「そんな、治ってる」
私に突き破られた部分が少しずつ小さくなってる。
「どうやってバーテックスをやっつければいいんですか? 風先輩」
風先輩と樹ちゃんに合流しするけど、あんなふうに治ってしまったら、いくら叩いても終わらない。
「バーテックスはダメージを与えても回復するの。封印の儀式っていう特別な手順を踏まないと絶対に倒せないわ」
「手順って何。お姉ちゃん?」
「"あ、そうでした。確かスマホをこうやって"。あれ?」
私のスマホには漢字がいっぱいの画面が広がっている。
「友奈?」
「ご、ごめんなさい」
私、何をしようとしたんだろう?
さっきからおかしい。
「いいわ、攻撃がくるわ。避けながら説明するから聞いて。来るわよ」
風先輩の言葉を待っていたようにバーテックスがまた爆発する卵を出してきた。今度はたくさん。
「ま、またそれ? ハードだよ。お姉ちゃん」
私達は慌てて爆発から逃げる。
でも、これ以上進ませたら、神樹様に向かっちゃう。途中には東郷さんも。
はやく、倒さないと。
「説明は終わりかな。それじゃ、乙女座は再起動っと、で、こっちはまだ動けないか」
友奈たちとヴァルゴが戦っている間に、私はもう一度クレアボヤンスで東郷を見る。
「ま、今回は良いけど、スコーピオンを見てもそのままだったら、今回は東郷は変身できないかもしれない」
神様曰くに毎回初回は前の戦いの影響で変身できていないってことだったけど、どうみても今の東郷は恐怖に縛られている。
「やっぱり、前みたいに訓練するか、私達みたく実戦を積むしかないんじゃないかな」
どうにも大赦のやり方に違和感がある。徹底して少女達を戦士として使いつぶすわけでもなく、かといって自分たちで何とかするわけでもない。
まるで誰かが助けてくれるのを待っているみたいだ。
(そっか、待ってるんだ。神樹様の神託を。それに従えば間違いないって)
ため息交じりに両手を頭に背もたれに体を預ける。もちろん足は机の上に投げ出して。
これは思ったより根が深そうだ。
神様が大満開の後に幾億も遡り続けてきた理由がわかる。
寄りかかる大樹を失って倒れそうなんだ。人類は。
だったら、いっそ切っちゃえばいいんじゃない、ショック療法で。
恐怖に震え、飢餓に喘ぎ、満たされない日々に下を向きながら、それでも歩み続けるしかないんじゃないかな。
神様に会う前の私達がそうであったように。
もう一度友奈達とヴァルゴの様子を確認する。
3人とも必死に爆弾を避けながら、ヴァルゴに近づいていく。
「位置につきました」
「こっちも着いたよ。お姉ちゃん」
「よし、封印の儀、いくわよ。教えた通りに」
3人がヴァルゴを囲むようにして、スマホ片手に突っ立ってる?
何? 何が起こったの? 神様がざっくり聞いた感じだと、御霊を取り出す儀式らしいけど、これ反撃してもいいやつ?
とりあえず、ちょっと突っつかせてみよ。
ヴァルゴにピピピ電波を送って攻撃再開を命じる。
正面の風先輩に帯を叩いてる間に、友奈と樹が祝詞のような呪文を唱えている。だいぶたどたどしいけど、やっぱり練習と華必要だったんじゃないの?
「か、幽世大神、憐給」
「恵給、幸霊、奇霊…」
あーあ、どうしよう。これ攻撃しちゃダメだよね?
あと、守給、幸給が残って…
「おとなしくしろー」
風パイセンさすがっす。力技ですね。
「ええー、それで良かった?」
「い、いいのかな?」
「ようは、魂込めれば言葉は問わないのよ」
いや、問うからね。少なくとも
「はやくいってよー」
樹が嘆いている。そう、ホントに事前に言っておけば良いことさえも言えてない。
「なんか、べろ~んって出たー」
「ああ、それが御霊。心臓みたいなものそれを破壊すればバーテックスを倒せるわ」
「よーし、それなら、私がいきます」
飛び上がった友奈の一撃が御霊を破壊…できなかった。
「かっっったーい」
2年前の戦いで御霊が破壊されたから防衛策を講じていたんだけど、やっといてよかった。
「お姉ちゃん、なんか数値が減ってるんだけど」
「ああ、それ私達のパワー残量。それが無くなるとこいつを抑えておけなくなって、倒せなくなるの」
「ええー、ということは・・・」
「こいつが神樹様にたどり着きすべてが終わる」
終わりません。そもそも、これは出来レースみたいなもので、貴方達の勝ちは確定しているんだから。
って、教えてあげるわけにはいかないんだよね。
神様が一番手を焼いているのは300年と言う月日の間受け継がれてきた1日たりともスキップできないことだ。
おかげでこんな茶番をしなくちゃいけない。
(でも、まあ、この2年間の生活は悪くなかったか。退屈はせずに済んだかな)
「友奈、代わって」
「あ、はい」
手を痛めた友奈に代わって獲物が大質量の風の一撃が決まる。
すこしはダメージを与えたみたいだけど、そんなに悠長な時間はない。
「風先輩…あ」
少しずつ樹海の根が焼かれて枯れていく。
こちらもただ黙ってやられてあげられない。彼女たちが懸命に戦わないと、大満開を神樹が認めないから。
あー、ホントにややこしい。
(仕方ないか。ここは御霊を自壊させて…)
一瞬、私が目を離した時にそれは起こった。
「このー、はあああ」
(痛い、怖い、でも…大丈夫)
!? 今のは、友奈。でも、心の声が聞こえるなんて、いったいこれは?
なんで、どうして? 私にテレパシーはない。それは十華の力のはず。
人の心に寄り添い、その欲望を成長させる。
なんで、今、私に…
私が呆然としたまま樹海は解け、私達は敗北していた。
例えば、世界のすべてがあらかじめ決められているとしたら、あなたはどう思うだろうか?
そんなバカなことと笑うだろうか。
けれど、私は知っている。
この世界には神がいらっしゃる。
なら、すべては最初から決められていたとしてもおかしくないのではないかと。
運命の相手なんてものがいる人はそれでも良いかもしれない。
けれど、そんな都合の良い相手もおらず、どうやっても、何度繰り返しても、不幸になるしかないとしたら?
そして、もし、ほんの少し、ほんの少しだけそれを変えられるとしたら、貴方はどうするだろう?
(神様はこうなることを知っていた? だから、ここで起こる事故のことも、どうすれば最小の被害で最大の望む結果を得られるかも…)
甲高いブレーキ音とともに、一台の軽自動車が横断歩道に突っ込んでくる。
少しだけの奇跡で摩擦係数を少し上げておく。
「これでガードレールに擦るくらいですむでしょ」
あとは、明日の放課後、友奈が日直をしている時に交通事故を見たって聞こえる程度で誰かと話していれば、先輩がいろいろと説明する…と言うことになっている。
でも、私の頭は昨日のことでいっぱいだ。
(どうして、友奈の心が聞こえたの? 私は自分の意志で2年早くここに来たつもりだった。それはただの気まぐれのはず。でも、もし、それも神様の未来通りなら)
まだ肌寒い季節だ。早く帰ろう。
少し身震いしながら、急いでその場から立ち去った。
「昨日、隣町で事故が会ったじゃない」
「えっ、あの2,3人けがをしたっていうやつ?」
「そうそう、私びっくりしちゃった」
友奈は…うん、黒板消し持ったままだけど、ちゃんと聞超えてるみたい。
「そっちにメッセージ送ろうとしたら、電池切れてて」
「あるある、タイミング悪かったりするよね」
「ね、ホント、まあでもけが人って言っても、みんな警察の人と話し込んでたくらいだから、そんなに酷くなかったんだと思うよ」
その後も、2、3軽い雑談して私達は別れた。
私が教室に戻ると誰も残っていない。私もこの後着替えてソフトボール部の練習だけど、その前に少しだけ。
(アクセス、俯瞰視点。5次元モード)
空間、時間、異なる歴史…いろいろな角度から私と友奈に過去に関連が無かったか調べなおす。
(やっぱり、関連は無さそう。だったらあの声は…神様が聞いていた声が私にも聞こえた?)
うっわー、最悪。神様ってば好きな子の心の中まで覗き見したいとか、ストーカー以上じゃん。
もう、ストーカーを超えたストーカー。ハイパーストーカーだよ。
思わず頭を抱えてしまう。
普段の言動が落ち着いているから忘れがちだけど、さすが友奈が生まれてこないという理由だけで何回も時間を巻き戻しているだけのことはある。
遡っている回数も含めたら、きっとまともな数じゃない。
(よし、知らなかったことにしよう。空耳空耳)
そうだ、いくら何でも中学生女子にリアルストーカーなんて、例え同年代でも変質者過ぎる。好き嫌いならまだしも。
でも、神様は自分のことを棚に上げてストーカーは東郷三森の方だ、なんて言ってるんだから、この世界は本当に業が深すぎる。
東郷なんてただ友奈に依存しているだけでそんな危ないことはしていないのに。
こんなことなら早めに地上にくるんじゃなかった。心労が増えてく予感しかしない。
私はただ地上の暮らしを神様の奇跡で遊び倒して過ごしたかっただけなのに。
私の日常を返せー。
「よし、とにかくさっさとバーテックスを消費して、後は知らんぷりしよう。とにかく12体消費すればいいはず」
注意が必要なのは来週のカプリコーンで夏凜の見せ場を残すくらいだ。
まずは予定通りスコーピオン、キャンサー、サジタリウスで東郷の記憶を刺激する。
決意を新たに私は教室を出る。試合は来週。友奈に加えて夏凜を助っ人として、必ず勝つ!
「理由ならあるよ」
あ、また友奈の空耳が聞こえる。まさか神様が私にも友奈に好意を抱くような因子とか運命操作とかしてないよね。
「東郷さん、さっきは私のために怒ってくれたから。ありがとね。東郷さん」
「ああ、何だか友奈ちゃんが眩しい」
「え? どうして?」
なんだ、東郷も一緒にいるなら、幻覚じゃないのか安心した。
よく見たら、牛鬼も浮いているし、校外で勇者部の活動があるのかもしれない。
っと、盗み聞きも悪いし、そろそろ退散しよう。
恋バナは好きだけど、馬に蹴られたくはないし、何事も度を越えない程度に。
「私、昨日からずっとモヤモヤしてた。このまま変身できなかったら、私は勇者部の足手まといになるんじゃないかって」
「そんなことないよ。東郷さん…」
「だから、さっき怒ったのもそのモヤモヤを先輩にぶつけていたところもあって…」
…これ以上は本当に良くないね。
(人除けはサービスしておくよ。このまま終わりだなんて、イヤだしね)
二人の声が遠くなる。
いくらふざけたまま生きていたい私でも、人が真剣なのを茶化すほど趣味は悪くないつもりだ。
「さってと、東郷の波長も戻ってるみたいだし、そろそろ良いかな? 連日で恐縮だけど試合の日が近いからね。行けスコーピオン、キャンサー、サジタリウス」
私の命令を受けて3体が動き出すと、合わせるように神樹が樹海を広げる。
今回の目的は東郷が戦線に立てるようにすること。
3体の姿を見ても取り乱さずに戦えるか確認すること。
この2つだ。今後のためにもここは早く克服したいところだけど。
(友奈の説得がどこまで心に響いているか、この3体は強いよ)
「スコーピオン、キャンサーは所定の位置まで侵攻、それからサジタリウスは49秒ごとに斉射。状況開始」
さて、皆はどう動く。
サジタリウスの初撃に風が弾き飛ばされているけど、なんとか無事に戦闘に入っているみたいだ。
その隙間友奈がサジタリウスに向かう。
確かに近距離中心の今の友奈達にとってはサジタリウスは放ってはおけない。
だけど、それはキャンサーがいない場合だ。ここでは攻撃力と攻撃速度に優れるスコーピオンを倒しておかないと……
キャンサーの反射板に誘導された友奈がサジタリウスの針を迎撃している間に、地中からスコーピオンの毒の尾が迫る。
けれど、その攻撃は途中で見えない壁に阻まれたように、友奈に届かない。
(あれが精霊バリア。スコーピオンの全力の一撃をあれほど簡単に防いでみせるってことは、確かにバーテックスくらいの攻撃なら届かないみたい。だけど、あんなに飛ばされたら人間の身体では内臓にダメージが届く)
それは脳震盪だったり三半規管の不調だったりと言った形で、戦闘能力を大きく奪う。
実際スコーピオンの尾で何度も跳ね飛ばされて友奈はぐったりしている。
それでもスコーピオンは手を緩めず何度も友奈を突き刺そうと毒の針を振るう。
(やめろ…止めろ)
また、今度は東郷の…くぅ。
「何度も…何度も私に…」
東郷の姿がハッキリ見える。
「触れるな!」
スコーピオンの尾が戦闘能力がないはずの東郷へ向かう。
(しまっ!!)
失敗した。これじゃ、またやり直しだ。
けれど、私のミスはミスにならなかった。
青坊主が精霊バリアを展開している。
「友奈ちゃんを……虐めるな!」
絶叫のような東郷の心が響くと、どこからともなく花びらが降り注ぐ。
「な、んとか第1段階クリア…かな」
「東郷さん…」
(私、いつも友奈ちゃんに守ってもらっていた。だから…)
「次は私が勇者になって友奈ちゃんを守る」
"懐かしい花の香り"と共に私の姿が変わる。変わっていく。
「きれい…」
良かった。友奈ちゃんは大丈夫みたい。
それだけを心に、腕を伸ばし小型の拳銃のような武器を取り出す。
(どうしてだろう。変身したら落ち着いた。武器を持っているから?)
「は!」
蠍座のバーテックスが尾を戻そうとしている。
「もう、友奈ちゃんに手出しはさせない」
銃をより大きな銃に取り換え、3点撃ちで敵の顔と思しき箇所を連続で撃ち続ける。
「すごい、東郷さん。これなら」
(良かった。やっと変身してくれた。ようやくだね。鷲尾須美)
「ああ、もうしつこいのは嫌われるわよ」
「モテル人っぽいこと言ってないで、何とかしようよ。お姉ちゃん」
何とも飛び道具だけでも厄介なのに、反射板を自由に飛ばして隠れている場所にまで攻撃が届く。
ホントにしつこい。
と、思ってたら、上から蠍座が降ってきた。
「そのエビ運んできたよー」
良かった。友奈無事だったのね。
「いや、レーダーに蠍って出てるでしょ」
「どっちでもいいよ。お姉ちゃん」
突っ込みとは余裕出てきたわね樹。
友奈も蠍に飛ばされた時はどうなるかと思ったけど無事でよかった。
「東郷先輩!」
樹の見る先には変身した東郷がいた。
「遠くの敵は私が狙撃します」
「東郷…戦って、くれるの?」
今度は東郷がしっかりと頷いてくれる。
本当にこの子たちは…
「援護は任せてください」
「わかった。2人とも封印の儀始めるわよ」
よし、ここは東郷に抑えてもらいながら、2体まとめて片づける。
できる女は行動が早いのよ。
「不意の攻撃には気を付けてください」
「うん」
「はい」
あっれー?
「私のより返事が良い……」
ええい、いい女はへこたれない。気を取り直していくわよ。
「出た! 御霊。私、行きます!」
友奈が御霊に向かっていくけど、近づくたびにかわされている。
だったら…
「友奈、代わって。点の攻撃をひらりとかわせても…」
ちょうと友奈の影から飛び出したアタシに対応できていない。今!
「面の攻撃で押しつぶす!」
巨大化した大剣の腹で逃げようとした御霊をペシャンコにする。
光があふれて御霊が天に還っていく。
「まずは1体。さあ、次、行くわよ」
もう1つの御霊を振り返ると、振動を始めている。今度はどうするつもり?
「か、数が増えたー」
友奈の声とともに分裂した御霊がバラバラに逃げようとする。
「数が多いなら…これで、まとめて。ええーい」
おお、さすが我が妹。逃げる前にワイヤーで全部縛り上げたのね。
「ナイス! 樹」
あとは1つ。
かすかな震えが端末から感じる。
「風先輩。部室では言い過ぎました」
「東郷…」
違う、悪いのは私だ。当たる確率が低いとか、言い訳ばかりで両親の仇を取ることに夢中になってた。
いいえ、そういう自分を見せたくなかった。
「精一杯援護します」
「心強いは東郷。アタシの方こそ…」
アタシが返事をする前に東郷の銃撃…もとい砲撃が次々に射手座に突き刺さる。
「えっと、ホント、ごめんなさい。ハイ」
東郷は怒らせないようにしよう。吹っ切れるとヤバいわ。
「よし封印開始。って、え!?」
「あの御霊…早い」
友奈と樹が驚いている。私ももちろんビックリだ。
まるで封印の儀の対応方法を知っているみたいに次々と…。
これは大赦に報告しておいた方が良いかも。
高速で自分の体の周囲を回り続ける御霊。
けど、1つの光がその動きを捉える。
「東郷先輩!」
「撃ちぬいた」
東郷にこんな特技があったなんて。いや、普通は柔軟て使わないから気が付かなくてあたり前だけど。
樹海化が解ける。戻ったらちゃんと東郷と話をしないと、今度はうやむやにはしない。
「東郷三森、いえ、鷲尾須美? どちらでもいいか。彼女も戦線に戻った。戻れてしまった。あとは三ノ輪銀の後継者…か」
そして、12体のバーテックスが倒れ…
でも、その後は今まで通りじゃない。
「さってと、そろそろ私も前口上を考えておかないとね。なるべく印象的にしよう」
そう、話が通じる人間が相手だと分かった時に、変わるのか、変わらないのか。
あと少し、私の日常の終わりが始まろうとしている。