松永沙耶は神である   作:スナックザップ

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園子さまの解像度が上がらない。一番大事なところなのに。
やっぱり追憶の園子は必要かな。
後でいろいろ修正するかもしれません。


Every man is the architect of his own fortune

私は今盾に換装している。

 

万が一の場合、アイツの攻撃を読み取って対応できるのが私かアルしかいないからだ。

ほかのみんなはアイツが戦うところを直接は見たことがない。

私達は自分を守るだけでなく、アイツがキレてこの世界自体を消滅させないようにしなくちゃいけない。

 

行けないんだけど、最初から大技とは思ってなかった。

 

「それじゃ、まずは始まりに光あれってね。」

 

かつて、西暦の時代にいろいろと議論を重ねてきた量子的は真空のゆらぎ。

そこから生まれたこの世のすべてを内包する力。

 

「雀ちゃん、私の後ろで盾を広げて。」

「もうやってるよ。何なのあれ。もうヤダ~!」

 

泣き言を言ってもやる事だけはやってくれる。

 

この均衡状態が続いているのはアイツが私との接続を切断していないので、こっちも無限にエネルギーを供給されているためだ。

比喩じゃなく無尽蔵の力を手に入れたことで"力の減少"という事象自体が発生しないから、知ってはいても理解しようとしない。

 

なんでもできるからって、何もしなければ何もできないのと同じように。

 

宇宙と同程度の質量が、現実と違って爆発して広がらず、拳くらいの大きさのままで一気に熱に変わって落ちてくる。

 

私の張り巡らせたブラックホールのエントロピーが上限を越えて次々に蒸発していく。

 

「5、いえ30までは耐えて見せる。芽吹さん!」

「銃剣隊構え。攻撃が止み次第……。」

「耐える? 誰に対して言ってるの? ボクは無限なんだよ? こんな開闢程度のエネルギーなんて、永遠に放出してあげるよ。」

 

芽吹さんの号令無視してアイツは否定する。

 

(大丈夫、こうなることは事前にみんなとも話し合った。何のために1週間も経ってから救出に来たと思ってる。)

 

「もっともキミじゃ思いつきもしないだろうけどね。ボクでなければ、神たるボクでなければこんな事できやしないんだ。そう、ボクだけができるんだよ。友奈を助けられるのはボクだけなんだ。」

 

ほとんど独り言のようにアイツ言葉を吐き続ける。

 

「撃てー!」

 

アイツの言葉を無視して、芽吹さんの号令で種子弾頭が発射される。

 

「ん? 当たった? どうやって? ああ、"焼かれる前"に届いたのか。なんだ、キミ達全員そういうことができるようになったのか。」

 

いくつかの弾が光を超えて、アイツのバリアをすり抜ける。

 

タネは1つ。

 

時間加速を1極倍以上にすれば、プランク時間より短く、熱エネルギーで消滅という現象が発生する前に、数百メートル先のアイツにも命中させられる。

ただ、私の思考がそんな速度についていけるのが体感時間で30秒ほどしかなかっただけ。

 

それなのに、ちゃんと当たってるのに、全然ダメージがあるように見えない。

アイツ自体の質量の問題だ。

 

バリアを貫通して直撃させても、質量が大きすぎて当たった部分がどうなったのか肉眼で確認できない。

いくら素振りしても空気や水を完全に斬ることができないのと同じように。

 

神樹様の力をコピーしても完全にアイツに対抗するのは難しい。

 

「やっぱり、直接攻撃しかないわね。5、6番隊は引き続き射撃援護、残りは近接戦闘。私も出るわ。」

 

芽吹さんも銃撃戦ではアイツを倒せないと思ったみたいで刃で斬りかかる。

 

「む、時間加速での戦闘に慣れてる。」

 

山伏さんと同じ動き方で飛び出したシズクさんの一撃が綺麗にアイツの脳天に直撃する。

 

「よしって、言いてえところだが浅いか。しずく!」

「うん、任せて。」

 

シズクは無理せず山伏さんと入れ替わりながら交互に攻撃を続ける。

かと思えば、芽吹さんが上手くアイツの攻撃を捌く。

3人ほどではないけど、同じような2~4人ごとの仲の良い銃剣隊のメンバーが1つのユニットのように攻め続ける。

 

同じ姿かたちの2人による攻撃。

 

かつての西暦では7人同時に負けない限り戦い続ける勇者もいた。

それに倣って、短期間ではあるけど2人が同時に存在しながら、どちらも存在しない量子論的な存在。

 

もっともどちらかの人格が優先権を主張していた場合、すぐにバランスが崩れて確定してしまうから、使える状況はほとんどない。

 

ただ、シズクと山伏さんほどではないけど、他のみんなも時間加速下での訓練に付き合ってくれて、本当に助かった。

アルにも手伝ってもらったから、自分を見失って消滅したりってことはないと思うけど、かなり危険な訓練だったのに。

 

今回のアイツとの戦いはどうやったって奇襲だけで倒せない。

そもそも、直接アイツを倒すことは不可能と言ってもいい。

 

だから、アイツの精神を疲弊させて私が、アイツの精神に記憶とクオリアを流し込む。

どこまでできるか分からないけど、物理的に倒すのが不可能なら、アイツの精神自体を書き換える。

 

そのためにもアイツを攻め続けて隙を作る。

 

「なんで防人なんて連れてきたのか知らないけど、ボクはキミ達に用はないんだよ。」

 

アイツの姿が不意に消える。

 

「きゃっ!?」

「ッ、!?」

「ぐえ、ですの。」

「え? え? 何、なんでメブ達が撥ね飛ばされるの?」

 

その瞬間、防人の身代わりとして用意していた人形が次々に破裂する。

 

(来た、素粒子変換。今のはクローノンとインフラトロンの同時使用。)

 

光の速度を越える宇宙初期のインフレーションの広がり速度に、時間加速を重ねた本当の意味での神速の動き。

 

時間加速だけでは追い付けない。

 

だけど、やってくる場所が分かれば、そこに攻撃を置いておくだけでいい。

 

「捉えた!」

「こっちの動作を読んだ? 未来予知なしで?」

 

アイツが不思議そうにしている。

 

アイツが知らないものはこの世にもあの世にもない。

だけど、知っていても無視しているなら、アイツは対応しようと思わない。

 

これは"気づき"の問題。

 

だから、全知全能だろうと、完全善だろうと、絶対悪だろうと、"そうと思わなければ"何もしない。だから……。

 

「これはただの経験だ。今までの私達の積み重ねがお前の動きを読んだだけだ。食らえー!」

 

そのままお互いの額をぶつける。

 

ここまで近ければ、数か月前まで1つの存在だった私達には何も問題ない。

 

私の想っていること。

みんなをどう思っていたか。

話し合った戦いが終わった後のこと。

 

「何もかも欲しいなんて破廉恥なやつ。友奈を一番に考えない私など、ボクには必要ない。」

「何が恥ずかしいか、私はみんな大好きだ。最初は嫌いだったけど、大好きになったんだ。お前だって、ただ歌野と水都を助けたいって言えばよかったんだ。みんな助けたいって言えば良かったんだ。私達にはそれができたのに!」

「違う。私は、ボクが、友奈を助けたいんだ。だから、友奈以外のは全て諦めろ。そのために、そのためだけにこの世のすべてを地獄にして来たんだ。」

 

違うと叫ぶ激烈な拒絶の想念。

自分はそういう存在だという概念。

それ以外いらないという妄念。

 

「芽吹、撃って、コイツを!」

「全員構え、沙耶に当てるな。撃てー!」

 

十六の銃口から発芽しつつある種子が光速さえも越えて、アイツの体に埋め込まれていく。

 

「この、こんなもの今すぐ消し飛ばしてやる。」

「させない。邪悪な天の神(わたし)はここで終わらせる。」

 

アイツ自身の熱量が多重指数関数的に上昇していく。

 

近傍平行世界に一時的に逃げようにも、逃げ込んだ先の宇宙まで歴史そのものに至るまで燃やされちゃう。

 

今もみんなが種子を打ち込み、あるいは直接斬りかかりながら、理解できないほど小さい傷でもアイツに届いている。

どんな巨大な猛獣でも小さな傷を治さないと、命取りになることもある。

 

だから、誰も最後まで諦めない。

 

脳が焼き切れんばかりの勢いで、記憶と魂をアイツに転写していく。

目がチカチカする、絶叫マシン連続乗りをした時みたいに足元が覚束ない。

 

今まで記憶だけだったのに、アイツの魂も私に共有されていく。

 

「あああAAAA嗚呼アアアアアア!!!」

 

世界中の人間が叫んでもこんな声は出ないような叫び。

アイツの声なのか、自分の声なのか、深く深く裡なるものに引き寄せられて……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「乃木園子、お前は何のために戦う? 何故私の前に現れた。三ノ輪銀はどこにもいない。いない者のために戦おうというのか?」

「ミノさんの仇ーって言っても理解できない?」

 

対峙する2人は以前とは真逆のように立つ。

 

かつて、守ろうとして守れなかった少女。

かつて、それを奪い、また今度はその先を見る青年。

 

そこに流れる時間も空気も見守るかのように静寂のみを湛える。

 

「理解は……たぶんできている。」

「だったら、私がどういう気持ちでここにいるか分かるでしょ。」

 

精霊を漂わせながら、ゆっくりと園子が槍を構える。

合わせるようにアルフレッドもいずこからか顕した鉄塊のような剣を構える。

 

「では。」

「うん。」

 

2人はお互いのことを知らない。

ただ、敵だということしか知らない。

躊躇う理由など残されていなかった。

 

最初の一撃はお互いに真っ向から切り結ぶ。

払い、突き、降す。

 

どちらも決定的な一撃を出せないまま、何回も、何十回も、何百回も。

 

アルフレッドは考える。

 

今のアルフレッドの魂は未だ十華の体から離れることができていない。

確かに12歳の子供の体ではなく、師の肉体で上書きしているが、物質である時点でそれはかつての自分ではない。

 

神に次ぐと言える力も今は機能不全が著しい。

光にも熱にもなれない今の彼では、精霊バリアを突破できても、決定的な攻撃を繰り出せない。

 

何より、今まで何度も使ってきたはずの力にも関わらず、自分の心が驚くほどその力を躊躇する。

 

園子もまた最初に船に乗り込んでから満開を使っていない。

それが即優位性に繋がるのかはともかく、機会を探っているのか、別の意図を持っているのか、その表情からは読み取れない。

 

均衡が傾いたのはアルフレッドが園子を後ろに弾いた時。

 

距離が空いたと同時に、高天原への接続を進める。

 

アルフレッドにとって、乃木園子と戦う理由は既に無い。

 

隙を見て高天原に移動して、弥勒達防人のサポートをすると決めていた。

 

入口がなければ高天原に移動できないのだから、無理に園子と戦う理由はない。

ないと、アルフレッドは考えていたはずなのに、何故か逃げられない。

 

「逃がさない! 満開!」

 

満開どう使うべきなのか、園子は既にそのことを理解している。

始めのころは無駄に満開を繰り返していたこともあるが、戦いの中でどこで使うことが有効なのか理解していた。

 

再び詰まる距離。

 

満開状態で戦闘を継続する園子が、攻勢に転じる。

 

槍の攻撃から、船から飛び立った鉄骨ほどの大きさもある無数の刃へと変わる。

少しずつ攻撃する回数は劇的に園子の方が多くなり、アルフレッドは飛んでくる刃を跳ね返していく。

 

それでもアルフレッドにかかるダメージが急速に増加していく。

攻撃は受け止められても、その重量による斬撃は人間のままの状態では重い。

 

「ねぇ、どうした貴方は戦うの? 天の神に助けてもらったから? だから、ミノさんを斬っちゃったの?」

「違う。ただ、三ノ輪銀が死ななければ、東郷三森は結城友奈の友達にならなかった。だから十華が三ノ輪を助けないように、私がお前たちと戦った。それが御心だ。」

「だったら……」

 

急に方向転換を始めた刃が、一つに集まり刃を重ねたブーメランのように自在に飛び回る。

アルフレッドは何とか防ぐが今度は後ろに飛ばされてしまう。

 

「記憶でも何でも触って、みんな仲良くできるようにしてくれればよかったじゃない。ミノさんだって、結城さんだって、わっしーと友達になってもおかしくなんてないじゃない。」

 

刃から焔が吹き出し、アルフレッドも受けた刃から火に包まれた。

 

「……」

 

アルフレッドが焼失する。

 

入れ替わるように園子に影が差す。

人の視界では大きさを測ることさえ叶わない巨大な質量。

 

数億トンにも及ぶ巨大な鉄が園子の上に降りる。

 

けれど、園子は動かない。

 

精霊バリアで防げることを知っているからだ。

 

そう、ただの鉄であればどれほどの質量でも動く必要はない。

 

だから、今、動いたのは"もう一人"出現したアルフレッドが園子を攻撃したためだ。

 

「やっぱり、貴方達の素粒子変換ってそういうことなんだ。だったら、記憶も一緒に飛んじゃったんじゃない。」

「それを確かめたかったのか。確かに素粒子変換は死と同義。今の私はあの時の私ではない。記憶も肉体も、魂さえも新しく複製もの。素粒子への変換はボーズ粒子と同程度の寿命となる。」

 

だが、とアルフレッドは言葉にせずに考える。

 

今まで例え新生されたのだとしても記憶も魂も同じなのであれば、自分は続いていると歯牙にもかけなかった。

今、仮の主と過ごした時間がが失われたことに、不思議な寂しさを感じていた。

 

突然、園子が槍を降ろし、満開さえも解除する。

 

「それが、たいせつなものを失くすってことだよ。」

「……これが、そうか。これを私に与えた貴方は何者か。」

「私は乃木園子、貴方が討ったあの子は三ノ輪銀。友達だよ。それで十分。」

「私は、アルフレッド。アルフレッドとなったもの。私は何を大事にしていたのか。」

「それは私にも分からないよ。でも、貴方は誰かの答えを聞くんじゃなくて自分で答えを知ってるはずだよ。」

 

先ほどまで互いを憎むように戦っていたとは思えない静かな時。

 

1分、2分と過ぎていく。

 

「そう、貴方は乃木園子、あの少女は三ノ輪銀か。それなら……。」

「うん、だから、これで……。」

 

そのままゆっくりとお互いの刃を持ち上げる。

まるで合わせるような動き。

 

本当に僅かな間だけ、2つの影が消える。

 

消えた影が戻った時、2つが交差する。

残った1つの影はゆっくりと羽ばたいていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

対成す存在。

同一の魂から生まれた双子(わたしたち)

 

お互いの魂の波動を反転させて対消滅させる。

単純な力で勝つことはできなくても、アイツの行動原理を壊して停止させることができれば……。

 

視界が見えない。

いえ、見えているけど感じない。

 

今のボクは神? 悪魔? そのどれでもない?

 

なんでか、芽吹達が私に向かって来る。

 

「やっぱり反応しませんわ。」

 

弥勒さんが目の前で手を振っている。

 

「これ、天の神と沙耶のどっちが残ったの?」

 

雀ちゃんがグルグルと私の周りを回っている。

 

「知るかよ。もともとコイツは1人だったんだろ。どうなんだ楠。」

 

シズクちゃんは1人に戻ったみたいだ。ということは私からの供給も切れているんだろうか?

 

「仕方ないわね。いったん彼女も連れてもどりましょうか。」

 

私はアイツを倒せたの?

 

いえ、倒せたとしてもアイツはどこへ消えた?

 

素粒子になって散った?

 

なんだか、あれだけ暴威を振るっていたアイツの終わりにしてはあっけなかったな。

まさか、アルもいないのに勝てたなんて。

 

アイツは天の神になってから危険に晒されたことがないから、戦い方が粗雑になってたのかも。

 

指1本動かせない。

でも、視覚も聴覚も正常。

 

みんなに触られてくすぐったいのに、動けない。

もどかしい。

 

「ぷっ、くふふふふふ。ああ、キミ達はほんっとうにバカだなあ!」

「沙耶? あぐ!?」

「メブ!」

「楠!?」

「芽吹さん!」

 

え? なに? 私の口、勝手にしゃべって、芽吹さんを掴んで……。

 

「一回自我を消せば何とかなるなんて、本気で思っていたんだ。カ・ワ・イ・イ。」

 

一番近くにいた雀ちゃんとシズクが、芽吹さんと私を引きはがそうと……できなかった。

 

「放せって、くそ、なんだ。オレたちの体も動かない。」

 

私の、みんなの神経の化学物質を操作してる。

 

 

「さ、や、はどこに…。」

 

首を掴まれ、持ち上げられた状態で芽吹さんが尋ねる。

よく見ると指一本だけ首を掴まれる直前に差し込んで、窒息を免れてる。

 

私の空いている左手が持ち上がり、ボンヤリとした明かりが灯る。

 

「ボクも松永沙耶なんだけど、まあ、キミ達が沙耶だと思っていたペルソナなら、ちゃんとあるよ。同じ体と魂なんだから、こういうことで来てもおかしくないでしょ。」

 

わ、私がペルソナって!?

 

「わけ分かんねぇこと言ってんじゃねえ。そこに沙耶がいるなら、オレ達の前にいるお前はなんだ?」

 

シズクが斬りかかろうとしたまま動きが止まる。

 

「シズク!」

 

悲鳴のような声をあげたと思ったら、山伏さんから全ての表情が消えて、棒立ちになってしまう。

 

「これは……!」

「え、え、み、みんな……あ。」

 

気づくとみんな能面のような無表情のまま立ち尽くしている。

まるで、樹木のように微動だにしない。

 

(お願い、みんな、動いて。)

 

私の体なのに、視線一つも自由にならない。

 

動くのは私の体のみ。

いえ、アイツだけ。

 

普段のアイツとはだいぶ違うけど覚えがある。

 

結城さんと一世一代の大喧嘩した後だ。

 

記憶でしか知らないけど、あの後、結城さんが来てくれるまでの、アイツも今みたいな状態になってた。

 

これが本当の天の神となったアイツなの。

 

「ふざけるな!」

 

ただ一人、だれもいなくなってしまった世界で、芽吹さんだけが未だ手足を振るい、拘束から外れようと足掻いている。

 

でも、アイツは芽吹さんを持ち上げたまま、まわりのみんなと同じように微動だにしない。

 

「何が神だ。勝手に人をこんな風に扱うものなんて、私は求めない。誰も望まない。」

 

何も届かなくても、その意志だけは衰えない。

いえ、ますます燃え上がっている。

 

反対にアイツは何を言われても表層には何も浮かんでこない。

 

「うーん、ここは懇願したり、絶望したりするところだよ。ただの人間としてはね。だから……」

 

芽吹さんの首がより強く締め付けられる。

すでに唇が紫色になってきている。

 

「その感情は不適切、かな。」

 

 

 

(止めろおおおおーーーーーーーー!")

 

 

 

 

声が出せずとも、視線すらかすらずとも、指先にすら触れずとも、あらん限りの(たましい)を叫ぶ。

 

「「させない!」」

 

空から降り立つ剣が次々にアイツの腕に当たる。

 

それでも、芽吹さんは逃れることができない。

 

この攻撃は園子さんの精霊。

それじゃ、アルは……。

 

「芽吹様、少し御辛抱を。」

 

この声、アル!?

 

アイツの腕の中からすっぽりと芽吹さんが滑り落ちる。

芽吹さんの一部分を量子トンネル効果で不確定状態にしたんだ。

あんなに繊細な操作ができるようになるなんて。

 

「助かりました。アルフレッドさん。でも、どうして勇者と一緒に?」

「まあまあ、細かい事情は後で。今は。」

「今は?」

「逃げるんよー。ほらアルフレッドもみんなを抱えて抱えて!」

「承知しました。」

 

あっけにとられたのか、気にしていないのか、アイツは遠ざかる園子さん達をそのまま見送った。

 

「まってください。まだ沙耶が。」

「それは私にお任せください。楠様。」

 

急激な眩暈とともにフワフワと天にも昇るような心地。

 

ああ、とうとう私は召されるのか。

でも、良かった。

みんなは無事で…。

 

「って、なんで!?」

 

いつの間にかアルフレッドの上にみんなと一緒に山積みにされてる。

 

「貴方の意識が残っているのは分かっていた。後は肉体を再構成すれば事足りる。」

 

こともなげに言ってくれるけど、アルフレッドの能力がここにきて上がってない?

いや、迷いが晴れたって感じかな。

 

でも、これでいいのかな。

 

チラリと並走する園子さんを見る。

 

「あ、あの園子さん。アルのことは……。」

 

今、聞くべきじゃないかもしれないけど、これは私が蒔いた種だ。

もし、今も園子さんがアルを許せないなら、どうにかして分かってもらいたい。

アルも変わったんだって。

 

「うん、大丈夫。私もごめんね。どうしても確かめたかったんよ。アルフレッドが今も敵なのか味方なのか。もし、味方になってくれそうだったら、いつまでもメソメソしてたら、しっかりしろーって怒られちゃうから。」

 

い、意外と脳筋なことを……。

 

でも、考えてもしょうがないってのはその通りかな。

私もアルフレッドが、もし天の神の命令を優先したらどうしようって思ってたし。

 

でも、アルは間違いなく弥勒さんが復興しようとしている未来を見たがってる。

私はそれで良いんだと思うけど、園子さんも同じなんだろうか?

 

「えっと、それで、結果は?」

「うーん、保留。少なくとも今は人間なんでしょ。」

「もう、2度と人を棄てることはありません。私は生きていたい。叶うならお嬢様のお傍でその行く末を見ていたいのです。」

 

なんか、復活した防人たちに弥勒さんがからかわれる姿が思い浮かぶ。

 

そんな未来なら、絶対見てみたい。

 

だから……。

 

 

「園子さん、私が何もかも押し付けようと全部暴露しちゃったせいで、余計な苦労を追わせてごめんなさい。」

「うん、やっぱりそうするしかない?」

「はい。」

 

しっかりと頷く。

この世界のことお願いします。

 

「アル、みんなのことお願い。」

「元よりお嬢様はお守りする。絶対に。」

 

アルは結局こういう性格なんだろう。

ただ、生きづらいと思うから、ちょっと心配。

 

でも、誰かに問うのではなく、自分で答えを見つけられたから、きっともう大丈夫。

 

そして……。

 

「ちょっと、突然何を言ってるのよ。」

 

まだ苦しそうにしながら、芽吹さんが声を張り上げる。

 

「芽吹さん、ありがとうございました。貴方は私達防人にとって、間違いなく勇者です。貴方なら必ず運命を越えていけます。」

「だったら、貴方もその一人でしょ。私の防人達は誰も犠牲になってしないわ。」

「もちろんです。だから、私は……。」

 

ふわりと浮遊感。

 

そのまま"後ろ"に流れ落ちて、"正面の"アイツの前に降りる。

 

「私は絶対に死なない!」

 

全力でクローノンを吹き出す。

 

「停止か、加速か、停滞か、どれもボクには影響がでないんだけどね。」

 

「違うよ。お前に時間をかけるんじゃない。」

 

みんなと話したとっておきの秘密。

 

アイツが明かさなかった記憶の向こう。

 

西暦2018年10月31日から半年。

アルにさえ明かされていない空白。

 

その直前にほんの一瞬だけ感じた意識の喪失。

 

――誰かがアイツを傷つけ、意識を失うほどの重傷を追わせている――

 

その力を手にするために。

 

「みんな、お願い。どうかアイツの最後の秘密を!」

 

天の船が鈍く光り時間遡行を始める。

この船のもう一つの目的。

 

数多、繰り返す時間と平行世界を越えて保存するために、アイツ自身があの船だけは特別にしている。

だから、もし、ここで勝てない時は過去のその人が何を成したかを見届ける。

 

本当は揃って生きたかったけど、グレイグーを攻撃させないために、私かアルは残るつもりだった。

 

「さあ、来い。今は勝てなくても、いつか必ずみんなが見つけてくれる。それまでは絶対に通さない。そして……。」

 

お前を倒す、そう言えたのか分からないまま、私の意識もまた過去へと引きずられていった。

 

 

 

 

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