松永沙耶は神である   作:スナックザップ

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みんなをひきつける魅力 Charm that attracts everyone

伊勢神宮、天の神を祀る社。

 

ここに天の神の最後の使徒。那由多さん?がいる。

できれば、話し合いで協力してほしかったんだけど、上手くいくだろうか。

 

みんなの口数がだんだん少なくなってる。

たぶん御所市に入ったあたりからだ。

 

ゆうちゃんが明るく振舞っているけど、それが余計に哀しく感じてしまう。

 

今、伊勢神宮の門前にいるのは、

ゆうちゃん、郡さん、美佳さん、アルフレッドさん、久美子さん、ボク。

 

「誰かと思えば、アルフレッドじゃないですか。もうお嬢さんのお守りは

お役御免ですか?」

 

どこか皮肉っぽい笑みで、拍子抜けするほど普通に最後の使徒は姿を見せる。

 

来島那由多という名前以外、ほとんど姿を見せたことがない。

神世紀300年にほんの少しの間だけ使徒として暗躍して、

すぐに天の神から離れた人。

 

「夕海子お嬢様のことを言っているのであれば、300年後にまた

お迎えに上がる。いつも通りだ。」

 

ゆっくりとアルフレッドさんが石段を歩いていく。

 

「貴方ははいつもそうだ。どんなことが会っても冷静で、

腹立たしいくらいに変わらない。」

 

那由多さんは動かないけど、その後ろで何か大きいものが姿を見せる。

生物じゃなくてもっと機械的なものだ。

またロボットだろうか?

でも、あの船のように瞳に収まらないほどじゃない。

高層ビルくらいの大きさだろうか?

 

「いや、私も変わる。変わらないものなど存在しない。

例え永遠であっても、永遠だからこそ変わらなければならない。」

「あー、やだやだ。生の人間にまともに付き合ったことがないから、

目の前ばっかり見る。

貴方も神もいい加減に自分は人間じゃないって自覚したら良いのに、

そうしてくれていれば世界は残っていたのに。」

 

言葉とは違いどこか悲しそう。

 

いえ、3年前に天災で世界がこんな風になってからは、

みんなそんな風に思っているのかもしれない。

 

「えーっと、貴方が那由多ちゃん? 天の神の最後の仲間だった人で良いのかな?」

 

ちょうど会話が途切れて、ゆうちゃんが尋ねる。

 

「うん、そうだよ。それにしても本当にそっくり。高嶋さんの方がオリジナルなんだろうけど。」

 

さっきまでと違って、皮肉っぽさも、悲哀も払拭した那由多さんが頷く。

 

「みんなで天の神、ううん、沙耶を倒そうって言うんでしょ。

もちろん賛成。でもその前に手伝ってほしいことがあるんだ。」

 

ボクはさっきから黙ったままの久美子さんが気になってちょっとだけ見る。

久美子さんはつまらなさそうにタバコに火をつけようとしたところだった。

 

気づいているのか、気づいていないのか、那由多さんはそのまま続ける。

 

「この奥に天の神が守っていたものがあるんだけど、私1人じゃ扉が開かないんだ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「鍵はかかってないな。だが取っ手やドアノブに類するものがない。」

 

扉を調べていた久美子さんが戻ってくる。

 

「それがどういうものなのか分からないけど、私は天の神が

その扉を開いて出てきたところを見たことがあるんだよ。

友奈、あ、この場合は結城友奈ね。天の神自身が、

友奈が生まれてくるまで、この扉を見張っているようにって。」

 

「それって、どのくらい前の話なのでしょう?

神宮自体は5世紀ごろ成立が有力ですが、同じくらいでしょうか?」

 

美佳さんが先を案内する那由多さんに確認する。

 

大泊瀬(おおはつせ)だっけ? そんな名前の暴君がいたころだね。

でもその時代じゃない。沙耶がずっと前の宇宙から度々持ち込んでる

から厳密には宇宙創成前になっちゃうよ。」

 

たぶんグレイグーに乗せて持って来てるんだ。

 

「なかなか興味深い話だが、結局この扉があかないなら、どうするんだ?

使徒だった奴は集めたんだったら、扉は諦めて四国に戻るか?」

 

しばらく扉と格闘していた久美子さんとアルフレッドが戻ってくる。

 

「アルでもダメだったのか。やっぱりここに神の力の秘密が……。」

 

あれ? 沙耶ちゃんの力って、使徒はみんな使えるんじゃないの?

 

「いや、神の力は那由多お前にも使えるはずだ。」

 

うん、やっぱりそうだ。

 

「自由に使えるが使いこなせていないってことだろう。人間の歴史でもよくある事だ。

だったら、ここには何があるんだろう?」

 

ふと、あるイメージが閃く。

 

本当に根拠なんて何にもない。

 

でも、できるような気がする。

 

「ゆうちゃん、ちょっと来て。」

「え? 私?」

「いっせーのーで、一緒に扉をしてみて。いくよ。」

「いっせーのー。わっ!?」

 

開かないと聞かされていたから、思いっきり二人で押すと拍子抜けするくらい

あっさりと扉が開いて、ボクとゆうちゃんは扉の向こうに倒れこみそうになった。

 

「高嶋さん、大丈夫。」

「なるほど、お前たちは関係者だからか。」

 

辛うじて、郡さんと久美子さんがボク達を引き留めてくれたから、顔からダイブせずに

何とか持ちこたえる。

 

「中は…明るくなってるな。バーテックスが作ったのか。」

 

久美子さんが中を覗き込む。

続けて、アルフレッドが特に中を確認もせずにスタスタと歩いていく。

 

「私達の世界で戦闘以外のバーテックスも様々な顕在化されているんだよ。 頂点(バーテックス)という名前も、宇宙全体を1つの場として、神の力によって励起される現象を指しているんだよ。」

「ほう、それは初耳だな。お前たち使徒は全員知っているのか?」

「もちろん、この世界でいうところのファインマン・ダイアグラムが近いかな。ただ、

高校の物理くらいの知識は必要だと思うから、アルも十華もあんまり分かってないと思うよ。」

 

久美子さんと那由多さんは、バーテックスの起源について話し込んでいて歩みがゆっくりだ。

 

細かいことは分からないけど、空間の1点に沙耶ちゃんが力が送られると、

宇宙空間からバーテックスいきなりピョコンって飛び出してくるみたいだ。

 

(まるで世界がボク達陣るを拒絶しているみたいだ。やっぱり沙耶ちゃんを止めないと元の世界に戻せない。)

 

そんなことを考えているうちに通路が2つに分かれている。

 

 

「分かれ道か、何か当てはあるか?」

 

先を歩く久美子さんと那由多さんが振り返る。

 

「特にない。少し時空の歪みがあるが、その分を補正しても方向は北北東に向かっている。」

 

最後尾のアルフレッドの声が響く。

 

「だったら、マッピングしながら進みましょう。歪みがあったとしても目印はRPGの基本よ。」

 

郡さんはこういう地下の探索ゲームとかやったことがあるんだろうか。

 

 

それから、10分ほど歩くと少しずつ上向きの勾配が現れる。

 

「地上に出られそうだな。さて、鬼が出るか蛇が出るか。」

 

それから5分もしないうちにまた扉が現れる。

今度も取っ手とかがないから押すしかできないんだけど、久美子さんが押してもビクともしなかった。

 

「やはりダメか、今度はアルと那由多でやってみてくれ。お前たちの力を存分にふるってな。」

「壊してしまっても良いのか?」

「ああ、そのつもりでやって欲しい。」

 

久美子さんの意図が読めない。

 

そこまでしなくても、30分も歩いてないんだから、元来た道を戻れば、また社の中に出られると思う。

 

ゆうちゃん達を振り返ってもみんな首をふるばかりで久美子さんが何をしたいのか分からなかったみたい。

 

 

「あれ? ただの扉が私達の力でも開かない。」

「と言うよりもこれは扉の絵だな。精巧だが、私達が開いた扉も同じだろう。」

「えーっと、どういうことかな?」

「セオリー通りなら、扉に見せかけた移動装置と言ったところかしら、

だから、開く方法も条件が決まっているのよ。」

 

郡さんの言い回しは時々ちょっと独特な感じがする。

なんだろう? 文法がおかしいとかじゃないと思うけど、ちょっと分からない。

 

でも、仕掛けならたぶん分かる。

 

「また、同じ方法じゃ駄目かな。さっきみたいにゆうちゃんとボクに反応しているんじゃないかな。」

「そうだな。友奈と茉莉でやってみろ。今度は何か仕掛けがないか私達も観察しておこう。」

 

 

ボクが手を挙げると久美子さんも賛成のようだった。

 

「それじゃ……。」

「うん、いくよー。てりゃ。」

 

たぶんゆうちゃんの掛け声は気分だけのものだったけど、やっぱりあっさりと扉は開いた。

 

 

「寒い。ここって……。」

 

さっきまでの太平洋沿いの海を臨む山とは明らかに違う。

 

「諏訪か……、ここにつながっていたのか。」

 

11月だというのに、アルフレッドが呟く息も少し白くなっていた。

 

 

 

 

 

 

 

「さっきの通路はかなりの時空の歪みがあったみたい。グレイグーを作る場所を確保するためいうのが、私とアルの見解だけどどうよ。」

 

那由多さんがどこからか見つけてきたホワイトボードを前に話を進める。

 

「そのグレイグーは、伊勢と諏訪では収まらない。歪みと言っても半分以下にできるのか?」

 

久美子さんの言うとおりグレイグーを収めようとしたら、日本自体で蓋をするような形になってしまう。

 

 

「神の視点からみれば1000km程度誤差にもならない。直径4万kmの地球儀を

描いたらエベレストも地平線の一部にすぎないようにな。」

 

ボク達の視界に収まらないようなグレイグーも、沙耶ちゃんの大きさから見たら、

模写された地球の鉛筆の跡にしかならない。

 

じっと、自分の手を見つめる。

 

本当にボクと沙耶ちゃんは遠い先祖と子孫なんだろうか。

事実として理解できても、たぶん永遠に実感は得られない。

 

300年はやっぱり人間にとっては長すぎて、沙耶ちゃんにとっては一瞬にもみたない。

もう神様になってからの時間が長すぎたんだ。

 

開いた扉の先は少し薄暗く良く見えない。

 

「電気は…これだな。点けるぞ。」

 

久美子さん光を灯す。

 

光に照らされた先にはたくさんの大人の身長くらいののガラスの筒のようなものが光を反射する。

 

それだけでも、不思議な光景だったけどガラスの中にもっとビックリする。

 

「ゆうちゃん? ううん、ちょっと違う。それに知らない子たち。」

 

「なんだか、怖い感じがする。まるでお墓みたい。」

 

「大丈夫。これ生きてないと思うよ。これ人間に近い素材で作られた形代だね。

でも、これが神の秘密って言うのも違うような。」

 

あ、そうなんだ。

 

那由多さんの言葉を聞いて安心したのか、みんなが思い思いのままに筒に近づいていく。

 

「それにしても精巧にできているわね。素材はなにかしら?」

「郡様、こちらに何か書いてあります。犬吠埼……。」

「ぐんちゃん、美佳ちゃん、見てみて、こっちの子は私そっくり。

結城友奈さんだって、名前までおんなじ。」

 

 

「こっちには、乃木の名前もあるな。勇者の人形なんて作って天の神は

何がしたかったんだ?」

「神が散華した機能を修復する研究で使っていたものだ。時間遡行や

十華がいる今となっては前の宇宙から持って来ている理由が分からない。」

 

久美子さんの疑問にアルが答える。

 

でも、本当の理由が分からないみたい。

 

ボクはただ見られたくなかっただけなんじゃないかって思うんだけど。

 

同じ避難所にいた時も、よく変なもの作ってて注意したら、

こそこそやり始めたことがあった。

 

「あの、みんなそんなに深読みしなくても、捨てられなかっただけじゃないかな。」

「どういうこと? 茉莉さん。」

「えーっと、好きな子の等身大の何かを作ったけど、置き場所の

困るけど捨てられないみたいな?」

 

急に全員の注目を浴びると語尾が小さくなってしまった。

 

「ふむ、そういうものか。どうも天の神はよくわからん。」

 

久美子さんが腕組みしながら首を傾げている。

他のみんなも大体層みたいだけど、ゆうちゃんは恥ずかしそうに眼をそむけてる。

 

自分のそっくりさんでも困るのに、厄介ファンみたいな相手だって言われたら困るよね。

 

 

「天の神だと思うから分からないんじゃないですか? 沙耶ちゃんはもっと子供っぽいですよ。」

「茉莉、お前、わざとじゃないだろうな。私はそんな神なんて困るぞ。楽しくない。」

 

久美子さんらしい意見だ。

 

でも、みんな、ちょっと困った顔をしているのは本当だ。

 

 

「そんなバカなことってない。天の神と言えば世界を滅亡に追いやった存在だ。

この世界は四国しか残ってないし、私の住んでいた世界だって最初に襲来した時は悲惨だった。

それがたった一人のためというのでも悪ふざけなのに、そっくりの人形も大事だなんて。」

 

那由多さん、今までどこかはぐらかすような言い方だったけど、これが本音なんだ。

 

一息に喋ると、顔を俯けて急に黙り込む。

 

「那由多ちゃん? 大丈夫?」

 

ゆうちゃんが声をかけると、しばらく目を彷徨わせながらボーっとしている。

 

どうしたんだろう?

 

「ああ、うん、今、私の上司の人が言ったの。いっそこっちの世界にも来てもらえば良いって。」

 

いつ交信したんだろう? ボク達に見えないような通信機かな?

 

「それは興味深いな。とうとう未来世界か。私も連れて行ってくれ。そろそろバーテックスのいる

日常にも飽きてきたところだ。」

 

久美子さんが急にやる気を出している。

 

「未来ってどんなんだろうね。ぐんちゃん。」

「そうね。すごく進んだゲー……ん、コンピュータとかあるんじゃないかしら。」

「郡様はコンピュータについてもお詳しいのですね。」

「詳しいってほどじゃないけど、興味はあるわ。」

 

ゆうちゃん達は行くつもりみたい。

 

「では、那由多に案内してもらってくれ。私はかつて彼の地で天の神の使徒として

暴れたことがあるので、先に戻って、一度四国の様子を見てこよう。」

「貴方、こっちの世界でも天の神の使徒でしょ。」

 

アルフレッドさんの意見に郡さんがすぐに指摘する。

 

「那由多の世界は300年分の技術の進展がある世界だ。紛れ込むのもひと手間多い。」

「それだと、大赦のやり方では貴方達使徒の侵入は簡単だったように聞こえます。」

「巫女よ。簡単だったではなく、簡単なのだ。目も耳使わず神託のみで見る世界にどれほどの価値がある?」

 

確かにボク達はバーテックスを感知できる神託に頼り切りで、自分たちで探すことは

ほとんどしてこなかった。

 

できなかったということもあるんだけど、那由多さんの世界は違うんだろうか。

 

 

「でも、あんまり遅くなると四国の人たちが不安だよね。どうしようか?」

 

ゆうちゃんの顔が少し曇る。

 

大赦もひなたさん達もごまかして時間を稼いでくれているだろうけど、

いつまでも勇者が姿を見せないのは、不安が募るかもしれない。

 

「四国の人々の反応が気になるのであれば、こうすればよい。」

 

アルフレッドが一歩だけ、ボク達の前に進み出る。

 

それだけなのに、まるで名画を前にしたように世界のすべてがひきつけられる。

 

 

Verweile doch, du bist so schön(時よ止まれ)。」

 

まるでその魅力に引き寄せられるように、すべての世界が眠りにつく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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