松永沙耶は神である   作:スナックザップ

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She's quick to forgive

夏凜ちゃんがいない。

 

炎を越えて行ってしまった。

 

私は、私も行かないと。

 

夏凜ちゃんが切り開いてくれた道を進まないと。

 

勇者になれない私に何ができるのか分からない。

けど、行かないと。

 

きっと東郷さんが戦ってる。

 

この世界を、みんなを守るために。

 

大切な友達が大変な時に何もできないなんて……。

 

「そんなのはイヤだ!」

 

ところどころ張り出している部分に足を引っかけながら、巨大な樹海の根っこを昇っていく。

 

「あ、」

 

つかんで部分が折れて、バランスを崩したまま下まで落ちる。

 

「―――」

 

地面にたたきつけられた衝撃で胸の中から空気吐き出される。

 

昇らないと。東郷さんのところへ、夏凜ちゃんも探して。

 

もう一度初めから、別のところをつかんで今度はすぐに壊れないか確認しながら昇る。

 

1歩、2歩、ようやく根っこを1つ越えた時、汗がびっしょりだった。

 

そのまま今度は降り。

 

急いで、でも慎重に。

 

 

 

「ねぇ、どうしてボクの力を使わないの?」

 

目の前に天の神がいた。

 

びっくりして、また足を滑らせそうになったけど、なんとか踏みとどまる。

 

「おっととと。ごめんごめん。とりあえず、下まで降りるんだよね?」

 

私の歩みに合わせるように、フワフワとゆっくりと浮きながら降りていく。

 

「よっと。」

 

ようやく下まで降りられた。東郷さん達は確か神樹様のほうに向かっていったはず。急がないと。

 

「歩きながらでも良いですか? 私、東郷さんのところに急がないと。」

 

少しだけ、天の神は迷うように目を彷徨わせている。それでもため息交じりに、わかった、と答えてくれた。

 

「力っていうのは、前に結界の外に来た時のことですよね。」

「そうだよ。あと敬語はやめて。私は貴方に敬語で話しかけられると淋しい。だから名前でよんで、お願いだから。」

 

敬語って哀しくなるのかな。神様ってたくさんの人から敬語で話しかけれているんだと思ってた。

 

「それじゃ、松永さん、沙耶、沙耶ちゃん」

 

一つずつ呼んでいくと、そのたびにコロコロと表情が変わる。

 

「あの時私と沙耶ちゃんのパンチがぶつかったら、ピカーって全部消えちゃったから。神様の力は気軽に使っちゃいけないんじゃないかな。」

「そんなことないよ。だって、私がいいって言ったんだから。いいんだよ。」

 

小さな子供のような言葉。

 

困った。急がないといけないんだけど、無視するのも何だか可哀そうな気がする。敵のはずなのに、そう、敵なんだったら。

 

「あの!」

「はい!」

 

私の声に打てば響くように返ってくる。

 

「戦い、止めない?」

 

もし、この子が本当に天の神で、バーテックス達のリーダーなら、戦いをやめることだってできるんじゃないだろうか。

例えば、風先輩がどこかの部活の助っ人を頼まれても、どうしてもできないことだったら断ったりすることだってある。

 

本当はこんな場合じゃないって分かる。

 

「それは…できない。例え友奈のお願いだとしても、今は未だその時じゃない。」

 

どこか今までと違って、空気を吐き出すようにそれだけを言った。そして吐き出した空気がずっとそこに留まっているような感覚。

 

「どうして、戦わなくちゃいけないの?」

「戦わなければ私の願いは叶わない。そうしなければ友奈は戦わなかったでしょう?」

 

あれ? 何だろう。今の言い方ちょっと変な感じ。順番がおかしかったような。

 

「思う通りに生きるって言うのは難しい、だよ。」

「神様なのに?」

「神様だから、かな。」

 

そう言うと、ふわりと私の少し前に降り立つ。

 

「何でもできるって言うのは、きっと何者にもなれないんだよ。これ、神様(ボク)が言うんだから、間違いないよ。」

 

そう答えた時には、何か嬉しいみたいにずっとニコニコしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さってと、それじゃ、私に使ってくれた分の時間くらいは帳尻を合わせないとね。友奈、手、出して。」

 

そう言いながら友奈に向かって手を伸ばす。きっとこのまま連れていくことができれば、すごく楽だろう。

 

けれど、友奈は永遠に笑ってくれなくなる。実際やってみてそうだったのだから。

 

だから今回は……

 

「…これでいい?」

 

少し躊躇った友奈の手が重ねられる。そのことに淋しく思うと同時に、東郷の艦に手を引きながら降り立つ。

 

「友奈ちゃん!」

「東郷さん!」

 

2人が駆け寄り、手を取り合って無事を確かめてる。

 

どうして、私はこのままにしておいてあげることができなくなったのか。

いえ、元から決まっていた道を歩いているだけなのだから、当たり前なんだけど。

 

「自分から来てくださるなんて、どういうつもり? 天の神。」

「私を高いところから見下ろそうなんて不遜じゃないかな? 那由多。」

 

東郷さんの艦を囲うように鋼鉄の影が飛び交う。

 

那由多とその仲間たち。ここではない滅んだ世界の残り火。

 

(大赦も那由多達もどうして私が出てきたら突撃してくるかな。大満開で上手くいったのは奇跡そのままなのに。)

 

あれは私もちょっとおかしくなってたし、よそ見運転してたら事故ったみたいなものだ。

結果的には70点くらいの結果だったけど、あの後がちょっとややこしくなったからこうやってやり直してるわけで。

 

「たとえ貴方が私達をこの宇宙を作ってくれたのだとしても、ただ滅ぼされるのを黙って待つつもりはない。」

 

ロボット達から離れた端末のようなものが私の周りを巡る。

とりあえず、ここから離れないと友奈たちを巻き込むかもしれない。

 

「まって、さっきの答え。」

 

友奈の声に、首だけを回しながら答える。

 

「知りたいと願うのも分かるけど、すべてを真実を知ることが常に正しいとは限らないよ。ま、危ないからちょっと行ってくる。」

 

だいたい200mくらい上昇してから停止する。

 

「自分から俺たちの中心に飛び込んでくるなんてなめてるのか。」

 

右側の緑のロボットが私の注意を引くために、わざわざ音声通信でそんなことを言う。

 

「あー、もうそう言うの良いから。さっさと始めれば? ボクはここにいる。」

「……量子レーザーユニットの展開は?」

「終わってるよ。」

「そうか。」

 

さっきまで挑発的な態度だった緑のロボットが静かになると、那由多達が私の周りに小型の無人機っぽい物を浮かせる。

 

「量子障壁展開。レーザー冷却、相空間モデルを再調整。Eプラス0.2、Nマイナス1.7」

 

光の檻に閉じ込められると、急激に私の体の存在確率が低下していく。

 

(体半分だけ存在確率を低下させて、残り半分と泣き別れにさせるってことなんだけど、そんなくらいで死んじゃうなら、とっくに諦めてる。)

 

結局、こんなことにしか仕えなかったことに、ちょっぴり失望を感じながら、私の肉体は消失した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やった? 倒せた? 天の神を……。」

 

何の抵抗もなく天の神は消滅した。

 

量子障壁を構成するレーザー発振が終わり、沈黙の中時間だけが流れる。1秒、1分。

 

私達の世界を、そしてこの世界も滅亡に追いやった存在の余りにもあっけない最期だった。

 

「やったぞ! これで世界ハ?」

 

歓声が途切れて、みんなの機体がいきなりいなくなる。

 

「ちょっと、なんでいきなり地上でワープなんか使ってるの?」

 

呼びかけても何の応答もない。みんなも艦も。

 

目の端に映るバイタルサイン。そこに映る少し上昇した心拍数だけが私がここにいる証みたいに思える。

 

「それはね。私が仮想的に設定しただけの存在だもの。もし、300年前に天災が無かった場合の進歩を想定してね。だから、私がいなくなれば皆消えてしまうの。それが神様の真実だよ。」

 

耳元で囁く声。振り返ることはできない。だって、うしろはシートのはずなのだから。

 

「どこ、どこにいるの。」

 

レーダー。映っているのは勇者たちだけ。バーテックスもいつの間にかいなくなってる。

レコーダー。何も残ってない。

赤外線。私の体温とエンジンの排熱だけ。

 

なにもいないはずだったのに。

 

「ここだよ。ボクはずっとここにいる。だってボクがここなんだから。」

 

視線の先。何もない場所。

 

「あ……」

 

分かった。分かってしまった。

 

「ちょっとした小話。むかし昔、神様という存在をいろいろ考えた人たち。」

 

 

これが中国の神様なら、たくさんいるから、一柱じゃそんなに影響力はない。

これが西洋の神様なら、唯一絶対だから何とでもできる。

これがアメリカの神様なら、復活とか複数に存在したりとかできる。

 

でも、この世界にいた神様は日本の神様だった。

だから、名前があり、言葉があり、そして魂を持っている。

何かを為した者が神様として敬われる。

この世界に森羅万象すべてに神は宿る。

 

「だから、世界を創世したものは世界そのもの。それを消せば世界に存在する貴方達も消えなくてはならない。こんな風にパッとね。」

 

何の理屈もない暴論。でも、現実はその暴論のまま進んでしまった。

 

「だったら、なんで貴方は未だいるの?」

「そりゃ、消したのは貴方の世界だけだもの。友奈達の世界を完全に消滅させるところに行く前に、貴方達の世界が消えちゃったからね。」

 

何の気負いもなく、まるで宿題の答え合わせくらいの気軽さでそんなことを言う。

ううん、事実として神様にとってそうなんだろう。だけど、そんなの……。

 

「納得できるかぁああー!」

 

沸騰した気持ちのまま、レーザーをミサイルを周囲全てに吐き出す。

 

「ダメか…仕方ない。」

 

どこか褪めた声で神様がポツリと呟いて、その冷めた声と反比例するように周囲が白熱化する。

耐熱温度が1億度を越えているはずのプレセべの装甲が瞬時に蒸発する。

 

――みんな、ゴメン。私達が安易に神様を倒せるなんて思わなければ――

 

あれ? 私まだ大丈夫? なんで?

 

 

「ダメだよ。沙耶! こんなの、神様だって言うなら、神様なんだったら、みんなが幸せになれる世界だってあるはずなんだ。」

 

私を背に神の前に立つのは……唯一人。

 

たったひとりの勇者だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「少し、例え話に付き合ってくれるかな? 友奈。ああ、東郷さん達も良かったらどうぞ。」

 

相変わらず友奈ちゃんに親し気に語る。

 

「それは、戦わなければならない理由?」

「ええ。最初は違ったけどね。アリとキリギリスの話を覚えてるかな? 友奈が前に天の神(ボク)のタタリで苦しんだことがあるんだけど……?」

「ちょっとだけ、私がその話をしたことを覚えてる。」

 

友奈ちゃん? いったい何の話をしているの?

 

焦って艦を浮かせながら近づこうとするけれど、いつまで経っても遠いまま。

 

「東郷さん、いえ、あえてこう呼ばせてもらう。三森さん、近づけないのは影響を地上に出さないためだから、流れに逆らって近づかない方が良いよ。もう少ししたら落ち着いて近づけるようになるから。」

 

手を振りながら宥めるような仕草。

 

「どういうこと? 貴方は本当に天の神? 神を名乗るのなら、どうしてこんなことを。」

「まあまあ、もう少し待ってよ。ほら。」

「友奈!、東郷!、2人とも無事。」

「風先輩。」

「樹ちゃん。」

 

これを待っていた? わざわざ敵が来るのを?

 

「夏凜を待っても良いけど…、まあ彼女は十華から聞いてるから始めよっか。私、天の神が世界を滅ぼした理由。」

 

まるで昨日の晩御飯の献立を話すような気軽さで、やや芝居がかかった仕草をしながら、天の神は宣う。

 

「さっき、話しかけたアリとキリギリスの話。それが、そのまま答えだよ。貴方達はその身を犠牲にしながら戦った。何の見返りもなく。そして、文字通り先代から受け継がれてきた滅亡という負債を支払い続けなくてはならない。これって理不尽だと思わない?」

「何言ってるの! そうしたのは貴方でしょ。」

 

風先輩の言う通り。

 

彼女を天の神と認めるなら、四国を残して世界中の人間が死んでしまったのは、すべて彼女の引き起こしたことだ。

 

「そこのところで私に怒りをぶつけるのは正しいし、別に構わないのだけど、私が言いたいのはそこじゃない。なんで貴方達が戦わなくちゃいけないのかってことだよ。」

 

どこまでも真意が読み取れない。

 

「キリギリスの借金をアリがこっそりと返していたとして、キリギリスはまた借金をする。キリギリスはそういう生き物だから。」

「意味わからない。こんな話に付き合う必要は……。」

「同じように犬吠埼風の暴走の対価は結城友奈の満開と言う形になる。ねぇ、これってアリとキリギリスの話に似ていない? あと、もうだいぶ前の記憶戻ってるから分かってると思うけど、東郷三森が壁を破壊する場合もあったんだよ。その時は三好夏凜の4回の散華が対価になった。」

 

それほど大きな声でないのにその声は、天の向こう地の果てまでも響いて聞こえる。

 

そして、幾つもの風景が既視感と共に降ってきた。

 

 

――勇者は満開を繰り返してボロボロになり、いつか大切な友達や記憶を失って……――

 

 

ああ、そうか、ずっと、ずっと昔の記憶。私は真実に耐えられなかった。

 

(貴方の友奈に対する気持ちは、愛情ではなく違う感情を都合よく勘違いしたもの。汝が抱くその名は……)

 

私にだけ聞こえる声で、天の神が囁く。

 

――罪悪感――

 

私の心で何かが落ちる音がした。

 

 

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