原作からして登場人物多い話だし。
※23/10/9 一部乱丁・脱字みたいになっていたところを修正しました。
Debt is better than death
この光景が繰り返されるのは幾度目になるだろう。千は越えていると思う。
それでも、数億繰り返した内では、防人達にフォーカスしたのは1%未満。
アイツは、天の神となった別世界の私は何を思い、防人たちを見ていたのだろう。
無駄なことを嘲笑ったのか。健気なことだと感じ入ったのか。それとも、無関心にただ見つめていただけなのか。
枯れた樹皮にも似た灰色の壁。
海上に浮かびつつも、大破した瀬戸大橋を除く、しまなみ海道の多々羅大橋と淡路島を通る大鳴門橋で地上部分を通過する巨大な壁。
四国覆い私達を守る結界。
ほんの一月前までそう思っていた。ううん、実際今も神樹様は私達を守ってくださっている。
けど、私はどうだろうか? 守られている存在なんだろうか?
天の神を名乗ったもう一人の私。
あれと接触したせいで、知りたくもないことをイヤほど思い知った。
この世界だって、みんなが気づいていないだけで何度も消滅と生成を繰り返し、
一番回数が多かった世界線を下敷きにコピペしてきただけ。
そう、まるで
あんなにも気軽に、玩具のように世界滅ぼす敵。
簡単に消滅して、次の瞬間すぐに生成されるから、きっと本当の意味で命が分からなくなってるんだ。
終わりがあるからこそ、人は1回きりの人生を真剣に生きる事が可能。
もし、終わりもなく何のデメリットもなく、思うがままに結果を思考錯誤できるなら、それはもう人間じゃない。
死ぬことすらも死ではなく、例え神様がいたって同格の存在をぶつけて消滅させる。
実際そうやってずっと前の世界で神様を奪い取ったんだから。
(勝てるわけないじゃない。あんなの。今までも何億もの平行世界の私が止めようとしてできなかったんだから。)
アイツには互角とか対等とかいう概念が通じない。
無限の出力を等分しても、倍増させても、ずっと無限のまま。
やるのだったら、1か0で完全に失くすか奪い取るかしないと勝てない。
そんな方法あれば、だけど。
私を含めて三十三名。勇者以外の唯一の戦力。防人。
こんなもので一体何ができるつもりなんだろう。
亜耶の祝詞と秋の清々しい空を恨めしく見上げながら、私は重い足取りで船に昇った。
こうして、私、松永沙耶は天の神となった別世界の私との対決を避けられなくなった。
焔よりもなお高く、神樹様の加護を頂いた木造の船が宙を行く。
(私も雀ちゃんみたいに盾が良かったな。盾の後ろでプルプルしていれば良いだけなんだし、なんで鉄砲なんか担いでるんだろう。)
両親は神樹様のお役目と聞いて名誉なこと言っていたけど、実のところ大金を積まれたんだろう。あの人たちは神世紀に有るまじきそういう人たちだ。
(そう言えば、アイツの親の記憶とか住んでいた場所とか全然出てこなかったな。結城さんと友達になった時の記憶もハッキリしないし、なんでだろう?)
目的、天災をおこなさないと友奈因子の引継ぎがなくなって、結城さんが生まれてこれないとか、世界の重要な情報は繋がった時に理解できたのに、
動機、何故結城さんに拘っているのか分からない。そもそも高知から出たことない私がどうやって香川に住んでる結城さんと友達になったんだ?
「来る。銃剣隊構え、撃てー!」
隊長―楠さん―の声に思考を中断される。慌てて天の神から零れ落ちた力を叩き起こす。
急に周囲の動きがスローモーションのようにゆっくりになる。
実際は私の時間が10倍に加速している。もちろん相対的に周りは遅くなるんだからどっちも正しい。
(といっても、10倍程度だと、落ち着く時間くらいしかないんだけどね)
それでも、余計なことを考えていたと怒られることくらいは避けられる。
それで、バーテックスは……。
いた!
楠さんの視線のはるか向こう。
1000体は越えていないだろう星屑の集団がいる。
(良かった星屑か、出遅れた分ちゃんと当てないと特訓コースなんて冗談じゃない。私は筋肉なんかつけたくないのっと!)
まるで金縛りにあったかのように体が動かない。
相変わらず水の中を歩いてるみたいに体が重い。
時間が加速するということは空気や水の抵抗もその分強くなる。
やっぱり思考だけの加速しかできない。まあ、こんなことで貴重な時間を使いたくないから良いんだけどね。
未来予知で10秒後の星屑の位置を確認して加速状態を終わる。
落ち着いて、まずは確実に、楠さんの言う通り訓練通りにやればいい。
でも、大赦も私がとびぬけた能力なんて無いってわかってるはずだ。
こんな程度の加速と予知じゃ、アイツに、天の神には絶対に及ばない。
それなのに、私は大赦に命じられるまま星屑と戦い始める。
(あれ? 全然弾が少ない)
十七の銃火ではなく、全部で10ずつくらいしか銃火が飛んで行ってない。
よく見ると、みんなバラバラに銃撃をくりかえすだけで狙いも統一されてないし、敵の進撃を留めるというよりそれぞれが勝手に攻撃しているだけだ。
(まずい、これじゃ船に突っ込まれる)
「護盾隊、防御!」
楠さんの声は落ち着いていて、想定外の銃火の少なさも作戦みたいに聞こえて安心する。
構えた盾に沿うように緑の淡い光が私達を覆い、星屑たちの体当たりを阻む。
けれど、気持ちだけでは持たない時がすぐに来た。
「きゃあああ」
何度も繰り返された星屑との衝突で疲労が重なったのか、護盾隊の一人が跳ね飛ばされて、カバーに入った銃剣隊の一人が逆に防御の外側に釣りだされてしまう。
星屑たちは知性は無いけど知恵はある。アイツに情報だけは湯水のように与えられているから。
アイツならどうする? これも罠?
私が思考するうちに飛び出す影。
「楠さん!」
誰が叫んだのか、悲鳴のような声にも振り返らず、
(本来は採取用の道具だけど、これなら短時間天の力にも耐えられるはず。)
ありったけの時間を圧縮して無理に
アイツの知識を間借りして、本来外の世界の土壌をサンプリングするための道具を、時間を停滞させたマイクロ結界に作り変える。
バーテックスを倒すには力が少なすぎるけど、注意くらいは引けるはず。
思い切り星屑に投げつけようとしたところで、星屑の山から楠さんが飛び出してくる。
何度も何度も、途中で追い付かれながら、それでも抱えた仲間を放そうとしない。
そんなに仲間思いじゃないはずなのに、ただ自分の評価を下げないために命をかけるなんて正気じゃない。
私は今まで通りの日常に戻りたい。
家族は微妙だったけど、学校には行きたいし、友達と喋っている時は楽しい。
元は同じ人間でも、平行世界よりも遠い存在になってしまった天の神のことなんて、私は知らない。
世界を救うだの、みんなを守るだの、それこそどこかの才能あふれる勇者がやれば良いんだ。
だから……。
「こんな無駄なことは終わらせる。」
カチンと火花が散るようなイメージとともに、もう一度時間加速をかける。
さっきみたいな補助じゃなくて、本気で敵を倒すために。
時間加速したまま、物体を動かせば加速された時間の分だけ運動エネルギーが増加する。
早く動くということはそれだけで力になる。
加速された力は爆発的に増加し、たったそれだけで私自身が星になったような重力を発生させる。
横を通り過ぎる時に雀ちゃんの襟首をつかんで、ちょうど盾を前にした状態のまま楠さんたちに追いすがる星屑たちへ投げつける。
恐らく、私達の持ち物で雀ちゃんの盾が一番硬い。それを体感10億倍の時間加速で放り込んだから、あと少しで青方偏移が生じるくらいの速度になる。
運動エネルギーでいえばマグネチュード7の地震を雀ちゃんに込めて打ち出したような状態。
当然あとで雀ちゃんは回収するけど、これなら星屑くらいは蹴散らせるはず。
「ギャー、すぐ死ぬ、今死ぬ、もう死ぬーー!」
「大丈夫、私が受け止める。」
横を並走しながら声をかける。
「へ? って、ぶつかるーーー!」
もうぶつかってるけどね。
雀ちゃんが盾から突っ込んだ衝撃で数百体程度の星屑たちが跳ね飛ばされて、楠さん達の退路が確保される。
「よっと、帰るよー。雀ちゃん。」
「頭が回るー、目から星が飛ぶー。」
ふらふらの雀ちゃんを抱えて、もう一度時間加速を起動する。
チラリと後ろに目をやると、跳ね飛ばされた星屑は原型を留めている。
(やっぱり、物理的な衝撃じゃ雀ちゃん砲弾でもダメなんだ。地球を貫通できるくらいの威力を出さないと効果ないのかな。)
「貴方、勝手に隊列を離れて。それに今のは一体何?」
「ごめんなさい。でも、お説教は後にして帰らせて。ほら、雀ちゃんもしっかり。」
雀ちゃんは五体満足。盾から突っ込んだだけだから傷一つない。
「いいわ、後にしましょう。全員撤退。元気な人たちは羅摩の運搬と負傷者に手を貸して。」
そこで、芽吹が一度言葉を切って、全員を見渡す。
「帰るわよ。全員で。」
みんなの顔に安堵が満ちる。
私も返事を返そう。
「は~い、そ…!?」
ゾクリと、氷柱を背中に入れられた時と同じような感覚。
アイツ……いえ、3人の使徒の誰かがいる。
どこ? どこにいるの?
「うう、頭がくらくらするよ。酷いよ。本当に死ぬところだったよ! ちょっと聞いてる?」
正気づいた雀ちゃんに構っていられない。
「黙れ。」
「ハイ、すみませんでした。」
できるだけアイツを真似て、短く呟く。
脅しつけてごめん。後でなんか埋め合わせするから。
雀ちゃんから意識を放すと、もうアイツの気配は消えていた。
何だったんだろう? 結界の外だからって、私も神経質になってたのかな?
首を傾げながら、慌てて芽吹の指示通り神経質なくらいに整列して、私達は最初の壁外調査を終えた。
次の壁外調査任務はなんと2週間も間が空いた。
結局芽吹が助けた子と、バーテックスに跳ね飛ばされた護盾隊の子が去ってしまった。
他にもその様子を見て心が折れた子が2人。
合計4人の補充と訓練に時間が美つようだった。
(ただでさえ役立たずの私達がさらに質を下げてどうするの? それくらいなら補充なんて考えずに一気に投入すればいいのに。)
予備を残すかどうかは戦略を考えるうえで難しい判断になる。
ただ、今回は予備を残してどうするのか分からない判断に思えた。
終わったことを言ってもアイツみたいに過去を変える訳にもいかない。
今回は羅摩を手にそそくさと土壌サンプリングに回る。
あの後、芽吹のお説教と大赦の査問で酷い目にあった。
もう一度私を炭素凍結すべきか議論されていたらしい。
結果は様子見。
仮にも防人の仲間を助けたということで敵対敵でない、というのが恩着せがましい大赦の通達。
でも、実際は危機的状況であったにもかかわらず私が発揮した力が、天の神と比較して低すぎたためにもう少しデータを取りたいってところだろう。
少なくともテレパシーで見える表層だけ読んだ感じだと、安芸先生はそう考えているみたいだった。
(でも、大赦の本命は私のクローン人間部隊、神人計画のほうだんだろうな。)
結城さん達の戦いで大赦はレオ・スタークラスターの存在を知った。
もう、体の機能を捧げる満開でも必ず倒せるとは言い切れない難敵。
そして、勇者になれるのはごく一部の上、勇者を増やせば神樹様が勇者に与える力は分散され、1人1人が弱くなってしまう。
けれど、そこで私が現れた。天の神自身に直々に明かされた
最後の戦いの後一度世界は滅ぼされたけど、何故かアイツはその記録については消去せずに、適当に私を放り込んで歴史を改竄した。
不整合だらけなのに、誰もそれに気が付かない。
それこそが頂点・線分・面積・立体・場所・時間・可能性…etcと無限に続く可算な次元で見続ける限り、アイツのやるようなことは認識できない。
アイツの広がりは次元で考えられる段階さえ越えてしまっている。だから改変されても滅ぼされても気づくことさえできない。気づかなければ抵抗さえできない。
勝負や対策は同じ次元上にいるからこそできる。そもそも次元という考え方の土台さえ違う。アイツをどうにかする方法なんて存在しなくなって久しい。
それなのに私達は未だに剣だの銃だのを武器として使っている。
いくら、私が訴えても大赦の誰も叱る事すらできず、不思議そうにするだけだった。
だから、私も何もしない。ただ、今をやり過ごせば良い。
どうせ、私がしなくても誰かが勇者になる。知らないうちに終わってる。
そして、私が気が付かなくて良い。アイツは結城さんに構ってほしいだけなんだから。
今回の目標分の八分目が終わったあたりで星屑の気配を4km先に感じる。
(バーテックス本体は出てこないだろうけど、進化体くらいはでてくるかな。)
でも、私には関係ない。だいたい私には無理。アイツと私は違う。
みんなでさっさと逃げかえればいい。
今いるのは旧・中国地方。
もう少し進めて日本海側の出雲に抜けられれば、いろいろ手に入るんだけど、運搬手段も移動手段もかぎられてる。
だいたい私以外は宇宙規模の結界を越えられない。
(いっそ、天の神の力を使って新しい勇者を任命したりできないんだろうか?)
相手の武器を鹵獲して使うのは人間同士の戦争ではよくやっていたって言うし、天の神が力の流出を今まで通り放置するなら、できそうな気もする。
ただし、今度は勇者にふさわしい人間がいないんだけど。
「よし、採取完了っと。えっと山伏さん。」
「ん、こっちもおわった。楠。」
密集陣形の中心にいる芽吹に隣の山伏さんが声をかける。
今までの歴史通りなら、そろそろ山伏さんのもう一人の人格・シズクが目覚める事件が起こる頃だ。
「終わったみたいね。撤退開始。」
今日は違ったみたい。
ふわり、と花が香るくらいの自然な感じで、また天の神の気配。
でも振り返った先にいたのは……。
「ぜぇー、はー、ぜぇー、はー、ふふふ、今回のお役目も、実に簡単でしたわ。あまりに歯応えが無さ過ぎて、すぅー、はぁー、居眠りするところでしたわ。」
「すごく息切れしてるんだけど、しかも、傷だらけ。」
「うるさいですわね。雀さん! あなたの眉毛を千本くらい抜いて面白い顔にして差し上げますわよ!」
「うわわ、ごめんんさーい。」
文字通り脱兎のごとく雀ちゃんが弥勒さんから距離をとる。
(気配のもとは弥勒さんか、でも弥勒は弥勒でも、ご先祖様の蓮華さんならともかく、今の弥勒家にアイツが手を貸すのかな?)
さすがに近未来予知だけじゃアイツの行動までは読めない。
ふざけたことばかり言ってるやつだけど、天の神であるのは真実だ。
「あああ!」
「雀、今度は何!」
「あれ、あれ、なんかいっぱい集まってる。あれ絶対良くないやつだよ!」
ああ、撤退タイミングで緊張が緩んだタイミングで来るのか。
そこにいるのは進化体。
かつて西暦の時代に勇者たちですら苦しめたバーテックスへの一歩目だった。
近くにいた護盾隊の子が慌てて盾を展開する。
けど、角持つあの巨体はタウラス型。
「きゃあああ!」
あっさりと盾ごとその子は吹き飛ばされる。
慌てて加速で地面にたたきつけられる前に受け止める。
なんかこんなの多いな。
吹き飛ばされた衝撃で気を失っているけど、息はあるし骨折とかもしてない。これなら大丈夫。
「なにあれ、何あれ、ナにアレー!! 死ぬ、死ぬ、死ぬー! 今度こそ死ぬー!! もうダメだー。おしまいだー!」
正面から受け止めるのは不利だ。
横合いから攻撃しようと、叫ぶ雀ちゃんに手を伸ばすけど、唯空を切るのみだった。
「ちょっと、なんで逃げるのさ。」
「イヤだよ、逃げるよ、避けるよ。だって、また私をあれに投げつける気だったんでしょ!」
「それが一番確実なの。あなたの盾が一番堅いんだから、私の加速で押し出せば倒し切れなくても、逃げるくらいの時間は稼げる。」
逃げ回る雀ちゃんに叫ぶ。
実際それがみんなで生き残る最善、だと思う。
でも、もう時間もあんまりない。
逃げ回る雀ちゃんを砲弾代わりにすることをあきらめて、銃撃を繰り返す。
(ダメだ。威力が弱すぎる。)
剣でないと進化体相手でもダメージも与えられない。
「この、どきなさい。」
芽吹さん達が星屑を倒しながら、追い付かれた私達後続組を助けようとしてくれるけれど、間に合わない。
「まずい! 山伏さん!」
こっちに注意を引いて、山伏さん達が退く暇くらい作らないと。
加速度をあげて思い切り斬りつける。
逆に私の銃剣は根本から折れて、銃としても剣としても使えなくなる。
(まずい、武器がない。)
後悔先に立たずとはこういう時に言うのだろう。
やっぱり強度が足りなかった。
けど、進化体は私を無視して、座り込んで動けない様子の山伏さんを一飲みにした。
違う。着地点は見事に進化体の大角の位置。
最初から空中で体勢を変えられない私を後回しにしたんだ。
バタバタと空中でもがく。
けれど、未来は変わらない。
為すすべなくもう一度進化体に跳ね飛ばされた私は、せっかく視界の隅に飛び出した白刃を捉えたのに、そのまま意識を手放していた。