松永沙耶は神である   作:スナックザップ

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第3部
The joys that love and life can bring


「起立、礼、神樹様に、拝」

 

天の眷族である私が地祇を拝む。うん、倒錯的でイイ感じ。

と、そんなことより友奈に例の件を頼まないと。

 

「友奈ー」

「うん?」

「今度の校外試合、また助っ人お願いしたいんだけど」

「OK、行くよ」

 

よしよし、これで戦力は十分だ。

 

「今日も忙しいの? 部活?」

 

友奈はすぐには答えず東郷の車いすに手をかけながら、微笑み合っている。

はいはい、ごちそうさまですね。

これ、どう考えても脈は無いんじゃないですかね。神様?

 

「うん、勇者部だよ」

「そう、勇者部」

 

息ぴったりじゃん。

これ、見えていよね? 神様。

それでも友奈のいる世界選ぶの? 選び続けるの? 

人類を粛清し続けながら何度でも。

 

「なんか、何度聞いても変な名前だね」

「そう? カッコいいじゃん。じゃあね!」

 

手を振りながら二人を見送る。

 

「ま、試合とかその他いろいろみんな助けてもらってるか」

 

難しいことなんていらない。私は私が楽しいと思う世界を渡り歩く。

 

「とりあえず校外試合の日以外は外して、どれで行こうかな」

 

伊達メガネを中指で押し上げながら、バーテックスの姿を思い浮かべる。

最初は1体でいいか。

 

そうだ。その次はスコーピオン、キャンサー、サジタリウスの3体にしてみよう。

 

それでも鷲尾須美が出てこないなら、いつか友奈のことも忘れるのかもしれない。

 

(そしたら、神様も私をほめてくれないかな。ほめてくれるといいなぁ)

 

「あ、なゆ。ちょうどいいところにいた」

「あれ? 先輩。どうしたんですか?」

「いや、校外試合の助っ人どうだったかな、と思ってね」

 

あ、そっか、今日はソフトボール部休みだった。

 

「はい、大丈夫ですよー」

「よし、今度こそあのにっくき巨人たちを倒すのよ!」

「もちろんです。ちょっといろいろ大きいからって、戦力の決定的な差でないことをみせてやりますよ」

「頼んだぞ。4番」

「お任せしちゃって下さい」

 

そう言えば、先輩は犬吠埼風から勇者部のこと聞いてないかな?

 

「そう言えば友奈は今日も部活みたいでしたけど、先輩、犬吠埼先輩と同じクラスですよね? なんでボランティアサークルじゃなくて勇者部なのか知ってます?」

「ん、ああ、なゆは学年違うからあんまり知らないか。実はね…」

 

そう言いながら、先輩は手招きする。

耳を傾けながら近づく。

 

「風ちゃんって、ちょっとね」

「ちょっと?」

 

もしかして、極秘で勇者部内で大赦からの指示を行ってるとか?

 

「ほら、中学2年生男子がかかるかっこつけた言い方しちゃうアレよ」

「あー、アレですか」

「そういうこと、本当は高スペック女子なのに、残念なのよね」

「それは・・・残念ですね」

 

大丈夫か? 勇者部。

 

友奈もカッコいいとかいってたし、東郷は友奈全肯定だし。

 

実は大赦の本命は讃州中学じゃなかったのか?

それとも戦闘訓練なしでカッコいいなんて言葉で騙してバーテックスと戦わせる気なんだろうか?

 

(こっち)も全力で攻撃しているわけじゃなくて警告とか牽制とかみたいなものだから、あんまり偉そーに言えないか?

神様が見た未来通り友奈の意識が天に召されるまではなぞるだけのつもりだから。

 

なんだろう? この奇妙な世界。

 

世界が滅びそうなのに、人類も天敵である私達も緩くまるでお芝居のような動き。

あ、違うか。これ神様がそうしてるんだ。

 

(それでも満開があるからって慢心してませんかね? 大赦さん? 本気出せばせいぜいブラックホールで生きていられる程度のバリアなんてすぐに潰せるんですけど)

 

単純なブラックホールやバーテックスは機械で便利だから使っているだけだ。

本気でやるなら私一人でも地球潰しだってできるって分かってるのかな?

 

賑やかと言うにはやや時代がかった音楽が流れる。

このメロディーは彼女だけのもの。

絶対に嫌がると思っていたのに、やっぱりそれでも止まらないんだ。

 

「もしもし」

「ダメだよ。投げやりにならないで」

 

ああ、やっぱり天から見守り続けているんだ。神様は…

 

「分かってるよ。神様」

 

電話の向こうは無音。闇のように広がるだけ。

 

そのまま電話自体の音をもう一度切る。電話は嫌いだ。こんなものができたせいで人はつながれると信じてしまったんだから。

 

「なんて、私も前回に引きずられてるなあ。よし、今のうち始めよう。おいでヴァルゴ」

 

誰もいない夕焼けの校舎でどこからともなく取り出した椅子に座りパチパチと拍手を鳴らす。

 

「まずは第一幕。はじまりはじまり」

 

神樹が永遠として時間を止めるなら、私は無限として見渡す限りの無限の広がりを持つ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

突然、スマホが知らないアラームでビックリしたと思ったら、光の波がワッと広がって教室に広がっている。

 

「東郷さん」

「友奈ちゃん」

 

思わず目を瞑りながら、覆うように東郷さんを抱きしめる。

 

目がチカチカするけど、どこも痛くない?

あんなにパーって光っていたけど、何だったんだろう?

 

「東郷さん、大丈夫?」

「え、ええ。友奈ちゃんも?」

「うん、"今度も"大丈夫だよ」

「良かった…、え?、そんな?」

「どうしたの東郷さん。どこか痛いの?」

 

東郷さんが震えてる。その指先で・・・

 

赤、青、緑、黄色、いろんな木が集まってる。

 

学校も無くなってる。町も見えない。ずっと、ずっと、向こうまで。

 

「あ、"樹海化だったんだ"」

 

ポツリとつぶやく。

 

けど、まるで自分の声じゃないみたい。

 

「友奈、東郷!」

「本当にお二人もいたんですね」

 

横になっていなかった木の影から、風先輩と樹ちゃんの姿が見える。

 

「はい、東郷さんと私は大丈夫です。風先輩と樹ちゃんも?」

「ええ、大丈夫なんですけど・・・」

 

樹ちゃんがチラリと風先輩を窺う。

 

「風先輩?」

 

みんな無事だったのに、風先輩が何だか……ズーンって重たい。

 

「あ、友奈、東郷も、無事でよかった」

 

よかった。風先輩、すこし笑ってくれた。

けれど、今の風先輩何だか哀しそうで、泣きそうで。

 

「3人ともよく聞いて。私達が当たりだった」

 

とても真剣だった。

 

この日、私達の日常はいったん……

 

ダメだよ。おわらせない

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まずはみんな鳴子アプリを動かしてみて」

 

鳴子アプリ。風先輩が勇者部に入った時にインストールしてって言っていたアプリだ。

東郷さんが調べてもおかしなウイルスとかはないって言ってたけど、アプリも風邪を引くのか不思議だった。

 

「黙っていてゴメン。これ、実は大赦から言われていた勇者になるためのアプリなの。そしてここをこうすると…」

 

風先輩が鳴子を操作すると、今度は画面いっぱいに地図が表示される。

けど、地図の上に見たことがない赤い光が映っている。

 

「この乙女座って書いてある赤い光が・・・」

 

東郷さんと同じようにスマホの画面を見る。そしてもう一度空を見上げる。

画面の光と合わせるようにソレもゆっくりと私達に向かってきている。

 

「そう、それがバーテックス。ウイルスの海から生まれてきた…敵よ」

「敵…こんなのが…」

 

風先輩がきっぱりと言い切った。

樹ちゃんは少しビックリしてるけど、怖いって感じじゃないみたい。すごいな。

 

私は…私は少し怖い。

 

風先輩はあの大きいバーテックスが神樹様のところに着くとこの世界が終わっちゃうって言っていた。

本当は世界が終わるっていうのはわからないけど、大赦の人達が言うならきっと良くないことが起こるのは本当だと思う。

 

「まずはアタシが戦うわ。みんなはひとまず隠れていて」

「戦う…でも、どうすれば…」

 

風先輩は自分が戦うって言ってくれたけど、東郷さんと私は二人で顔を見合わせてしまう。

あんなに大きいのをどうすればいいだろう?

 

「大丈夫、アタシはちゃんとやり方は大赦から聞いてるから」

 

そう言いながら私達を安心させようと風先輩がもう一度笑ってくれた。

 

「お姉ちゃん!」

「樹、アンタも隠れてなさい」

「ううん、私もついていくよ。どこまでも」

「…分かった。友奈、東郷。それじゃ、ちょっと行ってくるから待っててね」

 

そう言いながら、風先輩がスマホでまた鳴子アプリを動かしてる。

次の瞬間、世界中に花が舞う。

花びらがいっぱいになって、すぐに風先輩がみえなくなってしまう。

 

「風先輩!」

「お姉ちゃん!」

 

東郷さんと樹ちゃんの声が聞こえる。私は…

 

私は声が出なかった。

 

(知ってる。私、どこかで……)

 

 

――次に生まれてくる時も、あんずと一緒にいたい。本当の姉妹だったらいいな――

 

 

何かを思い出せそうで。でも、すぐにそんなことも忘れてしまう。

 

「風先輩……」

 

花びらが散って、風先輩が戻ってきたけど、その姿は変身ヒーローみたいに変わっていた。

 

「これがアタシたちの、勇者の戦うための力。鳴子アプリで戦う意思を示せば、神樹様の力で勇者になれる」

 

勇者、これが…

 

「樹…」

「これだよね。えい」

 

樹ちゃんが微笑んでいる。

風先輩はすごく心配そうだったけど、樹ちゃんは何も怖がってない。

 

また、花が舞う。

 

――もし、生まれ変わってもタマっち先輩と一緒でありますように。今度はきっと姉妹だったらいいな――

 

まただ。また"杏ちゃん"の声がする。どうして?

 

今度は樹ちゃんが見えなくなったけど、さっきの風先輩みたいにすぐに出てくる。

 

「それじゃ、行くよ。樹」

「うん、お姉ちゃんって、わあああ」

 

勢いよく二人がジャンプした。

 

あっという間に小さくなって飛んで行ったけど、二人とも無事みたい。

樹ちゃんがちゃんと着地できなかったけど、神樹様のおかげで怪我はなかったみたいだ。

 

「すごい、もう見えなくなっちゃった…」

 

ビックリしすぎて見てるだけしかできなかった。

けれど、敵は…"そう、天の神(あの子)は敵だって言った"。

 

待ってはくれなかった。ラグビーポールと卵の間みたいなものが、ドーン、ドーンって爆発している。

 

そうだ、私も2人を助けないと。

 

「友奈ちゃん…」

 

東郷さん……

 

「何故か分からない。でも、怖いの。あのバーテックスじゃない。何か、もっと、私達が分からないこと」

「大丈夫、落ち着いて。東郷さん。私はここにいる。ここにいるから」

 

なんだろう。すごくドキドキする。

 

確かにあの化け物、風先輩がバーテックスって呼んでた化け物だけじゃない。何か大切な……

 

「友奈、聞こえる」

 

聞き慣れた声にハッとしてスマホを耳に当てる。

 

「風先輩! 私…」

「ごめんなさい。こんなことに巻き込んで、まさか、本当にバーテックスが来るなんて、それにアタシ達が当たりになるなんて思ってなくて、だから…」

 

風先輩…、こんな時でも私達のことを。

 

「分かってます。風先輩は私達に心配をかけないようにしてくれていたんですよね。だから…謝らないでください」

「友奈、アタシは…、しまっ」

「風先輩? もしもし」

 

突然途切れてしまった風先輩の電話と入れ替わるようにドーンと雷よりも大きな音がして、ブワーっと風がいっぱい押し流されてくる。

目を細めながら、私はそれを見た。

 

炎と風に煽られて少しだけ風先輩と樹ちゃんが何かに守られながら、遠くに弾き出されるのが見えた。

 

そして、

 

「こっちに…向かってくる」

 

東郷さんの言う通り、乙女座の名前を持つバーテックスがこっちに来る。

急いで逃げないと。

 

「友奈ちゃん、私を置いて逃げて! このままだと友奈ちゃんも逃げられない」

「そんなの、ダメだよ。東郷さんを、友達を置いてなんていけない…」

 

そうだ! そんなの当り前じゃないか。

 

クルリと東郷さんに背を向けて走り出す。

 

「ここで、友達を見捨てるようなのは…」

「友奈ちゃん、駄目!」

 

大きな卵が目の前に迫る。風先輩が戦う意思を示せば…

 

――なんでそんな子供が先頭に立って戦わないといけないの!?――

 

"茉莉"の絞り出すような声が聞こえる。

 

左足を軸に思いっきり右足を振りぬく。

バーンって卵が壊れて、また爆発が起きたけどこんなの平気。

 

それにまだまだ卵が降ってくる。あのバーテックスが私に狙いを決めている。

だったら、私がここから離れれば、東郷さんは大丈夫。

 

風先輩と樹ちゃんがそうしたように、私も大きくジャンプする。

 

「友奈ちゃん!」

 

東郷さんの声が聞こえる。大丈夫、ちょっとやっつけてくるから。

 

 

――ゆうちゃん! ダメだよ!――

 

飛び上がった私に向かって、また卵が降ってくる。

けれど、もう一度今度はスマホを左手に持ち替えて、右手叩いて仰け反らせる。

卵がクシャってつぶれながら爆発する。

 

 

怖い、怖い、怖い、でも…

 

「友達がいなくなる方がもっと…イヤだ!」

 

いまなら私が見えていないはず。

 

「おおおおおおおおおお」

 

私のすぐ下に"天敵"がいる。そのまままっすぐに飛び込む。

 

「"勇者ぁああ、パーンチ"!」

 

知らずに叫んでいたその名前に合わせて、まっすぐに拳を突き出す。

 

何かを潜り抜けた感触。

 

――私は、『勇者』になります――

 

「私は、勇者になる!」

 

 

 

 

 

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