「あ、そっか、みんなもういないだ。」
最初に抱いた感想はそんなことだった。初めて東郷さんのお家を見た時、そんなことを思った。
お隣に住んでいたあの人たちは急な転勤や出世いとかで急にいなくなってしまった。
小さいころから仲良くしていた人たちもみんな。
あ、だれか玄関にいる。
新しく来た人たちとは仲良くしたい。このあたりには珍しい大きな御屋敷みたい。
あ、私と同じくらいの女の子がいる。声かけてみよう。
「こんにちは、貴方がここの家に住むの?」
「え、ええ……。」
うーん、少しぎこちない感じ。まだ車椅子の扱いに慣れてないのかな?
それで、いきなり引っ越しだと不安だよね。よし。
「私は結城友奈。よろしくね。」
がっちり握手。少し驚かせちゃったかな?
「…東郷三森。」
「東郷さん! わあ、カッコいい苗字だね!」
なんか、最近教科書とかで見た気がする。
「この辺よくわからないでしょ? 何だったら案内するよ?」
桜もまだ見れる公園とか、このあたりも好きになってくれると良いな。
春は出会いと別れの季節。だから新しいお隣さんとも友奈は仲良くなれるって、言ってた。そう確かに言っていたはず。
「貴方達におすすめの部活はあるわ。」
スルーすべきかは少し迷った。
「貴方達におすすめの部活はあるわ。」
「何故2回も?」
あとで聞いたんだけど、この時風先輩は私達2人に声をかけて勇者部を作るように大赦に言われていたみたい。
でも私はこの時、"また勇者部ができて"、その響きに食いついていた。
「なんだか、すごくワクワクする響きですね。」
「すごいところに食いつくのね。」
"まだ、一回目だから"、この時の東郷さんは私が振り回し過ぎて、困らせていないかちょっと心配。
「内容は迷いネコ探し、幼稚園や老人会のお手伝い。地域のボランティア活動ね。人にやさしくという神樹様の素晴らしい教え。でも、アタシたちの年頃だとちょっと気恥ずかしいところあるじゃない。だから勇気を持って実践する。だから勇者部よ。ま、これから作っていくんだけどね。」
――神樹様って、こんな風に作ってないのに、なんでこの教えにしたんだろ? ま、いっか。――
ふらりと、何かが通り抜けたような感覚。
「悩んだら、相談。っと」
すらすらと風先輩がマジックで滑らせていく。
「なんかこういう5つの誓いみたいなの良いですね。」
「あと、1つは何にします?」
あ、そっか、あと1つ。あと1つか。何か無いかな。
「成せばなる為さねばならぬ、何事も。ってのでどう?」
「え? 誰?」
「上杉鷹山さんのお言葉。」
「よう…ざん? ちょっと難しい言葉のような…」
東郷さんが頤に人差し指をあててなにか考えている。
ん? あれ? 今、私、知らないことを考えていたような?
「なせば大抵何とかなる、とか?」
「それならバッチリ分かる!」
難しい言葉って、どうして、難しくしているのかな?
みんなに知ってもらえた方が良いのにね。
――よし、次があったら、ことわざとか無い世界にしよう――
うーん、勉強しなくてよくなるのは嬉しいけど、無くなるのはイヤかな。
――やっぱり、無くなるのは良くないよね。――
あれ? 今、誰かいたような?
「犬吠埼樹です。よ、よろしく、お願いします。」
「アタシの妹にしては、少しだけ女子力低めだけど、可愛いのよ。占いとかも得意だし。」
確かに風先輩の妹さんにしては、性格は大人しいみたい。
「へぇ、あ、そうだ。これあげる。幸運のお守り。」
「わあ、可愛い。ありがとうございます。」
友奈ちゃんが渡した小物を樹ちゃんが眺めている。さすが友奈ちゃん。敷居が上がってしまったけれど、この帽子と鳩の手品は定番。分かっていても目の前でいきなり起こると高揚すること間違いないわ。
車椅子の回転率を上げて、さっと一礼。
帽子に白い手巾で覆うこと3秒。
「わあ、鳩ですか? これどうやってるんです? それによく言うことを聞いてくれてる。」
この日のために訓練に付き合ってくれた鳩たちが樹ちゃんの周りを回って、私のもとに再び戻ってくる。
「ふふふ、この子たちとは"何度も"実演しているからね。この手品はね。ここの帽子に秘密があるの。」
「そうなんですね。へぇ、普通の帽子にしか見えない。」
風先輩の妹さんだけあって、この子も将来有望だわ。まずは人見知りでも、人の前では堂々できるようにしないと。
この1年はずっとこんな感じだった。毎日忙しくて、でもとっても充実していて、足のことも、記憶のことも、過去にしてしまいそうになった。でも……。
「それも、全部仕組まれていた。そうなんでしょ。"そのっち"。」
「うん、うん、うん、そうだよ。わっしー。」
今は東郷さんって言ったほうが良いだろうけれど、きっと、わっしーも思い出している。
始めに私達の前に女の子の姿で天の神が顕れた時、おかしな状態だった。
私達が知っている天の神ではない。
話していてすぐに分かった。でも何がおかしいのか分かったのは、もう少し後。
おかしなことだけど、私は、そして、きっとわっしー達も何度も天の神と戦っている。
結果までは思い出せないけど、間違いない。
けれど、あの子は天の神と名乗ったあの子は元は人間だったんだと思う。
どうして、ああなっちゃったのか分からないけど、西暦の時代に人類を粛清した天の神の代りに、天の神となっている。
(人類の敵に進んで鳴ろうとする理由。)
始めにおかしいと思ったのは、やっぱり友奈ちゃんにぶたれに行った時だ。ようやく会えたとようなそぶりだったけど、友奈ちゃんは全然覚えがなかった。
それなのに奇抜な行動で周りを見る余裕が無くなって、2人で話したいことがあったから、私達をわざわざ生きたままで帰して。
でも、ハッキリとわかったのは2人に分裂して見せたこと。
本当は分裂じゃないのかもしれない。同じ意識から出発しても違う道筋を辿った時に、もう別々の存在なんだと思う。
かつての…そう、今は思い出せない"もう一人の小さな私"と同じように。
ああ、やっぱり。これだ。
「まだ、おぼろげなところが多いけれど、あの敵が来た時から、少しずつ失っていた記憶のことをいくつか思い出した。でも、足はこのままだから散華から立ち直ったのではなく、記憶を後から追加されたんだわ。」
「そうだね。本当に治すつもりだったら、記憶だけーなんてことはしないよね。彼女。」
すっと居住まいをただす。
「"今回は、"もうほとんど分かってると思うけれど、やっぱり……え? わっしー。」
いつかのミノさんのように私のことを抱きかかえている。
「ごめんね。そのっち。すぐに思い出してあげられなくて。」
「ううん、いいんだよ。いいの。わっしー。こうして、もう一度会えただけで……。」
その先は言えなかった。こんな世界なんてーって何度も思ったけど、それでも、まだわっしーがいてくれて本当に助けられたんだよ。
もし、わっしーもいなくなってなら、私だってあの天の神と同じように、みんないなくなっちゃえーってなってた。
ただ、1つ気になっているのは……
「ぐすっ、うう、ホント、ごめんなさい。出ていけなくて。」
全身を炭素凍結されたままなのに、普通に喋りかけてくる少女。
大赦が手に負えず、私の部屋においていった天の神とならなかったままの姿。
「仕方ないんよー。貴方をどれだけ閉じ込めても無駄だって、本当はみんな分かっているんだけどね。みんな生まれる前からウイルスの世界として受け継がれてきたからね。」
彼女を閉じ込めても、傷つけても、それはもう天の神とは何にも関係ない。
それでも、誰もが彼女を解放することができなかった。
怖かったんだ。
目の前で一粒の粒子も残さず消滅したあの神官さんの姿は、それだけ印象付けられてしまった。
そして、大赦はこの子を私の病室においていった。何かあった時に最大の戦力である私がいればって、安心したかったんだ。
例え、最後は無駄になるとしても。
「せっかくだから、答え合わせってできないかな? 天の神も自分に対するよしみで普通は答えてくれないこともピッカーんと送ってくれたり。」
「わ、分かんないよ。そんなの。」
わっしーが交互に私達のやり取りを眺めている。
「じゃ、私が話すね。わっしーはどこまで思い出してるんだっけ?」
「だいたい全部よ。2年前、私は鷲尾須美だった。そして、そのっちと、銀と、3人で勇者だった。でも、銀がいなくなって、私は散華で記憶を失った。」
わっしーが実はわっしーじゃないって知った時は驚いた。
「え? 東郷さんは鷲尾さん? 何なんですか? それ……。」
そう、こんな風に。
「鷲尾家は大赦の中でも特に力のある家だった。だから勇者として適性の高い私を養子として迎えた。そして私達3人は戦った。そして、足の機能と記憶を失った。」
「そんなことって……、もし、そうなら、あの私がやったことは……。」
天の神が入れ替わったけど、それなのに、私達は同じことを繰り返している。繰り返すしかなかった。
(もし、なんで繰り返すのか分かれば、ミノさん……。)
「記憶を失った私は東郷の家に戻された。けど、それは次の戦いに備えたことだった。友奈ちゃんが勇者になることは初めから分かっていた。」
「大赦もね。自分たちだけで勇者を維持していくことができなくなったんだよ。彼女、勇者の適性が一番高かったんだって。」
勇者の適正とは何か? それは今も分からない。ただ分かっているのは……。
「いつの時代も神のいけにえになるのは無垢な少女だけ。穢れなき身だからこそ、その犠牲を以って大いなる力を宿せる。」
「でも、あの私はそんなの求めてないです。あの子と接続された時にたくさん知りました。前の世界はともかく、今のあの子が天の神だというなら、そんな風に世界を作ってないって。えっと…だから。」
「生贄は必要なかった?」
「そうなってたはずなんです。書き換えられたのだから。他ならない天の神自身の手で。私は自覚ないですけど。」
ああ、この子はもう自分が天の神だと認め始めてるんだ。その重荷をどうしていくのか分からないけれど、目を閉じ、口をつぐみ、耳をふさぐことを良しとはしなかったんだね。
「だったら、私達が知りたいこと、もうわかるよね?」
もう少しだけ早く気づけていたら、もっとたくさんミノさんともいろんなところに行ってみたり、遊んでみたりしてみたかった。
でも、それはもういいの。
だって、この子からその秘密を聞ければ、私はもう一度……。
園子さんは友達を、三ノ輪銀を取り戻そうとしている。
そして、天の神は結城さんが生まれてくるためにここまで世界を導いている。
ただ、それだけ。
本当だったら矛盾しないはずだったのに、いつの間にかこんなことになってる。
天の神に他の目的なんてなかった。
接続された時は混乱したけど、冷静に見てみれば煩悩まみれの俗人だった。
問題はそれを口にしてよいのかと言うこと。
こんなことを話して信じてもらえるだろうか? もし、信じてもらえたとしたら、きっとだれかは考えるだろう。
(私を殺せばワンチャン天の神を消せないかって、そんな都合の良い妄想あり得ないのに、今までの繰り返しで私は何万通りもそんな理由で殺されていた)
実感はない。
この夏が始まるまで、私は自分のことをちょっと家庭環境が複雑なだけの普通の子供だと思っていたんだから。
(話して大丈夫? この人たちは勇者だけど、あの神樹様と大赦が選んだんだ。勇者だからこそ、子供一人の命くらいで世界を守れる可能性が万に一つでもあるなら、自分の心だって裏切るんじゃない?)
実際、こうやって炭素凍結で生きながら死んでいるような状態で、指一本動かせないまま何日も放っておかれている。
私は見せられた三ノ輪さんみたいにはならない。なりたくない。
「繰り返しは……確かに天の神は時間を超越することができると思う。でも、やり方なんてわからないよ。それこそ……」
「それこそ、ボクに聞けばいいんだよ。呼んでくれればジャンジャジャーンって、こうやって出てこれるんだしぃ。」
うわ、今度は何の前触れもなく普通に出てきた。
「天の神……。警報は?」
「いやあ、いちいち騒がれるのもヤだし、今は電話みたいなもんだよ。で、銀ちゃんを助けろって言うんだよね。いいよー。ボクがキミ達を過去に送ればいい。」
へ? それOKなの? それだと友奈さんの魂が高天原に吸い込まれないから、つながらなくなるんじゃないの?
あ、そうか。それは時間を縦軸で見た時なんだ。
未来の出来事を実際の体験ではなく、知識として知るだけなら、因果関係を気にしなくても良いってこと?
そして、過去現在未来を人が移動可能な光円錐内のパラメータとして、すべてをはじめからすべて知っていれば、つなげる必要もなかったんだ。
「でも、それなら、なんで300年も待っていたんだろう? 自分の望み通りに最初から友奈さんがいて、毎日楽しい世界にすれば良かったんじゃないの?」
あ、しまった。
「友奈ちゃんが望み? どういうこと?」
園子さんも首を振っている。
まずい、ごまかさないと、絶対にまずい。
「ようやく現実を受け止められたんだね。でも、今の
こっちが認めた。なんで、この前まで隠そうとしていたのに?
「ここまでくれば、東郷さんが何もしなくても後は那由多が動けば、みんな表に出なくちゃいけないからね。必ず友奈は満開を使う。この世界を、みんなを守るためならば。」
「どういうこと? まるで友奈ちゃんの無事を願っているのに、満開させようとしている。そんなのおかしいわ!」
確かに東郷さんの言う通り矛盾している。だって、あと2回満開した時、友奈さんは……。
「そうか! 神樹様の代りに友奈さんの体を作り直すつもりか。」
今までの世界通りならここで友奈さんが、レオの御霊が昇天する時に一緒に高天原に巻き込まれてる。
その間に満開で霊的に機能停止していた友奈さんの体は、御姿として神樹様が再生して、またそのことが神婚につながってる。
だったら、最初から天の神自身が御姿を作ってしまうつもりか。
「うん、まあ、正確にはちゃんと私の半分が扱えればそれでいいだけなんだけどね。」
「貴方の半分って、一体何を!?」
東郷さんの聞きたかったことを、私は既に知っている。
こいつは本当に自分の力を半分にして友奈さんに注ぎ込むつもりか。
「神様
そこまで、一息に言い切ると私達を交代に見つめている。
「やるよ。でも、貴方はどうしてその約束を守るの?」
けれど、見つめられるより早く園子さんの心は決まっていたみたいだ。
ただ、天の神に理由がない。それはこれまでの記憶をリンクされた私でも理解できない衝動。
「決まってるじゃない。貴方と何より東郷さんが邪魔だから、貴方達の望み通りの世界に送ってあげようっていうだけだよ。私がいていて欲しいのは友奈だけだもの。他の人たちはどこへなりで幸福に過ごしました。めでたしめでたし、で良いよ。ここまでくればね。」
え? もしかして、魂だけ時間を遡るとかじゃなくて、直接送る気なの?
東郷さんの口が開く。
けれど、それよりも早く全員の端末が鳴り響く。ああ、そっか、那由多もこれが最大のチャンスだから。
わっしーは何も言わずに去った。
そのことに少しの不安と、それ以上の安心を感じている。
そんな自分がすごくイヤだった。
(ごめんね。ミノさん。私は貴方に会いたい。信じてそれだけは本当。でも、ひとりじゃ嫌なんよ。わっしーも同じだって。でも……)
もし、わっしーが過去には戻らないって言ったら?
私だけがそう信じている、なんてことはないって言い切れるの?
「私は……それでも1人でもできるの?」
来ていいる人はいる。でも答えてくれる友達はいない。
「貴方なら必ず。園子様。」
ただ、この人たち言えることは1つだけ。
「だから、わっしーやみんなと戦うしかないって?」
「それが"神樹様を"ひいては世界を守るためならば。」
はーって、ひとつため息。
この人たちだって本当は分かっている。だから仮面を外せない。外せばそこで立ち止まってしまうだろう。
だから、せめて私が、私だけが止められる。
もう2度と間違えないために。
「成り行きを見守るよ。」
「何故です? それでは……」
「じゃあ、何、わっしーやその友達と戦えって言うの?」
「しかし、壁の外では天の神が迫っております。この状態で犬吠埼風の暴走や東郷三森の放置は、本当に……」
誰もが分かっているのに、その方法は少しずつ戦う力を失っているんだって。本当に……。
「ふざけないでよ」
「園子様……。」
前と同じなるか分からない。でも、やっぱり、同じ……同じ? どうして? なんで同じにするの?
私達が知らないことがまだある。
「はい、きっと天の神は私達の誰が反旗を翻しても、何もしないです。」
通信が世界の壁を越えて、お互いの意思を飛び交う。
本当は言葉なんて必要ないけど、私達人間は誰かと言葉を交わす時間が何万年も長すぎた。
「……ただ、結城友奈が勇者であれば、それで良かったんですって。300年間四国に誰も出入りできないようにしていただけで。私達の本当の敵はその程度の浅い考えで……。」
思い浮かべるは、どこか危うい笑みを浮かべている神様。私達の本当の敵。天の神。
「はい、ですから、今は誰でも入れるようにしているんですって、彼女自身が待ちきれずに出てきてるんです。だから、これは最大のチャンスで。え? 四国の人たち? ごく一握りを除いて、誰もしりませんよ。ええ、だから、人手が欲しいんですって。いくら何でも私一人じゃ無理がある。そうです。はい、承知しました。」
淡い光が消えて通信が終わる。
ふと思い出した。これを初めて作った300年前の人も結城さんだった気がする。
さて、それじゃ。
「東郷が壁壊しをするかどうか分からんないし、今回は私がやるか。神樹様、14年間お世話になりました。ちょっとだけ壁を壊します。そして、きっと、私達が天の神を倒します。」
ナノマシンによる分解が進んで、自分の意識が鋼の中に解けていく。痛みはない。ただ、一瞬で有機生命体としての私が一度終わるだけ。
神樹様が"これから起きるはずだった歴史"で友奈の体を作り直したのと同じ。
違うのは神様か人間か。
「時間クローキング解除。NGC-2632 プレセペ起動。」
私の、いえ、私達のもう一つの姿。
外骨格表面を変形させて、γ線バーストを収束放射してみる。
これで壁を壊せればいいんだけど。
「やっぱダメか。普通のレーザーじゃ効果なし。ポッド射出、量子障壁展開。レーザー冷却と相空間モデルを再設定。」
いい加減、音声入力は止めて欲しいんだけど、これと電気信号の組み合わせが本人認証で一番だからって、いつまでも古典的なやり方ばっかりだ。
「出た。波動関数産出。フェルミ粒子からボース粒子へ変換。吸着用ラジエータ展開。これで……」
何の前触れもなく初めからそこに無かったかのように壁の一部が透き通る。まるで夢から醒めて現実へと覚醒したかのように。
「よし、急げ、急げ、吸着率は58パーセント。なんとかレオも通れるかな? おっと、せっかく穴を開けてやったのに、私が人間の被造物に見えてるの?」
集まってきた星屑の一部が私に食らいついてくる。
レーザー発振ポッドで外部から熱的ド・ブロイ波を偏向している今は物理的に噛みつかれても影響を受けていない。
ただ、こっちも神樹様の結界に穴をあけるために量子障壁を1度使ってるから残りエネルギーが心許ない。近接戦闘で戦うしかないか。
2度、3度、飛来した銃火で星屑たちが飛び散る。
誰? 東郷?
最初に東郷がやってきたのは、やっぱり運命からは出られていないってことか。
さて、今の彼女は私が那由多だと分かるんだろうか? それとも、ただの機械に見えるのか。
これは何?
バーテックスではない。機械人形?
とにかく助けないと。
「行って、川蛍」
花のつぼみのような浮遊砲台が機械人形の周りのバーテックス達を追い払う。
「ええっと、ハロー、東郷」
「は!?」
これは、まさか米英が作成した新兵器? いえ、でも、この声は…。
「まさか、それに乗っているの? 来島さん? どういうこと? 貴方はバーテックスを率いていたのではなかったの?」
確かにバーテックスを率いて、とうとう現実にまでやってきていたのに、どうして今更バーテックスと戦っている。
「まあ、いろいろあるんだよ。とりあえずあんまり精霊の力は借りない方が良いんでしょ。任せといて。これで……。」
ふわりと機械人形の巨体が持ち上がる。空戦ができる種類なんだろうか。
私がそんな考えを持った瞬間にその巨体が消えて、あたりのバーテックスも倒せたみたいだ。
けど、まだ彼女は信用できない。何より神樹様の結界はバーテックスには破壊できない。
だから、破壊したのは間違いなく彼女だ。
「何故、結界を破壊したの? 」
「天の神を呼び寄せるため。これを破壊すると天の神がプッツンしてやってくるんだよ。そこを倒す。」
天の神がやってくる?
「今までも何度も来ているじゃない。こんなことをしてしまったら世界が…、それにもう戦う必要はないって、天の神自身が言っていたじゃない。」
事実、この前までバーテックスはいなくなっていた。それなのにまた呼び寄せてしまったの?
「それで、いつかこの世界が滅びるまで放っておくの? 銀ちゃんの事も?」
「"銀のことって"、どういうこと? 銀はもう……」
「いいえ、まだだよ。まだ三ノ輪銀は完全に死んではいない。だって、ほら……」
指さす先、炎の海にも負けない赤い獣が飛び出してくる。
「あれは!?」
どこかで見た覚えはあるのに思い出せない。
「天の神の力を与えられた私達3人の1人。十華に与えられた意味は
豹のようにしなやかな筋肉を持つ腕と、山のようなを持つ熊のよう両足。
10本の角と7つの頭を持つ大樹のような爬虫類じみた七つ首も、骨格と爪をを取り付けたよう蝙蝠の翼も、見覚えがある。
「銀……。どうしてそこにいるの。」
私のみ上げる先、捧げ持つように中央の4番目の首が抱える棺。
そこだけ赤みがなく、敷き詰められた花のように白い銀の顔が浮かんでいる。
「お願い、力を貸して勇者たち。もう二度と繰り返しなんてさせない。」