松永沙耶は神である   作:スナックザップ

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あけましておめでとうございます。
本年もよろしくお願いいたします。


私の最良の日々は過ぎ去った

壊れゆく壁を見た時、最初に感じたのは怒りだった。

 

――また約束を守らなかった――

 

 

誰としたのか、何時したのか、どんな約束だったのかも覚えていないのに、その印象だけが強く焼き付く。

 

だから、私はただ叫び続けた。

 

「ふざけんな! 来い星屑達。」

 

私の影からあふれ出る幾億もの星屑達。

あるものは融合しながら、いくつかは私に寄り添い空を駆けていく。

 

鉄の巨人が何なのか分からないけど、あれは必ず破壊する。

 

 

「結城ちゃん! 待って。」

 

十華の声を背にしたまま告げる。

 

「花本さん、十華のことお願いします。」

 

一瞬だけ、目で見ずに筋肉の電位差だけで烏丸さんの微笑を感じる。

やっぱりこの人は危険だ。

でも、花本さんは少しは信じられる。

 

父親違いとは言え、千景様の妹に当たる十華をうまく導いてくれると思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私達の接近に反応するように、巨人からも何かが飛んでくる。

 

(あれは人? でも人間が空を飛ぶはずがない。それにあんなグロテスクな恰好。絶対悪いものに決まっている。)

 

それは確かに人型をしている。

 

だけど、顔はのっぺりして貼り付けただけの仮面だし、鉄とか石とか木の枝とか、色んなものが材料になってる。

壁を壊したロボットみたいなのと比べると、こっちは半分機械でできた人形だ。

 

 

ゴーレムもどきが口から何かを吐き出す。

何体かの星屑に命中すると、星屑から樹木が生えてきてそのまま墜落していく。

 

(何あれ、バーテックスに通用する武器なんてあるの?)

 

それでも慌てることなく、無機質にバーテックス達は敵に向かう。

進化体になったバーテックス達が鱗のような盾を構え、大きな針を弓のように飛ばしながら応戦する。

 

無敵と言うわけでなく、次々に針や雷撃に落とされていくけど、バーテックスもゴーレムもどきもやられてもやられても、仲間の残骸を乗り越えて恐怖など感じないかのように戦い続ける。

 

とにかくあの巨人を止めないと。

 

あのまま進むと太平洋側から四国に向かってる。

もし、あんなのが四国中を歩いたら、その被害は今までのバーテックスの襲撃ですら比較にならない。

 

この時の私は"四国中"を歩いたらなんて思っていたけど、後で四国中を歩くことなんてできないって知る。

だって、あのロボットの身長は1000km。

大気圏の最も高い場所。

外気圏にまで到達している。

 

"歩く"なんてしていたら街どころか、四国自体が踏まれた衝撃で壊れてしまう。

 

だけど、感覚としては知っていても知らなくても分かる。

あれが本当に四国に来たら、きっと何千、悪ければ何万人もの人が死ぬ。

 

「何十億も犠牲にしておいて今更そんな誤差でしょ。いえ、1064乗だっけ?」

 

その姿は私にそっくりだった。

 

それなのに私と違って、すごく吐き気がするほど美しく。

酩酊するほどに引き寄せられる。

 

同じなのに違う。

奇妙な感覚。

 

「浮いてる? 誰なの?」

 

私の答えを聞いて、何かに納得したような顔をしている。

 

「なるほどね。この時代だとお前は記憶を失っているのか、なんで修正していないのか知らないけど、ならこのまま倒させてもらう。天の神。」

「て、ん?」

 

天の神って、バーテックスの大将じゃないか。

なんで私がそんなんだって言うんだ。

 

天恐で発狂した通り魔(じぶんでまいたたね)に刺されて昏睡していた間抜けな神様(ラスボス)なんているわけないだろう。」

「勘違いしているようだけど、あの時のお前はまともじゃなかった。どっちかって言うと人間と変わらない。今もそうだけどね。こっちに来て天の神の気配もリンクも無かったのはビックリした。」

「いい加減なことばっかり、だったら言ってみろ。私の本当の名前は何なんだ?」

 

そう、本当に私のことを知っていて、私が天の神だと言うなら、名前だって知ってるはずだ。

まさか、天の神が名前じゃないだろう。

 

こんな話をしている間にもあの巨人は四国に向かっている。

バーテックス達もゴーレムロボットに遮られて届かない。

 

どうする?

何とかしてあれを止めないと。

 

「名前、名前、名前ね。人を、みんなを棄てて誰からも呼ばれない名前が可哀そうだけど、あるよ、名前。」

 

無視だ。無視。

 

「松永沙耶、それがお前の名前だ。そして、私の名前でもある。」

 

松永沙耶……。

私の名前?

 

「あーはいはい、そうですか。やっぱり聞き覚えないや。人違いだ。迷惑だからあの巨人を連れて帰れ。」

 

やっぱり覚えがない。

だったら、覚えていた結城友奈の方が正しいんじゃないだろうか。

 

「今の私は結城友奈。他の何も覚えてない。本当の私が見つかるまでは結城友奈だ。」

 

私の答えを聞いて、ホログラムなのに、何故かちょっと気持ち悪いものを見るような目になる。

 

「うっわー、なんて気持ち悪い奴。やっぱりまともじゃない。大好きな人の名前を勝手に名乗るなんて、そっち系か。」

「そっち系ってなんだよ。人を変質者呼ばわりするな。」

 

この感じだと、結城友奈という名前にも心当たりあるんだろう。

でも、そんなの後回しだ。

 

今のままだとあの巨人は倒せない。

蠍の毒針も射手の矢も牛の突進もなにも受け付けない。

 

ホログラムを無視して巨人を見上げる。

バーテックスが従ってくれている理由はやっぱりよく分からないけど、文字通り星の数ほど出現するバーテックス達でも数で押し切れていない。

 

巨人と言っていたけど、何となくこれも金属質に見える。

大きすぎて材質も何もわからなかったけど、これも飛び回っている人形たちと同じロボットみたいなものなんだろうか。

 

「だったら、これでどうさ。」

 

空間転移の応用ですっぱりとの足を宇宙空間に向かって切り取る。

バランスを崩した巨人ロボットが一瞬だけよろめくけど、何事も無かったかのように持ち直して移動を再開する。

 

(足で動いているわけじゃないのか。だったら、どうやって移動してるんだ?)

 

「驚いた。そこまで力を取り戻しているのに、記憶は全く戻ってないのか。でも、やっぱり今なら私でも勝てる!」

 

ホログラムの言葉に沿うように、巨人が私に向かって来る。

 

私を追ってくるつもりなら、四国じゃなくて海の方に向かう。

 

「そう思うならついて来い!」

 

瞬間移動を繰り返し、付かず離れずで飛び回る。

 

壁が無くなって外からもバーテックスがやってくる。

 

まずい、私が出したわけじゃないバーテックスはまた人を襲うかもしれない。

 

(勇者様たちが戦っていた樹海の時みたいに、制御できれば……、ええい、やってやる。)

 

「星よ、私に従えー!!」

 

四国に向かおうとしていた星屑たちがまとめてこっちにやってくる。

 

「で、できた。」

 

あの時と違って離れていたけど、それでもバーテックスは私の言うことを聞く。

少なくともこれで人類が襲われる可能性は無くなるんじゃないだろうか。

 

あの巨人を退けられればだけど。

 

「どこへ行こうというの?」

 

さすがにホログラムはあっという間に追い付いてくる。

でも、巨人は大きすぎて方向転換もできてないみたいだ。

 

「まさかお前が四国に気を遣うなんて、質が悪い。」

 

相変わらず憎々しそうに宙に浮く幻影が口も使わず呟く。

 

「私も四国を攻撃するのが目的じゃない。お前が自分から出てきてくれたのなら、それで目的は果たせる。もっともその前に倒してしまっても良いんだよ。」

 

言葉通りに今まで歩くだけだった巨人から目に見えない敵意が私を飲み込もうとする。

 

「そんな!」

 

慌てて避けると、先にあった海の水がごっそりと消滅する。

 

爆発とか、どっかに移動したとかじゃない。

 

パッと消えた感じ。

そして、何時まで経っても戻らない。

 

「まだまだ、相転移砲の数は何万だってある。」

 

相転移砲って何なのか知らないけど、あの敵意を向けられるとまずいってことは分かる。

実際に巻き込まれたバーテックス達の気配が感じられない。

 

あんなことを言っているけど、バーテックスには通じないレーザーとかミサイルとかが混ざっているのは、人間を相手にするつもりがあったってことだ。

実際、レーザーとかが近くを通ると、私も熱を感じる。

 

 

絶対にあんなもの街に向けさせちゃダメだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

どのくらい飛び続けたんだろう。

 

長い初夏の日差しも傾き始めている。

でも、ここまで来れば被害は抑えられるはず。

 

土佐湾から出てまっすぐ東に向かった先。

北太平洋海上ウェーク島の北西500kmで停止する。

 

なんで場所が分かるのかハッキリ言えないけど、ここなら一番被害が少ないはず。

 

 

「本当に街から離れたかったんだね。その心がほんの少しでも残っていれば、こんなことにならなかったのに。」

 

本当に残念そうにホログラムが呟く。

 

「そんなの今更だ。後悔だって、失敗だって、たくさんある。それでもみんな今を生きていくしかないんだ。」

 

空間転移で直上に呼び出した彗星群を無数に降らせる。

降り注ぐ彗星をやっぱりあの相転移砲とか言う武器で撃ち落としているけど、今回はこっちの方が数が上だ。

 

そして本当の攻撃はこれから。

 

「これが今私にできる最大。いっけえええぇぇぇ!!」

 

迎撃に手一杯になっている間に今度は切り取った巨人の体同士を、"同じ場所"に移動させる。

 

同一時空間上にフェルミ粒子で構成される物質は存在できない。

 

それでも、無理に同じ時間同じ場所に、2つの物質が存在する場合に考えられる帰結はいくつかある。

 

1つは自身を元に、同じ場所を占めたお互いの粒子同士結合してして、太陽のような核融合みたいな現象が起こる場合。

1つは重なってしまった部分が超対称性変換のようにフェルミ粒子ではなく、ボース粒子に変換されることで同一時空に同居する場合。

そして、最後の1つはあの機械の中のエンジンが私の想像通りだった場合、自重圧壊で爆縮する場合。

 

(もし、小さなブラックホールを作ってエンジンにしているなら、制御を失って重力の井戸に飲み込まれる。)

 

答えは……。

 

何も見えない空間がぽっかりと出現する。

 

答えは最後の1つ。

 

自らのブラックホールエンジンの制御を失って、圧壊していく。

 

後はこれを遠くの宇宙に空間転移で放りだせばおしまい。

 

ホログラムももう見えない。

 

終わってみればあっけない。

 

ゴーレムロボット達がまだ残っていて、バーテックスと戦っているけど、さっきみたいに母艦が無いから補給が尽きて、そのうち墜落していくだろう。

 

「終わった?」

「そんな訳ないでしょう。お互い力の使い方はほとんど失ってるけど、できることは一杯あるんだから。」

 

声だけが聞こえる。

 

と感じる暇も無かった。

 

急に自分の動きが緩慢になる。

まるで重しを乗せられたように鈍い。

 

「ど、こに。」

 

ゆっくりとでも周りを見ると、見慣れないドローンが私の周りに浮いている。

さっきまでの巨大な敵に気を囚われて気が付かなかった。

 

「お前を倒すのにまともな手段が通じない可能性は高かった。でも記憶が戻っていれば絶対にあの船に突っかかる。だから用意したの。私が持てる最後の切り札。時間遡行爆弾。」

「時間…を遡行? …な、んで、そんなんで……」

 

まともに言葉が続かない。

これ絶対やばいやつだ。

 

「そう、そのドローンをポインタにして、お前の周囲だけ時間を宇宙誕生以前まで巻き戻す。今度はあの時お前自身が滅ぼしたあの原初の光になるのさ。あとはお前に代わって私が天の神としての権限を得る。これまでも繰り返してきたとおりだ。

「ま、だ、そん、なことを!」

 

藻掻き、足掻き、むしり取るように空を掻く。

 

その動きさえも自分のものとは思えないくらいに苛立たしい。

 

「結城ちゃん!!」

 

ドローンの1機が撃墜される。

 

さっき呼んでくれたのは彼女だろうか?

どことなく十華に似てるけど、明らかに年齢が違う。

千景様かなと思ったけど、勇者としての装束がかなり違う。

 

「だ、れ?」

「わたしだよ。十華。返信したら大きくなっちゃんたんだよ。」

 

そういうこと。

 

確かに小学生にすらなっていない十華が勇者として戦えるのか疑問だったけど、勇者としての装備だけじゃなく、肉体自体をを変化させたんだ。

 

続けて反対側のドローンも撃墜される。

 

「今度は逃げるなよ。まだ礼も言えてないんだからな。」

「貴方がぐんちゃんのこと助けてくれたんだよね。」

「若葉様、高嶋様まで…。」

 

どういう仕組みなのか、2人の着地点に半透明な鱗のようなものが浮かび上がる。

よく見ると十華の背中から糸みたいなので繋がってる。

あれを伝ってここまでジャンプを繰り返してきたんだ。

 

「西暦の勇者たち邪魔をするな。そいつこそが天の神。そいつさえ倒せばすべて終わる。」

 

どこに隠れていたのか、破壊されたドローンが補充されて、また私を囲む時間遡行を再開しようとする。

 

「天の神だと? 神が人間の姿を取って普通に暮らしていたとでもいうのか。」

 

若葉様がその言葉を鋭く問いただす。

 

増えたドローンと十華の出す鱗を足場に次々にドローンを海上に切り落としていく。

 

「そうだよ。白鳥歌野が与えた精神的なダメージで天の力を上手く制御できなくなっていたんだよ。だから、人間の姿で回復を待っていたんだよ。そいつは。」

 

話す間もさっきまで時間遡行が進む。

私も何とか抜け出さないと。

 

「本当にその人が天の神たったとしても、私は信じる。ぐんちゃんを助けてくれたんだったら、絶対に悪い人じゃない。」

「高嶋様……。」

 

こんな、バーテックスを操るなんて怪しい私なのに……。

 

バカだなあ。

 

この人たちは今まで命がけで四国を守ってきた勇者なのに。

そんな人たちが、神樹様に選ばれたこの人たちが、ただバーテックスに襲われないだけで、私のことを敵だと思うはずなんてなかったんだ。

 

(あの時、逃げ出さずにちゃんと話していればよかったんだ。いや、今からだって遅くない!)

 

「おおおおおおおおお!!」

「やめろ! 時空断絶状態で空間転移なんてしたら……ああああああああ!」

 

時間遡行に包まれた範囲を細切れにするように空間転移を走らせる。

 

複数の空間転移を組み合わせたらどうなるか分からないけど、時間と空間には相互作用がある。

これで時間遡行を邪魔できれば……。

 

ふわりと体が軽くなる感覚。

 

「やった! 抜け出せ……。」

 

最後まで言葉を続ける前に空に影が差す。

 

ブラックホールによく似た真っ黒な穴が私達を包む。

 

「何だこれは。」

「ええーなんなの?」

「結城ちゃん!」

 

ダメだ。

 

このままだと勇者様や十華まで巻き込んじゃう。

 

「特異点をむき出しにしてしまったんだ。こうなったらせめてお前は逃がさない。」

 

ドローン達が群がって、私に集まろうとする。

 

だったら、逆手に取ってやる。

 

「若葉様、高嶋様、十華のことをよろしくお願いいたします。」

「そんなの……!」

 

みんなの答えを待たずに、ドローンの群れと共に空間転移で特異点に飛び込む。

 

「バカな!? 自分から特異点に飛び込むなんて。」

「バカははお前だ。私が本当に天の神でも、そのまま放っておけばみんな戦わずに済んだんだ。それをわざわざ刺激して!」

 

そうだ、何時だって松永沙耶(わたし)はそうだった。

 

何かをしようとして、悪い方向にばっかり。

 

私が何か良いことをしようなんて思わなければ良かったって思ったことは、星の数よりも多くあった。

 

コイツが私だって言うなら分かっていたはずなのに。

 

(もし、本当私達が同じなら、それでも動かずにはいられない。ずっとずっと、私はそう生きていくしかないんだ。)

 

私はこういう風にしか生きられない。

 

だから、これからもいっぱいみんなに迷惑をかけるんだろう。

だから、少しでも前よりも良かったって思えるようにしたい。

だから、今度も私は絶対に諦めない!

 

ドローンやゴーレムロボット達が特異点から逃れようと暴れまわる。

だけどバーテックス達に邪魔されて、特異点の影響圏から抜け出せない。

 

「私が、本当に天の神だというのなら! バーテックス、すべての私と共に特異点の彼方へ!」

 

 

私が召喚した物だけじゃない。

 

世界中からバーテックスが集まって特異点へと身を投げていく。

 

「そんな、バーテックスまで。」

 

高嶋様のその声に宿る感情は一言では言い表せない。

 

ただ、バーテックスという現象のすべてをみたひと。

 

できれば、私の思い出した名前のことを聞いてみたかった。

 

千景様の容体と烏丸久美子は気がかりだけど、千景様のことはきっと花本さんが守るだろう。

 

今はそう信じられる。

 

そう、い、ま、は、し、ん、じ、て。

 

 

――誰かが間違っていると言った気がした。――

 

 

 

 

 




これで西暦編の半分くらいが終わりのはず。
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