「と言うわけで鷲尾須美改め東郷三森さんの誕生日について、相談したいと思います」
今では無い時、どこでもない場所。
構成した椅子だけを重力定数をゼロにすることで浮かせている。
当然無重力なのでフワフワして樹ちゃんなんかは座るのに苦労していた。
「これ、なかなか面白いわね。違った訓練ができそう」
「すごいよね。下に四国が広がっているなんて」
「むむむ、重力ゼロの空間。なんか閃きそう」
さすがに夏凜や友奈はすぐに慣れたみたいだけど、園子も割とすぐに慣れたのは意外だった。
「おっととと、それで部室じゃなくて、わざわざここで相談なのは?」
新しい高校の制服に着られている状態の風さん。
なんか新鮮というより違和感しか感じない。
「私なりに考えたプレゼントはあるなけど、私は長いこと天の神だったから、人間の感性に合ってるか不安で友奈に確認したら」
「せっかくだからみんなにも相談しよう、って話したんです。風先輩」
「なるほど。それでそのプレゼントっていうのは?」
「これです」
「どれよ?」
「だから私達が今いるここ、ナノマシン構成型宇宙戦艦グレイグー」
もともとは私が人間だった頃にバーテックスと戦おうとして作ったものだ。
天の神となった今では必要ないものだけど、不法投棄はできないから持て余していた。
「はあ? この船をプレゼントって、こんなのどうするのよ?」
風さんが何か言う前に夏凜が素早く切り込んでくる。
「まあ、聞いてよ夏凜。こいつを昔日本が作っていた戦艦と同じような艦橋とかに改装して、1日艦長体験でもしてもらうっていう案だよ」
神樹様が消え世界が復興に向けて動き始めた今、大型兵器なんて使い道が無くて悩ましいところだったけど、友奈から東郷の趣味のことを聞いてこれなら使い道がありそうだと思った。
「沙耶から聞いて、ちょっと不安だったんですけどどうでしょう。風先輩」
友奈が珍しく押しが弱い。最初に友奈に話した時も少し考えている様子だった。
「そうね…良いんじゃないかしら? いろいろあっても東郷の国防発作は健在みたいだし」
「そうですよね。良かった」
…後で確認しておこう。
「それじゃあ東郷さんのお誕生会もこの船のホールでやるのはどうかな? 私の時は空中庭園だったから」
「いいね。ゆーゆ、だったら衣装もそれっぽいのを用意しようよ。きっと乃木家にはまだあると思うよ~」
「素敵ですね。さっそく準備と予定を考えないと。友奈さん、当日の東郷さんの予定はお願いします」
「任せて、ばっちりエスコートするよ」
良かった。それじゃあ準備をしないと、きっとこの船の最期の役目になるから。
真っ暗な空間に太陽が灯る。私の権能、太陽の輝きが惨劇の場を浮かび上がらせる。
遺体の一欠片、血の一滴もない惨劇。
300年前に諏訪を収容した1番ドック。
当時のまま文字通りの意味で時を止めた空間。
飲みかけのスープの湯気だったり、洗濯物が風に吹かれたりした様子も、そのままの状態で時間が止まって300年が過ぎた場所。
思えばここで諏訪の人たちを消した時から、私は天の神として歩み始めたのかもしれない。
人は裏切り、また恐怖するものだと思い込み、すべてを変えてしまおうともがき続けた。
今でもどうすれば正しかったのか分からない。
もしかしすると今こそが正しかったのかもしれない。でも最善じゃなかったと信じたい。
そうでないと、歌野達が哀しすぎる。ただ捨て石にされるためだけに生まれてきたなんて。
(今更かな。全部天の神として私が引き起こしたことなのに、ままならないなんておかしいね)
いろいろあったけど、すべて人の元に返すことにしたよ。歌野、水都。
この先のことを見るつもりはない。
この艦を東郷さんに見せてどうなるか。
もしかしたら新しい混乱になるかもしれないし、1日だけ使ったら満足して終わりかもしれない。
ただ1つ言えることは彼女は勇者達の中で最も自分の欲望…もとい願望に忠実だったからかもしれない。
私には自分の願望に忠実なことと、人を思いやることが同居できることが今でも信じられない。
だから、どちらを選択しても構わない。あの時歌野に言ったように、その時こそ私は貴方達の最高の道具となる。
それは償いではなく、その未来を見てみたいと思うから。
神樹様に習合した神様の中に勇者と巫女の2つの力を持つ者が切っ掛けになると予言した神様がいるらしい。
結局それが何だったのか分からない。なんでも知ってるのに分からないことだらけで何だかおかしい。
残った蕎麦湯を私が勝手に作った石碑にかける。
「さようなら。歌野、水都。私が自分で望んで手にした友達。貴方達がつないだバトンはちゃんと届いていたよ」
いつか、人としての私が死んだときに分かるだろうか?
そして、その答えを
すべては神のみぞ知る。
でも、その
だから、最も人としてこの時代に生きた人にこの船の本当を知って欲しい。
天の神は何をしたかったのか、何を願っていたのかを。