東京ドーム、さいたまアリーナ、武道館、偕楽園、兼六園、後楽園。
ただ、眺めていた。
普段は人にあふれていた場所も人の代りに血と骨がうず高く積み重ねられている。
やっておいて今更だけど、供養代わりに遺体を燃やしていく。
けれど、ただ鈍い痛みだけが心に疼く。
誰が言ったのか、一人の死は悲劇になるが、たくさんの死は数値にしかならないらしい。
生死でさえも希少価値で揺らぐ曖昧な者たち。それが人間なのだろうか?
(つまらない考えだ。ただ私が友奈が生まれてくるように世界を導くだけ。そう、ただそれだけ)
すでに世界の人口は1000万人を下回った。
人類が霊長なんて呼ばれていたのも過去のことだ。
でも、これも自然の摂理。必然なのかもしれない。
どんな強者も衰退と言う終止符を迎え、新しい世代へと移ろいいく。
「70億人か…私達の日常なんて、こんなに簡単に終わっちゃうんだ」
もう、笑いしか出てこない。最初の1年はだいぶ悩んだ気もしたけど、それもよくわからない。
それでも、狂気は必要ない。そんな弱さは私自身が赦さない。
他の誰でもない。私が自分の意思で人類を粛清したんだ。
だから、目は反らさない。どれだけ時間が経っても、どれだけ酷いことが起こっても、どれだけ必要だったとしても、
「私が背負うもの、だから狂って、泣いて、叫んで、逃げたりなんかしない」
いろんな人を殺した。
正しい人、間違っている人、善い人、悪い人、
賢い人、短気な人、優しい人、冷静な人、
偉い人、馬鹿にされていた人、みんな等しく分け隔てなく殺した。
「そう言えば、今日は友奈の誕生日か」
突然降って湧いたような感情。
友奈の誕生日と言うことは私の誕生日でもある。
けれど私の誕生日は祝われるものじゃない。
いえ、祝われてはいけないものだ。
けれど、友奈の誕生日なら祝っても良いだろう。ケーキでも作ろう。
まだ一緒にいられた頃はよく焼いていたイチゴの乗ったショートのやつで良い。
けど、そう思った時には焼きたてのスポンジに生クリームとイチゴが乗っかっていた。
願えば叶い、祈れば通じ、思えば顕れる。
私はもう何かを手ずから作る事さえもない。
私は世界であり、世界は私である。私が認めれば成り、私が拒絶すれば無かったことになる。
だから世界こんな風になったのは私の望みだ。
かつての天の神はなんて…もう関係ない。
今は私が天の神であり、私が人類を粛清した。それが真実だ。
壊れた喫茶店の野外テーブルの上で一人で座り、
十二星座のバーテックスに囲まれながら、今度はローソクの火を灯す。
レオから貰った火は風が吹いても、季節外れの雪にさらされても翳ることなく、白い蝋を溶かしていく。
「ハッピーバースデー、トゥーユー。ハッピーバースデー、ディア、友奈」
まだ、生まれていないのにバースデーソングを歌うのも何だかおかしかった。
「おいしいなぁ、味気ないなぁ」
腕前が落ちたわけじゃないと思う。再現度が悪いわけでもない。
確かに私が昔作ったものとおんなじ。ただ、味覚自体がない。
味覚だけじゃない、痛みも、暖かさも、冷たさも、何も感じない。
私はそんな外的要因の影響は受けない。
バーテックスとおんなじだ。
だから、今も感じるこの痛みは物理的なものじゃない。
ただ私が無様に縋って人間を懐かしんでいるだけ。
弱い心の象徴で、愚かさゆえに起こったもので、打ち克つべきものだ。
それでも、まだ私は人間としての心が残っている。この痛みがその証。
きっと、神様になるってこういうものに勝って行かないといけないのね。
バーテックスを降下させて3年が経った。
昨日、大阪の地下街も皆死んでしまったから、土地神の結界以外で人が生きている場所はない。
3年間は状況を変えたくなかったから、諏訪には歌野一人で対応できるほどの数しか送っていない。
けれど、そろそろ時間だろう。
この後カムイどもと海神どもも地上から退去させるつもりだ。
でも、その前にやることがある。
私は歌野と水都に会うつもりだ。
たぶん、二人は諏訪に残るだろう。
結果は分かり切っているけど、私はそれでも二人に話したいことがある。
「決着は私の手で終わらせよう。この時代の最後の未練だ」
蠟燭の火が消え、夕闇が町に満ちる。
さあ、行こう。わずかの間共にあった彼の地へ。
十二星座すべてのバーテックスとともに甲府盆地を飛び立つ。
このまま中央本線鉄道跡を北西に進めば、明日のうちに諏訪につく。
その時が諏訪の終わりの時だろう。
歌野がどれだけ頑張っても、十二星座すべてが集結し、天の神たる私自らが向かうのだから勝ちはない。
こっちが攻める側なのに気が重いのは、きっとこの先に起こることが分かっているからだ。
それでも、きっと歌野は私を止めるだろう。
だけど、話くらいは聞いてくれるかもしれない。圧倒的に有利な敵からの交渉の誘いだ。
自分ひとりならともかく水都のことも考えたら、無視はしないだろう。
というより、私が聞いてほしい。
「アリエス、アクエリアス、ピスケス、諏訪湖を迂回して北側に展開」
まず、3つの影が戦列から離れていく。いずれも諏訪湖自体に攻撃できる。
「スコーピオン、キャンサー、サジタリウスは西」
また、3つの影が離れていく。レオを除けば3体の連携は随一だ。
「カプリコーン、タウラス、ライブラは東」
さらに3体の影が3つの影が離れていく。タウラスのベルとライブラの風があれば十分だろう。
「レオ、ジェミニ、ヴァルゴは私とともにこのまま前進」
さて、これで明日にはこっちの布陣はできるだろう。
そうなれば諏訪からは誰も逃げられない。私を倒すか、あるいは……
まずは神託で水都に接触してみよう。
大丈夫、大阪の地下街で何人かに試してみた。
やりすぎておかしくなった人もいたけど、それも調整した。
…
……
………
これは…土地神が妨害しているの?
まあ、いきなり襲ってきて今度は少しだけ助けるなんて矛盾しているけど、このままだとどうにもならないと思うんだけどな。
仕方ない。
「やっぱり、直接降りるか」
降臨…いや神が臨むんだから神臨か?
「このまま進む。目的地は諏訪大社本殿」
私を乗せたレオがまた進み始める。
地上の有様は酷いものだった。
電車が倒れ、どこかでまだ燃え続けている。
いくつか原子炉も暴走を起こしていたはずだ。
何個の発電所は停止させたけど、数十年。下手をすると数百年は人が近寄れないだろう。
あまり急がずに定期的に神託を試みてみるけど、やっぱり邪魔されて届かない。
無理やり飛ばしても良いけど、別に諏訪に着いて直接会ってからでも構わない。
今日はこのあたりで寝よう。日も落ちてきてるし。
太陽神である天の神が地上に降りてきているのに日が落ちてきてるなんてウケルけど、冗談にならない。
寝ると言っても人類が築いた文明と一緒に建物もボロボロだから雨露をしのぐぐらいしかできない。
ほとんど野宿みたいなものだ。
違うか、そもそも、もう私は休みを取る必要なんてない。
ホントは味だって感じないんじゃなくて、必要ないんだ。
食べ物も、飲み物も、寝る必要だってない。
私は人間だ。
どんな力を手に入れても、どんな姿になっても、どんな権利を手に入れても。
分かってる。分かってる。分かってる。
この前みたいにケーキを食べたり、今みたいに横になるのだって、私が意地になっているだけだ。
地祇…神樹様や土地神に私は違う、っていやがらせみたいに人間として振舞っているだけ。
でも、実際やっていることはたくさんの人を苦しめて、殺して、悲しませている。
それでも、私は諦めない。絶対に友奈にもう一度ひとめ会うために…
パチンと焚火で木が爆ぜる音が響く。
バーテックスは何も語らない。ただ私のそばに侍るだけ。
眠れもしないけど、横になり目を瞑る。
思考を無数に分割し、平行世界を覗き込み、また世界を組み立てなおしても、
歌野は一度も引かなかった。
水都を無理やり四国に飛ばして、ひとりぼっちにしても、私の前に立った。
だから、今度はやり方を変える。
諏訪を守りたいと言うなら、あの時と同じように諏訪ごと四国まで移動させれば良い。
今度は自衛隊にも邪魔はさせない。
私自身の手で四国まで送り届ける。
その結果として、歌野達が疑われる世界線もあったけど、それでも死んじゃうようりはよっぽど良い。
最後、神樹の神託で歌野達が私の軍門に下ったわけじゃないのはすぐに分かったんだけど。
回想しているうちに夜が明けていた。思ったより時間が経ったみたいだ。
授業と同じで、嫌なことをしている時は時間が経つのが遅いはずなのに、やっぱり、少しの間でも一緒にいたから会いたいと思っているのだろうか?
「…行こう。全バーテックス移動開始、諏訪周辺500mまで侵攻。その後別命あるまで待機」
もう、
移動する数分間の間に話すことを考える。
まずは降伏勧告。次に四国まで送ることを提案しよう。
そして、大切なことがもう一つ。
これは絶対に受け入れてくれないだろうけど、それでも、言わなくちゃいけない。
たとえ、私の自己満足。ただのエゴだとしても。
「着いちゃった…」
正直に言えば、ずっと今の状態が続いても良いと思っていた。
私がバーテックスを送り込む数を調整すれば、ずっと歌野は諏訪を守り続けられる。
その間に四国を先に攻撃して、歴史通りにすれば結界の外で歌野と水都の時間は止まり、神世紀300年まで残ることもできる。
「でも、きっとそれは違うんだよね」
今、私の目の前に歌野がいる。
天地を覆いつくすバーテックスの数はすでに歴史上の人類すべてを超える。
それらが微動だにせず、中心には人間である私と歌野だけがいる。
「貴方は…どうしてバーテックスの中に人が?」
「それは私が人でないから」
歌野は初めの間は、私が避難民だと思っていたみたいだ。
だけど、私はもちろん、歌野も攻撃しないバーテックスを見て話す気になったみたい。
ここまでは前の世界と同じ。
「人じゃない? それじゃ、貴方は誰?」
「私は…」
さあ、言うの。どんなことがあっても、私の思いはただ一つ。
私は諦めない。友奈に会うの。他のすべてを諦めて。
「私は天の神。貴方達人類を粛清した者」
歌野にしては珍しく本気で驚いて、そして、恐れの感情が見える。
「そう、そうなのね。そのフォース。バーテックス達は貴方に従っているように見える。とうとう…」
「ええ、私自らがここにいる。どうあっても諏訪に未来はない」
歌野、貴方ならわかるはず。
例えすべての土地神がそろっていても私を倒すことは無理だ。
本来の歴史通りの天の神ならともかく、今の私はその天の神さえも消し去ってここにいる。
いえ、これが本来の歴史になった。
もう、どこの並行世界にも、どこの時間にも、どこの場所にもあの天の神はいない。
あれがどんなつもりで人類を粛清したのかは分からない。
けど、私が人類を粛清する理由はただ一つ。
私はもう一度友奈に会いたい。
ただそれだけだ。だから、これが私ができる最大の譲歩。
「それは、分からないわ。逆に言えばここで貴方が粛清をストップすれば、それで人類は生き残るもの」
「倒す…とは言わないんだね」
「それはインポッシブルね。私じゃ無理でしょ」
歌野はあっさりとその事実を認めた。
てっきり、可能性があるならとか言い出すかと思ったけど、そうじゃないみたい。
どっちかって言うと、私の心変わりを考えているような言い方だ。
「それでも、貴方は…白鳥歌野は立つのね」
「オフコース。だって私は勇者だもの。最後のその時まで、みんなで生き残る道を諦めないわ」
そう、あなたはそう選択する。だからこそバーテックスではなく、私自らがここに来た。
「では、貴方に、いえ、提案…いえ、命じる」
両手を広げて、できるだけ尊大で、それでいて寛容な態度に見えるようにする。
大丈夫。バーテックス相手に何度も練習してきたから問題ない。
「命令? 今?」
歌野が不思議そうな顔をしている。同時に困っているようにも見える。
覚悟して出てきたら、敵の総大将に命令するって言われたんだから、当然だろう。
すっかり、喋り方が元に戻って口元も緩みまくってるけど、これも緊張の裏返しと思って、流してほしい。
って、私は天の神なんだから誰かに何かをしてもらう必要はないんだっけ。
「そう、今こそ、諏訪のすべての人々に告げる。私は天の神。降伏しなさい。そうすれば、今この時は貴方達を四国の安全圏まで送ってあげる。そして…」
満面のドヤ顔を決めて諏訪中の人の心に直接言葉を送り込む。
「代償として、歌野と水都には私の眷族として、私とともに悠久の時を生きてもらう」
完璧だ。これは間違いなく受けなければいけないだろう。
提案なら断られる。だったら命じればいい。これ以上はない。
諏訪にとって、最上の結果だ。
もし、これが歌野と水都だけを眷族にする提案なら歌野は断るだろう。
水都も首を縦にはしないだろう。
何故なら、それはすでに人の道ではないから。
でも、皆を助けられるならどうだろう?
重要なのは皆を人のまま生かし、歌野と水都を私の…天の神の眷族とすることだ。
これなら、諏訪は四国のための囮としての役目を果たしたことになる。
前のように歌野が合流したことで、天の神の侵攻が早くなったわけじゃないから、諏訪の人たちを追放したりする意味はない。
「さあ、返事を聞かせて!」
「それは…でも…」
何回やっても歌野と水都だけが助かる提案じゃダメだった。
けど、諏訪全体が助かる命令なら歌野は拒めない。
あとは諏訪の連中が……
あれ? 返事が返ってこない?
おかしい。ここはみんなそろって大喜びするとこだよ?
―なあ、これ違うんじゃないか?―
は? 今思ったやつ出てこい。私がどれだけ苦心してこの提案を考えたと思ってる!
―眷族ってことは歌野ちゃんと水都ちゃんを見捨てるってことなんじゃ―
何を今更! あの時と同じように歌野と水都に詰め寄れば良いじゃん。
自分たちだけ安全になれば、お前たちは満足だろうに。
―そうよね。今まで歌野と水都が頑張ってくれていたんだものね。二人を置いてけぼりになんてできないよね―
「みんな…」
ほら、私の提案を受けるか迷っていた歌野も驚いているじゃない。
「お前たち…何なのだそれは? いつも大勢のために少数を見捨ててきたくせに、なんでこんな時だけ違う? 今度も歌野と水都見捨てて、とっとと逃げれば良いだろうに。私は歌野と水都にしか用はないんだ!」
わけが分からない。なんでグレイグーを出したときはあれだけ歌野に詰め寄っていたくせに、今回は危険を冒してまで歌野と水都を助けたいなんて思うんだ?
「矛盾している。それだったらグレイグーの時に、信じてくれれば、そうしてくれていれば、私はこんなところまで来なくて良かったんだ! ねぇ、歌野、水都。分かっているでしょう? 貴方達ならみんなを助けるでしょう!」
苛立ちのまま喚きちらす。私が悔しくて地団駄を踏むたびに地震が起きる。
無数に分割したはずの思考すべてが沸騰する。
「…そうね。私は勇者だもの」
「私もそう思う。そして、土地神様も」
いつの間にか、歌野の隣に水都が来ていた。
あの怖がりの水都がバーテックスの海を歩いてきたのだ。
「水都もいるなら、ちょうど良い。さあ、私の手を取って。そうすれば…」
しかし、私は次の言葉がでなかった。
「結界が? どういうことなの? みーちゃん」
歌野が驚いている? では、これは土地神行っている。
そう……こっちはちゃんとあの時と同じように動いてくれるわけだ。
さすが神様。諏訪の人たちがバカなことを言い出した時はどうなるかと思ったけど、どうやら3年間待った甲斐があった。
諏訪の囮としての役目が終わったのだ。
だから、歌野から力を取り上げ、眷族になる前に邪魔者にならないように始末する気だろう。
「そんな!? 待って、今、変身が解けたら…」
歌野の変身が解除され農業王Tシャツに戻る。
「ふふふ、あーはっはっはっはっはっ、ひい、ひい。いやったぁあああ」
絶叫しながら、ガッツポーズを決める。
「ほら見ろ、ちょっと頑張ったくらいで、神なんて信用できるか? あいつらは思い通りにならなければ、簡単に与えたものを取り上げるんだ。はははははは」
ここだけ完璧で絶好調になりそうだ。
誰かが間違っていると言った気がした。それでも、今、この時は…
「ボクの勝ちだああああああああ!」
おっと、いけない。あんまり土地神が予想通りの動きをしてくれたから、一人称が小学生の時に戻ってしまった。
今は神様らしく振舞わないと、クールダウン。
「さあ、これで分かったでしょう。天だろうが地だろうが、神様は人の思いなんて分かっちゃいないんだよ。キミ達は見捨てられたの。だから、さあ、みんなが生きるためにボクの手をとってよ、歌野、水都。 そして、か弱い人間も、傲慢な神も、脆い肉体も、移ろいやすい魂も、みんな捨てて、共に永遠を分かち合おう! キミ達にはその価値がある。必要なら他ならぬ天の神がそう命じよう!」
歌野と水都に両手を差し出す。口調がどうにも戻ったままだけど、もう構わない。
繰り返すこと幾星霜。ついにボクは歴史を変革できるところまで来たんだ。
「そうね。貴方の言う通りかもしれない。それでも私は最後までみんなを、諏訪を守るわ」
歌野の静かな声が妙に響く。
「うたのん、聞いて、諏訪はもともと囮だったの。だから、もう私達が戦うことは…」
水都の悲しい声が響く。何も感じていないはずなのに、何かが目覚めそうだ。
「アイシー、分かっているわ。それでも私は、白鳥歌野は勇者として、人として戦う」
「…分かったよ。うたのん。だったら私も最期までうたのんの巫女として生きるよ」
そうだよ。それでこそ歌野と水都だ。
それはきっと、ボクが友奈と過ごしたかった日々だ。
だから、その光景を永遠のものとしたい。ずっと、見ていたい。
神だの、勇者だの、そんなものはボクが描く絵本の世界だけで十分だ。
手が届かないからこそ嬉しいものだ。
「うん、うん、そうだね。キミ達は諦めない。ボクはそのことを知っている。でも、もういいんじゃない? 土地神からは勇者のお役目は御免だって言われたんだよ? だったら、ボクの眷族として生きていけば良いんじゃない。大丈夫、ボクは約束を守るよ。ちゃんと諏訪の人たちを四国に…」
けれど、ボクの言葉は光に遮られて続かない。
そう、光だ。
圧倒的な光が質量を持ったように押し寄せてくる。
これは土地神の諏訪の力? 今更何を?
「なんの光ィ?」
―歌野も、水都も、今まで俺たちを守ってくれていたんだ。だったら―
青い光が歌野に降り注ぐ。
―そうよ、私達だけじゃない。歌野ちゃんも水都ちゃんも一緒に生きるの―
赤い光が歌野を包み込む。
―子供だけ差し出して知らんふりなんぞできるか―
黒い光がボク達を翳らせる。
―死ぬのは年寄からって決まってるんでな。順番は守らんと―
白い光が歌野の後ろから差し込む。
―勇者さま、いなくなっちゃ、嫌だよ。だから、帰ってきて―
金色の光が歌野からあふれ出る。
接続したままの諏訪の人たちの心が聞こえるたびに集まる光が増えていく。
声、声、声、接続を切っても、響き渡る。
その度に光が増えて、歌野が眩く輝き、あたりを照らす。
ボクの、天の、太陽の、光の、神に比べるべくもない。
でも、確かに光はそこにある。
そして、
「うたのん、聞いて。土地神様が…」
はじかれたように水都が顔を上げる。
神託か? でも今更何を?
ボクが思うまでもなくそれは顕れた。
「御柱? ミシャグジさまか。今度は人々の光を取りに来たかい?」
そう、こいつらがいる限り、ボクの勝利は揺るがない。
空に浮かぶ御柱達、こいつらが結界を解いた以上、例え歌野が変身できたとしても、例え水都の祈りがどれだけ真摯でも、例え諏訪の人たちの心が一つになっても、
「ボクは揺るがない。変わらない。そして、絶対に諦めない」
神が人を信じることはない。神とは信じられる者。
決して自分たちから人のほうに歩み寄る事なんてない。
できるはずがない。だからボクの前の天の神は人類を粛清したんだ。
だから、きっと、今度も役目が終わった歌野と水都に土地神が力を貸すことは無い!
―それは、違う―
否定。それは誰でもできる。だけど天の神であるボクを否定する者。それは…
「ふん、何が違う? どう違う。誰が違う? しょせん、お前たちは人に歩み寄れない! 何も変わらずそこにいるだけだ。分かったらとっとと四国に合流してこい」
顎で、南西の方角を指す。
―今、この瞬間において。太古の盟約を破棄す。勇者よ。人の子よ。その思い、その輝きがいつか消えるとしても―
何を? 土地神は何を言っている? 思い? 思いを見たから何だというの?
違う、そうじゃない。なんで…
「何故言葉で伝える!? それは…それでは、まるで人じゃあないか?」
―今代の我がすべて、そなたに託す―
は? え? それじゃ、結界を解いたのは…
光が満ち溢れる。
「ええ、ありがとう土地神様。ありがとうみんな。そして、ありがとうみーちゃん。私は、白鳥歌野は…」
光が人の形となって語っている。
「最後までみんなを守る!」
そうして、白鳥歌野は原初の時に見た底知れぬ泥ではなく、
中空の新しい光を纏って、ボクの前に立ち上がった。