松永沙耶は神である   作:スナックザップ

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ようやく西暦の方に戻れそう。


Spiritual beauty

「違う!」

「友奈ちゃん……。」

 

友奈の拳を跳ね上げるように払いのける。

 

「何が違うの? ほら、自分たちで認められないのは、事実だからでしょ。」

 

勝ちたいなら、ここで友奈にも記憶を戻すべきなんだろうけど、正直なところ迷う。

そんなことで友奈との時間を使いたくない。

 

「それでも、東郷さんは私のことを友達だって、だから、私を見て辛いだけなんてことない!」

 

ぐらりと決意が揺れる。

 

今すぐ全部を放り投げて、みんな幸せに暮らしました、とハッピーエンドにしてしまいたくなる。

 

 

――もう良いんじゃない。ハッピーエンドに文句を言う人なんていないでしょ。――

 

 

いつかの自分の独り言。

 

 

だけど……。

 

(私は貴方とは違う道を歩きます。茉莉さん。)

 

 

さっきのは皮肉だ。アリとキリギリスの話。きっと借金を支払うのは友奈じゃない。だからね、友奈。貴方は過去に向き合えるはず。

 

「ひょっとして、自分は違うって、油断してない? 私は結構性癖歪んでるからね。こーんなことだってできちゃうんだよ。」

 

すべての記憶を戻さない。私が好きに切り貼りした真実のモザイク。

だから、ハッピーエンドは自分たちで掴んでね。

 

 

「こ、れ。」

 

「友奈ちゃん!」

 

あ、友奈の意識が切れた。

友奈は意外と繊細だから、俯瞰視点だけで感情までは引っ張られなくても、ちょっとショックだったかな。

 

「むぅ、今回もこれはダメか。っと、これはなんの真似かな樹ちゃん。」

 

できるだけ怖がられないよう丁寧に。この後のこともある。

 

「そんなの、避けられないために決まってるでしょうが!」

 

バーテックスすら覆いつくす大剣が頭上から降ってくる。

 

(なるほど、捕まえるためね。でも、せっかく鏡を使えるのに使い方は理解しきれてないってことか。)

 

「はぁつ!」

 

当然のように大剣の切っ先にヘディングを決める。

 

 

さっき友奈のパンチを払った時と同じように大剣が弾かれ、風さんは勢いで2、3歩下がってしまう。

その間に自分ごと発火してワイヤーに火をつける。

 

慌てた樹ちゃんがワイヤーをひっこめてる。

 

「貴方達の出番はもう少し後だよ。」

 

退きかけたワイヤーをひっつかんでグルグルとハンマー投げのように振り回して、風さんに放り投げる。

風さんが合わせるようにキャッチしたところで、ちょうど超新星爆発を一つまみ。

 

「きゃああ!」

「!?」

 

2人を地平線の彼方まで跳ね飛ばして、こっちはひとまず終了。

 

「風先輩! 樹ちゃん!」

 

三森さんの悲鳴が耳朶を打つ。

 

「とう、ごうさん……。」

「友奈ちゃん。」

「友奈。」

(友奈さん)

 

気が付いた友奈にみんなが駆け寄ってる。戦いに勝ちたいだけなら、ここに大技一発なんだけど、私のこころは別のことを考えている。

 

(良いなあ、私も混ざりたいなあ。混ぜてくれないかな。)

 

「ごめんね。東郷さん。風先輩も樹ちゃんも。」

「何を言ってるの。あれは私達じゃない。私達が辿ったかもしれないただの過去よ。他ならぬ天の神自身が認めていたじゃない。」

「違うの。私ね。初めて会ったとき、東郷さんの力になりたいって、でも、私はなんにもできなかったんだ。」

「そんなことないわ。いつも友奈ちゃんがいつも一緒にいてくれたから、私は。」

 

ゆっくりと友奈が端末を持ち上げる。

そこには勇者の精神状態が不安定なため霊的な経路が接続できない、という警告だけ。

 

「友奈ちゃん、どうして?」

「うん、だんだん分かってきたんだ。きっと天の神は私に神樹様の力でなく、自分の力を使ってほしいんだ。」

 

この世界の私で試した甲斐があった。

 

やっぱり友奈に私の心は共有できている。きっと、天の神としての力も。

 

(これで全身満開なんて無茶はしなくて済む。あとは決着だけ。ここだけは真面目にやるよ。)

 

「これで分かったでしょう。友奈。誰も貴方のことを分かってあげられないし、誰も貴方みたいにはなれないし、なにより貴方も分かってあげられない。だから、全員東郷のことを"暴走"だとしか思えてない。今だけじゃないよ? この後も似たようなことは起きた。」

 

分かって欲しい。でも、気づかないで欲しい。

 

駆け寄って、お疲れ様といってあげられれば、すごく落ち着く。

それでも、私はごめんなさいと謝る事よりも、この世界を破壊する。作られた平和など要らない。

 

「分かってあげられないかもしれない。私は東郷さんの友達だ。だから、ねぇ、東郷さん。今度も私と一緒に。」

「ええ、もちろんよ。友奈ちゃん。だって、あの時の私だって友奈ちゃんと一緒にいたかったわ。」

「まったく、2人とも心配させるんじゃないわよ。もう、急に倒れたり、知らない話しだすの話よ。」

(2人ともおかえりなさい。)

 

後は夏凜が戻って、園子がもう一人の私の意味に気づいてくれれば、一度はボクを倒せる。

それなら、これ以上満開を使う必要もない。

 

「みんなやる気だしてくれたみたいだし、何も言うことは無いかな。」

 

軽く腕を振るって天沼矛を取り出す。

 

「それじゃ、始めよう。」

 

すべてはここから始まり、すべてはここで終わる。

 

「これが私の全力全開。」

 

天沼矛からかつて渾沌を焼き払った熱を解き放つ。

炎よりもなお燃え盛る電子の海。バラバラに砕けていく陽子たち。

 

(ここは助けてあげられない。だから、貴方達の力を。)

 

「みんな行くわよ。」

「はい。」

 

4人全員が変身して私の放った光に立ち向かう。

 

押し寄せる光の波でお互いの貌もよく見えていないだろう。

 

「く、この4人全員で満開しても届かないなんて……。」

 

いや、風先輩そりゃそうですよ。いちおうそれ宇宙全部の質量を熱エネルギーに変換してますから。

 

「そこかぁあああ!」

「お待たせ。わっしー。」

 

一気に押し切られそうになっていた勇者部に寄り添う新しい花の模様。

 

「夏凜ちゃん!」

「まったく、アンタ達は私がいないとどうしようもないんだから。おちおちリタイヤしてられないわ。」

 

「そのっち。ありがとう。」

「ふふふ。どういたしまして~。ひっさしぶりに行くよー。」

 

夏凜と園子まで来てくれたか。だけど、たった6人で既知宇宙すべてと釣り合うことはできない。

少しずつだけど、神樹様の方に押しこまれてきている。

 

(そろそろかな。友奈貴方ももう分かっているんでしょ?)

(分かってるよ。それでも、私は友達のことを見捨てたりなんてしない!)

 

「……友達? 私だってそんなこと。ずっと……。」

 

思わず声に出てしまう。

 

音を言葉として拾うのは一瞬。瞬間的にその意味を理解できることを知っていたのは1人。私がずっと望んでいた答え。

その言葉に気をとられたのは一瞬。その瞬間に光が収まると知っていたのは1人。私の癖を知っている人にしか分からない死角になる場所。

どの言葉でも無く一瞬で選んだのは友奈だから。理解できた瞬間に動けたのはもう1人。きっと彼女も私ならこうすると思ったんだろう。

 

「だから、今度はちゃんと止める。」

「お願い友奈ちゃん、私達の世界を。」

 

光を裂くように花が咲く。

光と花びらが舞う中をまっすぐに友奈が飛び出してくる。

 

けど、そんな程度の力なんて、もう一度天沼矛を振るえばすぐに落とせる。落とせるはずなんだけど…。

 

「受けて立つ。結城さん。ボクはもう人の世には戻らない。」

「戻らなくたっていい。どんなにすごい力を持っていたって構わない。」

 

結城さんを迎えるようにクロスカウンターを構える。きっと彼女は避けない。彼女は来る。私は彼女が向かってくると信じている。

 

「私は、讃州中学勇者部、結城友奈。」

 

今、この肉体でできる最もふさわしい一撃を。

 

「とどけぇー!!」

 

目前まで友奈の拳が迫る。

 

よくここまで来てくれた。最初は御姿になることなく永遠に眠りについた友奈。

 

それが皆の助けを借りて、本当に何度も私の繰り返す世界でも諦めずにここまで。

 

―だからこそ、ここでは負けられない。―

 

 

「「おおおおおぉぉ」」

 

すでに勇者でも神でもなく、ただ人の子として、お互いの拳を振るう。

 

鈍い衝撃が頬を貫き、300年ぶりかの痛みを感じる。

互いの拳が斥力のように2人の距離を空ける。

だけど、その前に……。

 

「ボク一人で行くわけじゃない。キミも一緒に連れていく。友奈!」

 

天の彼方が開く。

 

これで、今度こそ友奈を連れて天に戻れば、すべてが始められる。

 

天沼矛がそのすべての力を放出して爆発する。

これで誰も追ってこれない。

 

「ああ、私は、ボクは、貴方を見ることができる。」

 

繰り返す歴史通りに友奈はしばらく眠るだろうけど、きっとすぐに三森さんが起こしに来る。

今度は前みたいに、有限の時間じゃない。

 

――時間補正。誤差修正不要――

 

――CPT対称性誤差修正。問題なし――

 

――観測限界。すべて無限遠まで延長――

 

――量子ゼノン効果による時間停滞。確認――

 

――粒子運動捕捉。終了。

 

――時間断面をレイヤー化。1層目、積層完了。続けて2層目――

 

――位置情報断面をレイヤー化。1層目。積層完了。続けて2層目――

 

――エネルギー断面をレイヤー化。1層目。積層完了。続けて2層目――

 

 

「さあ、始めてくれい。神樹様。かつて勇者たちに試練と称して作り出した仮想世界。時代を超えてみんなをここへ!」

 

今度は前とは違う。

 

かつて雪花が心配したような、神樹様の力不足で終わらせなければならないということは無い。力なんて押し売りするくらい余ってる。

若葉が拒否したように、元の世界のみんなを心配する必要はない。すべての時間断面を積層化してあの世界に引っ張って来ればいい。ボクにはそれができる。

敵がいないのにそんな歪めた世界ができないというなら、いくらでも成って見せよう。

 

だから………

 

「今こそ私達(ボクたち)の願いを叶える時ぃ!!」

 

ここからだ。ここから結城さん(友奈)私達(ボクたち)が同じ時を生きることができる。

 

同じ場所で生まれ、同じ時を生きてきたはずなのに、いつの間にか違う場所にまで歩み続けてきた。

 

これからは先は幸せにするから。

これまでのこともいっぱい話すから。

 

だから……。

 

「それでも、私は貴方と同じ場所には行かない。」

 

惚けてしまう。ただ、唯、口を開けたままで何も考えられない。

 

言葉が思い浮かばない。

 

「だって、だって、みんな幸せになれるよ。友奈だってその方が良いでしょ。ああ、そっか、東郷さんが昔の友達と仲良くするのが気になるんだね。大丈夫だよ。それでも東郷さんは友奈のことを…」

 

早口でペラペラと思いついたことを不安と一緒に吐き出していく。

まるで壊れたラジオの雑音みたいだ。

 

「違うよ。」

 

あれ? おかしいな。友奈のことなのに間違えた?

 

「あ、だったら、あれだ。そう、テスト! テストが気に成るんでしょ。大丈夫、私もそんなに成績良いわけじゃないけど、得意分野は友奈とバラバラだからね。教え合いっこすれば…」

 

友奈は謙虚だらかなあ。

でも、友奈もちゃんと勉強すればそこそこ良い点数が出ることを私は知っている。何だったら、未来予知を山勘として電波送信すれば…。

 

「わからないの?」

 

おかしい。友奈が怒っている?

 

「だ、大丈夫だよ。なんだから分からないけど、大丈夫なの。ボクは神様なんだ。神様になったんだ! 何だってしてあげられる。この世界だってボクが作ったんだ。だから、だから…。」

 

なんで? なんで分からない? 未来は見えている。

神樹様は練と称して、いろんな時代の勇者を集める。

私がキレて現実で侵攻を再会しない限り、それは順調に進むはずだ。中立神も止める理由はない。

 

それなのに友奈の心が読めない? 未来は間違ってないのになんで? どうして?

 

「友奈、落ち着いて。と、とにかく私は友奈に幸せになって欲しいの。だからそのために世界をより良く変えるの。変えられるんだよ。」

 

死者は復活しないとか、過去は変えられないとか、人間の尺度で凝り固まった倫理観なんて気にする必要はない。

だって、世界の創造主が良いと言っているんだから、良いことに決まってる。

 

「そんなことしなくても良いよ。だって私は今の世界で幸せだから。」

「今は、でしょ? 10年後は? 20年後は? もし、東郷さんが事故とか病気でいなくなってしまったら? イヤでしょ?」

 

まるで凪のように落ち着いた元気の欠片も無い友奈の表情。どこか慈しみをもった淋しそうな微笑み。

誰だ? 友奈にこんな、こんな表情をさせているのはなんだ?

 

「大丈夫だよ。10年後でも、20年後でも、もし、私達の歩く未来が一緒じゃなくても。」

 

戦いはもう終わると言うのに、永遠に続く日常さえ可能なのに、どうして?

 

 

「だって、そんな風にみんなの未来を失くしちゃうことは、何かを間違ってるよ。」

 

――誰かが間違ってると言った気がした。――

 

 

ずっと間違えていると言っていたのは友奈だったのか。

私の知っている私の中の友奈がこんなことは間違っていると言っていたのか。

 

なるほど、ならば間違いは速やかに正さなくてはならない。

 

「現在時間平面での全ての進行状態を保存。量子ゼノン効果による停滞はそのまま続行。」

「沙耶? 待って、なにも無かったことになんてならない。」

「ええ。それは十分に分かった。だから、間違いを修正するの。過去に戻って。だからこの時代とは少しお別れ。」

「違うよ。間違いはそうじゃなくて……」

 

友奈の声をもっと聞いていたいけれど、やるべきことをやり終えないと。

大丈夫、またすぐに会えるよ。

 

巻き戻しのように戻す必要もなく、パチンと切り替える。

 

300年前、私が一度死んだあの日にまで。

 

 

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