ざー、とよく知る音に顔を上げれば、もうすぐ夏至だというのに、昼間の窓の外は暗く薄明かりが少し見える程度。
「本格的に降ってきたねー」
「そうね。友奈ちゃん」
手を止めて友奈と東郷さんも空を見上げている。
ふーむ、この後の予定を考えると、これは快晴に変更した方が良いか知らん。
「どうかしたの? 沙耶?」
「いや、ほら、夏凜の誕生日って今日なんでしょ?」
「うん、そうだよ。夏凜ちゃんの誕生日。だからみんなで準備」
あれ? 友奈は何とも思っていないのかな?
東郷も
もしかして、気になったのは私だけ?
「晴れていたほうが良いかなーってさ」
神樹様の中の世界から帰ってきたのだから、私が天の神としての力を使えば、ちょっと晴れにするくらい簡単。
というより、正直友奈が無事戻ってきた今となっては天の力は持て余してしまう。
記憶だけを返すなら方法だってないわけじゃない。
「うーん、きっと雨でもたくさんお祝いできるよ」
「あ、う、うん、そうだよね。そう」
きっと、今の私は挙動不審に目が泳いでいるだろう。
実際に友奈と東郷さんが顔を見合わせている。
「何かあるの? 松永さん」
東郷さんはまだ私を名前で読んでくれていない。
名前で呼んでくれるのは、友奈くらいだ。あとは園子があだ名を更新し続けている。どうもふさわしいのが思いつかないらしい。
「ごめん。何でもない。太陽が出てないと変な感じがするだけ、とりあえず飾り付けだけ済ませちゃおうか」
何となく、言葉にしにくいだけど、今私が考えたことは人間らしくなかった気がする。
いや、実際天の神の力があるんだから、人間じゃないって言えばそうなんだけど、考え方と言うか、心構えみたいなものが違う気がする。
「――だから、何だって言うのよ。はっきり言いなさいよ、風。わざわざ高校からここまで来て何の用なのよ」
「ええーい、皆まで言わせるな。とにかくアタシの話に付き合え」
「ええっと、ええっと、そうだ、夏凜さん、占いましょう。部長命令です」
「樹、アンタまで、風みたいなことを」
どうやら、夏凜を部室に近づけない工作は失敗したみたいだ。
ここはテレパシーもとい神託を風と部長に送って…
違うか、今、思ったところなのに。
なまじ、こんな力を長いこと使ってきたから、あたり前になっているけど、人間はどんなにお金を積んでも、友達がたくさんいても、大きな権力を持っても、人の心なんて読めないし、天候だって変えられない。学校に行くのも歩いて行くんだ。
戦いが終わって半年。
私はまだ次にやりたいことを決められていない?
「夏凜ちゃん、お誕生日おめでとう」
「えーと、ま、あ、ありがとう」
どことなく照れくさそうな夏凜。みんなでもみくちゃに抱きつく。
さすがに私は遠慮して東郷さんから借りたカメラを回す役だ。
「ちょっと、そこ、何しれっと取ってるのよ!」
「駄目だよー。にぼっしー、ちゃんとお兄さんからの依頼なんだから」
「だ・か・ら、嫌なのよ」
うん、こうして見てると平和だ。東郷さんと園子が笑いあっている姿は相当大変だったらしい。
私はその時は別用があったからあの子たちに任せっきりだったけど。
「マッツァン、あとはカメラはそこの三脚においておいていいよー」
「ん、わかった」
今日の園子の気分は洋風らしい。
カメラを三脚の上に固定して、一人だけ部外者なのに混ぜてもらう。
未だに東郷さんや風さんとは硬い対応が多いので、できれば夏凜とは距離を縮めておきたい。
でないと、ずっと、友奈を心配させてしまう。
「はあ~、それにしても、まさか今年は部室で誕生日を祝ってもらうことになるとはね」
「あはは、でも、良いでしょ。みんな忙しくなってきたから、やっぱりちゃんと集まらないとね」
そう、風さんは高校だし、私達中学3年組は受験だってある。
私も全知の力は封印して受験勉強に取り組むつもりだ。
残念ながら、3年組の中では友奈と私が最下位争い状態だ。
最初、神様の私が今更受験なんて必要ない、って言ったら、神様も学生も両立してじゃないのかって、夏凜にやりこめられた。
どっちかって言うと、夏凜は言われる側だと思っていたのに、なんでこうなった。
私の知識や閃きは極端に計算能力に偏っていて、数学でもテスト的な状況設定型の問題は全然ダメだ。
他の教科で言えば好きな天文の知識くらいしかまともにテストで点数がとれない。
なので、トップクラスの園子はもちろん、ブーストできるらしい夏凜や、元から歴史からプログラムまでこなせる東郷さんとは土台が違いすぎた。
でも、みんな友奈と同じ高校に行きたがってるんだよね。おかげで最近友奈は勉強と勇者部活動が多すぎて、あんまり遊べなくなった。
おのれ、責任者出てこい。って、これも私の責任なのか?
しばらく、みんなとおしゃべりしながら、東郷特製の和風料理を頂く。
ケーキこそ私が焼いてみたけど、他のお料理はほとんど東郷にお任せだ。
どこでこんな調理技術を学んだのか。
頭の中に答えが表示されているけど、知らないふりをする。
あの一件で全知の力の自動化も解除したはずだけど、油断するとすぐに発動する。
(あーあ、上手くいかないな。適当に押し付けるわけにもいかないし)
「人の誕生日にずいぶん辛気臭い顔ね」
「あ、えっと、夏凜…ちゃん?」
「別に、呼び方なんてどれでも良いわよ。それで…」
うーん、顔に出ていただろうか。そう言えば夏凜ちゃんはどうするつもりなんだろう?
「あのさ、夏凜ちゃんはこれからどうするの? 友奈とかは普通に過ごすんだろうけど、もう私も戦う意味はないんだけど」
「ああ、そういうこと、確かにそれは他の人間には相談しにくいんでしょうね。1つの目的に絞って生きてきたから感覚が抜けないんでしょ」
そう、夏凜の指摘の通り100億以上の年月を天の神としてあり続けてきたから、私はもう自分が人間であった時の感覚が鈍くなっている。
物事が大雑把にしかとらえられないというか、ピントがずれるというか。
「ま、いいわ、アタシは普通に進学するだけよ」
「……それだけ?」
「それだけよ。何、文句ある」
「いえ、無いけど。ほら、私って、ある程度制限してても神様じゃない。今から何を勉強したらいいのかなーって」
「…アンタの成績は?」
「う、志望校までは届いていません。はい」
あれ? もしかして私がやる事って…
「ふん、分かったみたいじゃない。明日からはまたみっちりと勉強よ。私は…その」
「みんな一緒の高校に行きたいからね」
「友奈! いつから聞いてたの」
「うーん、夏凜ちゃんが私達と一緒に進学するってところから?」
「わー、声に出して言うんじゃないー!」
よし、夏凜ちゃんの興味が私から友奈に移った。撤退しよう。
慌てて夏凜ちゃんの隣から立つと、何故かみんながこっちを見ている。
いや、あたり前か。だって今日は…
「いやいや、夏凜も立派になった。昔は私は貴方達とは違う、とか言ってたのに」
「いつの話だー」
「お姉ちゃん、またそうやって。話が進まないよ」
「おおっと、そうであった。では、改めて、樹」
「え、あ、そっか。じゃあ、夏凜さん…」
ただ一言で良かったんだ。
―――お誕生日おめでとう―――