残り7体。
そう聞いていた。けれど……
「何よ…この数」
風先輩の視線の先にはたくさんのパーテックス。
私が倒した乙女座
風先輩たペチャンコにした蠍座
樹ちゃんが捕まえた蟹座
東郷さんが撃ちぬいた射手座
そして、夏凜ちゃんが来て倒してくれた山羊座。
私達が倒したはずのバーテックス。私達が知らないバーテックス。
「あと7体……じゃない」
樹ちゃんの声は緊張しているみたい。
その後ろにそっと立って…
「あはは、あは、あははは。ゆ、友奈さん、ちょっと…」
「それ、こちょこちょこちょ」
これで少しでも…あれっ? ダメ?
樹ちゃんの緊張は解けたみたいだけど、みんなの顔は困ったままだ。
「た、大赦の人たちも数え間違えたんですね。きっと。7体じゃなくて、70体だった…とか」
東郷さんの銃が下がっている。
夏凜ちゃんも何も言わない。
風先輩は前を見つめたままで顔が良く見えない。
樹ちゃんはまた緊張してしまってる。
私が、私が何とかしないと……
「違うよ友奈。70体じゃなくて70億体だよ。今日、私が連れてきたバーテックスの数は」
私が何かを言う前に声は降ってきた。
「なゆちゃん? え? そんなところにいたら危ないよ」
私達と同じいつもの讃州中学の制服でバーテックスの上に座っている。
「大丈夫。この子たちは私と同じだから。っと、犬吠埼先輩と樹ちゃんは初めましてですよね。どうも2年3組の来島那由多です」
いつも通りのなゆちゃんだ。
「えっと、誰?」
「夏凜ちゃん、ほら、私の後ろの席の…」
「わ、分かってるわよ。まだ転校したばかりだから念のため確認したのよ!」
でも、どうして樹海になゆちゃんがいるんだろう。
「さっきバーテックスと同じだって…それって……」
樹ちゃんが呟く。まるで、尋ねるように、独り言のように、そして、誰にも聞いてほしくないように。
「そのままだよ。私はバーテックスと同じ四国の外からやってきたんだよ。本当のことを教えてあげようと思ってね。大赦が隠している大きな秘密」
「大赦が隠している秘密ですって? それに、四国の外はウイルスで滅んでいるはずじゃないの?」
風先輩が言う通り、この世界の外はウイルスでいっぱいだから神樹様の結界の外に出ちゃいけない。
それなのになゆちゃんは外から来たの?
「もし、興味を持ってくれるならこのまま結界の外まで連れて行ってあげるよ。もちろんバーテックスにも手は出させないし、何だったら、みんなだけを……」
「だったら、教えてくれるかな? 2年前にどうして私達が戦わなくちゃいけなかったのか」
なゆちゃんの愉快そうなお喋りは、後ろから聞こえた冷たい声に止められた。
たくさんの精霊が"そのちゃん"を守るように、"そして、逃げ出さない"。包帯とかいっぱいで心配になる。
でも、勇者っぽいし夏凜ちゃんと同じで大赦の援軍なのかな。
あんなに怪我をした子だから今までは病院にいたとか。
あれ、あの子、東郷さんを見てる?
「もちろん、そうでなければ、わざわざ神様に来てもらった意味がないもの。そろそろかな?」
なゆちゃんの言葉と同時に、地震のように地面が地響きを起こす。
「きゃあ」
「く、今度は何」
みんなも何とかバランスを取りながら、待っていると今度は樹海の様子が変わっていく。
「これは…」
「嘘でしょ。神樹様の結界が」
「解ける……。やっぱり来たんだ。私達勇者の本当の敵」
壁の向こうの景色がユラユラっと揺れている。
水たまりに雨が跳ねたみたい。
少しずつ少しずつ、揺らめきが大きくなって緑や家に覆われていた四国の外が消えていく。ただ緋色の世界。
そして…
「さあ、これ私達の世界の真実。でも、これは真実の始まり」
その世界はバーテックスだけがいた。
「なによこれ! 何なのよ、これは!」
うん、さすが夏凜。激烈にして熱烈だ。
「それをこれから、ゆっくりと、と、と、と?」
伸びてきた槍の一閃が私の首を軽く落とす。
「な!? ちょっとアンタ、いきなり」
「なゆちゃん!」
「……」
初動なしで攻撃とは…。確か乃木園子さんはもっとボケーっとした人じゃなかったっけ?
ほら、友奈とか、犬吠埼さん御姉妹とか、ビックリしてるじゃない。とりあえず安心させとこ。
「ああ、大丈夫大丈夫。こんなくらい何ともないから。なにしろバーテックスだからね」
落ちたままの首でみんなを落ち着かせようと喋る。
「そんな!? "そのっち"の攻撃で首を落とされても?」
「ひ! しゃ、喋ってる」
あ……しまった。余計に怖がらせたか。しょうがない。
とりあえず、落ちてる自分の頭を踏みつぶす。こうして機能不全になるレベルで破壊しないと、首の方から体が生えてくるから余計ヤバい見た目になるんだよね。
一瞬だけ目と一緒にが視界がつぶれて消えるけど、すぐに頭ごと再生される。
「ふぅ、あのさ、私がバーテックスだって理解してもらうには早くて確実だけど、さすがに止めようよ。みんなの精神衛生上よくないよ? これからもっとひどいことを話すのに」
「……」
「はいはい、こんどはだんまりですか。すっかり擦れちゃって、じゃあ、とりあえず始めましょうか」
園子以外は今回初めて見るはずだから噛んで含めるようにゆっくりと話していく。
「まず、今まで貴方達が結界の外に広がってると思っていた外の世界は、あの通り炎に包まれていて、ウイルスどころかバーテックスの残骸以外すべて燃えてなくなってる。ここまではわかるかな?」
みんなの精神状態を簡単にテレパシーで読み取ってみる。うーん、友奈と樹ちゃんが怪しいけど他は理解はできているみたい。
樹ちゃんは、そんなことより戦わなくちゃいけない理由が気になっているみたい。
友奈は友奈でこの段階でも、私と友達だからバーテックスと友達になれるのか考えている。
まあ、この2人は基本の考え方が決まっちゃって、あまりいっぺんにいろいろ考えないタイプだし、そんなところかな。
「というわけで、貴方達がいくら戦っても勝てる可能性は無い。ううん、勝ててもその先が無い。それでも大赦と神樹様は諦めずに12体倒せば終わりなんて言って、貴方達に終わりのない戦いをさせようとしていた」
東郷さんは少し大赦に対する不信感が強くなっている。
犬吠埼さんは…樹ちゃんとみんなを戦いに巻き込んじゃったことを本当に後悔し始めている。
夏凜はまだ戦う気があるみたい。
このままだと犬吠埼さんと東郷さんがいつも通り暴走しそう。
散華は……。まあ、戦って死んじゃうことに比べれば問題ないか。
いっぺんに覚えるのが苦手な子もいるだろうし。
そう、ここからが本題。神様の目的を暴かないと私も動きづらい。だったら神様が拘る友奈に真実を教えて煽るのが一番。
「大人しく降伏しない? 今ならサービスするよ?」
私の言葉にみんな戸惑いの心が見える。
そりゃあ、そうだ。私が貴方達と同じならそうなる。
「……1つ教えて。なんで今更なの。もっと早くにできなかったの?」
それでも、最初に戻るのは乃木さんだった。これも前と同じ。
「言っても納得してくれないと思うけど、満開システムが完成して貴方達が神樹様の…神様の本質を理解する必要があった、って、
「えっと、それってなゆちゃん達にも神様がいるけど、神樹様じゃないってこと?」
「神樹様以外の神様って誰よ?」
友奈と夏凜が不思議そうな顔をしている。神樹様は地の神が集まった集合体だから勘違いするのも仕方ない。
「2人の言う通りだよ。神樹様は地の神様の集まった姿。でも……」
「天にも神がいるから?」
2人の疑問を園子さんと東郷の2人が引き取るように答える。
うんうん、そうして自分たちで答えをあててくれると真実になるから、こっちも楽できてありがたいよ。
「つまり、アンタは、アンタとバーテックスは神樹様じゃなくて天の神の手下だって言いたいわけ。どうして! 人類を滅ぼそうとするやつの味方なんか!」
犬吠埼先輩はそろそろ限界が近い。東郷も記憶を戻したら爆発するかもしれない。乃木さんは既に私の首を刎ねるくらいにはやる気だ。
「うーん、人類を滅ぼした理由は友奈に教えちゃダメって神様に言われているから、今は言えない」
「え? 私!?」
そりゃ驚きますよね。いきなり人類を滅ぼした理由と自分が関係ありますって言われたら、気になるよね。
「でも、もう少しで神様がやりたいことは終わるんだって、それが終わったら、後は私の好きにさせてってお願いしたら、神様は良いよって言ってくれたの。だからもうやめない? 戦わなくても世界は消えたりしないよ? だって神様がそんなことするなんておかしいじゃない。自分で作ったものを自分で壊すなんて、やらないでしょ?」
ここで止めると友奈が御姿にならなかったり、みんなはともかく園子さんの体を作り直すのがこっち持ちになったりするけど、できなくはない。
ここが私達の限界点だと思う。これ以上進むとみんなが苦しむことになる。
「そ、そんなこと言われても、そうよ。大赦とも相談して……」
「うん、いいよ。だったら今日はこれで解散かな?」
夏凜ちゃんはまだこの段階だと、そう判断するしかないか。
まだ大赦がどんな組織なのか知らないもんね。
「なんで今なの? もっと早くできなかったの?」
んん? 園子さんはまだ何か引っかかってるのかな? もっと早く…ああ。
「2年前のこと? だったらあんまり意味なんて無かったんじゃない。神様もどっちでもよさそうだったし、私も2年前は担当じゃないから興味もなかったし、し、し?」
おや、視界が20分割されてる。ああ、また園子さんにバラされたのか。やっぱりこのタイミングだとダメか……。
「ふざけないでよ。お前たちの勝手な理由で今頃になって! もっと、もっと早ければミノさんは!!」
怖っ、何、完全に目が逝っちゃってる。
再生、分割、再生、分割……
いくら再生しても、21体の精霊が絶え間なく私をバラバラにし続ける。
これはお見せできない姿だなー。
1体は私の攻撃を防いで、その間に残り20体で攻撃か。もうどっちが人間じゃないのか分かんないな。
(とりあえず、バーテックス達も攻撃再開させるしかないか、園子さんだけこっちの世界に誘導しよう)
バラバラにされ続けながら、少しずつ結界の外へと向かう。
「逃がさない!」
よしよし、ちゃんとついてきてるな
「待って!、"そのっち"」
「東郷さん!」
ちょっと、友奈たちは来ちゃダメだって!
バラバラにされ続けているままでは私は喋れない。仕方ない。今回は諦めて戦おう。
(そんなに戦いたいなら相手になってあげる。だけど、今までみたいな簡単な戦いだと思わないことだよ。私の本当の姿は…)
気が付けばその名前を呼んでいた。
「待って!、"そのっち"」
「東郷さん!」
飛び込んだ先は…
地獄だった。
さっきも見えてはいたけれど、こうして実際に壁の外に出るとその光景が熱さと一緒にとして襲い掛かってくる。
まるで八大炎熱地獄を思わせるような熱風。
「いたよ東郷さん、"そのちゃんだ"」
友奈ちゃんの指さす方向を見ると、そこには再生し続ける那由多さんがいる。
呼びかけないと、今度は絶対に失ったりしない。
「あ、そ、その……」
ああ、それなのに何といえば良いのか言葉が出てこない。
絶対に忘れてはいけないはずなのに、そこだけが空白のように何も浮かんでこない。
「それ以上は良くないよ。だから落ち着いて乃木さん。そんなんじゃ若葉達が戦った意味がなくなっちゃう」
その言葉は耳を塞いでも、どれほど離れていても耳元で囁くように聞こえる。
その声はすべてを赦された安心をもたらし、本能に訴えるような恐怖を思い出させる。
その思いはあらゆる言葉よりも雄弁で、心を落ち着かせる静けさを秘めている。
あれほど激しい攻撃を繰り出していた彼女は、歯を食いしばってその重圧に負けまいと立ち続けている。
「あ、なたは…」
彼女だけじゃない。那由多さんも呆然としてそれを見上げている。
どれほど目を反らそうとも、常に目の前にいるような存在。
どこからどう見ても人間なのに、絶対に人間ではない誰か。
それは私達の目の前にいた。
「か、神様…」
掠れた那由多さんの言葉で理解する。
ああ、そうか。
あれが天の神。
バーテックスを生み出し神樹様に対を成す神様。
「"初めまして"、東郷三森、乃木園子。そして……」
天の神の視線は何故か友奈ちゃんにだけ合わない。
「あなたもそこにいるのよね。友奈……」
その時だけは、何故か天に手が届く気がした。
「これで、とどめ!」
戦闘が始まって何体のバーテックスと戦ってきたのだろう。
右手で斬りつけて怯ませた牡羊座のバーテックスの真下に左手の刀を投擲して封印する。
飛び出してきた御霊またおかしな動きをする前に、さらにもう一本の刀を出して投げつける。
幸いと言うべきなのか、バーテックス達の動きは鈍い。
いえ、ほとんど何もしてこない。
あいつの、那由多のいう通りなら、そもそも戦わなくても良いのかもしれない。でも…
(早く友奈と東郷を追いかけないと)
樹はタウラスとライブラを拘束して、風の巨大化した大剣が一度に二体を横薙ぎにする。
けれど、相手は次々に結界の中に入ってくる。
侵入してくる速度はそんなに早くないけど、これじゃいつまで経っても追い付けない。
「いい加減、そこをどけー」
3人の中で一番私が早く動ける。
何とか突破口を作らないと。
けれど、私の頭にはすぐにさっきの外の光景がちらつく。
侵入してきている奴らを倒せても、外には那由多のいう通りなら70億の星座がこの先にいる。
(それでも私は行く。行かなくちゃいけないのよ。こんなんで怯んでいたら、完成型だってアイツらに言えないじゃない)
樹が拘束している間に、私と風で1体ずつ封印の儀を始める。
飛び出してきた御霊が風船のように膨れ上がる。
時間をかけると質が悪い。速攻で決める。
「御霊まで再生までするの?」
斬りつけられた部位がすぐに治ってしまう。
だったら……
「再生するよりも早く終わらせる」
何だか玉ねぎの皮をはぎとってるような気分だけど、少しずつ膨れる速度より、私が切っていく速度が上回る。
「これで、とどめ!」
とうとう拳くらいの大きさになった段階で、ようやくいつものように天に昇った。
風の方も上昇して空に逃げようとした相手を大剣で丸ごと叩き潰していた。
これで残り4体。
それにしても、奥の大きいのは全然動かない。まるでその場所を守っているかのようだ。
「え? お姉ちゃん、夏凜さん、神樹様に近づいているのが1体いる」
「なんですって。やばい。夏凜、とりあえず走ってるやつを先に止めるわよ!」
「言われなくても!」
しまった。私としたことが前に集中しすぎて見逃すなんて。
反転して追いかける。
「きゃあああ」
「風!」
「お姉ちゃん!」
けれど、3歩も進まないうちに今度は風の姿がまるごと焔に包まれ見えなくなる。
しまった。ここででかいのが攻撃してきたのか。
このままじゃまずい。挟み撃ちになる。
「お姉ちゃん。今、今度は水!?」
風に向かってくる焔を途中で落とそうとした樹に、さらにもう一体が水鉄砲のように畳みかける。
(だったら、私が…)
けど、戦いの最中に他のことに気を取られていたのは2人だけじゃなかった。
突然の浮遊感。
(あれ? 私どうして? 跳ね飛ばされた?)
さっきまで私がいた地面が大きく陥没して、イカのような形をした魚座のバーテックスが飛び出してくる。
水だけじゃなく、地面まで潜ってくるとは思わなかった。
何とか体勢を戻して、また地面に潜った魚座を気配で探す。
けれど、私にも焔が迫ってくる。しかも、避けても追いかけてくる。
「くう、ああああ!」
熱い。何も見えない。このままじゃ…神樹様が。友奈、私は…
爆発に脳を揺さぶられてまともに立つこともできない。
「あんたの相手は…アタシだ!」
風の絶叫とともにそれまで戦場を支配していた焔がポッカリと穴が空くように吹き流される。
風の姿。あれは…満開したの?
熱い。焔が空気まで燃やしているみたいだ。
樹は? 夏凜は?
みんなを巻き込んでおいてアタシが倒れるわけにはいかない。
せめて、全員を元の生活戻さないと。
それが勇者部を作ったアタシの責任だ。
だから…アタシはこんなところで終われない。
「あんたの相手は…アタシだ!」
焔の向こうにいるだろう最大のバーテックスに向かっていく。レーダーにも獅子座と出ている。
偽物や分身じゃない。
なんでか滑るように宙を飛んでいるけど、きっとこれも勇者の機能として用意されていたものなんだろう。
見えた。
向こうもアタシを捉えて無数の焔をばら撒く。
雑魚は無視だ。精霊バリアを突破できない。
「はあああああ」
勢い任せに突っ込む。
精霊バリアと焔がぶつかり合う。炎で焼かれることは無いけれど、熱は何となく伝わってくる。
アタシの擦り傷から流れた血が一瞬で沸騰する。
わずかの差で精霊バリアが上回る。運動量がすべて圧しかかり、その巨体が倒れる。
チャンスは逃さないのがいい女の条件。
「このまま押し切る」
いつもよりもさらに大きくなった大剣を倒れた巨体を覆うように振りぬく。
「浅い? 夏凜、アタシがコイツの相手をしている間に封印をお願い」
少しだけ、御霊が見えたのに……
傷を修復しながら、レオが浮き上がろうとする。
させない。
できるだけ、相手の頭上を抑えるように大剣を繰り出し続ける。
「わ、わかったわ」
夏凜が位置について、封印が開始される。
けれど、出てきた御霊は炎の珠を2人にバラまきながら、近づけまいと当たりを無差別に焼き始める。
「く、この。アンタの相手だけしているわけにはいかないのよ」
夏凜が燎原の火を突っ切ろうとしたけど、魚座と遮られて近づけない。
樹は神樹様に向かおうとしている双子座を倒そうと苦戦している。
カウントは残り10。
カウントは残り10。
お姉ちゃんは御霊がたくさん投げてくる焔が爆発して近づけない。
私も封印したまま、双子座を追いきれない。
間に合わない? この世界がなくなっちゃう? そんなのって、そんなこと。
「ダメ、そっちに…行くなあぁぁあー」
腕だけじゃくて、背中からも何か手が増えたような感覚。
大丈夫。自由に動かせる。これなら、届く。
100、1000、1000、まだ、まだ届かない。もっと、もっと、早く、遠くまで。
捉えた!
何とか、双子座の左足に一本だけワイヤーが引っかかる。
無理に引き戻すんじゃなくて、その動きを感じる。
「そこ」
双子座が踏み出そうとした右足をワイヤーの先から、さらに増えた別のワイヤーが捉える。
「おしおき」
半分のワイヤーが双子座を宙に張り付けにしたまま、御霊ごとバラバラに寸断していく。
残りのワイヤーは地面に潜ろうとした魚座を釣り上げる。
「ナイスよ。樹、くらえー」
ワイヤーの間を矢のように夏凜さんが潜り抜けて、飛び出した魚座の御霊を砕く。
けど…
「あ…」
カウント…零。
獅子座がもう一度動き出す。
もう一度封印を。
「そんな…封印の儀ができない」
何度もスマホをタップするけど、封印は起きてくれない。
「このぉおおお」
「お姉ちゃん!」
お姉ちゃんに集まっていた焔が増えていく。
魚座を倒し切った夏凜さんが封印を儀を行うけど、やっぱり何も起こらない。
封印の力がなくなったんだ。
「ここまで来て…ちくしょう」
「おねえちゃん…」
「樹、大丈夫、大丈夫だから…」
友奈さんも東郷先輩も戻ってこない。
その間も獅子座はゆっくりと神樹様に向かっていく。
「まだよ。樹、アイツをしっかり縛っておいて」
急にお姉ちゃんが何かを思いついたように、ううん、思い出したように飛び出していく。
だったら、私は、私がやる事はお姉ちゃんがやろうとしていることを手伝う。
「夏凜さん」
「ああ、もうわかったわよ。やるわよ樹」
「はい、それから、友奈さんと東郷先輩を追いかけましょう!」
私がワイヤーで拘束し、夏凜さんが近寄る焔を切っていく。
お姉ちゃんは満開しているのに、地面に降り立って静かに構えている。
「ちょっと、風、まだなの? アンタのやりたいことは!」
「……」
いつもと違って静かなお姉ちゃん。
こんなの初めて。
獅子座はあいかわらず私達に背を向けて神樹様の方に向かっていく。
他のバーテックスはまだ侵入してきていない。だから、だから…
(お姉ちゃん、お願い)
――任せ給へ――
(え、今のは)
「はああああ」
まるで、さっきまでの静かさがウソのように大きな声。
太陽のない世界で日が翳る。天の
お姉ちゃんが掲げる翳りは獅子座を真っ二つに分けていた。
「夏凜!」
声を聞いたのが先だったのか、私が飛び出したのが先だったのか、とにかく風が切り開いた先にあった。
再生が始まる。
けど……
「ここで、止まれるかぁぁーー!!」
私自身を矢のように風の切り開いた獅子座の中に飛び込む。
焔の赤と私の紅が混ざりあい、どこからが私でどこからが焔か分からなくなる。
(ここでやらないと、今じゃないと、みんな、やっと見つけた。私の――)
それでも、届いた刀では御霊を傷つけることはできても、破壊までには至らない。
焔だけじゃなく再生した獅子座に挟まれて、身動きがとれない。ダメ、このままじゃ終われない。
(通れ、届け、貫け)
そして、その時が訪れる。
何も見えない。獅子座の中に取り込まれたんだ。
ああ、風と樹の声も聞こえない。
暗い、静かだ。完全に取り込まれて指一本動かない。
何も見えない。何も聞こえない。何も動かない。ただ、それでも私はここにいる。
熱い。ただ熱だけが渦巻き、私の意識が薄れていく。
けれども私の心はここに、みんなと同じところにある。
わ、たしは、ここに……みんな、と……
私と熱が1つになる。1つになってしまう。
辛うじて精霊バリアのおかげで完全に取り込まれていないけど、すべて固められて、身動ぎ一つできない。御霊は近くにある。それは気配でわかる。あと少し、あと少し届けば。
叫んだつもりだったけど、本当に声に出せていたのか分からない。けれどやるべきことは分かっている。
熱い何かが私の思いとなって内側から迸る。
きっと、これを解放すれば届く。
何の根拠もないのに、そう断言できてしまう。
そして、そうなれば私は元に戻れない。
それも、確信できてしまう。
(だから…、だから、だから!)
「ここで、止める」
全身から何かが飛び出す。真っ暗で見えないけれど、ふらつく頭が大量の血を失ったことを分からせる。
それでも、それが私の最後の武器。私自身から飛び出し続ける朱い刃。
何かは分からない。けれど、これは、この剣だけは決して折れない。
「伸びろーーーー!!」
さっきまでの圧迫が霧が晴れるように切り払われる。
傷ついた御霊は…いた。
「覚悟しなさい。もう、アンタを守る外側はないわよ」
私の声に反応したわけじゃないと思うけど、御霊が振るえてまた焔が増える。
「またか、再生する前に…」
「いえ、させません」
私の後ろから幾条もの光が伸びる。ひとつひとつが生き物のように自由に動きながら、次々に焔を撃ち落としていく。
「樹、ナイス。あとはあの御霊を…って。あれ?」
力が入らない。立っているのもやっとだ。
「夏凜さん無理しないで。今、すごい状態ですよ」
どんな状態だ。いったい私どうしたって言うの? それでも関係ない。
私はただ……
切るの? 斬れるの?
ああ、でも今分かる。私は、私がもつ最後の刃が絶つのは、目に映る光じゃない。
深紅ではなく紅蓮と化した脈打ち続けるその刃を横に振るう。
力なんか入ってないし、だいたい全然届いていない。
何かがズレた感触。御霊は1度だけ振るえるとそのまま墜落する。
御霊はどこも傷ついていないのに、ハッキリ分かる。
あれはもう斬られた後だと。
――星が地に堕ちる。
そんなことを考えながら、私の意識は遠のき、暗闇の中で繰り返し飛び散る火花を最後に見た。
長くなり過ぎた。うまくまとめる人ってすごいですよね。