松永沙耶は神である   作:スナックザップ

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Wisdom

「それじゃ、私達の後遺症は…。」

「もちろん治らない。当然だよね。供物として捧げられた体の一部は力の代償として消費されているんだから、ただ私と戦うためだけのために。」

 

ウソをつくのは神様っぽくないけれど、まあ、3万回に1度くらいしか散華からは回復していないんだから、完全なウソと言うわけじゃなし。

 

「大赦のみんなも知っているんでしょ。って言うか貴方達が勇者システムをそうしてくれるように神樹…に願い出たんだから、本人の意思も確認せずに、ね。」

 

「あ、大赦の人たち…。」

 

友奈の声でみんなは初めて気づいたようだったけど、私が正体を見せた時から、大赦の神官たちは陣を張り巡らせ、結界を展開し、私を捉え滅ぼす仕組みを準備している。

ようやく始める気になったみたい。

 

でも、貴方達は本命じゃない。私が繰り返した本命は私自身の手で用意している。

 

「天の神、ここで貴方を拘束する。始めよ。」

 

全身に圧し掛かる亡霊達。私の手で命を落とした数十億の人々の魂をこういう形で使うんだ。

 

なるほどね。だけど、たった数十億の魂で私をどうにかできるなんて、夢の見すぎでしょ。

幾星霜を幾度繰り返し、あと幾つ滅ぼすと思っているの?

 

「そんなんじゃ足りない。全然足りないよ。本気で何とかできると思っているなら、使い方を間違ってる。」

 

自分の言葉とは思えないくらい、甘ったるい言い方。

 

まあ、目の前に友奈がいるせいで、ちょっと興奮気味の自覚はある。

自制しないとすり寄って行きそうになる。

 

「これでも、足りないのか…」

 

前に出てきていた神官。晴信さんより地位が高そうだし、ちょうどいい。

 

「貴方が責任者? はいた唾くらいは飲み込んでもらうよ。"引けよ"。」

 

私の言どおり彼の肉体はクルクルと回りながら、樹ちゃんのワイヤーより細く、宇宙ひものように見えなくなっていく。

後ろの神官たちが1人を除いてざわめいている。

 

"上"に向けて、その力を放出する。

轟音とともに部屋の天上が抜け落ち、壁も崩れる。外の景色は突き抜けるような青空。その向こうに彼だった粒子が散っていく。

 

「え? 今のって……」

「死んだ? の…」

 

風さんと東郷さんの言葉でみんなが正気にも戻る。

 

「で、でも、神様なんだし…。」

「違うよ。友奈。今の人は間違いなく私が殺した。」

 

驚きで見開いた友奈の瞳に私の姿が見える。どこにいてもおかしい化け物。

 

(なんで……貴方にとっては全然大丈夫だったんでしょ?)

 

文字にすると残るね。

 

スケッチブックに書かれると今更ながら、ずいぶん遠くまで来たと実感する。

 

あの時分からなかったことが今なら分かる。

 

天の神(ボク)は、何故あのタイミングで、何のために人類を粛清し、何をしたかったのか?

 

私を見上げる私がいる。

事態の進展についていけていない。いくら私の経験を共有されても、それを夢幻ではないと理解するまで少しの時間がかかる。

 

けれど、その瞳に映るものは友奈に見えているそれと同じ。

 

人肉食み、人の魂を糧とし、涙で渇きを癒す。

愛を見ず、誰かの手を払い、友情を聞かない。

 

これで良い。すべてよし、だ。

 

「300年前、もう戦いは終わりにしたいって言ったのは貴方達だ。

それでも、300年前に約束した通りに大人しくしていることができない。

だから、彼は死んだんだ。もう一度思い出すため。キミ達が負けたんだということを思い出させるために。」

 

誰も一言も話さない。それも仕方ないことかもしれない。300年前の当事者なんていないのだから。ただ一人私以外は。

 

「そして貴方達も同じ。もう知っているんでしょ。満開の秘密。隠された機能、散華のことも。」

 

と言っても、これだけでは信じないだろう。けれど、園子さんから真実を聞かされれば、それも変わる。

 

「貴方達は神樹の加護なしでは生きていけない。けれど、神樹の加護は永遠ではない。ならどうすると思う?」

 

大赦の人たちが気まずそうにしている。仮面と無言で押し殺しても、自分の心までは騙せない。

 

「どうだって言うのよ!? どう取り繕ってもアンタが戦いを始めたんでしょう。」

 

切っ先を煌めかせながら、夏凜が変身を完了する。

 

他の子たちも、やる気みたいだ。

 

「そうとも、私が始めたことだ。貴方達の満開の後遺症は治らない。そして、私の戦力はいくらでもある。戦って、戦って、戦い続けて、全身が動かなくなっても戦い続けるしかない。それでも…」

「それでも戦うよ。だって…」

「勇者だから? そして、今度は誰かに助けてって言えるの? 友奈、貴方にそれはできない。何故なら貴方は人を助けることはできても、人に助けられることに慣れてない。ううん、それ以前に貴方の生きている間に戦いは終わらない。私は何百年でも何千年でも何億年でも続けられるよ?」

 

これは誰かが頑張れば何とかなる話にはしない。そんなものは私の理由じゃあない。

 

「いい加減なことばかり言うな!」

(今度は私達も)

 

降り下ろされた大剣と逃げられないように絡みつくワイヤー。

 

だけど、それは私に届かなかった。

 

「まってください。風先輩、樹ちゃん。」

「東郷さん?」

 

車椅子でここまで来たのか、東郷さんの息は少し上がっている。

 

「もう、聞いてきたんだよね。貴方達の体のこと。だったら、私がここにいる理由はない。後は貴方達が選べばいい。私は300年前の約束を守ってくれればそれでいい。」

 

ゆらゆらと皆の姿が滲んで、薄く満点の星と煌々とした炎だけが残った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あれが私? そっくり、いいえ、同じだった。

 

でも、それでも、だからって。

 

(結城さんが生まれてくるためにこの世界は作られた? それじゃ、まるで結城さんこそが理由で、ウイルスで世界が滅んだことも、天の神が人類を粛清したっていうのも全部嘘じゃない!)

 

そんなことってあるのだろうか?

たった一人の人間のために世界を創造し、そしてまた破壊する。

それはあまりにも身勝手だ。選択肢なんてない。最初からこうなる以外の道がないなんて。

 

私を取り囲む隙間から盗み見るように結城さんの姿をとらえる。

 

(あの子が、結城さん、結城友奈。彼女がいなければ…)

 

「東郷さん、よかった。無事だったんだ。」

「ええ、ありがとう友奈ちゃん。」

 

みんなが東郷さんに駆け寄っている。私は、私は貌の見えない無言の大赦に取り囲まれたまま。そちら側に近づくことさえできない。させてもらえない。

 

(みんな分かっているんだろうか? 自分たちにこの先の未来がないことを。あんなのが私達を粛清?するだなんて。)

 

「教えてください。私達の後遺症は治るんですよね。さっき敵が言ったことは……」

「恐らく本当です。風先輩……」

「と、東郷さん? えっと、と、とにかく帰りましょう。今日はもういろいろありすぎて疲れたなー。なんて…」

 

誰も何も答えない。いえ、私を囲む輪から1人だけ。

 

「貴方達の体には医学的には何の異常もありません。直に回復するものと思われます。」

「でも、そういって1ヵ月以上経っているですよ!」

 

風さんの抗議をどう受け止めたか分からない。けれど、仮面の下からはさっきもう一人の私が仲間を殺した時のような緊張はないように見える。

 

知らなかった。ううん、いつも私達は知らないふりをして来た。

自分じゃない誰かが大変でも、どうしようもないって。

それが自分のことみたいになって、それでも誰もどうしようもなくて、本当に何もできない。

 

(本当に? 私は天の記憶を見せられた。でも他の人たちは全部は見えなかったみたいだ。だったら、私は、私だけが、やっぱり天の神と特別な関係なんじゃないか?)

 

特別な関係。それは何度も聞かされてきた。本当に私は天の神と同じ存在だったんだろうか。

 

恐ろしい。あんな風に扇ぐような気軽さで人を傷つけてしまうなんて。

そしてそのことを何とも思っていなかった。

 

「そ、そんなことばかり言って、わ、私のことだっていつまでも閉じ込めて、だから、今みたいになっちゃったんじゃないですか。できもしないことばかり言って、自分より立場が弱い人を好きなように弄んでるだけじゃないですか。」

 

あ、言ってしまった。

 

 

全員の視線が突き刺さる。仮面の大赦の人。不思議な服と見たこともない武器を持つ勇者たち。

 

そんな人たちの視線を自分が集めるなんて。

 

でも、ここまで来たら仕方ない。やぶれかぶれだ。

 

「あ、あの天の神は言ってました。出てこなければ攻撃なんかしなかったって、実際300年間も無事だったんでしょ。何もしてないはずないじゃないですか。」

 

そう、300年もの間、あのバーテックスっていう化け物は出てこなかった。

自分の姿でバーテックスを率いていた記憶は、ちょっと信じられないけれど、とにかく結城さんが無事生まれてきたから、天の神は積極的に四国を攻撃する理由なんてない。

やるんだったら、もっと早く攻撃してきていたと思う。

 

 

「貴方はやはり天の神か。拘束を一段階引き上げる。連れていけ」

「お、横暴だ。私の言ったことが図星だから言いがかりを! 痛っ、こ、んな……」

 

鈍い痛みが後頭部全体に広がり、まるで意識を吸っていくように私は気を失っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――戦い続けて、全身が動かなくなっても戦い続けるしかない。――

 

天の神の言葉がいつまでも憑いたまま離れない。

 

あれから1週間が過ぎた。大赦は何も言ってこない。私達の戦いは終わっていないはずなのに。

待機命令だけだして、そのままだ。

 

だからって、私達の周りだけ時間は緩く流れたりしない。

仮初の平穏。緊張の上の日常。東郷が作った砂上の楼閣よりも頼りない世界。

 

でも、天の神はその言葉の通りあれ以降もバーテックスを送り込んでくる気配はない。

まるで本当に四国の外に出てこなければ攻撃しないという約束は有効であるかのように。そして、天の神が嘘でないのならば…。

 

それでも私達は日常を繰り返そうと必死だった。

 

だから、東郷が自宅に呼んでくれた時も同じだと思った。"前と違って樹や夏凜も一緒だったとしても。"。

 

 

「それで、東郷、話って何?」

 

「その前にみんなに確認したいことがあります。あの少女、松永沙耶についてです。予め断っておきますが、あの子は戸籍も両親もハッキリしているただの人間です。私でも簡単に調べられるくらいに、分かり切っています。当然大赦が本気で調べればすぐわかる事です。」

 

友奈、アタシ、樹、夏凜、全員を1人ずつ見ながら、理解を待って確認するようにゆっくりと東郷が話しを続ける。

 

「それでも、大赦はあの子を天の神と見なしている。夏凜ちゃん、彼女はまだ拘束されているわよね?」

「私もはっきり言われていないけどね。ま、間違いないでしょ。でも、東郷の言いたいことも分かる。そっくりだからってそれだけで拘束しても意味は薄いでしょうね。」

 

夏凜の言う通り、あの日も大赦はあっさりと気絶させて拘束している。

友奈がそのやり方を止めようとするくらいに、かなり厳しい扱いを受けていた。

 

「はい、でも、彼女が言ったことと、先代の勇者である乃木さんが言ったことは、ほぼ一致している。敵味方ともに同じ事実を認めている。だから私は確認したんです。」

 

そう言いながら、東郷はいつも飾ってあった小刀を取り出して振り被る。ただし、自分自身に向けて。

けれど、鋭い火花を散らしながら、青坊主が東郷と刃の間で受けて止めている。

 

「東郷さん!」

「何をやっているのよ、東郷!」

 

慌てて飛びついた友奈と夏凜が悲鳴のように叫んでいる。

 

「アンタ、今、精霊が止めなかったら……」

「いいえ、止めます。精霊は必ず。」

 

は? 一体何をしたいの?

 

「この1週間、私は様々な方法で自害を試みました。割腹、服毒、首吊り、飛び降り、溺死…。しかし、そのいずれも精霊によって止められました。」

「何が言いたいの?」

 

精霊が私達を守っていることは分かっていたはず。

 

「今、私は精霊システムを起動していませんでした。」

(そういえば…)

 

確かにそうだけど…。

 

「乃木さんは全身が散華の影響と思われる状態で動かせませんでした。にもかかわらず、最初に見た時は那由多さんを的確に攻撃していた。」

「すごい動きだったよね。」

「つまり、体が動かなくなっても、精霊たちは私達を戦わせることができる。私達の意思に関わらず。」

「「「あ…。」」」

 

そうだ、そう言えば最初に東郷が変身した時も変身する前から青坊主が守っていた。

 

「そして、天の神も体の機能を失いながら戦い続けるとはっきり言っていました。敵対する2者からの同じ指摘。これが正しいとするなら、私達は……」

「ストップ、そこまでにしなさい。東郷。」

「風先輩…でも…。」

「お願い、今は止めて。お願いだから……」

(お姉ちゃん……)

 

耐えきれずに東郷を止める。

 

東郷の言い方だとまるで……私達は……。

 

知らなかった。私が勇者部なんて作らなければ、樹は声を失わなくても済んだなんて。

でも、今、それは言えない。

 

樹の目の前でそんな事実を確定させるわけにはいかない。いくわけがない!

 

 

 

どこをどう通って帰ってきたのか分からない。

樹は途中で友奈に話があると言って先に帰ってきた。

 

夏凜とは途中で別れた。

 

呼び出しの電子音、買って来たままのその音は自宅のものだ。

 

「突然のお電話失礼いたします。犬吠埼樹さんの保護者の方で"すね"。 イオナミュージックの……」

「はい、樹の保護者は私ですが…。」

「この度は樹さんが弊社のボーカリストオーディションにご応募頂きありがとうございます。今回、樹さんが一次審査を通過されましたので、今後のご予定についてお電話差し上げました。」

「い、いつですか?」

「3ヵ月前になります。」

 

ずるりと、受話器が手から滑り落ちる。

 

「樹、いつきぃ。いないの?」

 

慌てて樹の部屋のドアを開けてから気が付く。ああ、そうだ。樹は友奈の家の寄ってたんだ。

 

机の上の開けっぱなしのノート。

 

―喉に良いこと3行―

―声が元に戻ったら、やりたいこと3つ―

―ボーカリストオーディションの審査は3回―

 

 

起動したままのノートパソコン。

 

その1つに目が吸い寄せられる。オーディションのファイル名。

恐る恐るをそれをクリックする。

 

―讃州中学1年生。犬吠埼樹です。―

 

―私は歌手を目指すことで自分なりの生き方を見つけたい。―

 

―お姉ちゃんはしっかり者で、強くて、反対に私は臆病で、でも、―

 

―本当はお姉ちゃんの隣を歩いていけるようになりたい。自分自身の生き方。自分自身の夢を持ちたい!―

 

―そのために、今、歌手を目指しています。―

 

―今は歌を歌うのがとても楽しいです。―

 

―そして、私の好きな歌を1人でもたくさんの人に聞いてほしいと思っています。―

 

「では、歌います。」

 

 

―あのね。お姉ちゃん。私、やりたいことができたよ。―

 

「う、ううぁぁぁ、ぁぁぁあああ!」

 

まるで私の意思が伝わったかのように"端末に触れる前から"変身が始まる。

 

「あああああああああああああああ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

砂煙が舞い上がり、金色の影が飛び出していく。

 

(風、アンタ、何やってるのよ)

 

「待ちなさい。風。何をする気!?」

「大赦を……潰してやる!!」

 

そんな……なんで……。

 

いえ、"今回はみんな知っている。私も樹も。それなのに、また止められなかった"。

 

「こんなことが許せるか! 前にも犠牲はあった。それなのに、何も知らせず、今度は私達が犠牲にされた。」

 

風の大剣が実際以上に重い。

 

「だからって……大赦を……」

 

いや、本当は分かっている。大赦は"また、"間違えたんだ。

 

「なんで、私達がこんな目に合わないといけない。なんで…樹が声を失わないといけない!? なんで夢を諦めないといけない!?」

 

ダメ、抑えきれない。早く構えなおさないと。

 

「世界を救った代償が…これかあああぁぁぁ!!!」

 

精霊バリアに頼るしかないか。

衝撃に備えて思わず目を瞑る。

けれど、その衝撃は私の1歩前起こっていた。

 

「友奈!?」

「どきなさい。友奈!」

「イヤです。風先輩が誰かを、夏凜ちゃんを傷つけるところなんて見たくありません!」

 

やばい、風のやつ、私ならまだしも、友奈相手にも本気で大剣を振るってる。

 

「もう、分かっているんでしょう。"前とは違う"。今度は"まだ"失わなくちゃいけない。"後、何度こんな思いを繰り返せばいい"!!!」

「それでも、もし、後遺症のことを知らされていたとしても、私達は結局戦っていたはずです。世界を守るためにはそれしか方法がなかった。"でないと、ここまでもこれなかった"!」

 

風の大剣と友奈のバリアが何度もぶつかり、花びらのような光が吹き荒れる。

 

「知らされていたら、アタシは、樹を…みんなを巻き込んだりなんてしなかった。そうすれば…少なくとも樹は無事だったんだあああぁぁぁ!!!!」

 

風と友奈が同時に跳び上がる。瞬間、友奈の右手のゲージが目に留まる。それはもう八分咲きを越えている。

 

「友奈、それ以上はダメ!!」

 

ああ、それでも2人は止まらない。"どうしても、ここだけは避けられない。まるで誰かがそう仕組んでいるように!?!?"

 

――そうだよ、これは神様が望んだこと。こんな運命を変えるには――

 

今、私何を……

 

 

「風先輩を止められるならこれくらい。」

「友…奈…。」

 

ゲージ最大。つまり、もう友奈の満開は避けられない……。

 

あ…

 

風の腰辺りに細い腕が回る。

細くて頼りないのに絶対に話さない。

 

「樹……ううう、ゴメン、みんな、ごめんね。アタシが勇者部なんて作らなければ……。」

(違うよ。……)

 

樹がノートの一枚を風に差し出している。あれって、確か歌のテストの前にみんなで書いたアドバイス。

けれど、もう一人加わっている。

 

―勇者部に入らなければ、歌いたいっていう夢も持てなかった。だから、私は勇者部に入って良かった。"ありがとう、お姉ちゃん"。―

 

「私も樹ちゃんと同じです。風先輩。だから、そんなこと言わないでください。」

 

ただ涙とともに地に伏す風を、覆うように、守るように、そして隠すように樹が抱きしめる。

触れ合い、混ざりあり、溶けあい、どこからが風でどこまでが樹かもよくわからない。

まるで1つの生命が鼓動を打つように、ただその光景だけが夕闇に浮かび続けていた。

 

 

 

 

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