「な、んで? 私、風さんが三好さんのことを、にぼっしー、って……」
ああ、やっぱりこの子は天の神だったんだ。
人間の真似をして、ワ~ってみんなとはしゃいでみたかったんだ。
でも、それはみんなそう。私だって、ミノさんやわっしーと来年も再来年、
その次も、ずっと遊んでいたかったんだよ?
貴方はそんな世界を作ることもできたんじゃない?
理由なんてわからないけれど、何かに恐れ慄くその姿は、
見た目通りのただの人間に見える。
完全に透き通る空のような青色。
けれど、見た目ではなくもっと根源的なところで違うと分かる。
「なんで、今さら私を刺激するの? 放っておけば
1人増えて終わっていたのに、バーテックスもすべて退去しているのに
何が不満だったの?」
ため息交じりにそんなことを言うその姿は、
さっきまでの何かにおびえていたのが嘘みたい。
だけど、きっとそんなことはない。
きっと、どちらも本当。
何となく分かってきた気がする。きっと"ソレ"は"次は"ただの記録を
なぞるだけの災害になる。
だから、本当のことを知りたいなら、今しかない。
成り行きだけど、これが最後のチャンス。
「貴方はやっぱり天の神なんだね。」
「ええ。」
「全部貴方が始めたことなんだよね。」
「ええ。」
「人類を作りながら、人類の敵になったの?」
「いいえ。」
ああ、やっぱりそうなんだ。そこだけはズレてる。彼女にとっては私達は……
「私は貴方達を敵だと思ってない。」
あっさりと言い切られてしまった。前に会った時もそんな感じだったけど、
彼女は結城さんのことしか見ていない。でもこれだけは確認しないといけない。
「じゃあ、どうしてバーテックスなんて送り込んできたの?」
私の声に誰もが押し黙っている。300年前からみんながずっと考えてきたこと。
でも、ちゃんと答えられる人は誰もいない。
ただ、天の神が、目の前にいる。
彼女こそはすべての答えを知っている。はずなんだけど……
目の前の彼女は初めて迷っているように見えた。
さて、なんて答えれば良いんだろう。
理由ならいくらでもある。別の歴史の話なら誰もが望む答えもできるかもしれない。
でも、結局は
神樹様は友奈因子を引き継ぐ必要がなくなってしまう。
そして、それは結城さんが誕生しないということになる。
もっと言えば、ここにいる人類は消滅するだろう。
神樹様の加護というわかりやすい信仰対象が人のこころ在り方を変えている。
300年という月日をかけて。
だから、一番初めに私を観測した友奈もいなくなって、
でも、私は結城さんに会えることを知っていたからこそ、
世界を始めているわけで、今度は世界を始めた理由そのものが
結城さんに会いたかった、ということになってしまう。
でも、そんなことを言っても誰にも理解してもらえない。
ふざけないで、って怒られるだけだろう。
だから結局みんなが知りたい答えは真実にはない。
「私は今のこの世界良かった。それが理由にならない?
それでもダメならこの世界はたった1人のためだけに私が用意したもの。
それなのに私が人類を愛しているなんて勘違いをした300年前の人類を粛清しただけ。
だって嫌でしょ? きっとあの子は自分事が好きに違いないなんて言って
言い寄ってくる
大赦の人たちが動揺しているのがわかる。
きっと私は笑顔だ。軽薄で酷薄で浅薄なイヤな笑い方。
けど、乃木さんはただ静かに見つめている。
「だから、私がすることは貴方達が何をしようと関係ない。
あと少しの間、貴方達が結界を越えてこないならそれで良い」
その瞳に映っているものはどこにもいないはずの空虚で空疎で空想じみた
お化けみたいだ。
何を思うのかその化け物を捉えて目を反らさない。
「そう、でも、貴方はそこにいないんじゃない?」
む、痛いところをついてきた。
そう言えば乃木さんはこういうの得意な人だった。
確かに全部が為された時に、人間としての松永沙耶と世界である
可分な存在になる。
「それ、気にするところなの?
こないことだけ。もちろん外の世界を取り戻すために勇者の力を用意したり、
なんてことはしないでよね。」
このあたりは特に歴史の修正を必要としないんだから、
あまり余計なことをしないで欲しい。
必要な調整は那由多と十華で綱引きすることになる。
防人の方もアルがいてくれるから問題ない。
このままオーバーライドしてしまえる。
今の大赦は何もしてくれなくていいのだ。
そうすれば、誰もが望むとおりになるのだから。
――それを園子に言ってやれば良いだろう。――
それをやるくらいなら、全部洗脳して平和な地球をどこかの
並行世界からコピペして、人間だけパッと行く、で移動させるするのと変わらない。
そんなもんをお出ししてお茶を濁すくらなら、そもそも何もしない。
人間が自らの可能性だけでやることに意味があるんだから。
と、文句を言う筋合いじゃなかった。
やっぱり人の形をとると思考が引っ張られれていけない。
「あと、あんまり
人生を全うするために生まれた子なんだから、何も知らないよ。
それより、那由多を捕捉で来てるの? あの子は私の思惑とは別の願いで動くよ。」
そう、きっと那由多は動く私の願いが叶う前に動かなければ、
私が過去を固定してしまうのだから。
「敵の生き残り。って、なゆちゃんのことだよね?」
那由多さん。確かに私達のクラスメートとして覚えている。
友奈ちゃんにソフトボール部の助太刀をよく依頼しに来ていた。
「そうね…あれから学校で見かけないし、でも出席はしていたことは確認したわ。」
「私達にだけ認識できないなにか……樹海みたいなのがあるのかもね。」
そう、私達3人は同じクラスなのに、あれから一度も会えていない。
相手が避けているのは確かだろうけど、友奈ちゃんが共通の友達に確認したら、
毎日出席していると帰ってきた。
彼女たちの認識が捻じ曲げられているのか、
それとも、私達が認識できないのか、答えは分からない。
けれど、間違いなく私達の目に触れないところでまだ活動している。
「ホント、いつもいきなりでごめんね。」
「そんな、風先輩だって知ったばかりじゃないですか。」
「東郷さんの言う通りです。風先輩」
「私達は7体倒したんだから、あと1人くらいどんと来いよ。」
友奈ちゃんが風先輩を宥めて、夏凜ちゃんがそっぽ向きながらそんな風に遮る。
「ありがとう。それにしても……」
部室の中を所狭しと縦横無尽に動き回る精霊たち。
その数、総勢十一。
「大赦が端末をアップデートしてくれたのは良いけど、ちょっとした百鬼夜行ね。」
もし、もし、本当に百鬼夜行になってしまったら、
その時は私達はどうなってしまうのだろう。
「もういっそ、文化祭これで良いんじゃないですか。」
「もう、良くないわ友奈ちゃん。」
「ですよね~。」
本当に友奈ちゃんは……。
「諸行無常…。」
「ギャー! アンタら、精霊の管理くらいちゃんとしなさいよ!」
また、義輝が牛鬼に飲み込まれそうになっている。
「わー。牛鬼、また、ダメだって~。」
「ああ、もう、全員端末に戻りなさい!」
風先輩の掛け声で何とか収まったみたい。
それにしても…
精霊が増えたのは友奈ちゃん、風先輩、樹ちゃん、
"今回は私は2回しか満開をしていないから、増えていない"。
あれ? でも友奈ちゃんは?
思考に戻る前に樹ちゃんがスケッチブックを掲げる。
(来るとしたら、次はいつくるんだろう。)
「そうね。完成型勇者の勘では来週あたりが怪しいわね。」
「実は神樹様の予知違いでしたってことは…。て、うわっ」
「来た…! なゆちゃん。」
これで絶対に最後にする。必ず。
「まずは、散華を恐れずよく来た。と言っておくね。友奈、東郷、夏凜。
それから、犬吠埼先輩と樹ちゃんも」
那由多。
学年が違うせいもあってアタシや樹はあまりかかわりが無いけど、
友奈と東郷は席が近くだったからそれなりに仲良くしていた。
「散華って、何よ?」
でも、夏凜の真剣を向けられても、まるで何もないかのように振舞っている。
「もう知ってるんでしょ? 満開の後遺症。でも、三好さんは散華より、
私達に近くなってきてるのが原因。別の意味で危なないよ?
いつまでも人間のふりを続けるのは限界が来る」
「アンタたちに近いって、なによ! 適当なこと言わないで」
いつも以上に夏凜の手が早くなっている。いろんない意味で。
「おっと、さすがに選抜で少しは訓練しただけあって、人間相手でも容赦ないね。
でも、私も手の神から力を貰った使徒の1人。
修羅場ならイヤと言うほど味わってきたわ。」
夏凜の攻撃に合わせるかのように、踊り曲がりくねるような
歪な鈍器のような鉄の錫杖を手に、6対の白い翼から吹き荒れる
羽根の吹雪がアタシ達と夏凜の間を阻む。
「あ、夏凜ちゃん!」
「待ちなさい夏凜!」
まずい、バーテックス相手と違ってこっちの戦力を分断する戦いで来たのか。
「安心しなさい。私は冷静よ! アンタたちはそっちの相手をしなさい。」
「風先輩、夏凜ちゃんの言う通りです。電波探信儀にバーテックスの
反応があります。今までと違って小粒の相手のようですが…」
東郷が見つめる先にどこから湧いてきたのか手足も翼もない
顔だけが異様に大きい芋虫のような怪物が大量に出現している。
(星屑ね。また星の名前。)
「仕方ない。夏凜以外は先に星屑の相手。
終わったらすぐに夏凜を助けに行くわよ。」
「はい、よーし、いくぞ、勇者ぁキーック!」
友奈の新しい精霊・火車の力で炎が広がる。
それじゃ、アタシも。
空中に飛び出した小さな短刀を投げつける。
「飛び道具って、あんまり使ったことないけど、あると便利ね」
樹は………
「は!?」
思わず間抜けな声が出たのも仕方ない。
ワイヤーがおかしい。なんでそんなに分裂してるの?
違うか、なんかワイヤーが樹の手元以外からもいきなり空中とかから飛び出してるように見えるんだけど。
「わー、樹ちゃんすごーい。雲外鏡って"カガミブネと同じなんだ"。」
な、なるほど。ワイヤーだけを跳ばす力か。
何というか、あれ、もしかして、樹1人でも倒せるのでは?
それにしても、この羽根本当に邪魔ね。
目くらましのつもりなの?
「本当は友奈だけを一緒にきて貰うのが天の神の本来通りなんだろうかど、
もう、私は縛られない。だから、みんな、一緒に見ればいい。
私も到達できていない天の神の真実を!」
何を、と言い返す間もなく、樹海がさらに別の結界に上書きされていく。
こんなこと、神樹様の力を上書きするなんて。
「おい、なんだあれ? 空に人が浮かんでるぞ。」
「え? 映画の撮影とか?」
樹海が消えた。しかも町の真ん中で。
「え? 友奈に東郷さん、三好さんまで…コスプレ?」
「え、ええっと、そ、そう、コスプレ、ヒーローショーのお手伝い…みたいな?」
どうしよう、私も友達に見られるとちょっと恥ずかしい。
でも、それよりもバーテックスは……まだ、たくさんいる。いけない。
「あんた、どういうつもりよ。こんな町の中に移動して、
私達を戦いにくくしようってわけ。」
「まっさかー。でも、これでバーテックスも勇者の姿もばっちり人の目に映ってる。ちなみにテレビ電波も乗っ取って、すべてのチャンネルで流れているはずだよ。
貴方達の雄姿も。」
空中では羽根を広げた那由多先輩を、あの時と同じまるで
血でできたような赤い刃を全身に生やした夏凜さんが、
空中で何度もぶつかっている。
時々、那由多先輩が狙ったように地上の人々に向けて差し向ける星屑を
私達が倒し続ける。
まだそんなに大きな被害は出てない。出てないけど……。
「おい、あれ、なんかこっちに来る。」
「に、逃げろ。これ、おかしいぞ!」
だんだん、周りの人も映画の撮影とかじゃないって思い始めたみたい。
それはそうだ。だって周りには制止する警備の人がだれもいないんだから。
一度誰かが始めると全員が自分にふりかかる細工なしの
最悪の災厄を思い浮かべてしまう。
みんなが、我先にと走り出すのにそれほど時間はかからなかった。
「まずいわね。これ、パニックになってるじゃない。」
「なゆちゃん、もう止めて。このままじゃ私達の町が壊れちゃう。」
友奈さんが星屑を踏み台にして、後ろから那由多先輩を組み付いたまま地上に墜落する。
「何言ってるの。まだこんなんじゃ足りないよ。
ううん、これからが本番なんだから!」
那由多先輩が振り被った歪んだ剣から光線のようなものが飛び出して、
近くのビルを燃やす。
「そんな人が……。早く助けないと!」
那由多さんに背を向けて、友奈さんが走り出す。
「行かせない。ここでみんなが燃えていく様を見届けるの友奈。
アイツらにはそれが相応しいんだから。」
無防備な友奈さんに斬りつけようとした那由多先輩だけど、
降下してきた夏凜さんに横から蹴り飛ばされて、
近くの電柱を巻き込みながら跳ね飛ばされた。
「やらせない。行きなさい、友奈。こいつは私が何とかする」
「ありがとう。夏凜ちゃん」
「痛ったーい。やってくれたね。もうかなり天の神の力を使いこなせるように
なってきているみたいじゃない。夏凜。」
崩れた電柱やアスファルトをまき散らしながら、那由多先輩と夏凜さんが
また剣をぶつけ合わせている。
「樹、アタシたちもバーテックスを、って、あれ?」
(バーテックスが退いていく?)
素早くスケッチブックに書き込む。
なんで?
でも、答えはすぐに空から降ってきた。
「さあ、地上にいる愚かな人間ども、よおうく、目に焼き付いただろう。
私達は天の神とその僕。お前たち約束を破った人類を粛清するためにやってきた。
祈りの時間をくれてやる。1週間後、私はもう一度やってくる。
その時がお前たちの世界の終わりと知るが良い!」
(お姉ちゃん、頭に直接…)
「テレパシーってやつかしらね。って…何?」
飛んできた石ころがお姉ちゃんの背中にこつんとあたる。
投げたのは小さな男の子。
1つ、2つ、すこしずつ数が増える。
「で、出ていけ。お前たちが俺の家を踏みつぶしたんだ。」
友奈さんは抱えてきた子供たちにポカポカと叩かれている。
「放せ。放せよ。なんで母さんたちはほっといたんだよ!」
「だから、もう…あそこには…」
友奈さんも叩かれながらオロオロとするだけ。
そうだ、夏凜さんは!
けれど、夏凜さんの周りには誰もいない。石も飛んでこない。
ただ、怯えたように遠巻きにする人の山。
「お前たちが…お前たちがさっきの化け物をつれてきたんじゃないのか?」
「お、俺は見たことがあるぞ。こいつらもさっき俺たちをおしまいだとか
言ってたやつと同じ中学だ」
本当とウソが入り混じって、みんなが私達を見る。
パトカーがやってくるまで、結局誰もそこを動けなかった。
「東郷は?」
「それが東郷さんだけ別の部屋にって大赦の神官さんが…」
「それで、なんで東郷の代りにアンタがここにいるのよ。天の神さまとやらが」
私達が大赦に連れてこられてすぐ。東郷さんだけが別の部屋に呼ばれた。
私も一緒にって行ったんだけど、私は彼女から話を聞き出してほしいと言われてしまった。
「うーん、本当はすぐにでも
"前とおんなじ"で軽く言うと、私たち全員が瞬きする間に目の前の子が2人に別れていた。
「え? え? え!? なんで私がもう一人」
「あーもう、いちいち言葉で説明すると時間かかり過ぎ、えいや、ピピピ電波」
目の前の2人、天の神と人間・松永沙耶。
そっくりな見た目なのに明らかに違う。
きっと、今、私達に喋ってる方が本当の天の神なんだ。
そして、今、テレビを2つ同時につけて早送りにしたみたいにいろんなことを
私達に送り込んでくる。
300年前のこと、2年前のこと、それから、この前のこと。
その時何を思っていたのか分からないけれど、全部本当だった。
本当にこの子は天の神で……私達の敵だった。
でも、それよりも東郷さんが…満開で……。
誰もが黙り込んだなか、1人だけ必死で天の神に詰め寄る。
「ウソだ。私はこんなことできない。できっこない。
こんなのなんかのトリックで嘘っぱちだ。
なんで、なんで私ばっかり、知らないことを言われるんだよ」
「それは貴方は人間として生まれて人間として生きた記憶しかないんだもの。
元は私と同じでもね。」
最後の言葉を聞いて、彼女はいやいやと壊れた振り子のように首をふり続ける。
「し、知らない。そんなの私のせいじゃない。
私は結城さんを助けたいからって、そんな恐ろしいことできるはずない。
私はただの中学生で……」
「
始まりなんて最初から無くて、終わりなんてどこまで探してもありえない。
だって私達は神様になったんだから。自分の意思で。」
呆然としながら、糸が切れた操り人形のように神様の姿をした女の子が塞ぎこむ。
「ええっと、正しく認識できたかな?
なんで、の理由以外は全部見せた通り、私はかつてこの世界にいた人間。
そして300年前と2年前と今、貴方達が気に入らないから粛清しに来た。
おとなしく四国の鳥かごで安らかに滅んでくれないかな?
でないとキミ達は、永遠に戦い続けることになる。
そして、戦い続ける限り貴方達は満開と散華を繰り返し、その度に……」
何故だかその顔は哀しそうに見えた。
「体の機能の一部を失っていく。それを止められるのは、もう私しかいないんだよ。」
「ようやく、会えたね。わっしー……。」
「貴方は乃木…園子さん」
前に会ったことがあるのは確かだけれど、
あの時もこの人は私のことを知らない名前で呼ぶ。
「あの、私は…和紙じゃないです。それに……」
「ああ、そっか。ふふ、ごめんね。
いっつも友達の…わっしーていう名前の友達のこと考えたから間違えちゃうんだ。えっと、三森ちゃんでいいかな?」
「え、ええ……。」
それなのに知らない名前で呼ばれないと不思議な違和感。
「その、貴方も勇者だと聞きました。
先代の……でも、今は戦えないとも。けれど、この前は戦っていました。」
「うん、怖がられちゃってるからね。普段は普通のスマホなんだ~。
それとね。これは敵にやられたんじゃないよ。痛くもないしね。」
どういうこと? 敵にやられたわけでもない。それに戦うこともできていた。
「満開って分かるかな? ワ~って咲いて強くなるやつ」
「え、ええ。風先輩と樹ちゃんがなりました。」
「ねえ、わっしー、満開した後、花は散るんだよ。それが散華。」
「散華……。」
ゆっくりと、染みわたるように理解が進む。
満開した後、風先輩と樹ちゃんにはそれぞれ視力と声に異常が顕れた。
あれ? それだと友奈ちゃんは?
「友奈ちゃんと夏凜ちゃんのことは、もう少し待ってね。
それも理由はわかってるんだ~。
ただ、どうしてそんなことをしたのか分からなくってね。」
「そんなことをした?」
それは誰かが意図的に行ったということ? いったいどうして?
「うん、その犯人はもう友奈ちゃんの前にいる。だから、逃げも隠れもしないよ。
少なくとも私だったらそうすると思う。どんなに辛いことがあったって、
友達とは一緒にいたかったから。彼女も自分の想いには逆らわないと思うよ。」
どうしてだろう。
私は"そのっちにそんな想いをさせないって"思っていたはずなのに、思い出せない。まさか……。
「散った花はもう咲かない?」
「どうかな~。でも、今はまだ咲いてないかな。」
分かっていた。彼女は私達だ。私達の未来。行きつく先。
そして、敵はまだまだいる。
それなのに、彼女はこんな状態でも戦えた。
戦う時だけは動けてしまった。その意味するところは……
「でもね。勇者は死なないからね。もしかしたら、また咲くのか、それとも……」
いや。貴方はそんな顔をしないで。
でも、どうして自分がそう思っているのかさえも分からない私が、そんなことを言っても余計に哀しいだけだって分かってしまう。
勇者は死なない。死なずに戦い続ける。それじゃ、私達がもし……。
「大赦の人たちもね。このことを黙っていたのは、思いやりの1つではあるんだよ。
こんなこと言われても困っちゃうだけだからね。
でもね。私はそういうこと全部教えてほしかったから。」
一滴、彼女左目だけから零れ落ちるそれを、私は何故か先回りで受け止めていた。
「あ、えへへ、ありがとう。そのリボンにあってるね。」
そういった彼女は初めて年相応の表情に思えた。
「あ、りがとう。これは、私が"あの時"からずっと身に着けていて、
でも大切だと言うことしか思い出せなくて…ごめんね。」
「ううん、そう思ってくれてうれ…」
世界すべてが傾いたかのような振動。
それはすべての始まりへ向けた胎動だったのか、
それともすべての終わりへ向けた断末魔だったのか、
この時の私はすでにその答えを知っていたはずだった。