松永沙耶は神である   作:スナックザップ

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獣~the beast~

シロガネの一撃が頭部らしき器官を打ちぬかれたピスケスが擱座する。

 

「こっちは私が。そのっち」

「うん、任せて~、いっくよー」

 

そのっちの槍が伸びアリエスに突き刺さる。

やっぱり、勇者システムの強化で精霊以外にも攻撃の力も強くなっている。これなら…

 

「わわわ、あ、危ない」

 

アリエスがそのっちが刺さったまま空へ上昇を始める。

途中で槍を作り直したそのっちは何とか地上に着地する。

けれど、空中にいる間に狙いをつけていたアリエスの電撃がそのっちに落ちてくる。

 

「そのっち! 大丈夫?」

「この子が守ってくれたから大丈夫。ビリっときたけど」

 

良かった、と思う間もなく今度は擱座して止まったままピスケスが黒い煙とも墨とも見分けが突かないものを吹き出す。

 

「何これ、何も見えない」

「ガス? まさか?」

 

私の疑問はアリエスの雷撃で証明される。私達にとっては嬉しくない形だったけど。

 

「きゃあああ」

「うう、これじゃ何もできないよ」

 

ピスケスが出した煙幕と思われたものは、ピスケスの雷撃に反応してあたり一帯を空襲のように火の海に変えていく。

何度も爆発が繰り返し発生して、なかなか攻撃に移れない。

 

けど、その分、あらかじめ説明を受けていた精霊のバリアがそのすべてを防いでくれる。

これなら…

 

「これが勇者の新しい力…」

「来た、来た、来たー。いっくよー」

 

二人で同時に敵を倒す。

そうすれば厄介な連携はできない。新機能を使うならここで。

 

「「満開」」

 

 

神樹様から大いなる力が集まってくる。

初めて勇者になる時も感じた力だ。

でも、今度は変身だけじゃない。

 

私とそのっちの足元が浮かび上がる。

今までのただの武器ではなく、私達を運ぶ大きな船。勇者装束と同じ神樹様から頂いたものだ。

 

 

 

 

 

 

地上を離れた二人を追うようにアリエスの雷が、今度は直接私に迫る。

 

けれど、放電は私に届く前に精霊バリアに阻まれて届かない。

 

「もう、お前たちの攻撃は届かない」

 

私の腕の動きに合わせて副砲が角度を変え、一つの大きな力に変わる

 

「てぇぇー!」

 

私の掛け声に合わせて集められた力がアリエスの体を頭から尻尾まで一気に貫通する。

 

「何、あれ…」

 

貫通されたアリエスの体が鎮魂の儀も行っていないのに崩れながら、光のようなものが天に昇っていく。

 

 

そのっちの方も地面から現れたピスケスをたくさんの刃で攻撃しながらバラバラに引き裂いている。

こっちも体が崩れると光のようなものが天に昇っていく。

 

「これが…満開」

「もっと早くこれがあればミノさんも…」

 

残り1体。

 

銀、見ていてね。必ずお役目を果たしてみんなを守るから。

 

あれ? 満開が…解ける?

急激に力が抜けて、満開が解除される。ダメ地面にぶつかる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

精霊のおかげで地面にはぶつからなかったけど、満開の時間制限は事前に注意されていたのに。

 

「急がないと…え? 足が…」

 

動かない? どうして?

 

「あれ、右目?」

 

よく見るとそのっちの右目と私の足に勇者装束が追加されている。

これはいったい・・・

 

と、とにかくもう一度満開して、敵を早く倒さないと神樹様にたどり着いてしまう。

 

何とか勇者装束のサポートで立ちあがる。私達をサポートしている?

 

 

仲間ががやられて最後の1体レオ・バーテックスは、ゆっくりと私達の方に近づきながら背負っていた日輪のような器官を左右に開いていく。

 

「もうここまで…え? な、なに?」

 

どういう理屈なのか、開いた向こう側が赤い炎になって、その中らから無数の小型のバーテックス ――レーダーには星屑と映っていた―― が炎に包まれながら誘導弾のように飛来する。

この数は…いけない。このままだと神樹様にたどり着いてしまう。

 

私とそのっちは慌てて船についていた武器で攻撃する。

 

 

「うわわー、なんかいっぱい来たー」

 

慌てて二人で敵を攻撃するけど、全然数が違う。

 

「きゃああ」

「わあ」

 

二人とも星屑の大群を抑えきれずに何度も跳ね飛ばされる。

このままだとやられてしまう。満開なら…でも、足が、そのっちの目も気になる。何か…

 

(今はやるしかない)

 

「そのっち」

「うん」

 

二人で頷き合いながら、もう一度…

 

「満開」

 

 

もう一度満開して、星屑たちを撃ち落とす。

 

「そのっち、さっき」

「うん、それに何だか変な感じ」

 

やっぱりそのっちもどこかおかしいんだろうか?

 

「まずはあの奥にいる。えっ」

「わっしー、危ない」

 

順調に星屑を減らしていた私達だったけど、奥にいたレオがまるで太陽のような炎で攻撃してくる。

信じられない。アリエスやピスケスの攻撃を防いだ精霊バリアでも熱が伝わってくる。

 

急に精霊バリアにかかる圧力が弱くなる。

 

「そのっち、私を守って」

 

私を守るために刃を使ったそのっちだけど、自分の守りに回す分が足りなくて、また満開が解除されてしまう

 

「そんな、大橋が…」

 

そのっちが離れた間も星屑達は増え続ける。副砲の角度を調節しながら撃ち落としているけど、このままでは押し切られてしまう。

 

「しまった」

 

星屑の一体が砲撃をすり抜けてとりつこうとしている。

けど、どこからか伸びてきた槍が近づいていた星屑達を倒してくれる。

 

「そのっち、無事だったのね」

「…ねぇ、わっしー、なんか変だよ。こんな戦い方で良いのかな」

「そうね。でも今は…あいつを止めないと。神樹様をお守りしないと私達の世界が無くなってしまう」

「…そう、そうだよね。」

 

私達を待っていた訳じゃないだろうけど、レオが再び炎を大きくしている。

 

「さっきの攻撃」

「やらせない。もうこれ以上は誰も!」

 

炎と光がぶつかり合う。炎がバラバラに飛び散り大地を焦し、光が残っていた大橋を完全に飲み込んでいく。

 

力が抜ける。私もまた満開の限界が来ている。

 

「そのっち、あとはお願い」

「うん…任せて、」

 

何とかそのっちが飛び立つまで船を維持する。

 

「満開」

 

そのっちがレオに向かって飛び出す。周りの星屑たちがすべて集まってレオを守る盾になるけど、そのっちは星屑の壁を突き抜けていく。

 

「どいてぇぇー」

 

そのっちの叫びが炎の向こうから飛び出す。

 

「ここからぁ、でていけー!」

 

それでもそのっちの船は止まらずに、そのままレオを突き刺しながら壁に向かってまっすぐにレオを突き刺す。

 

でも、あれならきっとバーテックスも無事じゃない。

 

「須美ー、園子ー」

 

ああ、銀、来てくれたのね。こんな時まで遅刻なんて、本当に仕方ないんだから。

 

「へへ、すまない。ちょっと巻き込まれてな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ひどい…もう2回も満開しているなんて…」

「なあ、これからどうすればいいんだ?」

 

銀さんから気を失った鷲尾さんを受け取りながら、満開の後遺症を確認する。

2回で記憶を持っていかれるなんて、これじゃいつ戦闘できなくなる散華が起こるか分からない。

神樹様は本当にこれを使わせるつもりだったんだろうか?

 

 

「やってみせるよ。そのためにここに来たんだから。だから銀さんは園子さんを追いかけて」

「分かった。とにかく須美の方は頼む」

「ええ」

 

間に合わなかった。できれば満開を使わせたくなかったんだけど、仕方ない。

散華の効果は把握している。

後は移し替えればどうとでもできる。

 

(そう、わたしは、わたし達はそのための"癒す者")

 

「まずは…記憶」

 

鷲尾さんの頭に触れる。

別に触れる意味はないけど、神様と違ってわたしはまだこういうイメージを持った方がやりやすい。

 

(まずは…記憶だからわたし経由で鷲尾さんに鷲尾さんの記憶を転写して…)

 

奇妙な感覚。失われていたものが初めから手に持っていたことに気づいたような感じ。

 

「中央制御系接続…確認。音韻、視空間認知、励起。符号化…完了」

 

これはまた。感情の揺れ幅が大きい。あまり続けると自我境界が壊れそう。

 

と言うか、神様はこんなことをほぼ世界人口分やったって言うの?

どういう神経しているんだろう?

 

「記銘開始。続けてシナプス発火。概念としての忘却を一定期間停止」

 

これで散華のひとつ。記憶の忘却自体を機能としてできないようにしているはず。

 

「続けて、郡十華から鷲尾須美へ記憶をロード」

 

ざっと、2、3分で終わるから。そのころには銀さんと園子さんが戻ってくるだろう。

それまでに足の方も治しさないと。

 

それにしても、ホントに特定の記憶なんて非論理的な散華も起こるんだ。

 

「う、これはさすがに」

 

こめかみがズキズキと痛い。最初が記憶の転写と言うのは無理があったかも。

でも、まだ戦いは終わってない。

 

(わたしの同位体(アイソトープ)ももう少し増やさないと辛いかも。一人の脳じゃ処理しきれない)

 

足の方はいったん筋電位の変位を操作できるようにして、運動ニューロンからスタートするのは戦いが終わってからにしよう。

 

「う…ん、私は…」

「良かった。目が覚めた。鷲尾さん、今の状況わかる?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「鷲尾さん、今の状況わかる?」

 

そう言いながら私の顔を覗き込んだのは…やっぱり銀ではなかった。

満開が解除され意識が抜ける直前に銀の声が聞こえた気がした。

けど、現実はそんな私の夢想をかき消すように全然違う人を映す。

 

 

誰だろう? どこかで会った気がするんけど…

 

「怪我とかはしてないと思うけど、足は動かせる?」

 

そうだ、確か満開を使った後に足が…あれ? 今は動かせる?

でも、どこか違和感があるような気がする。何だろう?

 

「鷲尾さん、今の自分の状況は理解できる? ここがどこだか分かる?」

 

目の前の人。よく見ると私達と同じくらいの女の子だ。

周りは…戦闘の影響であちこちが灰色に崩れている。

どこかで燃えているのか、少し焦げた匂いが立ち込めて、遠くが熱で揺らいで見える。

 

「貴方は? いえ、それよりも樹海の中にいるということは貴方も勇者なの?」

「良かった。あれ? わたしのこと分からない?」

「すみません。どこかであったでしょうか?」

「うーん、どこか不具合があったのかな? 記憶は全部戻ってると思うんだけど…」

 

やっぱり見覚えはない。少なくとも名前は出てこない。

 

「おかしいな。確かに神樹の中で起こった記憶もロードできるようにしたつもりだったんだけど…経路がまだ不安定なのかな?」

 

目の前の子はどこから来たんだろう。

 

「すみません。それよりも、もう一人私の友達を知りませんか。金髪の…」

「園子さんね。大丈夫、もう一人が迎えに行ったから。これは実際に会ってもらった方が良いと思う」

「そのっち…乃木さんのことも?」

「ああ、そのっちさんで良いですよ。ちゃんと把握していますから」

「そう、ですか」

 

どういうことだろう? 大赦はほとんどの情報を渡しているの?

それなのにこの重大な局面で私達に伏せていたというの?

 

「そうですね。誤解のないように言えば、わたしは神樹様から力を頂いた勇者ではないです」

「それは…どういう」

 

神樹様意外にも神様が手助けをしてくれる。

 

「待てって、園子!」

 

(この声…まさか! いえ、でもそんな)

 

大橋の向こうからそのっちが飛んでくる。

そして、その後を追うように…

 

「ああ、幻じゃなかった。銀…」

 

見上げる私の元へそのっちと一緒に銀が降りてくる。

 

でも、どこか様子がおかしい。

 

「そのっち? 銀が…」

「ああ、そうだった。そうなんだけど、どうしよう」

 

おかしい。こんなに取り乱したそのっちは初めて見る。

 

「須美。落ち着いて聞いてくれ。バーテックスは12体だけじゃない。壁の外にまだいるんだ」

「そんな。でも、それなら確かに」

 

今まで誰も教えてくれなかったバーテックスがどこから来たのかという理由になる。

でも今はそれよりも…

 

「あのね。わっしー、壁の外の世界はいっぱいバーテックスがいるの。きっと私達だけじゃ倒しきれない」

 

そのっちがはっきりと断言する。

 

勝てない…私達は…負ける?

 

ビデオで見た旧日本軍のように?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(やっぱり、バーテックスが完成している。わたしの指揮権は…まだ効いているみたいだけど)

 

どうしよう。

 

バーテックスをいくら倒しても、実際のところ意味はない。

こんなの天の神から零れ落ちた代謝物のようなもの。

 

(高天原への道も開けそう。どういうことだろう? 神様はわたしが銀さん達勇者に力を貸していることを知っているけど、問題ないと思っているんだろうか?)

 

仕方ないとはいえ、人の生死に関わる力を与えておいて、放っておいても良いなんて、やっぱりわたしに肉体を与えたのは遊びみたいなものだったんだ。

 

「だったら、その慢心をつかせてもらうよ。アクセス」

 

神様に対抗することはわたしにできるはずもない。そもそもわたしは神様から与えられた天の力によって、この世に存在しているだけの遥か昔の人間の影法師。

でも、だからこそ散華の対策も思いついたんだけど、自分でも試すのは初めてだ。

鷲尾さんの記憶については補充できたと思うし、園子さんの視覚や運動神経も今は代替できている。

 

本格的に何とかするには準備不足だけど、この戦いの間くらいは満開を繰り返してもわたし一人で散華のデメリットを補える。

だけど、わたし自身が地の神に認めてもらえなければ、わたしが勝てても人類の生存につながらない。

 

「だから、わたしも精一杯やって見せる。アリエス、タウラス、ライブラ、スコーピオン」

 

呼ばれた4種のバーテックスが再生途中で浮かび上がる。でもその数は4ではすまない。いくつもの炎を纏いながら浮かんでくる。

 

(やっぱりネームドも量産できてる。でも…わたしが4種の力を奪い取って、次の段階に進めばまだこっちの方が早い)

 

「"今こそ我ら真に無形にして、虚無にあっても、揺蕩う闇である。主なる神に背き、神の威光を輝かせる者。すなわち光帯びたるものである。"」

 

集まった4種のバーテックスをわたしを中心に一つにまとまる。

 

 

言葉は力となり、力はわたし変容させる。

 

影が揺らめき、やがてわたし自身を周りから閉ざす。

 

―ルゥオオオオオオオン―

 

わたしの中からあの日と同じ絶叫が樹海に響き渡る。

引き抜かれた心臓が脈打ち、流れ出す赤い血が蒼く変わる。

 

違うのはわたし自身だ。

 

体中が爆発するように巨大化する。

 

自分の姿を見ることは叶わないけど、もうかなりの獣相が出てきているはず。

背中が熱い。何かが吹き出すように飛び出てくる。

予定通りならたぶん翼だ。鳥のそれではなく恐竜や蝙蝠のような膜を張ったような翼。

軽く動かしてみても、自分の意思通りについてくる。

視界が十重二十重に重なる。近未来の映像が重なっている。

普通なら脳が処理する器官を持たないその光景も、今更何も感じることはない。

伸びた犬歯が牙のようになって唇の外にまで伸びてくる。

顔の骨格自体が変化し、大きくなった顎から炎が零れ落ちる。

翼に続けて頭が現れる自分と自分が見つめ合う不思議な状態。

 

でも、やっぱりそこにあるのは、獣相を得て、角を冠で飾り、口から飛び出した牙を鳴らす。

 

獣相と翼竜の翼を持つ獣。豹のようにしなやかな筋肉を持つ腕と、熊のようにゆるぎない力強さを示す足が地に降り立つ。

 

わたしの姿。獣の姿。神に背く者にふさわしい。

 

かつての西暦で宗教で警告された10本の角と7つの頭を持つ神を冒涜する者。

人に知恵を与え、偽りを語り、地に留める。

 

そして、レオにも負けないその巨体のまま、炎の世界へと飛び立った。

 

 

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