松永沙耶は神である   作:スナックザップ

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I’ll pray for you

「暇だ~。なんで芽吹さんはいっぱいお見舞い来てたのに私は誰も来てくれないんですかぁ~。安芸せんせぇ~。」

「結界の外の焔が強まっています。戦衣の耐熱性能を超えるほどに。こえは貴方が知る記憶通りですか?」

「わっ。教師にスルーされたぁ。」

 

口調と裏腹に病室の空気は氷点下を思わせる。

軽口を叩きながらも相手の出方を探り、あっちをつつき、こっちをたたき。

 

止めよ。

 

たぶん奉火祭だろう。

 

防人に来たばかりのころの私だったら放っておいたんだろうけど、今の私は違う。

 

「ダメですよ。奉火祭なんて。そんな貴方を見たら3人に会わせる顔がないでしょ。」

 

雀ちゃんが持って来てくれたお見舞いのミカンをほおばりながら、できるだけ軽い感じで打ってみる。

 

「それは彼女たちが決めることです。そして私はお役目を果たさなければならない。この世界のために。」

「なければならない…ですか。でも、アイツは生贄なんて求めない。アイツが求めているのは結城さんの平穏。大赦がそれを許せば、アイツは人類の存続を赦しますよ。絶対に。」

 

アイツの目的は一度"特別"となってしまう結城さんを、普通の生活に戻してあげること。

そうでないと一緒に遊んだり同じ学校に通ったりできないから。

 

それは誰か1人の意思と力ではできない。

アイツは人を操ったり、脅したりできるけど、そうではなく人の意思でそうしてほしいと思っている。

 

人が人であるが故、人は大業を為した者を良くも悪くも放ってはおけない。

特にこの国のひとびとは祀り、寄こせ、赦せと言う。

 

神が人の世界に顕れるように、人も神と崇められ、畏れられる。

 

力で押さえつけることはできる。

でも、それは普通でないことを浮き彫りにするだけで、悪手だ。

 

アイツはそれを望まない。

 

仮に結城さんが違っても、園子さんは最初から逃れられない。

だったら、結城さんも逃げないだろう。友達がいるのだから。

 

今までの世界でも、300年という月日で積み上げられた歴史は、前の世界では神樹様を失っても残った。

 

(私は結城さんがそうしたいというなら、それも一つの結末だと思う。でも、アイツはそうじゃない。なんでだろう?)

 

最初は結城さんが意識不明になったことが始まりなんだけど、その後のことまで気にするようになったのは、300年前の西暦時代から戻った時だ。

 

白鳥歌野と戦った記憶は共有されているけど、大体あの戦いの後のアイツが人類を積極的に粛清する姿とつながらない。

 

その意味でいえば、奉火祭だって必要ないはずなのに、なんで認めたんだろう?

記憶は辿れるけど、その時の感情に追いつけないもどかしい感覚。

 

「……奉火祭の実施は決定事項です。ですが、他にも確認したいことがあります。もう少しすれば彼も来るでしょう。」

「ああ、アルですか。」

 

数秒も置かず病室がノックされる。

 

「どうぞー。アルだよね?」

 

扉がスライドするとリノリウム敷設した床の向こうからアルがやってきた。

 

「失礼する。安芸様に言われてこちらに来た。」

「はいはい、ようこそ。」

 

さっさとこんな茶番は終わらせよう。

 

「安芸先生が聞きたいのは、彼が本当に天の神の部下なのかってことですよね?」

 

無言で頷く安芸先生ではなくアルが続きを引き取る。

 

「その件でしたら、間違いなく私、アルフレッド・アーネスト・アルバートは、貴方達の仰る天の神の使徒です。ですが、そのことと弥勒家の執事であることは矛盾しません。」

「いや、それ普通の人は訳わかんないよ。」

 

0秒で突っ込んでしまう。

 

アルはアルでちょっとズレてるからな。

 

「えっと、安芸せんせに分かりやすく言うと、もう一人の私にとっては全てが自分の支配下にあるって考えなんです。だから…。」

「…自分の支配下にある者同士で主従関係が結ばれていたとしても、自分の支配下であることに変わりはないと? 例え敵でとなっても自身の支配下だと?」

 

安芸先生もこのあたりは何となく分かっていたみたい。

 

「ええ、はい。」

 

安芸先生はしばらく何かを考えた様子で、改めて私達に告げる。

 

「私達の予測を越えた事態が進行しています。天の神の怒りが壁外の熱量を上昇させました。既に戦衣でもこの高温を防ぐことは難しくなりつつある。このままでは四国そのものが結界ごと炎に飲み込まれる可能性すらあります。」

 

「それはない。絶対ない。大赦はアイツのことを見誤ってる。天の神となってしまった私は結城さんのことは本気では傷つけられない。雀ちゃんの魂を賭けるね。」

 

「神は結城様の未来のために幾度も時を巻き戻してきています。そもそも我々の世界自体が複数の時間軸から都合の良い事象を集めて1つの歴史としてまとめたのパッチワークでしかございません。」

 

あれ? スルーされた? 少しでも場を和ませるとっておきのブラックジョークなのに。

やっぱり安芸先生の笑いの採点は厳しすぎる。

 

「あの、今のジョーク……。」

 

「では、何故、今世界を炎で飲み込もうとしているのです?」

 

「そこまでは分かりかねます。ですが、神は言っていました。あと数か月。神世紀301年の初めごろにはいつも結論がでる、と。」

 

冗談で和ませる必要はないんだ。

ホントは真面目に考えたら、おかしくなるような現実だからイヤなんだけどな。

 

このまま進めば、いつもの通り、大満開と呼んでいる神樹様のすべてを使った一撃で天の神は倒れる。

 

でも、どう考えてもおかしいんだよね。

 

比喩でなく無限の力を持つアイツに届かない。

 

実際、西暦の時代に土地神様たちはアイツに各個撃破されて、往年の力を取り戻せていない。

それどころか、300年間結界を維持するために寿命さえ迎えようとしている。

 

(わらかない。どうして大満開だと倒せるんだ? 力の強弱の問題じゃないのか?)

 

ただ、私の想いは一つだけ確かだ。

アイツの思い通りなんて絶対に嫌だ。

 

私は防人のみんなと戦ってきたこの数か月が楽しかった。

 

地元でそれなりに話す人はいたけど、ただのクラスメイトやご近所さんだった。

話を合わせるだけで、中身のない言葉たち。

 

こっちは、すごく大変だったけど、だからこそある種の信頼みたいなものが分かった気がする。

だから、そんな仲間のひとりである亜耶ちゃんは失くさない。

 

 

結城さんのことは嫌いじゃないけど、アイツが私を分離した理由が分からないうちは、アイツと同じ道は絶対に選ばない。

 

「そうですか。ですが大赦の決定は変わりません。まずは種を回収し少しでも神樹様の力を戻します。そして……。」

 

そこで改めて安芸先生は大赦の決定を伝える。

結局みんなは何かをしないと不安なんだ。

 

アイツでさえもその不安からは逃れられない。

 

「奉火祭を行います。それが大赦の決定です。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「奉火祭ですって! 何ですかそれは! 天の神に赦しを乞う? 亜耶ちゃんを火に焚べる? ふざけるな。なんで、今更! そんなのが通じると本当に思っているんですか!」

 

芽吹さんの怒りに亜耶ちゃんは俯くけれど、安芸先生は何も感じていない。

少なくとも表面上は。

 

「奉火祭は300年前に行われ、天の神との講和を成した実績があります。その時は6人の巫女が炎の海にその身を投げました。」

 

本当のあんまりな事実。

 

犠牲を出しても講和までしか持っていけなかった。

 

でも、あの時と決定的に違うことがある。

たとえ赦されても神樹様の寿命がない。

 

だから、人類が種としてどう最後を迎えるかの時間しか残されていない。

 

選択肢は1つ、結城さんによる大満開しかない。

 

神婚は論外だ。

 

アイツが本気でプッツンする。

 

この宇宙だけでなく、周辺分枝100箇所と時間軸で100年前後が焼失された実績がある。

いくらなんでもお隣の平行世界に迷惑はかけちゃだめだろう。

 

「あなた方は天の神の怒りに触れる可能性があったのに、あんな稚拙な計画を行ったと仰るのですか? 隠そうともせずに。 アルフレッド、貴方も天の神の側仕えだったのでしたら、知っていたのですか?」

 

指弾する弥勒さん以外の他の防人たちも不満と怒りをため込んでいる。

 

ここに来た時はあれほど顔色窺うだけだった大赦の神官に対しても一歩も退こうとしない。

 

(この数か月で過ごした結果がこれなんだ。私だって亜耶ちゃんに生贄になんてなってほしくない。)

 

「お嬢様、御下問への答えは仰る通りです。天の神が壁外の火勢を強めることは、これより前の宇宙で幾度も行われてきておりました。」

「ちょっと!? アル、それはもう少し順番に言わないと。」

「これより前?」

「幾度も?」

 

興奮していた頭も突拍子も無さ過ぎる単語で冷えたのか、みんなの視線がアルに集まる。

例外は事前に園子さんからいろいろ聞いていた安芸先生だけ。

 

「私からご説明できる内容は神により与えられたもの。それで宜しければある程度はお答えいたします。」

「良いですわ。全部教えなさい。アルフレッド。まずは貴方と天の神の関係を。」

「え? 弥勒さんそっちが先なの? ごめんなさい。なんでもありません。」

 

雀ちゃんのいつもの調子で弥勒さんに突っ込みを入れに言ったけど、みんなの視線に負けて引っ込んだ。

 

「承知いたしました。もともと私はこの時代の人間ではございません。今より1200年ほど前、死にゆく直前に神により契約を持ちかけられたのです。私の願いは単純にまだ死にたくなかっただけですが、私以外の使徒、十華と那由多は別の契約がございます。ともかく私、アルフレッド・アーネスト・アルバートはそうして天の神の使徒となったのです。」

 

そこまでは理由も含めて私も記憶で知っている。

 

「では、天の神の使徒となった契約とはなんだったのですか? そもそも何故天の神が貴方を私の執事にしようとしたのか分かりません。」

「これは安芸様にも申しましたが、神がそれを望まれたからとしか言いようがございません。ただ私に人間を良く知って欲しいと聞かされております。」

「例えそれで貴方が天の神と敵対することになってもですか?」

「はい。」

 

アルの答えに誰もが納得していない。

 

一度は粛清した人類を部下として生かそうとした意味。

 

使徒達にも詳しくは明かされてないけど、私には知らされている。

 

神様のままだと、結城さんと一緒に遊べないから、代理の神様を作って置いておくつもりだなんて、さすがに言えない。

 

(いくら何でもふざけた理由だ。子供のわがままでしかない。)

 

我がことながら、本当にあんな子供じみた理由だとは信じたくなかった。

 

「そして、天の神は世界全体の時間発展を変更することが可能です。例えば私や沙耶がいないことで防人の任務が滞るようであれば、即座に私達の存在はなかったことにされるでしょう。あるいは世界全体の時間を巻き戻し、途中から再調整するといったことも可能でしょう。」

 

そこで、何かに気づいたように芽吹さんが口を挟む。

 

「それは、私達が勇者となれず、防人となってこんな危険な任務を行い、その成果さえ無駄にする予定だったってこと? そして、亜耶ちゃんが生贄にされることも?」

「はい、みなさまが勇者ではなく防人となることは、知らされておりました。少なくとも私は1200年前に使徒になった時に。」

 

しばらく、沈黙の帳が降りる。

 

「ふざけるな! 勝手すぎる。私達は玩具じゃない。そんな扱いをしたいなら、なんでこんな任務を仕組んだ。」

 

現実感の乏しい天の神の思考に、みんなが追い付けていない中、芽吹さんだけは怒りと言う形ででも反応できてしまう。

 

それでもアルは一番絶望的な事実を伏せている。

アイツはその気になれば、人の心そのものを操作できる。

 

例えば、朝ごはんを食べる時に、お米の隣に紅茶が置いてあるのが普通で、緑茶を置いている人はおかしいと思わせることができる。

 

緑茶という概念自体を世界中から失くしてしまうことだってできる。

あるいは、この瞬間今すぐに、人体に水分補給が不要な物理法則に変更するか。

もしかしたら、最初期の数回の時間ループ時と、今の私達ではまったくの別の存在になっているかもしれない。

 

例えば、芽吹さんを怠け者でギャル風にしたり、雀ちゃんを宝塚系の男役さんみたいにしたりしたことだって、20回以上はやってきている。

 

人が自分としてある根本。

 

魂と言っても良い部分さえ手を出して、口をはさむのがアイツだ。

 

それを知って、十華はアイツから離れる決心をしたくらいだから。

 

変わらないとすれば、結城さんくらいだろう。

 

「こんな結末、私は絶対に認めない。こんな結末のために命を懸けて戦ってきたわけじゃ……。」

「結末ではありません。奉火祭の後までわたしたち人類は生きていかなければなりません。」

 

これまでほとんどアルに話を任せていた安芸先生が、そこだけは明確に反応する。

 

「先ですって? 犠牲を前提とした時点でどんな素晴らしい計画を考えていたって、その前に犠牲をだしたことを失敗と考えられていない時点で、貴方達は……。」

「芽吹先輩。大丈夫です。ありがとうございます。」

「亜耶ちゃん……。」

「私は奉火祭に反対はしません。私、実は嬉しいんです。みなさんの、そして神樹様のお役に立てることが。今までみなさんが頑張ってきました。ですから今度は私達が頑張ります。」

 

生贄になる亜耶ちゃんに言われてしまっては、私達に今できることは無い。

 

そう、今は……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、亜耶ちゃんは行ってしまった。

今回は東郷さんに自責の必要がないから、最悪二度と会えないパターンかもしれない。

実際、ここで奉火祭が実施されて亜耶ちゃんが帰ってこなかった世界もある。

 

アルや私については、あえて行動を制限しないことで天の神に恭順の意思を伝えるつもりらしい。

そんなことをしなくても、アイツはこっちの心隅々までお見通しなんだけどね。

 

部屋に戻って、私も準備を始める。

 

結局ここまではなにも変えられなかった。

 

ちょっとバーテックスを倒せるようになったくらいでアイツの裏をかくなんて無理なんだろう。

 

(やっぱり、アイツと直接対決しないと何も変わらないのか。嫌だなあ。絶対勝てないじゃん。あんなの。)

 

たぶん最初は余裕ぶって、こっちが何をするのか見ているはずだから、その間に一撃必殺を打ち込みたい。

そんな方法があれば、だけど。

 

でも、今はまず奉火祭の邪魔をしよう。

私だって亜耶ちゃんがいなくなるのはやっぱりいやだ。

大赦に言いたいことは未だいっぱいあるし。

 

そろそろかな?

 

「沙耶、みんな展望台に集合だって、なんか楠さんが呼んでる。」

「うん、分かった。でも、5分だけ遅れるから、先に始めてて。」

「ええー。そんなの言ったら、怒られるじゃん。」

「大丈夫、芽吹さんも分かってるから。」

 

しばらく逡巡したあと彼女は、ちゃんと言ったからねーって言いながら、先に言ってくれた。

 

私も急がないと。

 

ここに来たばかりのころならともかく、今の私だって亜耶ちゃんが犠牲になるのを黙ってみているつもりはない。

 

展望室に向かい階段を上がっていくと、芽吹さんの怒りの声が聞こえてくる。

 

「今回の大赦の決定に私は納得していない! みんなはどうなの?」

 

「私だって納得してないよ。あややはすごく良い子なんだ。私がいつも怖がっててもバカにしないで、防人として頑張ってるだけでもすごいって、でも大赦も決定したって言ってたし、どうしていいのか…。」

「わたくしだって国土さんを犠牲にするつもりはございませんわ。今となっては没落した弥勒家のことを知っているものも少なく、知っているものからも嘲りを浮ける状況に甘んじています。ですが、国土さんはそんなわたくしの誇りを認めてくださいました。そんな国土さんが犠牲となって良いはずがございません。」

「国土は、良い子。死ぬなんて……絶対にいや。」

 

私も最初は国土さんも大赦の巫女ってだけで思考停止したお人形ちゃんだと思ってた。

だけど、違った。

ちゃんと神樹様の教えを実践できる本当に巫女だった。

 

勇者となれなかったみんな。

大赦からは使い捨ての駒と扱われる私達・防人。

亜耶ちゃんはそんな私達一人一人を大切な価値ある人間として接してくれていた。

 

防人三十二人全員がこの部屋で亜耶ちゃんを助けたいと、声を上げているのが何よりの証拠。

 

「だったら、私達で亜耶ちゃんを助け出す方法を考えましょう。奉火祭までまだ1週間ある。絶対に方法を見つけ出す! 私が指揮する防人に諦めと犠牲は出さない!」

 

扉の向こう、芽吹さんの言葉に触発されてみんなが口々に意見を言い合っている。

 

1度だけ深く息を吐く。

 

さあ、行こう。

 

せめて、決着くらいは私の手でつけよう。

 

「本当に、亜耶ちゃんを助ける覚悟があるなら、私に賭けてみる気はある?」

 

後ろに掠め取った天の力で創り出した星屑とジェミニを引き連れて前に進み出る。

 

 

 

 

 

 

 

 

「遅かったじゃない。いったい何を……。」

 

芽吹さんの言葉は止まり、私の後ろに漂う星屑達に釘づけにされる。

 

こうしてみんなを見るのは初めてだ。

ところどころ絆創膏を貼ってたり、包帯みたいなの巻いてる子もいる。

 

それでも、みんなの目は活きている。

 

安芸先生はずっとこれを見てきたんだ。

見ることしかできなかった。

 

アイツは全知全能だけど、だからこそ生の感情も、向き合って得た言葉も軽く見ている。

自分で感じていない。

 

大丈夫、やって見せる。

 

 

「ええっと、遅れてごめんなさい。あと後ろの星屑は私が作ったコピー品だから攻撃しないでね。いろいろ聞きたいことはあると思うけど、みなさんの疑問に答えるために先にに知っておいて欲しいことがあります。」

 

アイツに共有された記憶。

みんなに渡す方法はある。

アイツが私に共有したのと同じ方法を使えばいい。

どんな人も自分で感じたことは裏切れない。

 

どんなに真実が残酷でも、信じられなくても、例えすぐには立ち上がれなくなっても……。

 

本当だと感じさせることができるはず。

 

「私は天の神となる運命を持つ者。いつか世界を滅ぼした者。」

 

あれ? だれかスマホ触ってない?

一世一代の大告白なのに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そこからは、ただ共有する記憶に合わせて言いたいことを言い放題。アドリブ全開。

 

「300年前。私が天の神となって、四国以外の世界は分かたれ、人類粛清のために焼かれた。それが始まり。」

 

天沼矛によって一瞬で書き換えられる世界。

監視役として炎の海に漂うバーテックス。

 

大地は焔と焼かれ、落ちた火砕流に塗れ、辛うじて固体となっているところも、鉄すら蒸発する高温で揺らめく。

 

「いまではない時、ここではない場所、はるか遠くのどこかの私がこのような恐ろしい世界を作ると知った時、自らの行為に恐怖しました。それは間違いない。」

 

昨日一夜漬けで覚えた記憶の転写に合わせた身振り手振りの説明。

 

「だから、このような世界を創り出した私を、恐怖し、嫌悪し、憎悪するかもしれない。それは正しいものの見方。その感情は間違っていません。」

 

いや、ホントは良くないんだけどね。

 

記憶を切り替えて映すのは西暦の勇者たちの最後。

 

「でもどうか知って欲しい。この真実を覆い、勇者と讃えておきながら、その勇者に全てを委ね犠牲を恃む大赦は、かつて世界を守らんと苦悩していた時代を忘れた形骸と成り果てている。」

 

ええっと、話がまとまらない。

とにかくみんなでもう一人の私を倒そう、って言いたいんだけど、どうすればいい?

 

「断言する。そんな大赦のやり方では、かつてバーテックスの存在を隠す以前よりなお悪い。そんな彼らでは別たれた私を、天の神を止めることは決してできません。」

 

ずっと考えていた私がどうしたいか、ここに来てみんなを見て、報われなくても必死に生きるその姿を見て、結果だけしか見ないアイツは間違っていると気づいた。

 

「まして、貴方達子供だけでは、大切なものも大事な人も守ることはできません。それでも、犠牲を厭い、諦めずに完全な結末を望む者たちがいるなら、敵対者であるからこそ天の神の名の下に告げたい。貴方達は勇者である。人類が認めず、神樹が認めず、今この世界を創った天の神となる私がそう認めるでしょう。」

 

結局のところ、認めたくなかっただけでこういうところは、私は結局松永沙耶(わたしもアイツも)は同じなんだなあって思う。

 

「だから、神の元を離れ、星と焔の海を越えてでも、貴方達にお願いしたい。大赦に集められたからではなく、自分たちの意思で、私達と一緒に天の神を倒してほしい。亜耶ちゃんを助けるために。」

 

すぐに次の言葉が続かない。

 

流れゆく記憶の最後。

 

確かにアイツは結城さんのことを一番に考えているように見える。

でも、私達はそれほど単純なんだろうか?

 

自分に置き換えれば分かる。

 

例えば、防人の誰かを犠牲にすれば、みんな助かる、と言われてすぐに納得できるとは思えない。

 

今だってそうだ。

 

「私から言えるのはこれだけ。これだけなんだ。」

 

しばらく、みんなが黙っている。

その表情からは内面を推し量ることは難しい。

 

他の大赦の神官たちの意識からこの場所のことは外しているから、誰も邪魔しに来ないのは確かだけど。

 

もし、みんなが納得できないと私を嫌うなら、私はここから出ていこう。

それで、防人からも脱走して、とにかく使えるものを全部集めてアイツと向き合おう。

 

もう逃げるのはイヤだ。余計にしんどくなる。

 

「つまり、貴方は天の神だから、その力を少しは使えるというのね。」

「うん、だから、倒すのは無理でも隙を作れれば、痛手を負わせて、そのうえでアイツのホントの望みをぶら下げて交渉する。」

 

ただ、結城さんの平穏を大赦に約束させるだけじゃダメだ。

 

自分の計画より私達がやろうとしていることの方が、良い道だと思わせる。

 

そのためには私達の力と覚悟を示す必要がある。

 

「良いじゃねぇか。ようやくまともにやり合える見込みがあるんだろう? 楠、オレに命令しろ。さっさと天の神に一発いれろってな。」

 

わ、しずくちゃんがシズクちゃんになってる。

 

「わたくしも当然参加させていただきますわよ。アルフレッドの力も借りられれば役に立つでしょう?」

「うん、それはすっごく助かる。それだけで今までの世界のどの戦いの時よりもこっちの戦力は大きくなる。」

 

本当は残りの使徒2人も味方にできれば良いんだろうけど、アルがいればバーテックスを気にせず、アイツと亜耶ちゃん救出だけに集中できる。

 

「ええっと、怖いんだけど、本当は行きたくないけど……、あややのためだ。今回は私も行くよ。」

「ええ、頼りにしているわ、雀。」

 

他の防人たちも形は違えど、みんな行く気みたいだ。

 

 

「それじゃあ、決まりだね。芽吹さん。いえ、楠隊長。」

 

私を含めた三十二対の瞳が芽吹さんをみる。

 

「みんな、これから私達は大赦の元を離れ、自分たちの意思で国土亜耶救出に向かう。何か他に意見のあるものは今のうちに申し出て。」

 

1秒、2秒、5秒、10秒。

 

誰もが芽吹さんだけを見つめて、あえて何も言わない。

 

「ありがとう。危険な道のりだけど、誰一人欠けることなく返ってこれると約束するわ。」

 

もう一度だけ、みんなの顔を1人ずつ芽吹さんが見渡す。

 

そのすべてを見て、芽吹さんが最後の号令をかける。

 

「これより防人は国土亜耶救出を目的とした作戦を開始する。」

 

神世紀300年11月。

 

私達、防人の最大の作戦が始まる。

 

 

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