松永沙耶は神である   作:スナックザップ

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今回は舞台変更だけだから短め。
ある程度まとまったほうが良かったかも。


神世紀300年10月1日

手を伸ばそうとした友奈が不自然な姿勢のまま停止する。

 

樹海の中でさらに時間停止するなかなか見る機会がない光景。

 

この世界も私が実行しようとしたことは問題なくできている。それなのに一体何が間違っているのだろう。

 

このまま進めば、いつも通り友奈が勇者たちの想いと魂を引き継いだ大満開で私を倒せば、ハイ、おしまい。

 

(そのはずだったんだけど、その後もみんなお手伝いでは済まないレベルで大赦に関わり続けるんだよね。)

 

特に園子さんは高校生あたりの年齢で大赦のトップと言っても差し支えない。

そんな歪みを許容するしかない世界をハッピーエンドでしたと思い込んで、次の世界に進めるわけがない。

 

樹ちゃんだけは歌手になるという夢に近づきつつあるけれど、他の人たちは程度の差はあれ大赦と言う組織に関わる。関われてしまう。

それは悪いことだけじゃないけど、選択の余地がなかったのも事実。

 

「私はそんな未来を望まない。友奈の未来に世界の命運なんて必要ない。私がいるのに人間が危険を冒す必要なんてない。危険もない。驚きもない。特別なこともない。平凡で、平静で、平和な世界なの。」

 

那由多がもともといた世界だってそう。アルや十華の存在はこの世界の分岐であり得るけれど、確たるものにするには私が手を出した方がいい。

 

すべては私が天災を起こす前の状態で、尚且つ、友奈が無事である世界のため。

この世界がちゃんと進まないと私も進めない。安心して大赦に、そして人間に任せられない。

 

これは神様の視点の話だ。だから、唯の中学生としては知らんふりだってできる。

 

それでも、だ。

 

「知らんふりなんてできるわけがない。だって大変なのは友奈たちなんだから。ずっと前の世界のことで、今は何にも聞かれない声でも、誰も語ることない話でも、私はイヤなんだ。」

 

大赦は頼りならない。

 

今までも何度となく手を入れたりしてきたけど、人間の作る国や組織は100年もすればおかしくなる。

平穏にあっては混乱と自由を求め、混迷にあっては平和と秩序を守ろうとする。

必要なのは人の心を改良するほうだ。100年でも、1000年でも理念を曲げず、それでも、時間の流れに合わせてより良く進歩できるような、私の名代として世界を管理させるために。

 

 

那由多たちを引っ張ってきたのも、大赦の補完的な役割を担ってほしかったんだけど、何故か彼らはこの世界に羨望から転じた嫌悪に近い感情を持つ。

ここ数回の結論としては、持たざる者が同じ境遇から持てる者となった他者への感情なのかもしれない。

 

「となると、やっぱり、次はアルに任せるかな。」

 

でも、その前に今回失敗した要らなくなった世界を滅ぼしてきれいにしておこう。

 

まばたき一つで視点は変わる。世界の外側。

20世紀の怪奇小説が描いた外宇宙よりもさらに離れた場所。

 

凍り付いたままの十華が目の前にいる。

 

この子も、とうとうここまでたどり着いたんだよね。

 

残念ながら、かつての渾沌に代わりここに敷き詰めていたのは秩序。

渾沌は私がすべて燃やしてしまったから、私を倒さない限り世界を元には戻せない。

ボクを止めるために私を倒すなんて、矛盾以外の何者でもない。

 

(ん? 矛盾してないような気がする。…まさかね。今、動いているのは私だけだ。)

 

一度頭を振って、雑念を払う。

ポケットから小さな取り出したビー玉くらいの球を宙に放り投げる。

 

ぐんぐん見る間に成長した球が美しい星空を模した天球儀に変化する。

 

もとは玩具に過ぎなかったこれも、私の手で世界となったもの。

撫でるように触れると、砂細工のようにサラサラと崩れていく。

これで、私が直接友奈たちの前に姿を見せた世界は終わり。

 

通常通り謎めいた天の神のまま。

那由多もあんまり役に立たなかったから、今回は元の通りにして、十華はそのままでも良いかな?

 

那由多がお休みで、アルと十華だけ残してた世界って今まで無かったよね。

 

ということは……。

 

 

「さ、もう一度世界を作らないと。」

 

やる事は簡単だ。あの時最初にいた名前も知らない元創造主を葬り去った時と同じ。

別の平行世界から複製した世界を、接ぎ木のように新しい天球儀として稼働する。

 

何度もこうやって世界を滅ぼしては作り直してきたのだから、今となってはできて当たり前。

 

昔はできなかったことができるようになる。

これは成長の証。

 

だから、まだ大丈夫。まだ私はあきらめない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

新しい天球儀を取り出してもてあそぶ。

 

奇跡を使って、私の意思を組む人間を混ぜて、神世紀を望む方向に向けようとしたけど、

やっぱりというか当然というか大赦の本質が変わらないから、めぼしい変化はなかった。

 

1度やりすぎて天の神教団みたいなものができたけど、テロを起こして潰されてしまった。

どうも人間と言うのは、誰かのためにはどんなにおかしなことでも平気でできるみたいだ。

 

上手くいっても友奈が私を倒して平和になるくらいまでで、その後は混乱の後始末に友奈たちが走り回る結末。そして最期には…。

 

友奈それで満足だと言っていたけれど、私はそれを許容できるほど心が広くはない。

 

宙に浮く立体映像のような風景を見渡す。

どの時間軸からやり直すべきなんだろう。

 

那由多と十華は、なんでか私を倒すために友奈たちを巻き込む事が多い。

これは私が友奈に執着しているために起こっているから、修正が難しい。

 

本当なら本命のアルを使いたい。ただ、アルは友奈達を巻き込まない代わりに、私を倒す動機がない。

 

戦うだけなら、4才から殺し合いを続けて、私が始めに使っていたのと同じ素粒子変換を使っても、自我に影響を浮けなかった希少な存在。

恐らく人間が考えつくような望みなら叶えられる。そう、例え死者を蘇らせるような真似であったとしても。

 

さて、弥勒さん。貴方ならアルを使ってどうする。自分の望みを叶えるのか、それとも……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうしても許可を頂けないでしょうか。」

「大赦の機密に関わることです。今回集合してもらった候補以外の外部の人間をゴールドタワー内に入れることはできません。」

 

秋が近づきつつあるとは言え、まだまだ暑い日にダークグレーの執事服とは、アルもやるなあ。

 

「もう、そんなに心配しなくても大丈夫ですわ。アルフレッド。」

 

後ろで黙っていた亜麻色に近い金髪の少女が、アルを声を止める。

 

「しかし、夕海子お嬢様。」

「そんなに神官さんを困らせるべきではありません。」

 

仮面の神官。安芸さんは表情は読めないものの頭を振るような仕草で否定の意思を伝える。

 

「いいえ、確かに心配したくなるのも分かります。ですが、これは神樹様の御意思なのです。」

 

夕海子さんがアルの一歩前に出ると、くるりと振り返る。

 

「さ、お見送りはここまでですわ。アルフレッド。帰って、お父様とお母様にもお伝えなさい。」

 

夕海子さんにここまで言われてしまっては、アルも反論できない。

 

「分かりました。お嬢様。くれぐれもご無理はなさらないでください。何かございましたらすぐにおよび下さい。例え次元の果てでも2分以内に駆けつけます。」

 

いや、アルってば、貴方が言うと洒落じゃなくできるからね。

 

「では、お嬢様、神官殿、申し訳ございませんが、こちらの荷物をお受け取りください。大変重いものですので、十分にご注意を。」

「まったくアルフレッドは心配性ですわね。こうやって受け取れ…って、重っ!!」

「ああ! お嬢様。お気を確かに!」

「気は確かですわ。あと、それはこういう時に使う言葉ではありません。」

 

なんか、ギャーギャーと主従でやってる。

 

アルってば、高天原にいた時とキャラ変わってる。いや、知ってたけどさ。もう別人だよ。

 

何とか体勢を立て直してテーブルセット&ティーセットをもった夕海子さん。

重ね持ちしてるけどよく持てるな。あれ。

バラン崩れないんだろうか?

 

2人がゴールドタワー内に門をくぐると、アルから表情が消える。

 

「主なる神よ。何故こちらに?」

 

おっと、高天原見てるからアルには見えてるんだった。

 

「気にしないで、上手くやってるかの確認だから、今のは演技?」

「演技ではない。ただ本当に人間には重そうだから心配した。主従とはそういうもの。」

 

なるほど、自分のお姫様時代を思い出し始めてるんだ。

 

「そっか、今の生活に不満がないなら続けてくれるかな? 十華と那由多は私から離れちゃったから、アルが失敗すると、今度はだいぶ過去に戻ることになるからね。」

「承知した。だけど、私に与えられた使命はお嬢様にお仕えするということだけで、特別なことは何もない。それでもよろしいか。」

「問題ない、問題ない。人の世を救済するものが、人間のこと知らないんじゃ困るでしょ。だから貴方達3人にはそれぞれ動いてもらったんだよ。まあ、2人は失敗しちゃったんだけどね。」

「そう、仕方ない。」

 

そう、アルの言う通り仕方ない。

 

人にはそれぞれ自分の意思がある。私はそれを許容すると定めたのだから。

 

「さて、それじゃ、しばらく私は見物させてもらうよ。防人達が何を守るとするか、しっかり見て、そして考えてね。」

 

しばらく友奈たちはお休み。防人達がどう動こうとも運命は変わらない。変えられない。それは遥か過去の物語のように。

だからこそアルが人を学ぶには最適。どうせなにも変わらない部分なら多少触っても、それこそ問題ない。

 

「では、私はこれで。まだ主命があるので。」

「うん、お勤め頑張ってね。」

 

アルに短く返事すると別れる。

 

(あ、何だろう、これで本当のお別れみたいな感じ。気のせいかな?)

 

首をかしげながら、少しずつ地上を離れる。

通り抜ける空もいつも通り焔の色を映していた。

 

 

 

 

 

 

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