松永沙耶は神である   作:スナックザップ

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A Pisgah sight

月を隠した晩秋の空。

 

ひっそりとした夜空で景色が歪む。

今の私でもこれくらいはできる。

 

戦衣に光学迷彩を施しても、人間の無意識のちょっとした動作までは覆い切れてない。

でないと仲間の位置まで分からなくなったら、本末転倒だしね。

 

「ねぇ、本当に船で来なくて良かったの?」

 

雀ちゃんが小声で聞いてくる。

 

「いや、たぶん見張られてるでしょ。奉火祭の話を聞いた時にあれだけ反抗的な態度だったし。」

 

3番の指揮官。つまり私の直接の部隊長が答える。

レオの焔で船ごとやられたのに無事だったのは、アルが助け船を出してくれたおかげだ。

 

(ちょっと、タイミングが良すぎるような気もするけど、予言でもあったのかな。)

 

「仕方ないにゃ。それに大赦の知らない足なら見つからないし。」

「それにしても、よりによって敵の総大将が私達の中にまぎれて一緒に戦ったりご飯食べたりしてたなんてね。」

「厳密にはその可能性があるだけだよ? だから、あくまでね。」

 

今までと違って、芽吹さん以外の防人たちも色々と声をかけてくる。

 

私達は本当の意味で仲間になれたんだろうか。

 

少なくとも、ここにいるみんなが亜耶ちゃんを助けたいと思っている。

 

未来のことは分からないし、過去の因縁だって考えなくちゃいけない。

でも、今はこれで良いと思う。

 

「そう言えば、さっき私達は勇者だーとか仰ってましたけど、どういう意味ですの? は!? もしや、これで手柄を立てれば……。」

「ない。それはない。」

「たぶん、無理にゃ。」

「ないと思うな。」

 

弥勒さんが何かを言おうとしたけど、全員にボコボコに言われてる。

 

「わ、分かっていますわ。でも、天の神にその名が知れれば……。」

 

弥勒さん元気だなあ。

 

それともこうやって緊張をほぐしてる?

 

天然なのかボケなのか判断がつかない。

 

「でも、あれ、すっごく偉そうだけど支離滅裂なこと言ってたよね。」

 

うわ、こっちに戻ってきた。

 

「忘れろ、忘れろ、忘れろー!! あれは若気の至りだぁぁ! なんて説得するかめちゃくちゃ困ってたんだぞー。」

「大丈夫、ちゃんと録音してほら。」

 

あの時の私の言葉が流れ出す。

 

「消せ! 消せ! 消せ! 今すぐ消せーーーー!!!」

 

あの時のスマホ弄ってたのは録音だったのか!

自分でも分かるくらいに顔が熱い。

 

「いい加減にしなさい! 貴方達!! 見つかるでしょう!」

「「「「すみません」」」」

 

芽吹さんの雷が落ちた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「すごい…大きすぎない。これ? どこまで続いてるのこの船?」

 

雀ちゃんの言葉に全員同じ気持ちみたい。

じつは私も記憶として知っているだけで、実物見たのは初めてなのでビビってます。

 

防人の船は大赦に管理されている。

私達だけで炎の海を越えていくことはできない。

 

そして、奉火祭の儀が行われるのは炎の海のさらに向こう。

 

では、どうやって炎に身を投げ出す亜耶ちゃん達を助けるのか?

 

チャンスは2回、亜耶ちゃんが突き落とされる壁の下に待機する方法と、アイツが高天原まで亜耶ちゃんを昇天させる途中の道で待ち構えるかのどちらか。

 

後者の場合、儀式に乗っ取って奉火祭が行われた場合、ワームホールだかブラックホールだかが開いて、アイツの入る高天原に通じる道ができる。

やっかいなのは途中で魂と肉体が切り離されることだ。

 

でも、もう1つだけ行く方法がある。

 

アイツ自身が作った方舟。

 

その船の名前はナノマシン嚮導船グレイグーと名付けられていた。

 

今は誰も知ることないアイツの間違いの始まり。

 

300年前、諏訪地方全体を収納して四国まで移動するために作り上げたソレなら、私の力と合わせてアイツの認証を一時的にごまかすことができる。

というか、アイツのことだから方舟は通れるようにしているだろう。

 

なんせ、私もアイツも思い出の品は棄てられなくて、部屋のなかぐちゃぐちゃにしちゃう悪癖があるから。

実際何度世界を滅ぼしても、前の宇宙から持ち込んでいる時点でそういうことなんだと思う。

 

 

「さ、乗った。乗った。大赦は追ってこないと思うけど、奉火祭はあと1時間ほどで実行されるから、急いで儀式の場所までいって、身を投げ出す亜耶ちゃん達をキャッチしないと。」

 

全員が頷く。

 

と、同時にトラクタービームでみんなの体が持ち上がり、船に吸い寄せられていく。

 

「お、落ちるー」

 

雀ちゃんが暴れまわってクルクルとハムスターみたいに手足をバタバタさせるけど、どこにも動かず、ただまっすぐに昇っていく。

 

「大丈夫だって。反重力、抗引力、超電磁力。みんなのパーソナルデータは登録済みだから。」

 

「でも、誰が動かしているんですの? 私達の船と同じように動かせるのですか?」

 

弥勒さんが首を傾げる。

 

「それは私の方で操作しておりました。お嬢様。」

 

トラクタービームの光に並走するように、アルフレッドがいつもの執事服のまま宙を歩く。

シュール極まりない。

 

「見当たらないとは思っていましたが、アルフレッドさんが先行していたんですね。でもどうして?」

 

芽吹の疑問には私が答える。

 

「この船の操作は私かアルしか知らないでしょ。すぐに出発できるようにしてもらっていたんだよ。」

 

どうしても、人の力でも地の力でも封印を解けない。

だから、天の力を持つ私かアルが船に火を入れる必要があった。

 

「ちょっと、勝手に人の執事をとらないでくださいまし。せめて、わたくしくらいには行ってください。」

「はい、はい、そうしますよ。」

 

とにかくこれですぐにでも飛び出せるし、アルが本当に弥勒さんの執事として振舞うつもりなのも分かった。

 

(絶対何かすると思ってたんだけど、何もなかった。本当にただアルを人間社会にあてはめてるだけ?)

 

一度アルとも話とこ、テレパシーと記憶の共有を使えばお互いの意見交換くらい数秒で終わるでしょ。

 

トラクタービームが停止し、船の中にゆっくりと降り立つ。

 

「ようやく地面だ。って、メブが消えた!?」

「ご心配には及びません。雀さま。先ほどの扉の向こうを中央司令室につなげております。みなさまも一度そちらへ。」

 

アルの言葉の通り、この船グレイグーは1000kmに達する巨体だから、床エレベーターやミニ・ワープ装置みたいなのが付いていて船内を移動できる。

 

光を通り抜けるとそこは、漁船の操舵室みたいなところだった。

たぶんアイツのイメージで作られただと思うけどなんで漁船?

 

というか、司令室もこんな戦争映画に出てきそうな古臭い司令室だし。

舵とかいる?

 

動力は昔でも縮退炉と相転移炉を数千備えていたし、今となっては、私経由で天の神の力を無尽蔵に電磁気力に変換できる。

他にも船内の温泉施設も番台と瓶牛乳なんて、昔のテレビでしか見ないようなもの置いてるし、アイツの趣味だったのかな。

 

前で"アルから"船の説明を受けていた芽吹さんが振り返る。

 

「全員そろったわね。それじゃ、これからの予定を改めて確認するわ。バーテックスを迎撃しながら、奉火祭の場所に行って亜耶ちゃん達を連れて帰る。」

「ちょっと待って。弥勒さん、アルフレッドが2人なの?」

 

雀ちゃんがさっそく反応している通り、ここにはアルフレッドが2人いる状態になっている。

 

「し、知りませんわ。わたくしも驚いているところです。」

 

(ま、知らない人が見たらそうなるか。)

 

「いや、私だって天の神から分け御霊されてここにいるんだし、アルができてもおかしくないでしょ。」

 

アルはかなり力をこなせてるからなあ。

それに西暦の時代には分身できる勇者もいたんだし。って、これは正式な歴史には載ってないんだっけ?

 

「だったら、何故アルフレッドはわたくしの前に姿を見せなかったんですの?」

「特に理由はござません。ご案内については沙耶が行うと聞いておりましたので。」

 

うわ、弥勒さんすごく不満そう。

 

「ま、まあ、弥勒さんも一度アルフレッドに何ができるか聞いてみたら、どのくらいすごい存在か分かんないでしょ。」

「……今日のところは、それで引き下がりますわ。アルフレッド、いろいろと説明しなさい。」

「お嬢様、申し訳ございません。まだディナーの準備が終わっておりません。お話でしたら、その後で窺います。」

「ちょっと、アルフレッドー!!」

 

言うが早いが、室内にいた10体ほどのアルの気配がかき消える。

逃げる気だな、アル。

 

(アルが逃げるとはね。まさか、今までたくさんの人を殺してきたことを知られたくないとか? ははは、まっさかねぇ。)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アルが弥勒さんと2人きりにならないように逃げ回っていた以外は順調で、半日ほど先回りして、炎の底で待機している。

 

今、みんなそれぞれに最後の休憩時間を過ごしている。

 

芽吹さんはシズクと訓練。

雀ちゃんはそれをにぎやかそうとして捕まった。

弥勒さんはアルを探して事情聴取を行おうとしている。

 

アルは私の目の前にいるのに、弥勒さんに見えない。

目の前の存在をアルだと気づけないようにされているんだ。

 

だから、こんな風に喋っても弥勒さんの中で探していた人物として認識できない。

 

「いい加減、弥勒さんに答えてあげたら?」

「正直、自分でも困っている。何故私の過去をお嬢様にご説明することに、これほど忌避を感じるのか。あなたは答えを得ているのか?」

「答え? そんなの分かるわけないでしょ。今だって迷ってばっかりだよ。本当にこれでよかったのかって。」

 

返ってきた答えは無言。

まさか、アルがこんな反応をするとは。

 

「だが、2年前に大橋で戦った勇者たちは、生きる以外の答えを得ているようだった。勇者たちだけなら選ばれた高揚感が見せる幻想と切って捨てるが、十華までもが人の形を捨てる覚悟をもっていた。」

 

なるほど、ね。

 

そりゃ、アルが知っている"人間"とは全然違うか。

 

暗い瞳の聖職者達。

済んだ瞳で殺せと叫ぶ善人たち。

助けてくれと懇願する悪人たち。

 

記憶のコピーでしかない私でもあれは憂鬱な光景だ。

 

でも……。

 

「それが分からないって? そんなの誰にもわからなかったと思うよ。私もつい最近まで勇者ってバカだなあって思ってたくらいだし。今は歴史上の有名人みたいで、ちょっと感動してるんだけどね。」

 

アルの瞳が正面から私を捉える。

 

「あなたが分からない? あなたは既に全知全能に限りなく近い。1世紀にも満たない子供たちの純粋な心など見透かせるのではないのか?」

 

あ、弥勒さんが近づいて来た。

アルのすぐ近くを行ったり来たり、10センチも離れてないのに気づけない。

 

「心を見通せるからって、未来を望むように捻じ曲げられるからって、本当の全知全能じゃないよ。アイツも貴方もそのことが分かってない。」

 

自分に向けられた言葉と、誰かの会話で聞こえた音が違うように。

 

「そう……。しかし、剣を取ったこと後悔はしてない。」

 

ちょっと、昔のアルみたいになってるな。

 

「それはそうなんだけど……。でも、それは間違いなく誰かの大切な人だったんだよ。みんな誰かを傷つけながら生きてくしかないけど、その責任を取れるのも自分だけなんだ。」

 

それこそ自分に言い聞かせるように応じる。

 

そう、私はアイツじゃないけど、アイツから別たれたのも本当。

だから、アイツが世界を滅ぼした日のことを、きっとずっと思い出し続ける。

 

(全知全能って、イヤなことも忘れられないってことなんだよねぇ。)

 

力を振るえば振るうほど、アイツに近づいていく。

でも、近づくだけだ。

私はアイツにはならない。

 

目の前でアルを呼び続ける弥勒さん。

 

ハッキリ言って、彼女の望みは分不相応だと思う。

私も最初はどこか彼女のことをバカにしていたかもしれない。

ううん、弥勒さんだけじゃない。

 

芽吹さんや雀ちゃんのことも、何も知らないくせに、どうして私だけがって、ずっと思ってた。

 

でも、みんながきっと何かを失くして、だから今度は失くさないようにって頑張ってきたんだ。

 

(アル、貴方もちょっとずつ分かってきているんだよ。人間のこと。だから、もし……。)

 

らしくない、思考がその時を告げるアラームでかき消される。

 

「警告、壁外に複数の生体反応感知。パターンから登録目標の国土亜耶を確認。……。」

 

来た!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(芽吹先輩、どうか神樹様のご加護がありますように……。)

 

国土亜耶は幼いころに親元を離れ、巫女として生きてきた。

両親も大赦の役を与えられているので、会えないということは無かったが、巫女という特殊な環境は、普通の親子よりも時間の面では希薄だったと言わざるを得ない。

それでも、両親は間違いなく亜耶のことを愛してくれていたのだろう。

 

一度だけ、逃げる気はあるかと聞いてくれた。

 

それだけでも、亜耶にとっては感謝してもしきれない。

 

それは大赦の役目を持つ者としては失格なのかもしれない。

 

それでも、確認してくれた両親に、

だからこそ、彼女は逃げないと答えた。

 

(少しおこがましいことかもしれませんけど、きっと歴代の勇者様たちも、巫女の先輩方も、芽吹先輩たちも、こんな気持ちで戦ってくれていたんですよね。だから私も逃げません。)

 

以前に芽吹達と一緒に出た時よりも、火勢はさらに強く激しくなっている。

 

儀式の祝詞が進み……。

 

 

 

とうとう、彼女たちは火に中へ消えていった。

 

 

 

 

「こうやって、貴方達は繰り返すんだよね。」

 

問いかける少女に仮面は何一つ返さない。

 

敗残者達がすごすごと退き始める。

 

「でも、約束通り奉火祭は見届けたからね。後は私も好きにさせてもらうよ。」

 

続ける少女に初めて神官たちは反応してしまう。

今ここにいる位にある者たちは、直接話しかけることを赦されていないにもかかわらず。

 

「な、何を? すでに奉火祭まで行っております。これ以上……。」

 

ただ1人静かに横たえられたはずの声が浮き上がる。

何もできないと下を向いた仮面からさえ、ため息とも羨望ともつかない声が漏れる。

 

空からゆっくりと降りる。

 

「うん、やっぱりできた。沙耶ちゃんは天の神の記憶と体を共有していたから、同じように神樹様と勇者の間も空間を隔てて(ワイヤレス)でも繋げられる。今の私ならスマホだって必要ないんよ。後は双方向でやり取りできるようになれば良いんだけどね。」

 

何かを確かめるように手足を動かす少女。

突然の動き止めて壁の外を食い入るように見つめる少女。

 

事態の変化に仮面はただ平伏するだけ。

 

「来るよ……彼女たちはやっぱり諦めてなかった。でも、まさか連れてきてくれるとは思ってなかったけどね。」

 

何かと仮面たちが問う間もなく、地震のような振動が炎と空気をかき混ぜる。

振動に揺られたのか、炎が壁に立つ神官や少女のはるか上空まで吹き上げられる。

 

だが、それも後に来た変化に比べればささやかと言えるものだった。

炎が鎮まった先、壁のすぐ側にまで、銀とも灰とも見分けにくい光沢を持つ巨大な建造物が姿を見せる。

この場にいる誰も、それが宇宙が始まる前よりも存在する船の一部だとは気づいていない。

 

いつ、だれが、どうやって、そんなものをこの一瞬で用意したのか。

 

神官たちがそう考える中、少女が落ち着いて、しかし、絶対に逃さないという意志を込めて呼びかける。

 

「ねぇ、出てきてよ。アルフレッドさん。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(え? え? え? なんで? どうして園子さんがいるの? あああ!!)

 

忘れていたわけじゃない。

 

でも、私もアイツから天の神としての視点と記憶を共有されていたせいで思い込んでいた。

 

園子さんは銀ちゃんの仇を討たないと。

 

バーテックスなら幾度も倒しているんだから、わざわざ仇と言う必要はない。

天の神を仇と捉えるなら、ある意味で結城さんと神樹様の満開で倒したと言えなくもない。

そもそも誰一人散華から回復していない今、園子さんが冷静であるという保証がない。

 

(限界に近かったんだ。園子さんだって。それなのに私も大赦も、園子さんは東郷さんと違って暴走しないって甘く考えてた。)

 

東郷さんが世界が無くなっても良いって思うくらい暴走したのに、園子さんはそうならないとなんで言い切れる。

園子さんの喪失だって、いつおかしくなっても不思議じゃないくらいだって、ちゃんと気づいてあげられなかった。

それなのに、私は勇者達で一番頼りになるからってアイツの記憶のほぼ全てを話してる。

 

他の人はまともでいられないだろうって、ごまかしてる世界をこんな風にした理由。

 

結城さんとまた会って遊べる世界を創るという、あんまりにもふざけた理由さえも。

 

 

誰だってそんな理由で、身体機能のほぼすべてを失ったり、友達を失ったら、受け止められると言えるのだろうか。

 

 

「お嬢様、申し訳ございません。これは私の落ち度です。彼女の目的は私です。ここは私にお任せください。早く巫女達を収容してここから離れてください。」

「アルフレッド、どういうことですの? どうして勇者が貴方を呼ぶのです?」

「それは、かつて彼女たちと戦い、その仲間の1人を、むぐっ。」

 

慌ててアルフレッドの口を塞ぐ。

いくらなんでも、そんなのこのタイミングでいわないでよ。

テレパシーで伝えようとしたけど、アルフレッドは2人に別れて、その言葉を続ける。

 

「勇者の1人、三ノ輪銀を討ったのは私なのです。ですから、おそらくこれは仇討ちの類かと存じます。」

 

あーあー、言っちゃった。

 

 

「アルフレッドが、」

「勇者様を……、」

「殺した?」

 

呆然と弥勒さんが名前を口にすると、みんなが戸惑いながらその意味を理解しようとしている。

 

ダメだ。今ここで冷静になったら、きっと良くない。

 

「とにかく、まずは亜耶ちゃん達を、うわっ!」

 

急に司令室全体が揺れて、壁の一部が崩れる。

 

「ふぅう、すっごくおっきいから時間がかかったよ。さあ、アルフレッドさん。今度こそ終わらせてあげる。」

 

既に満開状態の園子さんが煙の向こうからやってくる。

 

「お嬢様。お早く。来い乃木園子。」

 

アルフレッドが弥勒さんと園子さんに声をかけると、園子さんと共にその姿がかき消える。

 

「アルフレッド!!」

 

弥勒さんの声が空しく木霊のように響き渡る。

 

チャンスは今しかない。

アルフレッド、絶対死ぬんじゃないぞ。

お前がいないとアイツに勝てる確率ほとんどないんだから。

 

再び、船が振動する。

今度はエンジンを再起動させたためだ。

 

「ちょっと、沙耶、どこへ行く気? アルフレッドさんは?」

「アルは園子さんと第37空中庭園内で戦ってる。だからまずはここを離れて……。」

 

舌が凍る。

 

今まで感じたことがない重圧で息が止まる。

 

それはさっきまで混乱していた防人のみんなや、気を失っているはずの亜耶ちゃん達巫女も同じだ。

 

そして、私だけはこの気配を知っている。

 

ふざけた言葉に、どこからどう見ても笑っているのに、絶対に笑っていない貌。

原初よりも色濃い神気をまき散らし、日本よりも巨大なこの船さえも霞のように感じる存在感。

いつも通りの蒼髪に中学校の制服そのままで、まるで学校内のように声をかける。

 

「どうもー、もう一人の私がお世話になってまーす。現・天の神、松永沙耶です。もっと盛り上がってもらうために来ちゃいました~。」

 

壁に立つ神官達はあまりの重圧と神気で何人か発狂している。

 

「おっと、このままだと喋れないんだよね。気配、気配っと。」

 

ようやく重圧から解放される。

発狂していた人たちは、そのまま失神してしまう。

 

「ふざけるな! お前は、お前たち神がどれほどの人を苦しめたか!」

 

みんな重圧で押しつぶされていたけど、最初に立ち上がった芽吹さんが銃剣を構える。

 

「ん? 一応答えるよ。昨日までの時点を起点にすると757927800人かな? 時間を巻き戻したり、不要になって消した並行世界を含めるなら、これの1064乗だね。」

「芽吹さん、コイツとまとも会話しちゃダメ。ただ反応しているだけだから意味のある答えなんて返ってこない。」

 

芽吹さんの頭を冷やすため、そして、みんなを正気に戻すため、アイツが何か言う前に口を挟む。

 

「……そうね。ありがとう。神に人の言葉は届かないんだったわね。」

「そう、どうせコイツは問答無用だし。」

 

みんなが立ち上がり、護盾隊は巫女の前にさらに重なるように銃剣隊が構えをとる。

 

「一斉射撃、1番から3番は3秒間隔で10回、4番から7番は5秒間隔で7回、8、9番は10秒間隔で3回。」

 

最初の一撃は予想通りあっさりと受け止められる。

だけど、少しずつ間隔のリズムが狂っていく。

 

「おお? これは、なかなか……。」

 

この射撃の間隔にそれほど深い意味はない。

時間差でリズムを掴みにくくさせるくらいしかできない。

でも、アイツは考えて、理解しようとする。

 

どこまですごい力を得ても、松永沙耶(わたしたち)は本質的に結城さん達と同じ普通の女の子だから、園子さんみたいに直観的な理解ができるわけじゃない。

 

途中から被弾し始めたアイツがバリアを展開し続ける割合が増え、その表情もイライラとしているように見える。

 

(見えるだけで、真似事なんだけどね。)

 

本当にイヤなら船ごと私達を吹き飛ばすことだってできる。

そうしないのは、色々と試行錯誤しているからだ。

 

だからこそ、その思考を突く。

 

(もっと考えろ。探し物をしている時がお前の唯一無二の隙になる。)

 

「ふうん、退屈しのぎくらいはできる感じかな? 良いよ、キミ達の望みを少しだけ後押ししてあげよう。」

 

アイツがニッと口角をあげたと思った瞬間、浮遊感と共に薄暗い何もない空間に放り出される。

 

地面は…ある。

みんなもいる。

アイツとの距離も変わらない。

 

ただ、世界が広がった。

 

「メブ~! おかしいよ。ここレーダーが無限の広さを示してるうーー。」

「故障……じゃねぇな。おい、楠。まだ続けるか?」

「いえ、次の作戦に移す。」

 

よし、みんな気おされてない。

 

いきなり高天原に生身で迎えられて驚いたけど、これでブラックホール越えはなしだ。

 

「ようこそ高天原へ、こんなところまで来るとは思わなかったよ。と言いたいところだけど、とりあえず周り見てみ。」

 

野球選手のように肩を回しながら、アイツがそんなことを言う。

 

「あれって……。私達の銃剣!?」

 

誰かが指さす方向に、地面に突き刺さったボロボロの銃剣と戦衣の欠片が散らばっている。

 

「ど、どどど、どういうこと??」

 

雀ちゃんだけでなくみんなが動揺を隠せない。

 

「簡単なことだよ。もう一人の私に聞いていたんでしょ? キミ達が私に戦いを挑むのは初めてじゃない。その時の成れの果てだよ。仕方ないから私が供養してあげてるんじゃない。」

 

神が供養なんて質の悪い冗談だ。

ジョークセンスがないのは一緒か。

 

「まさか、こんな事で怖じ気つかないよね? その程度の覚悟で来られても私も迷惑なんだよ。だから、これは私の前に立つ資格があるかの確認かな?」

「ごめんなさい。怖気ついてます。だから、帰らせて~!」

 

芽吹さんが沸騰するよりも速く、雀ちゃんが土下座し始めた。

 

「雀、みっともない真似は止めなさい。」

「おい、加賀城、とっとと立て。そんなで帰れるなら苦労しねぇぞ。」

「そうですわ、最低限ここから脱出するまでは一緒にされたくありませんわ。」

 

何故かアイツは黙って防人達を見ている。

 

「う~ん、ホントに私を倒すんじゃなくて、国土さんを助けに来ただけなの? でもなあ、せっかく貰ったものをタダで返すのもねぇ。」

 

アイツ、こっちを煽ってないだろうな。

うん、煽ってないな。

素でやってる。

 

「貰ったものですって!? ふざけるな。亜耶ちゃんはモノじゃない!」

「え? でも本人も私に命を捧げるつもりなんでしょ? 焔だと東郷さん以外はヤバいことになるから、ひとまず来たんだけど? 良く言うでしょ。借金と病気意外は貰っとけって。」

 

ダメだ。これ以上アイツに掻き乱されたら、実力も発揮できない。

 

「お前だって、結城さんを助けたかったんだろう。だったら、みんなの気持ちが分かるはずだ。人間の心を知っているはずだ。」

 

少しだけアイツの表情が反応する。

 

反応したことを悟られないようにしたというだけの些細な変化だったけど、やっぱり結城さんの名前を出すと仮面が剥がれる。

 

「んだよ。神だって言うから何かと思えば、単に惚れた腫れたが言いたいだけかよ。しょうもない。」

 

あ、完全に仮面が透けてる。

 

「そ、そ、そ、そうだよ。結城さんだって、ふ、普通の女の子だったんだから、正面から会いに行けばいいでしょ。か、神様のくせに意気地なし。」

 

雀ちゃんそれはちょっとまずいかも。

 

案の定、アイツの纏う雰囲気が変わっていく。

 

「ふん、そこまで言うなら相手になってやるよ。退屈しのぎくらいにはなるでしょ。お前たちが終わったら、この世界も閉じる。それでこの茶番も閉幕だよ。カーテンコールも必要ない。」

 

アイツが何倍にも膨れ上がったような幻覚を覚える。

 

「来るよ、みんな。さっきまでみたいな小手先じゃないから気を付けて。」

 

私の恐怖が伝わったのか、みんなの顔が引き締まる。

恐怖を持っても、退くことは無い。

みんなと戦う理由を持ったから。

 

「全員迎撃準備。天の神を倒して。みんなで帰るわよ。」

「「「はい」」」

 

 

 




まずは陳謝致します。

園子ファンの方には申し訳ございません。

別に園子様が嫌いなわけではありません。
一応、真面目な言い訳としては、園子様に園子様の考えがあって行動して頂くつもりです。

追憶の園子買わないと解像度下がるのは分かるけど、過去に某特典CD競り落とした後に半額になって以来、公式以外は手を出しにくい。
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