松永沙耶は神である   作:スナックザップ

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閑話 これから、は必要ない

「へい、お嬢ちゃん、なんでも言ってみなYo。この天の神さまが特別サービスしてみせるぜ。めいびー」

「はいはい、考えておきますね」

 

さっきから樹ちゃんにいろいろアプローチしてみるけど、すべてスルーされて相手にされない。

 

おかしい。ふだんからスタイルとか料理スキルとか欲しがってたから奇跡的なパワーでDIYしてみたのに、あまり公表ではないようだ。

 

「こら、そこ、今度樹を別人みたいに変更したら承知しないわよ」

「同じ失敗はしませんよ。あれは私のミスです。今度は顔のスタイルまで変えたり、全自動で気づいたら料理が完成するスキルにしたりしません」

 

とは言え部長のご機嫌を損ねて、またお怒りを買ったらたまらない。ここは一時撤退するしかないか。

 

「はあ、分かりました。市販の可愛いものでも買ってきまーす。今度は普通のプレゼントにするから機嫌なおして樹ちゃん」

「あ、待って。お母さんが沙耶に一度寄って欲しいって」

 

そのまま廊下の窓から外に出ようとしたところで、友奈に呼び止められる。

 

「おば様が? うーん、この町に戻ってきたのに全然挨拶してなかったからかな。うん、分かったよ。今日でも行くね」

「うん、そうして」

 

やる事が自然に増えていく。今までは自分で決めて増やしていたから、少し新鮮。

 

(樹ちゃんのプレゼント、去年は大失敗で部長さんが怒り狂ってたからな。今年は先にリクエスト聞こうとしたけど、ダメだったか…)

 

そう言えば、部長のプレゼントについて、話していた時の樹ちゃんの雰囲気はなんだったんだろう。

妙な威厳があったような気がする。

 

でも、それから一度もそんな圧は感じたことがないし、ただの偶然だったんだろうか。

名前も樹ちゃんだから、神樹のことが無意識にあったのかもしれない。

ちょっと、過敏になってるのが、自分でも分かる。

 

(それも仕方ない。今回は最初から天の神(ボク)がその身を晒して、人の中から直接これからを変えようとしているのだから)

 

そう、すべてはこれから、ようやく始まるのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ふらりと入った洋服屋さんで樹ちゃんの私服と同じメーカーの帽子を1つ買ってみる。

 

うん、気に入るかどうかわからないからこれは自分で使おう。

 

どうせだったらケーキ焼きますって言えば良かった。

無難に季節の果物にしよう。ただしミカン、雀がうるさいのでキミは外れてもらう。

 

いちご、なし、りんご、このあたりが妥当かな。やっぱりミカンがないのは少し寂しい。

 

せっかくなので、少量のフルーツタルトでも作って、ミカンはそっちに足そうかな。

あとは、自然な雰囲気のあるタロットクロス。

西暦にあった星とか月のは見当たらなかったから、草木と魔法陣ぽいものが書いてある。

 

足を使って市販品を選び、手を使って手作り品を作る。奇跡があるのに、奇跡を使わない。何だか中途半端な贈り物達。

 

(でも、何だか懐かしい。せっかく人間やるんだったら、もっとこういうことも増やしていこうかな)

 

ちょっとだけ、そんなことを思えてしまった。

 

わざわざカスタードを混ぜてタルト生地に塗ったり、火加減を見ながら焼いてみたり。

本当に手で作るって、こういうことだった。

 

今更そんなことを思い出す。

 

自分で手で作るのも、奇跡の力でもっと良いものを生み出すのも、同じボクの力のはずなのに、何か違和感が消えない。

 

(あ、そっか、昔に慣れてた動きだから分かりにくいけど、これちゃんと苦労してる)

 

念をこめる、あるいは念を残す、ではないけれど、こうすることで精神を落ち着ける作用があるみたい。

 

樹ちゃんのプレゼントで贈る側のボクが癒しを貰うとは…。

神たる身なのにここで得る気づきもあるのか。

 

ボクにとってはただの行程にある寄り道。

わざわざ行かなくてもよい流れの分かれ道。

ゴールに届かない行き止まりの道。

 

でも、無駄にはならない。どこかでそう確信が持てる。

 

 

(必要ないけれど、無駄にならないもの。矛盾しているその意味するもの。もしかして、これが・・・。いや、いいや、今はただ会心の作を作りたい)

 

そう、ただ作りたい。それだけでも良いはずだ。

 

夜になるまでひたすらにプレゼントを準備する。

 

奇跡も使わず、最上ではなく今の自分にできる最善。

質的にも量的にも奇跡を使えばよいはずで、実際ついさっきまではその方がよいと思っていた。

 

私も変化してきている? 神様以上って何だ? いや、以上じゃなくて、以外の何か?

 

分からない。分からないのに不安を感じない。それどころか満足している。

 

もうすぐフルーツタルトは焼きあがる。果物も切り分けている。

 

早く、この感情の答えを。

 

不思議な焦りがどこからか吹き込む。

 

こんなのは初めてだ。

 

いえ、違う。これはあの時、部長の誕生日の時と同じ。

 

(製作者すら意図しないことが起きる? そんなことがあり得る? もし、もしも、そんなことが起き得るのなら、それこそが…)

 

思考は焼きあがったことを知らせるオーブンの音とともに消えていった。

 

いろいろ考えていたはずなのに、完成と同時に雲散霧消。

まるで夢か幻のよう。

 

夢? 幻? もしかして、これから起こることも、これまで起こったこともすべてそうなの?

 

だとしたら、私は今何を考えていた?

 

(ま、いっか、ダメならまた時間を遡って繰り返せばいいや、今までもこれからも関係ない。ダッテ…)

 

 

――ボク(天の神)はそういうものなのだから――

 

 

 

 

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