今回から2、3話ほど高嶋チームは移動です。
その間に四国の若葉ちゃんチームは色々大変。
予定ルート
淡路島→明石海峡大橋→神戸・大阪→奈良・天理吹田方面→奈良御所市→吉野・紀伊山地→伊勢神宮→名古屋→北回りで日本アルプスの中→諏訪→???
徳島県鳴門市。
数年前まで四国と本州をつなぐ大鳴門橋により、香川県坂出市や愛媛県今治市とともに人の往来が多かった町。
郡十華がここに流れ着いたのもそう言う理由がある。
正確には数年前に家を出ていた郡千景の母親が、
本州から四国に戻る時に利用するルートはほとんどがここになる。
橋としてメジャーなのは鉄道が通っている瀬戸大橋だが、自動車を含めると東側のこの橋が多くなる。
私が奈良から四国に友奈や茉莉たちと来るときも最初はここを目指した、と言うことになっている。
実際は橋の前にバーテックスがいたから迂回したのだが、
工夫すれば裏道を通るルートもあるのに、
わざと遠回りで最終的にしまなみ海道通ることなったのだが、その間もいろいろあった。
十華と言う名前が勇者として認識されなかったのは、
年齢が小学生未満で、巫女の導きもなく、丸亀市からも離れていたため発見が遅れたのだろう。
「で、その十華とかいう子供はどこにいるんだ。」
「もう、来ていますよ。」
その子供は、一言で言えば異常者以外なにものでもない。
友奈や茉莉も特別だったが異常者ではない人間だった。
だが、目の前に1人で車道のど真ん中に立つ5、6才くらいの子供という構図は見た目だけでも、異様だとわかる。。
私が車を路肩に一時停車して降りる。
「十華ちゃん、えっと、初めまして。」
「久しぶりで大丈夫ですよ。茉莉さん。わたしは知っていますから、覚えてはいませんけれど。」
舌足らずで子供特有の高い声なのに、話し方は10は年嵩に思える。
「お前が郡十華か? いや、違うな。お前は誰の味方だ?」
これで大赦の人間だったら、さすがの私も人間不信になる。
「はい、郡という苗字にはまだ慣れませんが、わたしは高嶋様を生贄にするつもりはありません。
結城ちゃん、いえ、神様はそこまで人類に絶望していません。
だから面倒なんですけどね。」
こちらのことは完全に把握している、か。
面白い。
私が巫女というのは建前だからな。
こうやって直に神に近しい者と言葉でやり取りできるのはラッキーだ。
「ここでは目立ちますので、もう少し移動をお願いできますか?
まずはこのまま大鳴門橋を渡ります。」
「待ってください。貴方は本当に郡様の妹なんですか?」
そのまま車に乗り込もうとした十華を花本が呼び止める。
「遺伝的にはそうです。確かに片親分だけのつながりがあります。
ですが、それも生まれていればの話です。これ以上は先に移動しましょう。」
やはり奇妙な子供だ。
これだけ自分より遥かに大きな人間に囲まれていて、あのくらいの子供が落ち着いている。
「あれ? でも、大鳴門橋も封印されているんじゃなかったっけ?」
友奈が首を傾げる。
「地上からは難しいですね。ですが……。」
―ルゥオオオオオオオン―
響き渡る
(何かが出てくる。とてつもなく大きい。)
「かつてのわたしは銀さんを助けることはできなかったけど、夏凜と戦って気づいたことがある。」
夏凜? 銀? 何の話だ。
「何かを守るために、別の何かを犠牲にしていたら、いつまでも終わらない。だから……。」
吸い込まれるように十華の姿が海の底から現れた何かに吸い込まれる。
「高嶋様、今度はわたしも全部がうまくいく方法を考えてみます。」
獣の姿。
豹のようにしなやかな筋肉を持つ腕と、熊のようにゆるぎない力強さを示す足、赤い翼竜の翼。
そのどれもが元となった生物の何倍にも届く。
(これでも地上活動用のミニサイズか。確かにこれは戦ってどうにかできるものとは思えないな。)
「着きました。ここなら、大赦も追ってこないでしょう。今日はここで休憩して、明日には大阪。そして、そこからは神樹様の探知圏外なので、直接諏訪まで転送します。」
そう言いながら、十華が車を自動車道に降ろして変身を解除する。
「よし、ちゃんと服も再現できてる。」
「そう言えば、さっきあの大きな獣になる前、一瞬だけ服が無くなってたけど戻ってるね。」
確かに友奈の指摘通り、一瞬だけ過ぎて分からなかったが、
余分な服など無かったのにどうしたのだろう。
「はい、鷲尾さん、友達というには少し畏れ多いですが、
一緒に戦った人にそう指摘されたので、できるようにしたんです。こっちです。」
未来の話か、いろいろ聞き出せれば有効なんだろうが、それではつまらない。
結果を知っているスポーツ中継は九分九厘退屈だ。
しかし、友奈はそう思わなかったようだ。
「なんで? 鷲尾さんは未来ですっごく偉い人なの?」
「偉い人、と言うより、選ばれた人?でしょうか。結城友奈の最も大事な人だと聞いています。」
「そっかー、じゃ、私にとってのぐんちゃんみたいな感じかな。」
「そう考えてくださって構いません。」
「高嶋さん……。」
3年前に会った時と同じで、友奈は簡単にそういうことを言う。
前と違うのは、個人特定で言われた郡千景がまんざらでもなさそうくらいか。
面白いのはそんな千景をうっとり見つめる花本と、
さらにその後方で戸惑っている茉莉。
なんか、珍妙な人間関係ができているな。
(どうやら道中も退屈せずに済みそうだ。)
「今日はもう日も暮れます。一度休めるところにご案内します。
このまま山側の道を行ってすぐに灘黒岩水仙郷というところがあります。
そこは神様が何回も落下したせいで、天の力が強くて神樹様の探知が効きにくいはずです。」
「分かった。車はこのままでいいか?」
「はい、いざとなれば獣に戻って車ごと運びます。」
それだけ言うと十華は千景の方に行かずに、わざわざ遠回りしてドアに向かう。
「ねぇ、貴方、今、私を避けたでしょ。何かあるなら話してちょうだい。」
「…………………………」
私や郡たちからは彼女の背しか見えないが、何か小刻みに震えている。
さきほどまで、私とは普通に会話できていたのだが、体調の急変だろうか?
いや、そもそも天の神の使徒が、そんなに簡単に急変するなら、私達大赦も苦労しない。
何より、先ほどから茉莉が変なジェスチャーを送り続けている。
「茉莉、お前、そんなに愉快な奴だったか?」
「え? あ、いえ、これは、十華ちゃんにエールを……。」
なんだ? 茉莉の奴まで様子がおかしい。
気になって、茉莉のほうに長椅子を迂回して周っていく。
これなら、十華の正面に出るから何か分かるはずだ。
「あ、待って、久美子さんストップ。」
「なんだ? 本当にお前たち……は?」
3年前の7月30日に世界が滅亡寸前になってから、いろいろ驚いてきたが、これは何の冗談だ?
「何なの? いったい?」
「郡、せめてお前だけはこっちに来るな。話がこじれる。」
「は?」
郡のどこまでも温度の低い声。
だが、さすがにこれはダメだ。
「ううう、ひっく。うわあああああああーん。」
やっぱり、泣き出したか。
「こういう状態になったガキは手に負えん。
茉莉、お前の方が付き合い長いんだろう。何とかしろ。」
「は、はい。さ、十華ちゃん、ちょっとこっち。」
2人が別室に移動すると、私と郡、花本、そして友奈の3人が残った。
「なんなの一体。人に話しかけられて泣き出すとか。」
「きっと、郡様にお言葉を頂いて感激したのでしょう。」
「あるいは、お姉さんのぐんちゃんに会えて嬉しかったとか?」
たぶん、全部間違ってる。
さっきの反応が見た目通りで、今までの対応が異様だったと考えるべきだろう。
退屈はせずに済みそうだが、子供相手は茉莉と友奈に任せた方がよさそうだな。
私はもちろん、郡や花本も子供の対応なんてやったことないだろう。
結局、十華は泣き疲れて眠ってしまったと茉莉が連絡してきたのは、それから30分ほど経っていた。
「昨日はお見苦しいところをお見せしました。すみません。」
翌日、そう言いながら十華が頭を下げる。
勇者と言うのはまともではやっていけないという推察は当たっていたようだ。
「いいよ、いいよ。ぐんちゃん…お姉さんに初めて会うから、
なんて呼べばいいか分からなかったんだよね。」
「郡様を実際に前にしてその素晴らしさに姉と呼ぶのを躊躇うのは仕方ないことです。」
「ちょっと、2人とも十華ちゃんをあんまりからかわないで。」
友奈のやつも丸亀城で仲良くやれているようだな。
ただ花本はこんな奴だっただろうか?
3人のやり取りを見ていると昨日知り合ったばかりとは思えない。
だが、この世界が本当に何度も繰り返してきて、
そのすべてで勇者と巫女の関係は変わらなかったというのなら、そう言うこともあるだろう。
気に入らん。何もかも同じことの繰り返しなど悍ましい。
もっと悍ましいのは私がそれを知覚できないことだ。
知らないうちに
「茉莉さん。みなさん良い人なんですね。それから……。」
「何、十華ちゃん?」
「なーんーでー、みんな、わたしの悩みを知ってるですかーー!!」
茉莉がいち早く部屋から逃げ出した。
しかし、廻り込まれてしまった。
「うー、うー、うー、絶対言わないでって言ったのにー。なんで言っちゃうのー。」
「ごめん、ごめん、ほら、十華ちゃんの大好きな玉子焼きお茉莉スペシャルあげるから。」
「茉莉さん、お料理できたんだ。私もそれ気になる。」
「高嶋さん……。く、RPGでも料理スキルは多いのに、習得すべきだったわ。」
「大丈夫です。郡様。私も得意ではありませんが、一緒に習得しましょう。」
空いた口が塞がらない。
友奈以外、私の知っている人物像から離れていっている。
何よりこのままだと収集がつかない。
「お前たちいい加減にしろ。朝飯くらいは構わないが、
大赦に追い付かれたらこの楽しい旅は終わりだ。さっさと本題に入れ。」
私が一喝すると、にぎやかな会話はピタリと止まる。
「そうだね。余り時間もないんだった。まずはその時間の話をしようか。
沙耶ちゃんがゆうちゃんを寄こせと言ってきている期限は、2018年12月31日。
今からだと一ヵ月ほど。それまでに沙耶ちゃんに天災を止めさせなくちゃいけない。」
「そのために、茉莉さんは天の神の使徒であるわたしと話したかったんだよね。」
茉莉はいろいろなことを話してくれた。
だが、後を引き継いだ十華はもっと詳細な事情を天の視点で語った。
勇者と巫女達どころか、大赦や神樹も把握しきれていないだろう事実。
一番初めに天の神として人類粛清を実行した神はすでに無いこと。
宇宙を創造した独神・別天津神さえも消し去ってしまう力。
その全てが未来の友奈。結城友奈のためだったこと。
私達が忘れている神樹が全ての勇者と巫女を集めた試練。
天の神に赦しを求め信仰対象としていた者たちに対する厳しい対応。
「まるでゲームの選択肢を選ぶような気軽さね。」
郡のいうゲームもそうだが、私は量子力学の方に近いと思った。
選択肢として価値なしと判断した世界は、近似値を取るより可能性がある世界に統合されていくらしい。
「今まで数えきれないほどの平行世界が沈んでしまったけど、
結城友奈さんが無事な世界を創るためには、高嶋様が神樹様に吸収されるか、
結城友奈さんにの素粒子配列が完全一致した存在が偶然に発生するしかないんです。
その可能性は推定で10の10乗の29乗分の1。*1
そして、3回ほど前から神様はもう高嶋友奈を吸収させる方法ではなく、
10の10乗の29乗分の1の確率を試行錯誤しても、
平行世界の可能性それでもたっぷりあります。
10の10の16乗くらいは繰り返せるだろうと推測しています。
今はそのうちの10の1064乗回目プラス700回目くらいだったはずです。」
なるほど、今の天の神は松永沙耶と言うのか。
「そいつはとんでもない暇人かとてつもない阿呆だな。」
たまらず吐き捨てる。
そんな回数同じ日々を繰り返すなんて、当初の目的を見失わなかったのが奇跡だろう。
「確かに沙耶ちゃんはあんまり学校の成績はボクより酷かったから。
あの子、能力の偏りがかなり残念なんです。」
茉莉が私の言葉をそう結ぶ。
「それで、そんな筆舌に尽くしがたい愚かな奴をどうケリをつけるつもりだ。」
難しいのはここからだ。
とにかく相手は無限に等しい寿命と時間操作の力を確実に持っている。
一筋縄ではいかないだろう。
「特に何もする必要はありません。ただ神様に見つからないように逃げ回れば良いんです。
今回は神樹様が高嶋様を吸収しないことに意味があります。
だから下手に高嶋様が見るに見かねて出て行って戦闘になる危険は冒さない方が良いです。
例え四国の人間が全滅することになったとしても。」
「ダメだよ! そんなの。ぐんちゃん、やっぱり戻ろう。」
「落ち着いて、高嶋さん、今はまだよくないわ。神婚を実行するかもしれない。
今はもう神樹様もあんまり当てにできないわ。」
慌てて飛び出そうとする友奈を郡が止める。
「そうだな。今戻ってもあまり事態が好転するとは思えない。
神婚の事実を大赦が認識すればまた別だろうが。」
こちらの言い分を信じさせることができないだろうか。
しかし、十華はそれも否定する。
「いえ、大赦は神婚を行えば人が種として根絶することは承知しています。
それでも、人の在り方を失ってでも、人の魂だけでも残そうとするのが神婚の本質ですから。」
「本当に天の神を何とかすることはできないの? やっぱり私が行けば、いいよって許してくれない?」
「それも難しいでしょう。過去の実績として西暦時代の悲惨な戦いが
あったからこそ、のちの神世紀で改善されている箇所も多くあります。
簡単な理由でその歴史の流れを返納するメリットが神様にはありません。
ですから、ここはもう一つの道を目指しましょう。」
やはり、まだ何かあったか。
さっきの言い方で友奈が引き下がらないことは織り込み済みなんだろう。
「わたし以外の残りの使徒にも呼びかけてみませんか? こんなことをもう終わりにしようって。」
「こうして車を走らせていると、3年前を思い出すなあ。
あの時はもっと大人数だったが、それでも楽しかった。」
「そんなの、久美子さんだけですよ。みんな必死だったのに。」
茉莉がジト目で睨んでくる。
「ははっ、そう怒るな。結果的に全員無事だったんだから良かっただろう。」
「そうだよ、茉莉さんがピピーンって敵を見つけて、
私がえいやーって星屑を倒して、久美子さんがみんなを運んで……。」
「待ってください。高嶋様、今、なんて……。」
久しぶりに楽しく友奈たちを話していると、突然花本が割って入る。
いや、今のは完全に友奈の失言だ。
「高嶋様、バーテックスを見つけていたのは、"巫女"である
烏丸先生ではないのですか?」
「あ!?」
友奈がしまった、という顔で私を見る。
やれやれ、こうなるとウソを吐きとおすのは無理だな。
それに、他の人間がどういう反応をするのか興味もある。
「とうとうバレたか、今、友奈が言った通りだ。私は巫女じゃない。」
私達の楽しい旅はまだ始まったばかりだ。