と思っていたら、
サブタイトル間違ってたのでちょっと修正。失礼しました。
勇者は魔王と一緒に住んでいた城をでます。
いなくなってしまった。魔王を探して。
みんなが怖がっている魔王は、勇者にとっては全然怖くないのです。
いっしょに果物を育てて、いっしょにご飯を食べて、ちゃんとできるくらいなのです。
だから悪者にする必要なんてありません。
ただ、ちょっと、怖がりで、闇を広げられるだけの普通の子でした。
それでも、人は魔王が怖くて働けません。
魔王が怖くないよ、と言っても人は怖がることしかできません。
だから、勇者は魔王を探します。
大丈夫、一緒にいるよ。
魔王にそう言ってあげるために・・・
「……今年のクリスマスは最高気温25度、最低気温は17度。また、降水確率は10%。バーテックス出現確率は10%未満です。1日を通して過ごしやすい陽気となるでしょう。それでは次のニュース……」
「友奈、早くご飯食べちゃって、遅れるわよ」
「はーい、牛鬼、テレビと灯り切っといて」
お母さんに返事をしながら、急いで着替えを終える。
「いってらっしゃい、友奈サン」
「うん、行ってくるね牛鬼」
AIが浮かべるホログラムに挨拶なんていらないという人も多いけど、私はこうして牛鬼ともお喋りしていたい。
「おはよう、お母さん、お父さんは?」
「もうとっくに出たわよ。ほら、急がないと遅れるわよ」
「今日はまだ迎えにきてないよ」
そう、毎朝迎えに来てくれていたはず。
「お迎え? 誰かと約束していたの?」
「えっと、ううん、約束はいらない、いらなかったはず? あれ? 迎えってなんで私…」
「きっと、夢でも見ていたんでしょ。さっさと朝ご飯を食べて学校に行きなさい。しっかりしなさい。春からは中学生なんだから」
焼きあがった食パンを見つめる。
おかしくないのに、ワッって驚かされそうな不思議な気持ち。
「お母さん、今日はパン?」
「え? 今日はって、昨日もそうだったでしょ」
「あ、うんそうだよね。私、どうして?」
何か、ソワソワする。
ワーっと、何かを叫んでしまいそうな、不思議な気分。
「友奈、本当に大丈夫?」
お母さんが心配そうに覗き込む。
「うん、大丈夫。昨日見たネットの日本の影響で変な感じがしただけだと思う」
「もう、だから遅くまで潜っていては駄目って言ったでしょ。牛鬼がいるからって」
「う、ごめんなさい」
「もう、でも、あなた日本に興味なんてあったかしら?」
「うーん、勧められたんだけど…」
誰に勧められたんだっけ?
「はあ、本当に重傷ね。そろそろ本当に時間が無くなるわよ」
「わ、行ってきまーす」
時刻はもう8時を過ぎようとしている。走っていかないと間に合わないかも。
「あ、友奈来た。良かった。登校日忘れてるんじゃないかと思ったわよ」
良かった。何とか間に合った。半年ぶりに実空間で会うのに、遅刻したら大変だったよ。
「それにしても、ポータルも禁止で徒歩か交通機関って100年は遅れてるわよ」
「あはは、でも、私はこうしてみんなと直接会えるのは嬉しいな」
授業も買い物もメタバースでできるけど、こうしてみんなと会えるとポカポカする。
「くう、やっぱり、友奈はええ子やー、これだけでも現実に浮かんできたかいがある」
「はいはい、あっと、そう言えば、今日、転校生があるんだって」
「転校生って・・・いったいいつの時代よ。しかも12月って、すぐに休みになって印象に残らないじゃない」
「あはは、じゃあ、今日でしっかり仲良くならないと、あ、そうだ。帰るときに一緒に誘っても良いかな」
「良いでしょ。友奈はクラス全員に声かけたんでしょ。あー確かに転校生を印象付けるには良い機会かもね」
「うん、良い機会。せっかくだから、やっぱり先生も・・・」
「だーめ、そんなことしたら盛り上げにくいって。それに」
そういうと、声を潜めながら私の耳は続く言葉を、心地よく聞いている。
変わっているって言われるけど、やっぱり、直接会って聞く声も良いと思う。
「先生、もしかしたら彼氏と約束してたりするかもしれないじゃん」
「あー、確かにそれは考えとかないとな。安芸先生もいい御年だしね」
「そうだね。安芸先生美人さんだし。わかった。じゃあ、今日は誘わない。あとは夏凜ちゃんと・・・」
話していると、学校までの道もあっという間。
安芸先生をお誘いできないのは残念だけど、クラスの子たちはみんな来てくれそう。
転校生の子も来てくれるといいな。
「貴方達、お喋りも良いけどあまり横に広がっちゃダメよ」
後ろからの声にビックリして振り返ると、明るい金髪の2人が立っていた。
1人は中学生の制服。もう1人はおとなしそうな小さな女の子だ。
「はーい。風先輩」
「でも今日は浮かれてても仕方ないか。あと、もう先輩じゃないしね」
上級生の人は犬吠埼風さん。それから妹の樹ちゃん。
風先輩は同じ小学校だったし、樹ちゃんは今も同じ小学校だから。
私達も何度か会ったことがある。
「ま、あんまり羽目を外しすぎないでね。それじゃ樹。お姉ちゃんも中学校だから。また後で」
「うん、行ってきます」
風先輩が名前のようにサッと流れる風のような動きで歩いて行った。
「樹ちゃん。一緒に行かない?」
「えっと、良いんでしょうか?」
「もちろん!」
私の返事に隣の二人も頷いている。
私達は今度は夢中になり過ぎないようにお喋りしながら、学校までのシャトルに乗っていた。
「おはよー。友奈」
「うん、おはよう」
みんなに挨拶しながら自分の席に着く。といってもフリーアドレス席だからみんな適当に座っている。
「はい、みんな席について」
私が今日の自分の席に着く前に、安芸先生も教室に入ってくる。
「今日は半年ぶりの実空間での授業になります。6年生は6月の修学旅行以来ですね。それからもう聞いている人もいるかもしれませんが、転校生が来ています。鷲尾さん入って」
みんなの歓声が上がる。転校生は鷲尾さんらしい。
「はい」
すごく良い姿勢で女の子が教室に入ってくる。みんなの視線を受けても自然体のままだ。
先生の隣に来ると、クルっと直角に曲がってまっすぐ正面を見つめている。
(あれ? 見つめてる? 正面?)
そう、見つめている。見つめ合っている。
私と東郷さん。
そう、私が東郷さんを見つめている。
「友奈。おーい、友奈さーん」
「え、あ、うん。ごめん。ボーっとしてた。何?」
「相変わらずこの子は天然だねぇ。ほら、転校生をお誘いしないと」
あれ? まだ朝…じゃない。授業ももう終わってる。
ホントに急がないと鷲尾さんが帰っちゃう。
「あの! 鷲尾さん。まって」
何とか教室を出る前だった。良かったー。
「何でしょうか?」
「一緒にクリスマス会行かない? クラスのみんなで」
うわー、近くで見るとやっぱり奇麗だな。
「結構です。私は行きません。みなさんで楽しんでください」
「あ…」
そのまま、引き留める間もなく鷲尾さんは教室を出てしまった。
何だか"いつもと違って"ずっと緊張していたみたい。
どうしたんだろう?
「うわー。友奈が振られるところ初めて見た。なんて、おーい、友奈? 大丈夫?」
「う、うん。私は大丈夫。なんだか怒らせちゃったみたい。ごめんね」
「いやいや、友奈は悪うない。ああいうタイプは仕方ないよ。ちょっと早めの孤高でいたいお年頃なんだって」
そう言って2人が慰めてくれる。
でも、本当に落ち込んでいるわけじゃない。"外国のお祭りだから仕方ない"。
「おーい、友奈。アンタたちも早く行くわよ。他の面子は全部そろってるんだから」
「あ、夏凜ちゃん」
私達がなかなか出てこなかったから、夏凜ちゃんが様子を見に来てくれたみたいだ。
「それがさー、友奈が転校生も誘おうとしたんだけど…」
東郷さん、なんでそんなに緊張していたの?
なんだか"すごく怖かった"。
「ふーん、それで、あっさり断られてへこんでたってこと?」
「ううん、へこんではないよ。ただちょっとキューって締まっている感じがして」
「なになに、何の話」
私の反対側から1曲歌い終わって、夏凜ちゃんに話しかけている。
「いや、友奈達がなかなか出てこなかったから、何してたのかって話」
「ああ、さっきのね。なんか知んないけど、あの転校生あっさり断っちゃってさー」
「そうそう、私も日直で残ってたから聞こえてたけど、言葉使いだけ丁寧で拒絶してたね。あれは」
「あはは、転校してきたばかりだから、いろいろやることがあったんだよ」
「だとしても、そう言えって感じ。ああ、なんかああいうの気分が沈む。よし、友奈今度はデュエットだ」
「うん、良いよ。よーし、100点目指すぞー」
ちょっと気になることはあったけど、また今度、だよね。
クラス全員だと広めの部屋だから、しっかり歌わないとね。
私達の歌声を聞きながら、みんながワイワイと思い思いにお菓子やジュースを持ちながら、楽しそうにしている。
うん、やっぱり。今日はクリスマスやってよかった。
こんどは年末かお正月会なら"東郷さんも来てくれるかもしれない"。
「夏凜ちゃんも。今度は一緒に歌おう」
「え、ちょっと、ああ、しょうがないわね」
楽しい時間は過ぎるのが早い。今度は夏凜ちゃんとデュエットだ。
みんなが笑ってる。大変なこともいっぱいあるけれど、みんな笑顔でいられる。今が一番楽しい。
楽しい。楽しい。楽しい。
楽しい、けど、
「あれ、どうして」
ポロポロとこぼれている。私からこぼれている。
「ちょ、ちょっと友奈! どうしたのよ」
「あ、ごめん。夏凜ちゃん。目にゴミが」
それなのに、何か足りない。
私って、何が欲しいんだろう?
神様、私は何が欲しかったんでしょうか?
「ほら、友奈。嬉しかったのは分かったから、もうそんなに感激しない」
「ご、ごめん、何だか止まらなくって。うわーん。夏凜ちゃん」
「うわわわ、こ、こっち振るな」
「三好嫌ならそこ変われ」
「じゃあ、三好はここが空くぞ」
「うるさい。男子。ほら、泣かないで友奈」
解散する時間になっても私の寂しさは消えなかった。
でも、そんなこと言えないから、うれし泣きだって、みんなにはウソをついてしまった。
「じゃ、俺たちはこれで」
「そうね。後は若いお二人で・・・」
「とっとと帰れ!」
「じゃーねー。友奈また明日」
「俺は別に三好でも・・・」
「ほら、お前もこっちだろ。ポータル閉じるぞ」
1人、また1人とみんなが帰っていく。
でも、私の帰る場所は、私の知らない場所みたい。怖い。
「夏凜ももうすぐ分かれ道だけど、どうする」
「…し、仕方ないわね。と言いたいところだけど、友奈、本当にどうしたの?」
残ったのは4人だけ。
だからなのか、夏凜ちゃんはやっぱりうれし泣きだけじゃないと思っているみたい。
そのことが嬉しいけど、ちょっと申し訳ない気持ちになる。
「本当に何でもないんだ。自分でもよくわからなくって。う、うんだから明日になったら元気。だよ」
3人が顔を見合わせている。
「ホントに大丈夫?」
「と、とりあえず私と夏凜で家までは送っていくよ。ね、いいでしょ夏凜」
「そうね。このままほっとけないでしょ」
「ありがとう。みんな」
私は幸せだと思う。こうやって友達がいっぱい仲良くしてくれている。
それなのに、何が寂しいんだろう?
それから少し歩いて、
「それじゃ、また明日」
3人
「もう、友奈の家見えてるね。じゃあね」
2人
「はい、到着。あ、友奈のおじさん。実は・・・」
1人
家に戻った後も、涙が止まらない。
お父さんとお母さんも心配かけてしまってる。
せっかくクリスマスで楽しいはずなのに。
それでも、お母さんの御馳走を食べて、お父さんの点けてくれたイルミネーションが明るくて、少し寂しくなくなった。
それなのに・・・
1人で部屋で寝ているとまた涙が止まらない。
どうしてなの。
お気に入りのアニメのメロディー。
電話だ。相手は私???
「もしもし、えっと」
「お願い、東郷さんを見つけてあげて」
私の声だ。
そして、それは突然やってきた。
――こんにちは、あなたがこの家に住むの? 私は結城友奈、よろしくね――
東郷さんと話している私。
――と、東郷、三森です――
そう、初めて聞いた大切な人の声。やっと思い出せた。
――来たれ、勇者部へ――
勇者部へ誘ってくれた風先輩。風先輩、私は本当に勇者部に誘ってくれて嬉しかったんです。だって・・・
――は、初めまして、犬吠埼樹です。よ、よろしくお願いします――
樹ちゃんも最初はなかなか名前で呼んでくれなかったけど、仲良くなれたらすごく楽しかった。
――大赦から派遣された完成型勇者。それが私よ――
夏凜ちゃんはいつもかっこよくて、大好きだったよ。でも、この恰好は?
――わっしー、わっしー、ずっと呼んでいたよ――
誰だろう? 東郷さんのことを呼んでいる。
目の前の景色がいくつにも重なっていく。
――次に生まれてくる時も、あんずと一緒にいたい。本当の姉妹だったらいいな――
っ! 痛い。今度はおなかが熱い。熱い何かが流れ出していく。
――もし、生まれ変わってもタマっち先輩と一緒でありますように。今度はきっと姉妹だったらいいな――
寒い。痛い、震えが止まらない。誰がこの子たちにこんなことを・・・
――嫌いなのと同じくらい……あなたに、憧れて……あなたのことが、好きだったわ――
哀しい。私じゃない私の心。ようやく素直に言えた。
いろいろな感情が起きては消えて、起きては消えていく。
そして…
――若葉ちゃん、ヒナちゃん……一人でも欠けることがないようにって……ごめんね、できそうにないや――
誰だろう何だか懐かしい気がするのに……
(貴方は誰? どうして貴方だけ見えないの?)
何も見えない。電話の光も消えている。
音さえもなくなった闇の世界。
でも、今度は文字としての情報が私に直接刻み込まれる。まるで私に忘れないでって一生懸命お願いしてくるみたいに。
きっとこの痛みはさっきの子達のものだ。そして、私は……
「私は…私はみんなを…みんなのことを忘れない」
私は叫んで、でも音は聞こえなくて、ガンガンと頭の中から鳴っている。
天の神、バーテックス、炎の世界、神樹様、巫女、勇者、私と同じ名前、友奈と呼ばれ続ける少女達…
映像だけじゃなく、言葉もぐるぐると巡りながら回り続ける。
これまで起こったことと、これから起こること、そして、滅んだ世界の人々の怨嗟。
気持ち悪い。何なのこれ?
――それは、あの子が思い出したから――
――そして、たくさんの人が死んだ――
――それでも、あの子は許さなかった――
――だから、今度は信じてあげたい――
――それが、ボク達の希求――
――今度は、みんなを忘れない――
――いずれ、大切なものを守る――
――だからこそ、世界だって守れる――
――今度こそ、間違いは終わりにしよう――
――今こそ、はじめよう。さあ、
たくさんの"ボク"達の声が聞こえる。
「違う! これは私達の大切な想いだ」
ガラガラ、と何かが壊れる音がする。
真っ白な光が私を地上へとゆっくりと降ろしていく。
――どうして、友奈。ここにはすべてがあったのに――
懐かしい声が聞こえた気がした。
けれど、私はそこから引き離されて理解することができないまま。
目を醒ましていたんだ。