松永沙耶は神である   作:スナックザップ

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Bashfulness

「みんな、今日はよく頑張ってくれた。結城さんと東郷さんも助っ人ありがとうね。風ちゃんにもよろしく!」

「はい、わっかりましたー」

「しっかり報告しておきますね」

 

校外試合が終わり、部長の挨拶を友奈と東郷が受けている。

夏凜は…実はまだ讃州中学に来ていない。

 

(前回は2回目の襲撃が終わってすぐだったのに、やっぱり細かいところは変わってる)

 

変えられる未来と固定された未来。この差異はなんだろう?

 

校外試合の結果も少しずつ変わっている。

 

予知夢で予知しなおせば良いんだろうけど、眠らないと見れないから少しずつずれていくんだよね。

それが人間というか3次元空間上の生命体の限界。ただ神様が常時未来を見れる理由がよくわからない。

 

とにかく、あれから1ヶ月も経ってしまったから、そろそろカプリコーンを用意しないと。

 

夏凜が転校してくるのは明後日らしいけど、今日には来ているはずだから、後は勇者部の予定に合わせて始めよう。

 

「あ、友奈、東郷、明日って勇者部何か予定ある?」

「予定? うーん、特になかったと思うけどな。東郷さんは?」

「私も特にないわ。ホームページの更新も金曜日にすんでるし」

 

ふむふむ。じゃ、連日の運動になるけど、明日にしますか。

 

「何か相談事? なんでも聞くよー」

「ううん、今日のお礼もかねてちょっと寄ろうかなって」

「あら、では牡丹餅を1つ増やさないとね」

 

いや、そんなに頻繁に学校に甘いもの持ち込んでいいのか?

 

まあ、讃州は緩いから大丈夫なのかしら?

 

「今日は歩きだっけ?」

「うん、なゆちゃんもこっちだよね?」

「えっと、ちょっと寄るところあるから、私はバスかな」

 

この後、天に還ってカプリコーンを用意するから、ちょっと人目のつかないとこに移動したい。

 

「あら、陽は長くなっているけど、遅くなるわよ」

「いやいや、ただの買い物だからね。1時間くらいで終わるよ」

 

今日はそんなに遠くないから東郷の迎えにヘルパーさんは来ていないみたいだ。

歩いて帰るらしい。

 

「じゃ、また明日!」

「うん、それじゃね」

 

2人と別れて少し山手に向かうバスに乗る。

別にパッと消えても良いんだけど、こうやって乗り物に揺られるのも悪くない。

 

ただ速さだけを追求するのではなく、無駄を過ごす。

これもいつか振り返る日常の1コマ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれが5体目のバーテックス…」

 

樹海化した世界のマップに山羊座と書かれた点が映っている。

その先にいるのは4本足みたいなのがくっついてる。

 

浮いてるのにあの足は何に使うのかな?

 

「久しぶりだけど、落ち着いて迎撃するわよ」

 

風先輩の言う通り、確か1ヵ月はバーテックスは来てなかったと思う。

 

「1か月ぶりだからちゃんとできるかな?」

「友奈さん、そういう時はアプリのここから…」

 

樹ちゃんの手元の画面を見ると、鳴子にもちゃんとヘルプがついていたみたい。

 

「おおー、なるほど。"そうだった。またありがとうね。"」

「え? また?」

 

あれ? 私なにか変なこと言ったかな?

 

「ええい、四の五の言わずビシッとやるわよ。為せば大抵何とか成る」

 

風先輩の言う通りだ。ここで迷っていても仕方ない。

 

「勇者部ファイトー!」

「「ファイトー! おお?」」

 

風先輩の掛け声に合わせて気合を入れる。

 

けれど、私達の声より先に何かが降ってきて、バーテックスの上で爆発してる。

 

「東郷さん!?」

「私じゃない……」

 

え、じゃあ、誰が……

 

 

「ちょろい!!」

 

"夏凜ちゃん、それだと自己紹介だよ"

 

「「「誰ー!?」」」

 

私達の上をバーっと赤い影が舞う。あれは勇者の服?

 

「封印開始」

 

私達がビックリしている間に赤い勇者は、持っていた刀を地面に突き刺して、もうバーテックスを封印し始めている。

 

「すごい、いつの間に結界をはったの?」

 

すごくキビキビしてる。

 

「あの子……1人でやる気?」

 

風先輩の言う通り、私達はまだ敵の近くにも移動できていない。1人で戦うつもりなんだ。

 

「ま、待って、御霊と一緒に何か出てくる」

 

樹ちゃんの言う通り、黒いモヤモヤーっとしたものがバーテックスの口からいっぱい出てくる。

 

「これはガス! クッ、狙撃が…」

 

東郷さんは遠くから狙うから場所が分かりにくいと、戦いにくそうだ。

 

「うわ! 何これ」

「ケホ、ケホ、見えない~」

 

そして、私達のところにもガスが流れてくる。

目がチカチカして、咳が止まらない。

この煙すごくイヤな感じ。

 

「そんな目くらまし…気配で見えているのよ! そこだー!!」

 

暗い空気を切り裂くようにさっきの声がして、急に明るくなる。

 

「殲…滅!」

「諸行無常…」

 

私達が咳をしている間に、あの子が1人でバーテックスを倒したんだ。

 

あれ? でも誰か別の声が聞こえたような…

 

でも、霧が晴れたら、私達のほかには1人しかいない。

 

「……誰?」

 

風先輩も知らないみたいだし、でも、バーテックスと戦っていたってことは勇者…だよね?

 

「揃いも揃ってボーっとした顔してんのね」

 

いきなりのダメだし!

 

「はあ、すみません…」

「ちょ、なに謝ってんのよ!」

 

ど、どうしよう。悪い人…じゃないよね?

 

「こんな連中が神樹様に選ばれた勇者ですって? ったく、冗談じゃないわ」

 

うわわ、もしかして、私達がちゃんと戦えてないから怒ってる?

 

「あ、あの…」

 

恐る恐る声をかけてみる。

 

「何よ、チンチクリン」

「う、チ、チンチクリン」

 

ちょっと、ショック。やっぱり私ってちょっと小さいのかな。

 

「友奈ちゃんはチンチクリンなんかじゃないわ!」

 

東郷さんのフォローが嬉しい。

 

「私の名前は三好夏凜。大赦から派遣された正式な本物の勇者よ!」

「え?」

 

三好夏凜、じゃ、夏凜ちゃんかな? 

でも、”やっぱり”風先輩は知らないみたい。

 

「つまり、貴方達は用済み。ハイ、お疲れさまでした」

 

「「「「ええーーー!?」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はい、と言うわけで今日から新しくみなさんのお友達になる三好夏凜さんです。三好さんは編入試験でもほぼ満点だったんですよ」

「いえ」

 

おい、勇者何目立ってんの!

 

私が能力隠して平凡なふりしてるのに、非常識を持ち込むんじゃない。

貴方は友奈と同じで脳筋枠でしょうに。

 

見てみなさい。友奈と東郷もビックリしちゃってるわよ。

 

私は自分の手で壊すが好きなんだ。人に壊されるのはイヤなんだ。

 

「それでは三好さんからもみなさんにご挨拶を」

「三好夏凜です。よろしくお願いします」

 

これだから大赦は駄目なんだ。人間には高圧的なくせに。

 

「はえー」

「まあ、なるほど」

 

東郷、分かってる? 貴方も同じなんだよ?

 

「ねぇ、ねぇ、三好さんはどこから来たの?」

「私は…」

 

それにしても、意外と受け答えできるのね。

脳筋は言い過ぎだったかな。

 

 

 

 

 

 

 

 

「なるほどね。そう来たか。しかも友奈、東郷と同じクラスとは」

「そうなんです。それにすごいんですよ。夏凜ちゃん編入試験もほとんど満点だったです」

 

ほうほう、ということは頭脳もアタシの次に優れているというわけね。

 

「ふふん、私が来たからにはもう安心よ。完全勝利ね」

 

ふーん、ちょっと素直じゃなそうだけど、その分退屈しないで済みそうね。

 

「何故このタイミングで? どうして最初から来てくれなかったんですか?」

「大赦は二重三重に万全を期していたの。最強の勇者を完成させるためにね」

 

夏凜の答えは分かる。けど、秘密にするい理由がよくわからん。

東郷の疑問もそうだけど、大赦が助っ人のことをアタシにも伏せていたのが、ちょっと気になるのよね。

 

「それが私、貴方達先遣隊のデータを元に完璧に調整された勇者」

 

そこで、夏凜がいったん言葉を切る。私たち全員を確認しながら、

 

「完成型勇者三好夏凜よ!」

 

完成型か…それにしても、たった"1カ月半"で仕上げてくるなんて、いえ、1カ月もかかったと思うべきかしら。

大赦もどのチームが勇者に選ばれるか分からなかった以上、最初から送り込めなかったんでしょうけど、やっぱり1ヵ月はギリギリのタイミングね。

"あと半月も遅れていたら、5体目との戦いに間に合わなかった"。

 

「私のシステムは対バーテックス用に最新のアップデートした上、戦闘のための訓練を長年受けてきている。大舟に乗った気でいなさい」

 

うーん、躾甲斐がありそうな子が来たわね。

 

「そっか、よろしくね夏凜ちゃん、ようこそ、勇者部へ」

 

椅子から立ち上がった友奈が一歩夏凜に近づく。

 

「は? 誰が、なんで? 部員になるなんて言ってないでしょ。私は貴方達の戦いぶりを監視するために…」

「じゃあ、部員になっちゃった方が話が早いよね」

「確かに…そうですよね」

「…む、それならそれでいいわ。その方が監視もしやすいでしょうし。」

 

一応はそれでいいみたいだけど、アタシから一言言っておかないと、場合によっては大赦と相談する必要があるわ。

 

「監視、監視って、アンタね。見張ってないとアタシ達がさぼるみたいな言い方は止めてくれない」

「大赦のお役目は遊びじゃないのよ。偶然選ばれたトーシローが大きな顔をするんじゃないわよ。って、ギャー、何してるのよこの腐れ畜生」

 

その叫びの先で、牛鬼が夏凜の"義輝"にかぶりついていた。

 

「ゲドーメー」

 

ナイス牛鬼。よくやった。

 

「外道じゃないよ。牛鬼だよ。ちょっと食いしん坊さんなんだよね。"義輝は喋れるんだよね"」

「"いっつも牛鬼を放置するなって、言ってるでしょ”。勝手に出てくるなんてシステムがおかしいんじゃないの。んん、あれ?」

 

あれ? 今、何かおかしかったような…

 

「えっと、そ、そうだ。東郷さんの精霊は3体いるんだよ。ね」

「え、ええ」

 

そう、そうよ精霊の話よ。おかしなところなんてない。ないはずよ。

 

「そ、そう、それは"東郷がもう…"、もう?」

 

途中まで言いかけて夏凜も黙ってしまう。

 

「お、お姉ちゃん…」

 

樹の手をそっと取る。何、一体これは何なの。

 

「と、とにかく、明日からは夏凜も勇者部に来るってことで良いわね。みんな」

 

とにかく、今は大赦に連絡しないと、明らかにアタシたちは心当たりのないことを喋ってる。

何かに引きずられるみたいに。

 

「え、ええ、仕方ないわね」

 

最後は夏凜も自分の言葉に考え込んでいるようだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、夏凜ちゃん来てくれたんだ」

 

良かった。昨日はおかしかったから、気になってたけど今日は大丈夫みたい。

 

「昨日は中途半端だったから、今日も来てあげたわ。このままじゃ足を引っ張られるからね」

「それは良いんだけど…煮干し?」

 

そう、夏凜ちゃんの"右手"には煮干し入りの袋が握られている。

東郷さんが時々持っているものとちょっと違う感じがする。

 

「なによ、ビタミン、ミネラル、カルシウム、EPA、そして、DHA。煮干しは完全色よ。文句ある。あげないわよ」

「いや、要らないけど…」

 

そっか、直接食べるタイプの煮干しなんだ。

 

「じゃあ、じゃあ、私のこれと交換しましょ」

 

そう言いながら、東郷さんがササっと重箱を取り出す。

 

「なんでぼた餅があるの?」

「さっき、家庭科の授業で作ってたんだ。東郷さんはお菓子作りの天才なんだ」

「い、要らないわよ」

 

夏凜ちゃんが黒板にいくつか絵を描いている。

 

「気を取り直して、真面目にやるわよ。バーテックスの出現は周期的なものと考えられてきたけれど、今は相当に乱れている」

「確かに1ヵ月前は複数で出現していましたね。それにその前は1日しか間が空いてなかった」

 

東郷さんが数えるように思い出していく。

 

「私はどんな事態でも対処して見せるけど、アンタたちは注意しなさい。命を落とすわよ」

 

やっぱり、命がけなんだ。

 

「他にも勇者システムには戦闘経験値を積んで、パワーアップする機能がある。これを満開と呼んでいるわ」

 

―満開―

 

なんだろう。すごく胸が苦しい。

 

「満開を繰り返すことでより強力になる。これが最新の勇者システムよ」

 

メモしておこう。あれ? もう書いてる? 誰かが書いてた?

でもこれ私の字だし…。

 

下の方にも何か…散華?? 

 

「夏凜ちゃんは満開経験済みなの?」

「いいえ、満開は"安易にできない"。バーテックスと直接戦って…戦って…」

 

東郷さんの質問に夏凜ちゃんは違うって答えた。

 

でも、夏凜ちゃんの様子が…

 

「ええい、私は満開に頼らなくても基礎戦闘能力が違うのよ!」

 

そっか、昨日の授業でも運動選手みたいな動きだった。あ、そうだ。

 

「だったら、朝練とかしてみる。運動部みたいに」

「いいですね。私も頑張って…」

「樹は朝起きられないでしょ」

「友奈ちゃんも」

「あはは、そうだった」

 

残念、朝からみんなと一緒だと思ったけど、これからは早起きも頑張ろう。

 

「ったく、"相変わらず緊張感のない"」

 

夏凜ちゃんがちょっと疲れてるみたい。

 

「大丈夫、為せば大抵何とか成る、だよ」

 

黒板の少し上、風先輩が書いてくれた五か条を指さす。

 

「何とかとかなるべくとか、アンタたちらしいふわっとしたスローガンね」

 

あはは、夏凜ちゃん鋭い。

 

「はいはい、それじゃここからは別の議題よ。依頼はいっぱいあるんだから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「夏凜ちゃん来ませんね。どうしましょう。風先輩」

「仕方ない。始めるわよ」

 

どうしちゃったんだろう夏凜ちゃん。

 

「はい…そうだ、あとで夏凜ちゃんの家に行っても良いですか?」

「はあ、世話のかかる新入部員だ。いいわよ。でも、行くのは全員でね」

 

よし、そうと決まれば…

 

「はい、よーし、みんないっくよー」

 

ワ~って集まってくれた子供たちが寄ってくる。

 

まずは…ドッヂボールただし、私はパスと受けるだけ。

みんなでボールを投げるのが今日の目的。

 

 

東郷さんと樹ちゃんは中で小さい子と遊んだり、手品を見たりしている。

 

すっごく盛り上がってるみたいだ。

 

「ふふふ、友奈勝利は我が白チームが貰った」

「いくら風先輩でもそう簡単に負けません。赤チーム、みんないっくよー」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えいや、夏凜ちゃーん」

 

マンションのベルを一押し。

 

反応なし。あれ? おかしいな? 部屋を間違えた?

 

「大丈夫会ってるわ。友奈ちゃん」

 

東郷さんが確認してくれたけどあっているみたい。

 

仕方ない。もう一度。

 

ピンポーンと音が響くだけで中の様子は分からない。

 

ちょっと不安になってきた。

 

「夏凜ちゃん、ねえ、夏凜ちゃん」

 

何度もベルを押してみる。

 

「退きなさい、友奈こうなったら強硬手段で…」

 

風先輩がドアノブを掴もうとしたその時…

 

 

「ああ、もう、うるさーい。誰よ!」

「「「「うわわ」」」」

 

ビックリした。夏凜ちゃんいたんだ。

 

「アンタ達…」

 

夏凜ちゃんが不思議そうに見つめている。

 

「あんたねー。何度も電話したのになんで電源オフってるのよ」

「そ、そんなことより何!? 何かあったの?」

「何、じゃやないわよ。いつまでも電話がつながらないから心配になってきてみたのよ」

 

夏凜ちゃんの様子は…うん、これなら大丈夫そう。

 

「でも、よかった。寝込んだりしていたわけじゃなかったんだよね」

「え? ええ…」

 

ちょっと、顔が赤い気もするけど、運動でもしていたのかな?

 

「じゃ、上がらせてもらうわよ」

「え? ちょ、ちょっと。何かってに上がってるのよーー!」

「おじゃましまーす」

 

部屋の中はトレーニング器具とか、机とダンボールくらいしかない。

そっか、引っ越しの片付け中だったのかな?

 

「い、いきなり来て何なのよ」

「あのね…」

 

ここまで隠し持ってきたその箱をパッと開ける。

 

「ハッピーバースデー、夏凜ちゃん!」

 

あれ? 夏凜ちゃん? サプライズに驚いてる感じとは少し違う。

 

「ん、どうした? 自分の誕生日忘れてた?」

 

風先輩が頭を傾けている。

あ、そっか、忙しくてそれどころじゃなかったとか?

 

「バカ…誕生日祝うのなんて…"帰って来てから"、やったことないから分かんないのよ」

 

その時の夏凜ちゃんの"嬉しそうな顔は何度見ても新鮮に映った"。

 

 

 

 

 

 

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