと一緒です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「クックックッ、はっはっはっ。ハーハッハッハ。ぐぇ、げほげほ」

 

口の中に虫が飛び込んできた。ギャー。

 

「ママー、あの人、お口に虫が入ったよ」

「見ちゃいけません。いくよ」

 

後ろで外野が何か言っているようだが、今の私は気分が良いので気にならない。

 

「今日は良い日だー」

 

諸手を挙げて今日と言う日に感謝する。

感謝する神様がいないので、ただの気分の問題だけど。

 

 

現在時刻午前7時3分。

 

あと100メートル直進すれば、友奈の家である。

 

この時をどれほど待ったことか!

 

ついに作り出した天地の神々は生まれず、友奈だけが誕生する世界。

試行錯誤は大変だったけど、バーテックスも生まれさえもしなかった。

人類は今も地球中に満ち溢れている。

 

神々がいない世界となった今、私を阻むものはもういない。

あ、やっぱ、今のなし。私が神様の代りだから、

神様いないと私がこの世界にいられないじゃん。

 

あの光の神は、原初の時にすら二度と現れなかった。

たぶん、時間や次元を超越した存在だから、

一度消えてしまうと過去現在未来すべてでいなくなるとか、そんな感じだろう。

 

門柱が見えてきた。間違いなく結城と書いてある。完璧だ。

 

あっ、やばい緊張してきた。

 

客観時間で見ても2年ぶり3000とんで4回目の友奈の家だ。

主観時間で考えたら…やめよう。

肉体年齢は13才なのに、おばあちゃんになった気分になる。

 

あと、10歩でたどり着く。ようやく届いた。

 

初めは何して遊ぼうか? 久しぶりに組み手とかやっても良いかもしれない。

それか、久しぶりにでっかいケーキでも焼いてみる?

 

あと、9歩

 

そう言えば東郷さんを紹介してもらうんだったっけ。

 

あと、8歩

 

一応、家の配置とか住んでいる人とかも同じになるようにしたから、

友奈のところに東郷さんもいるかもしれない。

 

あと、7歩

 

たしか、毎日起こしてもらっているとか言ってたっけ?

 

あと、6歩

 

でも、友奈って朝苦手だったかな? 一緒に登校していたころは

私が遅れる方だったんだけど。

 

あと、5歩

 

しまった。手土産とか持ってきた方がよかったかな?

地方の名産とか中学生が買える金額であったかな?

 

あと、4歩

 

よかった。中に人はいるみたいだ。

もし、友奈がいなくてもおじさんかおばさんはいるってことだよね。

 

あと、3歩

 

冷静に考えたら、平日じゃん。学校どうしたのって聞かれそう。

 

あと、2歩

 

また迷子になったっていうしかないけど、もう私も迷子にならないんだよね。

 

あと、1歩

 

インターホンに手をのばす。

 

あと…はない。ゼロだ。

 

思考と同時にインターホンが耳慣れた機械音を鳴らす。

 

「はーい、ちょっと待って…」

 

扉が開く。ようやく、ここまで、ここ………

 

赤い髪にワンポイントで飾られた花びらのような髪留めが揺れる。

まるでそれ自体が生きているかのように輝く瞳。

さっきまで聞きたかった声を奏でていたはずの柔らかそうな唇。

 

でも、それでも…

 

「ち…」

「あの?」

「ちが、ちが…ち」

「ええっと、血? 大丈夫ですか? 怪我とか?」

 

何なの? これは何なの? なんで? どうして?

 

目が眩むのは朝日が逆光になっているせいじゃない。

目の前の光景を理解できない。

 

自分の鼓動の音がひどく耳ざわりに響く。

心臓なんてとっくに要らなくなっているのに。なんで動いているの? 

お願いだから今はボクの邪魔をしないで。

 

「違う、違う、違う、違う。キミは違う。こんなのは間違っている」

 

鈍い頭痛が現実だと嘲笑う。髪を振り乱し叫び続ける。

 

「こうじゃない。こんな…こんなはずはない!!」

 

そんなことがあるはずがない。

 

ボクの目の前には確かに友奈はいるはずだ。

いいえ、確かに扉が開く直前まで友奈の声だった。

上空のグレイグーからは友奈の情報が送信され続けている。

 

今まさに! この瞬間にも! 

 

目の前に友奈がいることを示している。

3つの予備系統すべてが同じ値だ。

すべての機械が間違うことはない。あってたまるか!

 

でも、でも、今、目の前にいるのは…

 

――どう見ても、友奈に見えなかった。――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ボクは逃げた。逃げて、逃げて、逃げ続けた。

四国を飛び出し、地球を飛び出し、太陽系を飛び出し、銀河系を飛び出し、

宇宙をさえとびだし、過去に未来にさまよった。

 

まるで銀河鉄道のように。それでも、やっぱり戻ってきた。

私は諦められない。諦めることができない。もう、私の意思とは関係ない。

 

戻ってくると電子に姿を変え、いろいろ調べる。

讃州中学の名簿、市の戸籍や住民票、あらゆる公的な資料で、

友奈は間違いなく存在している。

 

住所も間違いない。両親も私の知っている人たちだ。

ちょっと悪いとおもったけど、東郷さんのパソコンにある動画にも映っている。

あのトラップの数々は普通のハッカー対策とは違う気がする。

何かやましいものでもあるのだろうか? 

 

電子そのものになる私は平気だけど、あれはまずいような気がする。

 

友奈がドアを開いた時も上空のグレイグーに監視させていたけど、

映像、音声、新陳代謝の変化、どのモニタリングデータで

見ても間違いなく友奈だった。

ドアが開いた瞬間に別の世界に入れ替わった可能性もない。

この日のためにすべての分枝世界は潰してきた。あの瞬間だけは、その可能性だけは100%だ。

 

(どういうこと? 他の人や機械は友奈を認識できるのに、私は友奈を認識できない? そんな馬鹿なことが…)

 

何がどうしてこうなった?

 

原因として考えられることを、整理してみる。

 

1つ、原初に戻った時に創世の神を倒したことが原因。

2つ、原初の泥が原因

3つ、素粒子変換が原因

4つ、時間移動が原因

5つ、どこかで神様関連の呪いを受けた

 

ダメだ。心当たりが多すぎる。

前例が無さ過ぎて何が起こるかなんて分かったものじゃない。

 

言えることは、3つから5つは認識がおかしくなっている原因としては

関連性が少なそうに見えることくらいか。

3つ目と4つ目は、おじいちゃんや両親に私のことが認識されている以上、

私から友奈への認識がおかしくなった理由としてはピンポイント過ぎる。

 

誰かが意図的にやっているなら分からなくもないけど、

今の私を陥れることができるような存在なんて、

よその世界の神様くらいしか思いつかない。

 

5つ目はそんな呪いを知らないうちに受けている、なんてことになったら、

友奈を認識できないどころの話じゃなくなってしまう。

 

倒せば解除できる呪いなら、神様を含めて対立した相手をすべて倒してきたから、

もう解除されていると思う。

念のためビッグバンあたりからやり直してみたけど、結果は変わらなかった。

 

「松永。俺の授業でよそ見とはいい度胸だな。当然、次の問題も答えられるんだろうな」

 

気が付くと、数学教師殿が私を見下ろしている。

 

そう、神樹様がいなくなったせいで、以前より人の心はすさんでいる。

だから、こういうやつも教師になれる。

まあ、今回は授業を聞いていなかった私が悪いんだけど。

 

「4(xー3)(y+17)で良いでしょうか」

 

私は黒板に立つことなく言葉だけで答える。

 

「…合ってはいるな。だが、授業は前を見て聞くものだ。注意しろ」

「はい」

 

そのまま教師は前は教卓に戻っていく。

 

「ねーねー、どうして今の分かったの? まだ式を書いてる途中だったのに」

「予習の力だよ、やっちゃん」

 

隣の席のクラスメートにあだ名呼びで答える。

 

未来予測で授業の内容を脳に無理やり記憶させているので、

予習には違いない。ズルだけど。

 

友奈と会える日について、トラブルが起きそうな分岐をすべて潰したので、

前後1日くらいなら未来予測も大きな誤差はでない。

 

まあ、記憶については、いろいろ覚えるために

脳を弄ってむりやり映像記憶を後付けした器質なので卑怯な気もするし、

いつかは削除しなくちゃいけない。

全部片付いたら自分の体も元に戻さないと。

 

そう、これは手段。目的じゃない。

 

その意味では友奈に会いに行った翌日から、いつも通りに動けていることに嫌な気分になる。

知っていたことだけど、ショックを受けた後の私の行動は正常すぎる。

混乱して友奈の目の前から電子になって飛び去るという慌てぶりだったのに、

寝る前には次の行動を計画し始めている。

 

理由は分かってる。迷子になる前からそうなっていた。

私の始まりの記憶。自分の本質。

 

 

 

 

 

昔から慣れるのは早かった。でも、そうじゃない。

 

(やっぱり、私は友奈がいないとダメみたいだよ。糸の切れた凧のようにどこかに行ってしまいそうだ)

 

過去に戻ったりするときは、自分の感情が劣化しないように

定期的に記憶に関する脳細胞や神経発火を維持強化していたけど、

客観時間でも2年経過していることで、いよいよ限界が近い。

 

持ってもあと半年くらいだろう。

 

それ以上は、また友奈と出会う前のようになってしまう。

 

ぶるり、と身を震わせる。まだまだ残暑が残る中なのに、

寒気を感じるのは心が冷たいから体もそう感じているんだろう。

 

私はまた戻ってしまうのだろうか? 両親から気味が悪いと言われていた日々に。

別に今更仲直りができるとは思わないけど、このままだと、

今の友達ともいつか、ずれてしまうかもしれない。

 

(友奈に会いたい。そうすればきっと…)

 

最後の授業は体育だ。そろそろ移動しよう。

 

もし、その時までに友奈に会えずに元に戻ったら、今の私はどうなるのだろう?

かつてのボクのようにわけの分からない衝動に任せて、

意味のない行動を繰り返すんだろうか?

 

記憶を保存し追加することはできる。

ニューロンを発火させれば喜怒哀楽を感じることもできる。

 

でも、それは心あるいは魂なのか。

私が本当に感じていると言えるものなのか、

それは誰にも分からない。なにしろ神様に匹敵するくらい長い時間を過ごしてきても、

私には人の心は分からない。自分の心もホントなのか分からない。

 

(神様か…うーん、やっぱりいたほうが良いのかな? でも7・30災厄はなあ)

 

一つだけまだ試していない前の世界との違い。バーテックスの襲来と人類の滅亡。

 

70億人の犠牲を見過ごすこと。

 

確かに一番違うところだけど、それは…

 

(いくら私でも、それは…ちょっと重いかな)

 

とりあえずは、他の方法を考えてみよう。

何とか時間だけはまだまだたっぷりある。

 

もう人類が滅びる危険はないんだから。

 

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