「ええっと、これは…」
「埋もれてるわね。書類に、と言うか、なんで中学生の寮に?」
ん? 樹ちゃんと夏凜の声かな?
「ちょっと待ってねー。よいしょっと」
ある程度は実家送りの計を使ったけど、そろそろ限界かな。
「書類だけじゃなくて、本もありますね。これは…英語の本?」
「ああ、それはラテン語と古英語だね。私が天災を起こしたせいで失われた物をいろいろ再生しているところ」
当時の最新の技術や研究を再現すれば、みんなが元の時代に戻った時に何か役に立つかもしれない。
雪花ちゃんや若葉は私を赦すつもりはないだろうし、私も許されたいとも思っていないけど、できることはやっておきたい。
2人に来てもらったのもそのためだ。
「それで、アタシ達に相談って何よ? 一応アンタは天の神何だから、敵でしょ」
「まあ、人類の天敵ですよね。普通に」
夏凜だけでなく、樹ちゃんにもはっきり言われてしまった。
まあ、当然なんだけど…
だから、直接じゃなく間接的な方法を取ることにしたんだけど。
「二人に確認したことがあってね。犬吠埼さんのお宅って、スペースあるかな? ちょっと贈り物を考えているんだけど?」
「はあ?」
「贈り物、ですか? なんで?」
あれ? 全知全能の私が間違えた?
「ええっと、犬吠埼さんじゃややこしいか、犬吠埼部長の誕生日って5月1日じゃなかったっけ?」
「確かにお姉ちゃんの誕生日だけど、どうして?」
「そうよ! アンタ、アタシ達の敵なんでしょ? なんで敵に贈り物なのよ」
「え? それはもちろん、この世界では少なからず顔を合わすことになるんだから。でも私が勇者部には入れんでしょ。だから、直接ご自宅にって考えたんだけど?」
「普通に怪しいわ!」
おお、この反応。友奈の言う通り確かに突っ込みが鋭い。
「これが…完成型」
「アタシじゃなくても思うわ!」
「夏凜って怒りっぽいね。カルシウム足りてる?」
「アタシは毎日煮干し食べてるわよ」
それでも足りないんだ。どんだけ不足しているんだろ?
「真面目な話をすると、敵が話の通じる相手か、完全な化け物かでやり方が変わると思うんだけど?」
「えっと、つまり私達にバーテックスの情報をくれるってことですか?」
「ま、それだけじゃないけど」
二人が困惑しているみたいだ。
「…ねえ、アタシ達をバカにしてるの? 敵の総大将がくれた情報をそのまま信じると思う?」
「私は受け取っても良いと思うなー」
「園子? アンタも呼ばれてたの?」
「うん、わっしーとゆーゆも来るよー。ごめんね。ドアが開いたままだから聞こえちゃった」
「いいよー。いらっしゃい園子さん」
園子さんが来たから、後は友奈と東郷さんか。
まあ、二人には以前に話したことがあるし、進めようかな
「情報…いいんですか? それって裏切りなんじゃ」
樹ちゃんが、一歩前に出る。
「いいもなにも、私が責任者だからいいんだよ。責任取るのも私だけだし」
そう、天の名において行われることはすべて私の責任。
だから、バーテックスをどう扱おうと私が考えることだ。
「それじゃ…お姉ちゃんの誕生日のプレゼントで私があげたかった物があります。それは…」
けど、樹ちゃんが考えていた部長さんへの誕生日は私が思っていたよりも大変なものだった。
珍しく私のスマホに知らない番号が表示されていた。
正確には私は知っているけど、私のスマホには登録していない番号だけど。
「もしもし、こちら松永沙耶さんのお電話でしょうか?」
「ええ、私、松永です」
かけてきたのは部長さんだった。けど、2、3秒ほど沈黙が続いて部長さんの息遣いとみんなが話す喧噪が聞こえた。
「…プレゼント、受け取ったわ。あと祝いの花束も。だから…ありがとう。理由を聞いてもいい」
「うーん、ホントは貴女達が友奈の友達だから、なんですけど、それだと誰も納得してくれないんですよね?」
「そうね、貴方にとっては本当にそうなんでしょうけど、それだけだと誰も行く先が無いわ」
それは、貴方達の気持ちだ。私の知ったことじゃない。
私はただ友奈とずっと遊んでいられれば十分。
天の神の権能なんてその程度の使い道でいい。
けど、私が口にしたは全然違う言葉。
「いいんですか? お誕生日の主役が誰かに電話なんて、彼氏だとか騒がれるんじゃないですか?」
「お、分かってるじゃない」
え? なんのコト?
「でもね、残念ながら今のところは恋愛は良いかなって」
「ああ、そうなんですね」
きっと、この人は、ずっとそうなんだろう。
ずっと自分の役割を果たそうと頑張って頑張って、いつか頑張りすぎてしまうのかもしれない。
だから、樹ちゃんは、プレゼントの相談をした時にあんなことを言ったんだ。
「樹から聞いたわ。貴方は自分が話せる敵だって思ってほしいのよね?」
「そうですね。正確な表現か分かりませんが」
「なら、もう一度聞かせて、なんで世界を滅ぼしたの?」
「答えは変わりません。そうしたかったらそうしただけです」
そう、今まで何度繰り返しても変わらなかった。これから何度繰り返しても変わらない。
私は人類を滅ぼし続ける。何度でも繰り返し。
そして、私はそうすることができる。そうしなければならないから。
「…そう、でも、本当に嫌なことなら止めておきなさい」
「大丈夫ですよ。世界を滅ぼすのって思ったより良いですよ。友奈もずっと構ってくれるし」
「だからって…そうね。きっとそうなんでしょうね。でも、だったらいつ止めたっていいはずよ」
「はい、でも今日は絶対に何も起こさせません。だから、今だけは受け取ってください。これは神様として約束します」
「分かったわ。それじゃ、プレゼントありがとうね」
さってと、それじゃプレゼントを始めますか。
ふと、樹ちゃんの顔を思い出す。
いつも、みんなの後ろに隠れているような地味な子だと思っていたけど、あんな顔もできるんだな。
「やっぱり、人間は楽しい。ホントはずっと見ていたい」
「日常です」
「日常? 部長さんにとって、日常はないの」
園子さんも夏凜も黙って聞いている。
「…大赦の人たちに言われてから2年間。お姉ちゃんにとって日常は無かったんだと思います。園子さんもいるのに言うことじゃないかも知れませんが、ずっと、お姉ちゃんは戦いが来ることを心配してきたから。だから、お誕生日の時はバーテックスも事件も起こらない。そんなふうに思える日が欲しいです。できますか? 貴方に」
これは誰だ?
こんなことは私が天の神と認めないとできない。
逆に世界を滅ぼせる相手に正面切ってこんなことを言うなんて。
なるほど、確かにこれは敵の総大将にしかできない。
「その提案。受け取ったよ。確かに天の名において、その日は戦いは起きない。これで良いかな」
「はい、それが一番のプレゼントです」
そう言って微笑んだ樹ちゃんは、いつもの可愛い女の子にしか見えなかった。
でも、こういう日も悪くない。
何だかくすぐったい気分だ。
日常なんて遠すぎて記録でしかないけれど、私はそれを欲しいと思えない。
それでも、みんなが欲しいというなら、それはきっとかけがえのない想いだから。
「いつか、見つかるといいなあ」
そうつぶやく声は空に還っていった。