「助けて? 勝手よ。それならあの時どうして町の中でバーテックスをだしたの? 言っていることがめちゃくちゃじゃない。そのせいで友奈ちゃんはすごく悲しんでいたわ。」
あの後、突然危険に晒された人々がどれだけ動揺し、私達を敵とさえ間違えたか。
「だって、今の大赦は戦うつもりがないでしょ。助けたいすべてにはこの世界だってあるんだよ。それなのに何も知らせず、知らされず、みんなも知らないから仕方なかったって言い訳ばかり。そうやってこの世界は逃げ続けてきた。私達は違う。宇宙規模の結界で閉ざされても、肉体がすべて滅びても、私達はここまで来たのだから。」
無数の光が輝き大きな影が落ちる。どれもバーテックスとは違う。人間の匂いのする機械たち。
数は十一。ただ、どれも十華さんから距離を空けている。
「神樹様の結界を破壊すれば、バーテックス達は寄ってくる。そして天の神も怒りのままにやってくる。貴方達がかつての歴史でそうしたように。前の世界で貴方達がそうしたように。」
「ここを戦場にするつもり。させないわ。」
天の神が敵だとしても、せっかくバーテックスの姿が見えなくなっていたのに、これだと私達はまた戦わなくてはいけなくなる。
みんながあの苦しみを味わうことになってしまう。
「どうして? 天の神を倒さなければ、この世界だっていつか終わる。このまま助けの来ない状態を続けるの? 今なら私達の世界と力を合わせれば、戦うことができる。ただ、人としての肉体を棄てた私達にはもう未来がないだけ。それもこうして生きている人がいるというなら話が変わってくる。」
「だからと言って私達は今のままでは戦わないわ。だって、満開を行えば、友奈ちゃんが、みんなが私みたいに記憶さえも失ってしまう。大切な思い出も、大事な人も失ってしまうのよ! それでも戦えというなら…。」
再びシロガネを構えなおす。発砲するつもりはない。でも、戦いに駆り立てられるのは、もう嫌。
「え? ちょっと、東郷!? って、全員待ちなさい」
けれど、私が構えなおした瞬間。光の一つがふっと消えて、那由多さんと同じような鉄の巨人がその腕で私を叩き潰す。
「このなんて力。」
精霊バリアで直接受けていないのに、バリアに加えられる衝撃だけで気を失いそうになる。
「やめて。東郷は敵じゃない。」
「うるせー。銃を向けてきた時点でコイツもバーテックスと同じで人類の敵だ。どうせ、自分たち戦わなくていいから、次の世代に先送りする気なんだろう? そんな奴ら気にする価値もない。俺たちだけで勝手に始めれば良かったんだよ。」
やっぱり、こっちの機械巨人からも声がする。
「じゃあな、とっとくたばれ。」
このまま、みんなを戦わせたりしない。私がここでこいつらを止めれば。
「が!? この、やっぱり」
けれど、私を攻撃した機械は十華の首の1つに噛みつかれて、暗い宇宙に持ち上げられる。
そして、それが合図だったように残りの機械たちも十華に攻撃を始める。
けれど、機械たちが使う光線銃も誘導弾も十華を傷つけることができていない。もちろん十華の真ん中の首が守るように持つ銀の棺も煤一つ届いていない。
「全機、星座と同じように量子障壁を展開。存在確率を低下させて倒すよ。」
川蛍と同じような小型機が機械人形がから発射され、十華の周りを回りながら、さっきとは違うレーザーを集中させる。
「位相空間モデル再設定。レーザー冷却開始。このまま…。」
「十華避けて、銀が…」
急速に十華の動きが止まる。
「すべての世界を取り戻すために一緒に戦ってほしかったけど、こうなったら仕方ない。十華、今は貴方だけでもここで倒す。」
そのまま十華と銀の姿が霞のように消えていく。
「っしゃー。みたか。バーテックスども。これならどんな存在だろうが…。」
私を攻撃した機械人形の声が途中で途切れて、上半身が消えてなくなる。
「は? 索敵。バーテックスは?」
「周囲にバーテックスの影はなし。どこから。え?」
「くそ、もう1機やられた。どうなってる。身動きもしないでこっちを攻撃してるのか?」
余裕な感じで出てきた最初の様相から一変して、かなり混乱しているのが分かる。
バーテックスを攻撃することは考えていたけれど、星座の名を冠するバーテックスと戦うのは初めてなのかもしれない。
だとすると、私達が満開を使った時と同じことができるようには思えない。
「とにかく、今は早く存在確率を下げて。下手に攻撃して飛び散ると
そうだ、銀。銀の体があそこにはあるはず。足に力を込めて走り出す。
「東郷! 行っちゃダメ。あそこにあるのはただの物質としての体だけ。生きてはいない。」
「それでも、どうして銀の体が2つもあるの? もし、そのっちが言ったように戻せるのならば……」
もし、過去に行かなくても戻せるのなら……。
「そうだよ。そのためにここに帰ってきたのだから、わたしは。今こそ銀さんを呼び戻すために。そして……。」
この声は……
「喋った……神の使徒が?」
「人の言葉で……。」
間違いない。この獣は…いえ、この子は。
「そうだよ。そのためにここに帰ってきたのだから、わたしは。今こそ銀さんを呼び戻すために。そして……。」
そして、後2時間15分後に結城友奈を殺せば、天の神様は終わる。終わらせることができる。
とうとうそのチャンスが来たんだ。
唯一神の唯一無二の唯の友達。
だからこその、たった一つの弱点。
きっと、那由多達も同じことを考えている。
理由は不明だけど、天の神様自身が私達がそういう風に行動することを望んでいる。
もちろん、その行為は償えるようなものじゃない。
何回か繰り返した歴史で実行した時、鷲尾さんのショックは見ていられないほど酷かった。
だから、この2年間の記憶を鷲尾須美としての記憶で上書きする。
それなら、結城友奈に会う前に戻せるはず。
東郷三森にとって結城友奈は不可欠でも、鷲尾須美にとって結城友奈は出会ってすらいない。
「さあ、鷲尾さん、貴方の思う通りに、貴方達を生地獄を味わせる神樹の壁を壊して。もう、こんなことは終わらせて。」
あれ? 鷲尾さんも那由多のお仲間も、なんか微妙な雰囲気。
え、ちょっと、鷲尾さんなんで私に銃を向けるの?
「させないわ、せっかく戦わなくて済むのに、この世界を壊させたりしない。そして、銀の体も返してもらうわ。」
「ふぁ!? どういうこと!? いつもの時間軸なら今頃暴走して壁壊すタイミングじゃないの!?」
おかしい、どうなってるの?
「何を言ってるの。天の神様がいる限り貴方達の戦いは終わらない。あの方は結城友奈に一度でも危害をくわえた者を自動的に敵対する。だから貴方も。」
「私だって友奈ちゃんを傷つける人には何をするか分からないわ。」
「まさか……壁を壊すつもりはないの?」
「当り前でしょう。なんでわざわざ私が御国の危機を引き起こさなくてはならないの?」
あり得ないと思っていたけど、神様は融和路線でも始めるつもりなの?
この世界は一体?
「当てが外れたみたね。十華。私達の世界のために邪魔はさせない。このままその存在を消してあげる。」
「那由多。貴方も天の神から離れたのなら分かるでしょ。私達に未来なんてない。」
「いいえ、まだよ。私達はまだ生きている。たとえ肉体は滅んでも。たとえ世界がなくなったって。たとえ人間をやめたって。私達は生きるの。」
「私は…私はそんなふうに思えない。」
透けて見える翼を広げて残ったロボットたちに炎を吐き出す。
「散開。絶対に当たらないで、あれ一つで活動銀河中心核を撒いているようなもの。」
レーザーを絶やさずに蜘蛛の子を散らすように私の焔から距離をとる。
どういう仕組みなのか分からないけれど、あのレーザーで作られたバリアみたいなので私を閉じ込めた状態を続けている。
(存在確率がどうとか言ってたけど、私の体が透けて見えていることと関係あるのかな。歴史の流れもだいぶ違うみたいだし、とにかく新しい意識が誕生する前に銀さんの体に魂を戻さないと。)
「東郷さん!」
「東郷!」
あれは……結城友奈と三好夏凜か。
だったら、銀さんの端末も夏凜が持ってるはず、そして、やっぱり見つからなかった銀さんの魂はそっちに受け継がれちゃってる。
わたしの一部と一緒に。
「三好夏凜、私の一部返してもらうよ。そして、代りに銀さんの肉体を返してあげる。」
喋ってる。これって生き物?
熊みたいな体から首がいっぱいで、2足歩行で蝙蝠みたいな翼がある動物ってなんだろう?
でも前足は豹みたい。とにかくドーンと大きな赤い動物。
なんか額に文字みたいなものと頭に冠みたいなものがのっている。
バーテックスと同じ天の神が作った生物なんだろうか?
向こうの壁を壊したロボットと戦ってるみたいだけど、東郷さんとも戦っていたみたいだし、味方なのか分からなくなってくる。とにかく東郷さんのところへ行かないと。
力を込めて地面を蹴って思い切りジャンプ。したつもりだったけど、全然飛べない。
「うわわ、って、変身が!」
いつの間にか変身が終わってる?
まだ、戦いは続いているのに、バーテックスが逃げていったから?
「どいて、鷲尾さん。」
「きゃああ!」
「東郷さん!」
喋る熊から吐き出された炎が精霊バリアと一緒に戦艦ごと東郷さんを吹き飛ばす。
ダメだ。やっぱりまだ戦いは続いている。もう一度勇者にならないと。
スマートフォンの画面を操作してアプリを起動してい見るけれど、そこに映った文字は見たこともない表示。
――貴方は勇者ではありません。このアプリを起動することはできません。――
「嘘! どうして!?」
「友奈! 変身が…。」
驚いて夏凜ちゃんを見ると、夏凜ちゃんも制服に戻ってる。
「あ……」
聞き逃してしまいそうな小さな声。まるで夏凜ちゃんの声じゃないみたいな。
「「夏凜ちゃん!?」」
ゆっくりと、夏凜ちゃんの体が傾き、力を失ったようにぐったりしている。
「もらった。結城友奈ぁああ!」
速度を上げた喋る熊が迫る。急いで逃げないと…。
ダメだ。夏凜ちゃんが目を醒まさない。
急いで夏凜ちゃんを抱えると横っ飛びにドラゴンの攻撃をかわす。
だけど、こんな避け方じゃ、何度もかわせない。
熊もそれが分かっているのか、今度は大きな火の球で私を狙った。
ダメ。避けられない。
夏凜ちゃんを抱えるようにして目をつぶる。
お願いです。神樹様。もう一度勇者に、みんなと一緒にいられるように。
あれ? 私、何をしていたんだっけ?
そうだ、確か特別警報とか何とか、また天の神が攻めてきただ。
だったら戦わないと、友奈たちも戦ってるはず。
「いえ、貴方はもう戦わなくていいい。分かっているんでしょ。大赦にとって貴方は満開でボロボロになっても心の痛まない都合のいい道具だったって。」
「誰よ。いい加減なことを言うのは!?」
振り返る先には1人の赤い髪の少女。
そう。その色はさっき見た七つ首の山よりも大きな熊そっくりの結界の外の炎よりもなお赤く輝いている。
友奈の髪と違って、まるで燃やしては行けないものを焼いて出ているような煙る炎。
私はこの子を知っている。
「アンタは……。」
「始めまして…ではないよ。自己紹介はしてないけどね。銀さんの継嗣。三好夏凜さん。」
「は? 継嗣? これアンタがやってるの? だったら戻しなさいよ。」
「もちろん戻すよ。貴方には何の関係もない物語だから。でも、わたしの一部と銀さんの魂は返してもらうよ。それは貴方のものじゃない。」
「なによ、そんなものどこにあるのよ。」
「貴方の端末だよ。貴方の勇者としての力は神樹様に認められたからじゃない。銀さんの端末を使ってその魂によるものだ。だから…。」
――貴方に勇者の資格ない。――
声を上げる間もなく、また暗闇。自分の声も出ているのか、分からないほどの深淵。
ちくしょう。こんなところで私はまた役に立たない。
私は完成型勇者なのに。
世界が、友達が、大変だって時に……。
何かに触れているのか、何も触れていないのか、
落ちているのか、立っているのか、
見えているのかいないのか。
それでも、私は行かなくちゃいけない。
そうだ。気配。バーテックスの気配を感じられ…ない。
ずっと感じてきたバーテックスの気配。それすらももう感じられない。
考えろ、考えろ、考えろ。
まずはここを抜け出さないと、たぶん幻覚とかそう言うのだと思うけど、どうすりゃいい。
「―願い。――――今――助けて。友奈を」
今のは、天の神?
「な、何を言ってるのよ。アンタがやってきたせいで全部おかしくなったんでしょう!」
鳴き声だけがどこまでも聞こえる。
「おやまあ、てっきり東郷が来ると思ったんだけどな。やっぱり東郷の好きとボクの好きは違うってことか。」
言葉は光となって、深淵を天上へと塗り替える。
「こんばんは、三好夏凜ちゃん。恥ずかしいところ見られちゃった。」
ちょこっと舌出しながら、そう言う姿は間違いなくあの時顕れた天の神。
「ここ、どこよ。早く返しなさい。今、友奈は戦ったら……。」
「満開が発動する、だよね。それは私が思うところではないけど、貴方にボクに代わって、友奈を助けてくれるの?」
は? 何言ってのこいつ? さっきから聞いてればまるで友奈を助けたいみたいな事ばっかり言って。
「ふざけんな! 言われなくても友奈を助けるわよ。それから東郷も一緒に連れ帰って、あんたが追ってこなければ……。」
そう、すべてはコイツが始めたんだから、コイツが何もしなければ良かったんだ。
そう思うと、改めて怒りを込めて、その透き通る青空のような瞳を睨み返す。
「そうだね。もしかすると、貴方の言う通りボクは何もしなくてもよかったのかもしれない。でもね、友達が大変な時に、何もするなって言われて、はいそうですかって貴方は思えるの?」
「は? 友達。誰が貴方の友達だって言うのよ!」
「うーん、まあ、言っても信じられないだろうけど、私にとっては友奈は一番最初の友達なんだよねぇ。」
「は?」
こんな時だというのに本当に適当なことばかり。
「信じられないでしょ。だからさ、結局自分で真実を知るしかないんだよ。私も貴方も。でも、友奈に真実は知ってほしくない。全部自分のせいだ、なんてひどすぎる話でしょ。」
「さっきから、嘘ばかり並べて、私を混乱させようって言うの?」
「そんなつもりはない、って言っても意味ないよね。でも、今の貴方が戻っても、何もできないでしょ。十華に大赦の勇者としての資格を三ノ輪銀に戻されちゃったから。」
「そんなのさっきのヤツが勝手に言ってるだけで……? 待って、十華ってあの化け物熊のこと?」
「あー、化け物は酷いんじゃない。あれでも貴方達と同年代の女の子だよ。
さっぱり分からない。
「まあ、私が直接力を分けた使徒の3人でも、ここまで私の識閾下まで来たことないし、サービスするよ。なんせ今までの最高値はアルの六識だったからね。」
「い・ら・な・い・わ・よ。そんなことよりさっさとも戻しなさい。」
私の返答を聞いた瞬間拳を作って、一生懸命に上下に振り始める。
「ええー。この世の真理だよ。完全な真実だよ。哲学回答だよ!? こう、時代が時代なら黄金より価値あるんだよ?」
「いいからここから出しなさい。」
痺れを切らして天の神に掴みかかるけど、あっさりと宙に浮いてかわされてしまった。
「わー、わかった。分かったってば。しょうがないなー。じゃ、大サービスで余ってた使徒の力をあげるからそれ使って自力で帰って見せてよ。」
「いいわよ。さっさとよこしなさい。って、うわっ!」
「はい、よこしたよー。」
急に目が覚めたような感覚。ふと思い出すのは、鍛錬で疲れ切ってもう動けないはずなのに繰り出せた一撃。
ああ、分かるわ。これなら戻れる。
「それじゃ、またいつか逢いましょう。今度は友奈たちも連れてきてくれるとうれしいな。」
「アンタが世界を滅ぼさなきゃいくらでも来てやるわよ。」
「ふふふ、約束だよ。神樹様が、もうすぐそういう世界を用意してくれるからね。それじゃ友奈のことお願いね。」
「そんなの、頼まれなくても……」
あれ? 今、神樹様って……
「もらった。結城友奈ぁああ!」
敵の声で目覚めるなんて最悪だ。
私を守ろうとしてくれたのか、抱えてくれている友奈をそのままに跳躍、1度、2度、全部で7度。
全ての攻撃を避けて、大きな根の上に降り立つ。
「夏凜ちゃん! 良かった。」
ああ、目を醒ましたんだ、私。
友奈の声を聞いて、ようやく自分が戻ってきたと理解する。
口を開こうとすると炎が迫ってる。残念だけどゆっくりする暇はないみたいだ。
「勇者の力、まだ残っていたのか? それとも、だけど神様もアルもいないなら、ここで終わりにできる。」
「友奈ちゃん!!」
満開した東郷が攻撃を続けているけれど、ドラゴンは背を向け私達に迫り続けたまま、まったく攻撃に意識を向けていない。いえ、あれは当たる直前で何かに遮られてる。
でも、それよりも先にやってもらうことがある。
「とりあえず、降ろしなさい友奈。私はもう大丈夫。」
「でも、夏凜ちゃん。変身が!」
「それはアンタも一緒でしょ。大丈夫よ。原因、分かってるから。見てて。」
天の神が言った通りなら、友奈にも、私にも、天の力の一部が分けられてる。
それが神樹様の力と反発してるんだ。
だったら、その反発する力の流れを上手く調整してやればいい。気配を読むだけじゃだめだ。
「だったら、気配を掴んで流れを変えてやるのよ!」
すっかりなじんだ穏やかで包み込むような神樹様の気配。いつも身近にあった気配で気が付きにくいけど、私には分かる。
そして、もう一つ。
まるで、深海から見上げた太陽のように辺りを放射される光。触れるものすべてを炎とするような激流。
きっと、これが天の神の気配。
「友奈よく見ておいて。きっとアンタならできるから。でも、もし…いえ、何でもないわ。」
「夏凜ちゃん?」
変身の要領は今までと変わらない。ただ、戦いの意思を示してアプリをタップする。ただそれだけ。
けれど、本当に天の神は本当のことを言っているのだろうか?
いえ、迷ってる場合じゃない。東郷の砲撃を受けてもドラゴンは全くひるまず進み続けている。
東郷は攻撃されてないから無事だけど、もし、東郷を攻撃していたらどうなっていたか分からない。
そして、このまま進めばきっとあのドラゴンは言葉通りに友奈を攻撃する。
だったら、賭けてみるしかない。
「いくわよ!」
変身が始まってすぐに違いは分かった。ああ、きっと天の神は人間のことなんかやっぱり分かってなかったんだ。
背骨がまっすぐ盾に割れ、脊髄がドロリと零れ落ちる。
「ッアアアアク、がぁああああ!」
痛みに声が喉から飛び出すけれど、本当に音になっているのか分からない。
別れた背骨が私の体の中を透り、掌から飛び出す。まるで自分たちが私の新しい刀だと言わんばかりに、鋭く形を変えて手に収まる。
消えた背骨から新しく置き換わる。人間のそれではなく翼ある形で。
背中らから飛び出した翼は幾つもに分かれて、踊るように広がっていく。
翼は炎を遮り、精霊バリアのように私達を覆う。
「それ、天の神様、なんで貴方が? 私の一部は返してもらったはず。」
「知らないわよ。勝手に押し付けていったんだから。」
(でも、これはちょっと、早まったかも……)
変身するたびに背骨を引っこ抜いてぶん回すのは、なかなか慣れない。
でも、問題は追加された能力の方だ。
(ああ、もうさっきから近未来予測、近未来予測って、鬱陶しい。いくら相手の攻撃が読めてもこれじゃ戦いに集中できないじゃない。)
視界が幾重にも重なって見える。子供心に未来予知を考えたことはあるけど、実際使えてもこれじゃ気が散って仕方ない。
「一気に七識まで押し付けられたみたいだけど、感覚酔いが酷いでしょ。そんな状態でわたしだけじゃなく、壁を壊してる那由多達も相手にできる?」
「知らないわよ。そんなこと。でも、私はやらなくちゃいけない。アンタ達を止める。」
やっと、見つけたんだ。ずっと探していた。だから、絶対にこんなところで終わりになんかさせない。
ゆっくりと、お互いに上昇していく。
「天の神様の本当の目的は壁を壊したくらいじゃ何も影響しない。でも、結城友奈を失えば天の神は必ずこの世界を切り離す。そのためには……。」
瞳が収縮し、猫のように細くなる。
「結城友奈はここで殺す。絶対に。」
「させない。絶対に。」
右の腕を振り上げ、巨大な斬撃を集まってきていたバーテックスに向ける。
左の腕を降り降し、無数の小太刀を投擲して次々に爆破させる。
大丈夫、私はまだ戦える。
「遠からん者は音にも聞け、近くば寄って目にも見よ、これが讃州中学2年、勇者部部員。三好夏凜の実力だ!」