あなたは今夜、鶏が鳴く前に、三度わたしのことを知らないと言うだろう。
―マタイによる福音書 第26章 第34節より―
「あ、風先輩、夏凜ちゃん。」
「来たわね。」
「あー、お疲れー。」
検査が終わって病院の待合室で風と今後について話していると、友奈も戻ってきた。
東郷と樹ももうすぐ来るだろう。
「みなさん、お待たせしました。」
噂をしていると待つ時間が早く感じるのは本当らしい。
すぐに東郷と樹も戻ってきた。
「全員そろったわね。それじゃ、あれ? 樹、どうしたの?」
風は話を始める前に樹に何かを感じているらしい。
「それが、樹ちゃん、声が出ないみたいなんです。
おそらく激戦で無理をしたせいではないかと、病院の先生は仰っていました。」
「うーん、声か。」
む、風も左目の視力がほとんど無くなったみたいだったし、
"やっぱり散華の影響か"。
あれ? 今、私、何か大切なことを忘れてたような。
「お医者様が身体的に問題ないって判断しているなら、そのうちに治るでしょ。じゃ、みんな集まったことだし、今後のことを少し話をしましょうか。」
風が話題を切り替えることを宣言する。
実際ここからは割と深刻な話をしなくちゃいけない。
私達は待合室から1人だけ入院することになった東郷の病室に移動する。
「それじゃ、アタシたち壁の中でバーテックスと戦っていた組から説明しておくわね。
結果としてはアタシと樹は満開を使って、何とかバーテックスを撃退した。
ううん、バーテックスはあれ以上侵入してこなかった。
あと、アタシは直接見てないんだけど、夏凜がかなり重傷を負ったはずなのに
目を離した間に治っていた。樹、これで合ってる?」
樹が頷きながらスケッチブックに捕捉している。
(夏凜さんはあの時全身から燃えてる剣みたいなのが飛び出してきてたよ。)
刀ではなく、焔の剣か……。
あの時はとにかく友奈達に追い付くことしか考えていなかったから、
自分がどうなっていたか振り返る余裕がなかった。
ただ、途中で貧血とか立ち眩みみたいな状態になってたから、
どこかで血を失ったんだとは思っていた。
「ただ、壁の外に残っていたバーテックスは途中で引き返して、
どこかに行ってしまった。
そして、入れ替わりに東郷ともう一人の勇者乃木園子が戻ってきた。」
乃木園子。
大赦で聞いた話だと私達の先代の勇者で以前の戦いの傷が原因で
一線を退いたと聞いていたけど、確かにあの姿は説得力があった。
「私達は乃木園子さんとともに壁の外まで那由多さんを追って、
そこですべての原因である天の神が現れた。
でも姿はどう見ても私達と同じくらいの女の子にしか見えませんでした。
実在の制服を着用していましたし。」
「天の神が人間にしか見えなかった、ね。
しかも、その時身に着けていた制服まで実在していたんじゃ決定的よね。」
「はい、戻ってから記憶を頼りにPCで確認しました。もしこの通りなら、
実際にその学校に通っている可能性が高い。
少なくともその制服を身に着ける理由はあるかと。」
「それで、乃木園子と東郷は地上に飛ばされたと…。」
乃木園子、確か大赦の記録では伝説の初代勇者乃木若葉の子孫で、
自身も勇者だったけど、戦いで重傷を負って一線を退いていたはず。
でも、実際には戦場に現れた。
「彼女は危険です。明らかに友奈ちゃんを狙っています!」
「お、落ち着きなさい。東郷。まずは整理しないと、ね。それで友奈。」
東郷からだいたいの事情を聞いた風が今度は友奈に話を変える。
「それが、その後のことはあんまりちゃんと覚えていないんです。ごめんなさい。
ただ、東郷さん達を帰した後も沙耶と話をして、それから、それで、その後……。」
友奈が必死に何かを思い出そうとしている。
けど、それよりも今……。
「友奈ちゃん、今、なんて?」
「え? 沙耶と話をした後のこと?」
思わず唖然として友奈を凝視する。
「沙耶って、誰よ?」
「あ」
横でちょっと抜けた東郷の声が聞こえた。
「これで……出ました。確かにこの人です。」
東郷さんがそう言いながら、パソコンの画面にあの時に見た天の神と
そっくりの女の子を映し出す。
「まさか、本当に人間じゃないでしょうね。まったくどうなってるの?」
「し、知らないよぉ。」
風先輩と樹ちゃんが会話する横で私達は東郷さんが調べてくれた情報を読んでいく。
「ええ、確かに。嫌だわ。私ったらあの時確かに自己紹介まで貰っていたのに。」
「仕方ないよ。いきなり自己紹介されたからね。」
東郷さんの手をそっと握りながら答える。
「居場所は分かったけど、さすがに遠いわね。勇者に変身して……って、
言いたいところだけど、前のスマホが回収されちゃったのよね。」
夏凜ちゃんが腕組みしながら唸っている。
そうなんだよね。その学校があるのは高知県。私達のお小遣いでいくのは不安。
かといって、お父さんやお母さんに相談しても、なんて言えばいいのか分からない。
「ん? ちょっと待ってね。みんなゴメン大赦から電話みたい。
はいはい、え? それは、はい、分かりました。失礼します。」
「どうしたのお姉ちゃん?」
電話を終えた風先輩の顔は何とも言えない。雰囲気だった。
「みんな、お、落ち着いて聞いて、えっと、だから、うん、
とりあえず、天の神は捕まったわ。」
「では、もう一度初めから尋ねます。バーテックスを治めて、
炎の世界を元の地球に戻してください。」
「だから、私はそんなの知らないです。私はただの天文マニアの
女子中学生であって、天の神なんてものじゃないんですってば!」
仮面を被った大赦の女性神官にそう答える。
いきなり学校帰りに拉致されて大赦の奥まで連れてこられた。
自分でも何を言ってるのか分からない。
それなのに、恐怖を感じない。むしろ安心感さえ感じる。
どうしてだろう?
大赦と言えばこの世界に唯一残った人類の生存圏である四国を支配する組織なのに、暇なんだろうか?
「貴方が天の神であることは神樹様の神託により確認済みです。」
「だから、本当に知らないんです。きっと何かのまちがいです。」
とっ捕まった一昨日からずっとこの繰り返しだ。
ただ、初日に四国の外の真実を知らされた時も、ああ、そうだったんだって、
どこか納得していたのは本当だけど、自分が神様とか名乗るのは頭おかしい奴だけだ。
矛先を変えよう。
「あの、学校を無断で3日欠席してますけど、いいんでしょうか?」
「問題ありません。学校には大赦の意向として伝えてあります。」
よし、ラッキー、3日休んでも問題なしってことだよね。
これならおじいちゃんにも連絡はあるんだろうし、お父さんとお母さんは
そもそも心配なんてしないだろう。
誰の良心も痛める事がない良い環境だ。って、違う。
仕方ない。閉じ込められてはいるけど、ご飯は豪華だし、
部屋は高級ホテル並みに奇麗だし、ちょっとの間だけ満喫してしまおう。
どうせ何かの間違いなんだし、数日すれば出られるでしょ。
あ、このエビチリおいしい。
「箸の手を止めて、真面目に答えてください。」
「自分が神様だ、なんて話、真面目に聞けるわけないじゃないですか。」
昨日から神樹様の神託の一点張りで、全然話がかみ合わない。
もし、私が本当に神様ならあの炎の世界とバーテックスと呼ばれていた
白いお化け達を作ったことになる。
「それなら、私がこう、いでよジェミニ・バーテックスって、言ったて出てきたりしないでしょ。」
私もただ闇雲に否定していたわけじゃない。
いろいろ試してみたけれど、何にもそれらしいことは起きなかったし、
感じなかった。
「そうだよねー。いきなり言われても分かんないよね。
でもね、私もやっぱり貴方は天の神だと思うなー。」
一緒に遠くで扉が開く音と一緒にどこか間延びした声が聞こえてきた。
「今度は誰? ひっ!?」
近づいてきた声の主を見て思わず声を上げてしまう。
失礼だけど、全身包帯のその姿は普通じゃなかった。
「あ、あの、ご、ごめんなさい。その、姿は…」
「ああ、これね。ビックリするよね。でもこれも天の神との戦いの結果なんだよ。」
「それが、戦いって……」
「バーテックスは時々結界を越えてくるんだよ。
だから戦って、戦って、それでも戦って、こうなったのさー。」
「あの、結界を越えたバーテックスは絶対に倒さなくちゃいけなかったんですか?
話し合いとかできなかったんですか?」
「そうしたいよね。でも、人間から神様に直接意見すると怒られちゃうんだよ。
こらーって。」
「…………」
絶句としか言いようがない。聞く耳を持たずに襲ってくる敵。
戦って神樹様を守るしかない。
鉄砲とか剣とか普通の武器が効かないから、選ばれた勇者たちが戦う。
昨日、そう聞かされた時は、絵本のような戦いを考えていたけれど、
これじゃ絵本は絵本でも地獄絵図だ。
「だから、だから、私、なんですか? 私が天の神だから?」
「そうだね。」
否定は無かった。
「で、でも、私は本当に天の神なんて知らない。知らないです。
四国の外にだって出たことありません。それなのに……」
下を向いたからいくつかポタリと雫がつたう。
本当に知らないのに、どうして。
急に女神官さんが立ち上がって電話を取り出す。
「失礼します。何でしょうか? ええ、ええ、彼女たちには調査中と。」
「待って、わっしー達も呼んであげて、もう、隠しておいて
何とかなる状況じゃないよ。」
けれど、乃木さんが電話を切ろうとした女神官さんを呼び止める。
「しかし…」
「お願い、安芸先生。」
「わかりました。園子様。」
先生なのに様? この2人は昔からの知り合いなんだろうか。
私もできるなら答えてあげたいとは思うけど、何も思い浮かんでこない。
その後は、誰も言葉を発しなかった。
どのくらい時間が経ったんだろう。
さっき園子様?が入ってきた時と同じように、扉が開く。
今度はたくさんいる。5人。
知らず私は駆けだしていた。
「誰か、天の神が……」
「待って、安芸先生。」
後ろの声は早鐘のような私の鼓動と同じように置き去りにしていく。
見える。見える。見える。特別なことなんて何もないのにちゃんと見える。
そこにいる。そこに"結城さん"がいる。
そのまま、最初からそうあるべきかのように私は彼女の前で片膝をつく。
「"あやまれなくてごめんなさい。結城さんのこと好きでした"」
これは何? 薄暗い神社の奥のような場所なのに、
ようやく咲き始めたサクラが散っている。
まるで、今はこれでおしまいだと言うように。
「友奈ちゃんから離れなさい!」
響き渡る悲鳴のような声が私を現実に戻す。
「あ、わ、っと、ご、ごめんなさい。初対面の人に、私は。」
「初対面?」
「え? 違い、ました? す、すみません。あの、私は…」
改めて立ち上がって、"結城さん"を食い入るように見つめる。
初めて会うはずなのに、ずっと前から知っている感覚。
たしかデジャヴュって言うんだったっけ?
「えっと、松永沙耶……さん?」
「沙耶と呼んで、私も友奈と呼ばせてもらっつつつ!!!」
そこまで言ったところで、私の意識は鈍い頭痛ともにブラックアウトしていった。
「せぇーい、ふっ!」
もうすぐ日が落ちる。そろそろ今日は終わりかな。
緊張が途切れると、心地よい疲労感に任せて砂浜に体を委ねる。
あの後すぐ、壁の外の調査が行われた。
大赦はもっと時間をかけて進めるつもりだったのに、
天の神の意向を受けていたという怪しい連中がその手段を提供したためだ。
天の神、つまり敵を崇める教団。
そんなものを信頼して良いのかという問題はあったらしいけど、大赦はすぐにでも外の情報を把握したかったらしい。
結果、壁の外の炎はまだ残っているけど、バーテックスの姿は見当たらない。
つまり……
「戦い、終わっちゃった…」
私の戦いも終わった。
なんか何もしなくても戦いは終わっていたんじゃないかって、思えてくる。
赤い砂浜に新しいスマホの着信音が響く。
――バーテックスとの戦いの後、体におかしなところない?――
風か……おかしなところはない。無いはずだ。
"だって、この時の私は満開していない"。
――ないわよ。何かあった?――
――満開を起こした人は、体のどこかがおかしくなってる。――
「っ、痛」
――あ、やば、間違えた。これもっと前にやらないといけないやつだ。今回は跳ばそう――
誰? 何を間違えたの?
…
……
………
あれ? 私は鍛錬の途中だったはず。
何も映っていないスマホをじっと見つめる。
「おーい、夏凜ちゃん。あはは、あははっ!」
「友奈?」
砂浜での鍛錬をそろそろ終えようかと言う頃。急に友奈がやってきた。
「って、おおっ!」
けれど、砂に足を取られて顔面からいった。
「って、ちょっと、何やってるのよ。」
「痛い…。夏凜ちゃん、そこは駆けつけて受け止めてよ。」
「むちゃ言うな。もう~、ほら」
無理なお願いを言う友奈に呆れながら手を貸して起こす。
良かった、怪我とかはしていないみたいだ。
「何しに来たの?」
「部活へのお誘い。最近夏凜ちゃんが部活をさぼりまくってるから。」
その視線から逃げるように顔をそらす。
今の私が勇者部に参加する資格なんてない。
「このままだと、さぼりの罰として、腕立て伏せ1000回と、
スクワット3000回と、腹筋10000回させられることになるんだけど…」
「桁おかしくない?」
「でも、今日、部活に来たら全部チャラになりまーす。
さあ、部活に来たくなったよね?」
もう一度ため息を一つ。
「ならない。」
「部活来ないの?」
不思議と不安と不測が入り混じった表情。
「も…もともと、私部員じゃないし。」
そんな友奈の顔を正面から見れない。
「そんなこと…。」
「それに、もう行く理由がないのよ。」
「理由って?」
「私は、勇者として戦うためにこの学校に来た。
あの部にいたのは、戦うために他の勇者たちと連携を取った方がいいからよ。
それ以上の理由なんてない。」
そう、私はバーテックスと戦うために来たのに、戦いは私に関係なく終わってしまった。
「だいたい、風も何考えてるのよ!
勇者部はバーテックスを殲滅するための部なんでしょ?
バーテックスがいなくなったら、そんな部、もう意味ない!」
そう、天の神が捕らえられ、バーテックスもいなくなった。私が何もしなくても…。
「違うよ! 」
今度は正面から友奈を見つめる。
「勇者部は、風先輩がいて、樹ちゃんがいて、東郷さんがいて、
夏凜ちゃんもいて、みんなで楽しみながら、
人に喜んでもらうことをしていく部だよ。
バーテックスなんていなくても、勇者部は勇者部!」
「でも…。」
でも、それなら、私は…。
「戦うためとか関係ない。」
友奈、アンタはそうなのかもしれない。けど……。
「でも、私、戦うために来たから…。もう戦いが終わったから…。
だからもう、私には価値がなくて、あの部に居場所も、ないって思って…。」
木刀を握りしめる。そう、私は、私一人でここに来たわけじゃない。
ここに来れなかった、来たかった人たちはたくさんいた。
だけど、みんなも、そして、私もゆずれない願いがあったから。
それなのに選ばれたはずの私だけが………。
「勇者部五箇条、ひと~つ!」
「えっ?」
友奈、なんでここで五箇条?
「悩んだら相談!」
「えっ…。」
「戦いが終わったら居場所がなくなるなんて、そんなことないんだよ。
夏凜ちゃんがいないと部室は寂しいし、私は夏凜ちゃんと一緒にいるの楽しいし。
それに私、夏凜ちゃんのこと好きだから。」
「んなっ!」
ななな、なにをいいだすよの。
今、大好きとか、そういう話をしてるじゃなくて、
もっと真面目な、いや、これも大事なことだけど!
「ったく!」
木刀から外した人差し指と中指だけで少しだけ後頭部を掻くふりをする。
「しょ…、しょうがないわね。そこまで言うんなら、行ってあげるわよ、勇者部。」
「やった~! じゃあ早速行こう! っと、その前に……。」
「結城友奈、ただいま戻りましたー。」
「おかえりー、って、お、夏凜も来たのね。」
「ゆ、友奈がどうしてもって言うから、し、仕方ないでしょ。」
ほらね。夏凜ちゃん。みんな夏凜ちゃんにいて欲しかったんだよ。
あとは東郷さんが戻ってくれば、あれ?
「どうしたの? 友奈ちゃん?」
東郷さんが不思議そうに私を見ている。
私、今おかしなことを考えてた。"まだこの時は東郷さんは入院しているって"。
うーん、ま、いっか。それよりも……。
「ううん、何でもない。それと、じゃーん! 差し入れです。」
(これ、駅前の有名なお店のですね)
「樹ちゃん。正解」
「友奈、でも味覚が……」
「あれ? 気づいていたんですか?」
東郷さんもどこか気遣わし気な雰囲気だ。
そっか、みんなに隠し事はできないなー。
こんなんだから私、単純って言われちゃうんだよね。
「うん、東郷がね。ごめん、友奈も樹も、私が勇者部なんて作らなければ、
こんなに大事にならなかったのに。」
「大丈夫です。こんなのすぐに治ります。風先輩気にしすぎです。
それに、私は自分から望んで勇者になったんです」
そう、こんなのすぐに治りますよ。風先輩。
「と、いうわけで、結城友奈は今後風先輩からのごめんは受け付けませーん。」
(私も!)
「そうです。お医者様もすぐに治ると仰ってましたし。」
「友奈、樹、東郷。ありがと」
夢みたいな戦いが終わったら、私達は日常に戻る。
勇者にならなくても、勇者部は続いてく。
時間はいくらでもあるんだ! だって……。
だって?
んー? なんだっけ?
「神様、これが貴方の望んだ結末?」
「ええ。」
「こんなものが終わり?」
「ええ。」
「散華も何とでもするつもり?」
「ええ。」
すべて肯定された。
右目だけを閉じて静かに天の
以前と同じ、いえ、それ以上の神気を振りまく。
「なんで、何のためにこんなことを?」
「何度でも友奈に逢うため。でも、私はもう世界には戻れない。
だから、代わりの私が生きていくの。
そして、友奈と私の出会いそのものをなかったことにすればいい。大丈夫。
その思い出は友奈に大きな影響を与えることは無い。
だから、思い出なんてなくても、きっと
唯一開く左目は爛々と神々しいまでの理性の光に満ちている。
神様の願いか。
自分が一緒にいられないから自分の代わりを用意しようなんて、いえ、それ以前に。
「そんなことをして…人の記憶を操作することに罪悪感を持たないの?
いえ、それ以前に自分の思い出は大切じゃないの?」
「? どうして? そんなこと何も特別なことなんてないじゃない。
那由多、貴方も記憶を間違っていたり、忘れたりするじゃない。
私は天の神。今やこの世界そのものと言ってもいい。
だったら、自然に忘れるのも、私が忘れさせるのも違いなんてないよ。
だいたい過去よりも未来のほうが大切に決まっているじゃない!」
そんなのって、そんなことって。
「たった、それだけの理由で世界を滅ぼして、300年も炎の世界を作って。
今度は世界中みんなの記憶まで書き換えようというの?」
「ええ」
これも肯定。
「だったら、それが本当なら…。」
「私を倒したい? 何度も言うけれど相手にはなるよ。
その代わり今の世界は壊れてしまうかもね。
真空崩壊をぶつけても私の力は減じることが無かった。
それ以上となると世界が保てないんじゃない。」
そうして、神様は一度首を傾げる。
「だいたい、何が困るの? 私ならみんなの散華だって治せるし、
そもそもこれは終わりじゃない。次はもっと完全な世界になる。
私はいつも忘れてそれでも同じ結果にたどり着く。
その度に
私は絶対に諦めないのだから。」
ああ、そうか、なんで私だけが残ったのか分かった。
これは、葬らなくちゃいけないものだ。きっとそれはこの世界の悲鳴だったんだ。
神様は……いえ、目の前のこれは、一部の隙もなく完成された絵を求める。
すべての定めるものだ。
そこには自由な意思も、明日に期待する日々もない。
永遠に続くただ同じ日常の繰り返し。
「今の平穏な日常を続けるのか、それとも、過酷の中を進んででも
変容を求めるか、そんなの私達が決めることだ。」
「いいえ。」
これは否定。でも何を否定するのだろう。
「それは勇者たちが選択すればいい。貴方は貴方の願いを叶えるといいでしょう。」
分かっていても私に力を与えたんだ。本当に私達を見下して、
何もできないとタカをくくってる。
「いいよ。だったら、やってやる。見せかけの愛なんて、
与えられた世界など壊してやる。」
そうとも、私が望むものは原風景。
すべての人類に私が見た平らかなる真の平穏を。
勝手にしろって言うなら、勝手にする。
私は私の思う通りにやって見せる。