松永沙耶は神である   作:スナックザップ

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第1部
ある夏の日


――昔、むかし、あるところに魔王が住んでいました。――

 

 

 

みんなが魔王を怖がっていました。

 

 

 

魔王がいるから、みんなおうちからでることもできません。

 

 

 

おうちから出られないから、食べ物も満足に見つけることができませんでした。

 

 

 

みんな、おなかが減ってけんかばかりです。

 

 

 

ある日、ひとりの若者が魔王を倒しに行くと言いました。

 

 

 

 

若者は人一倍正義感が強かったので、いつか魔王を倒すことを夢見て、

ずっと、剣の練習をしていました。

 

 

 

 

みんなは口々に若者を褒めました。

 

 

 

 

 

お前こそは勇者だと……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ふー、ふー、登りは…やっぱり…きつい」

 

自分のつぶやく声とひたすら自転車をこぐ音、そして蝉たちの声だけがあたりに響く。

 

その先にあるのはかつての山荘…とそこに併設された天文台跡。

私の目的地。

 

「…はあ、今年は友奈も来ないっていうから、遠出してみたけど、すでに閉鎖されているなんて…失敗したかなあ。というか、こういう時に限ってあっという間につかないんだよね…」

 

今年は夏休み忙しいから家族旅行もなしとか言ってたっけ?

近くに有名な滝があるし、写真でも送ってみようかな?

 

友奈――結城友奈。

 

かくれんぼが原因で喧嘩したら、そのまま引っ越してそれきりになった。と思ったら、

翌年の夏休みに香川から訪ねてくるという暴挙に出る危なっかしい幼馴染。

元気…が特長のはずなんだけど、先週電話した時はちょっとカラ元気みたいに思えた。

部活動が忙しいみたいだから、疲れていたのかもしれない。

 

「…もう夏休みになったし、今年は私が久しぶりに香川まで行ってみようかな」

 

友奈の新しいお隣さんも見てみたい。確か…

 

「西郷さん? あれ? 北条さん? 南北じゃないから、やっぱり西郷さんか。ま、あとでメッセージで聞けばいいか」

 

そんなことを考えていると、ようやく目的の場所に着いた。

天文台…今日の目的地は山のキャンプ場の近くにある天文台…だったところ。

西暦に発生したウィルスの災厄が収まると、何故か人々は空への興味を恐怖へと変えていったらしい。

 

天空恐怖症候群…略して天恐

 

 

ウイルスが空から来たせいだとか、唯一残った四国に宇宙航空関連の施設が少なかったからだとか、

あるいは神樹様の教えだとか、

いろいろ言われているけど、真相は誰も知らない。ただ宇宙どころか飛行機すらほとんど使われなくなり、

その影響なのかここの天文台も使われずにそのままだ。

 

それでも人は忘れることで生きていける。100年もすれば天恐は沈静化し、その記憶は風化し、

今ではプラネタリウムや星の本もそれなりには見れる。

 

「つ…着いた」

 

300年近く閉鎖されていたという天文台。

一応建物が崩れてきたりしないように定期的に山荘の人が見回っているらしいけど、

中にまで人が入るのは300年ぶりだ。

毎年のように通い詰めてようやく借り受けた鍵を差し込み、音がしないようにわずかに扉を開く。

 

「うわー、これは酷い…」

 

薄暗い室内には何やら怪しげな動物や虫が山のようにいる。もちろん対策はしてきたけど、

実際に見ると気持ち的にがっくりだ。

 

「はいはい、君たち速やかに退去しなさいよー」

 

取り出した機械からキーンと言う音と、チカチカととした光を放つ。

市販で売っている電磁波で虫よけをする機械だ。

すると、我先にと動物も虫も飛び出していく。

もちろん私は入口から離れて進路妨害をしないように気を付ける。

 

「お次はと…ほい」

 

続けて、市販品の防犯スプレーをばらして用意した催涙弾を施設の中に放り込み、

自分は防風眼鏡と一体化したマスクをかぶる。

10分ほど待って中を覗くと、ほとんどの動物や虫はいなくなっていたけど、逃げ遅れたのが倒れている。

 

(まあ、人間に使ったら気絶しちゃう人も出るくらいだしね)

 

そのまま動物や虫を掃除して外に出す。

 

「ここをこうして…点いた」

 

天井一面に映し出される電子の星空。

 

プラネタリウム…星々をちりばめた天球儀。

私がここに来た目的は現実の星とこのプラネタリウムの星を見るためだ。

 

そして、できればこれを持って帰りたかったけど、西暦に作られたそれは市販されているそれと違い、

かなりの大きさがあるため持ち運ぶことは難しい。

 

昔から宇宙とか星の話とかが好きだった。でも、大人たちはいつも眉を潜めて私を戒める。

 

――神樹様がいらっしゃる四国の外にはウイルスの巣がある。そんな危ないところに興味を持つなんて、ましてや行きたいなんてどうかしている――

 

それでも、私は見てみたい。なんでかなんて分からない。

遥か昔西暦の時代には宇宙にだって行けたんだ。きっと。

 

私は松永沙耶。遥か星の海に憧れるだけの中学2年の普通の女の子。

 

変わったことといえば、すぐに迷子になってとんでもないところで発見されるくらいだった。

今日、この日までは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うん、そう。終わったよー。…プラネタリウムも使える。大丈夫だって、今日は山荘に泊めてもらうから……うん、それじゃ」

 

心配性なおじいちゃんに無事を連絡する。

この山荘を管理している人もおじいちゃんの知っている人だから、到着と帰りの連絡だけすれば、としぶしぶ許可をくれたくらいだ。

山荘は今も人気だ。高知県にあるにもかかわらず、実はギリギリ神樹様が見えたりもする。

夏休みのシーズンになると近くにキャンプ場があるから人も結構いる。

 

今回も、ここで山荘の手伝いをすることを条件に宿泊していた。

 

日も傾き、東の空に見える神樹様の姿がまるで燃えているように赤く照らされている。

朝日が昇るときはもっと神々しい感じになるだろう。

プラネタリウムのことは山荘の人も分からないらしく、おそらく西暦の混乱期に運び込まれたものだと言っていた。

 

持ち出す手段と置き場所は考えないといけないけど、ようやく一歩といった感じだ。

 

見上げる天球儀の黄道十二星座赤から光が消えていく。電源を切って片づけ始める。

今度は電子の星空ではなく本当の星空見れる。

 

「それにしても、なんで西暦の人は急に星空が怖くなったんだろ? こんなにきれいなのに」

 

首を捻りながら、小学生の学習帳に書き込まれた写しを見る。

そこにはいろいろと調べた消えてしまった天文学の知識が書かれている。

大学に行かないと本格的な天文学は学べない。それも大赦が管理している一部の大学だけ。

 

「ま、四国だけで宇宙開発って言ったって、そんなとこに回せる資源も人もいなかったのかな。そうだ、友奈にも動画送っとこー」

 

スマホの写真をSMSで送信する。

そう言えば、なんか鳴子とかって言う新しいSMS使ってるとか言ってたけど、

結局検索しても見つからなかったな。

誰かがオリジナルで作ったアプリ何だろうか? 私はそっちは専門じゃないしな。

 

「機会があったら、聞いてみよ。友奈も見てみるかーい。っと送信。ポチっとな。あ、電池切れた」

 

西暦から続く由緒正しいボタン操作をボタンのないスマホで実行する。

こういうのは気持ちが大切。

でも、電池が切れちゃうなんて、山荘はすぐとなりだから戻れるけど、今の動画送れたのかな?

あとで電話してみよっと。

 

 

「―願い。――――今――助けて。友奈を」

 

 

…電池が切れたはずのスマホから声がする。

 

真っ暗になったスマホ。ボタンを教えても電源はやっぱり入らない。

なによりも…

 

「ちょっと、何なの、どうして私の声で喋ってるのよ。ちょっと」

 

声、私の声。それは何かで録音された私の声とそっくりだ。

けれど、そのままスマホは沈黙し暗い画面をさらすだけ。

 

(いたずら…にしては、電池が切れたスマホから音がするなんて。

 やめよ怪談は好きだけど、現実には出てほしくない)

 

「あれ、急に涼し……」

 

振り返ると、そこは見知らぬ病院の中だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私の横を何人もの患者さんや看護師さんが通り抜けていく。

いきなりここに現れた私のことを、誰も不審そうにするそぶりもない。

 

「はあ、またか。毎回だけど、どうやって移動しているんだろう? ええと、今回は……ッ」

 

天地がひっくり返るようなめまいと、突き刺すような頭痛。

これもいつものことだ。知らないうちに何十キロも移動していて、気が付いたら頭痛と一緒に保護される。

たぶん妄想の一種だとお医者さんは言っていたけど、迷惑な妄想だ。

最近は減っていたけど、久しぶりに長距離を迷子になったみたいだ。

 

でも、今日はいつもと違う。

 

立っているのも難しいくらいの痛みと気持ち悪さとともに、それはやってきた。

 

 

――こんにちは、あなたがこの家に住むの? 私は結城友奈、よろしくね――

 

誰かと話している友奈。

 

――と、東郷、三森です――

 

ああ、そうそう、西郷じゃなくて東郷だ。

 

――来たれ、勇者部へ――

 

今度こそ知らない人だ。何だか押しが強そう。

 

――は、初めまして、犬吠埼樹です。よ、よろしくお願いします――

 

どこか、さっきの人に似ている。でもこっちは気が弱そう。

 

 

――大赦から派遣された完成型勇者。それが私よ――

 

何だろ? これはコスプレ? 危ないから友奈の目の前で刀を振り回さないでほしい。

玩具だろうけど。

 

 

――わっしー、わっしー、ずっと呼んでいたよ――

 

痛々しい姿の女の子。なのに病院じゃなくて外にいる。

 

 

 

目の前の景色がいくつにも重なっていく。

 

 

 

――次に生まれてくる時も、あんずと一緒にいたい。本当の姉妹だったらいいな――

 

 

痛い。いたい。イタイ。今度はおなかが熱い。熱い何かが流れ出していく。

 

 

――もし、生まれ変わってもタマっち先輩と一緒でありますように。今度はきっと姉妹だったらいいな――

 

お腹の痛みが嘘のように消える。

 

(た、たすかぉっああああああ)

 

寒い。痛い、凍える。止まる、ワタシが止まって。

 

 

 

――嫌いなのと同じくらい……あなたに、憧れて……あなたのことが、好きだったわ――

 

平穏、ただ、何もない穏やかな…そして、思いも意識も魂さえも薄れていく。

 

 

いろいろな感情が起きては消えて、起きては消えていく。

 

そして…

 

 

――若葉ちゃん、ヒナちゃん……一人でも欠けることがないようにって……ごめんね、できそうにないや――

 

安心、ただ、みんなを守ることができた。暖かさだけが広がる。それでも……

(貴方は誰? どうして貴方だけ見えないの?)

 

 

でも、今度は何も浮かんでこない。

 

暗闇…音さえも無くなったような深い暗黒。

 

でも、今度は文字としての情報が私に直接刻み込まれる。まるで私が記憶していなくてもすぐに呼び出せるように。

 

きっと痛みは記憶じゃなくて、もっと別の何かに言葉が刻み込まれていく痛み。

 

転げまわりたいくらいだけど、そもそも、私の体がどうなっているのかさえも感覚がない。

 

天の神、バーテックス、炎の世界、神樹様、巫女、勇者、友奈と呼ばれ続ける少女達…

 

映像だけじゃなく、言葉もぐるぐると巡りながら回り続ける。

これまで起こったことと、これから起こること、そして、滅んだ世界の人々の怨嗟。

 

気持ち悪い。何なのこれ?

 

――それは、貴方は思い出したから――

 

――そして、たくさんの人が死んだ――

 

――それでも、貴方は許さなかった――

 

――だから、そんなものは信じない――

 

――それが、ワタシ達の誓い――

 

――今度は、友奈が消えてしまう――

 

――いずれ、みんな大切なものを失う――

 

――それなら、世界こそが間違い――

 

――だからこそ、間違いは終わりにしよう――

 

――今こそ、はじめよう。さあ、友奈はここにいる――

 

たくさんの"ワタシ"の声が聞こえる。

 

こんなものが聞こえるなんて思わなかった。いよいよ私の妄想も病気の一言で片づけられる状態じゃなくなってきた。

 

波が引くように声が小さくなっていく。気持ち悪かった。

 

まだ周りは暗いままだけど、深く息を吸い込む。

 

(終わった? 何だったの今の?)

 

でも、妄想というには、さっきの映像は見たことがない人がいた。

 

それに最後に見えた病室。あれはこの病院だと思う。

それにプレートに結城友奈って書いてあった。

もし、単なる妄想でないなら、この病院に友奈がいる。

 

まだ、刻まれた言葉を理解しきれてないけど、

今も油断するとすぐに頭の中に答え合わせのように、刻まれた言葉が浮かんでくる。

 

神樹様が…人の体を供物にして戦わせるなんて…

 

「よそう、単なる妄想だよ、こんなの。神樹様がそんな恐ろしいことするはずがない」

 

隣を通り過ぎたおじさんが一瞬ギョッとした表情を向けるけど、すぐに無関心に戻って過ぎていった。

 

もしかしたら、私のつぶやきで驚いたのかもしれない。

とにかく友奈を探そう。友奈がいなければ質の悪い白昼夢でも見たってことにして…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここに友奈が……」

 

現在時刻午前9時36分

プラネタリウムで動画を送った翌日ということになる。

もう一回飛ばされない限り学校はさぼりになる。テストは終わってるから、そんなに怒られないと思うけど、逆になんかもったいない。

山荘のお手伝いは夏休みからだから、そっちは間に合うだろう。

 

もっともこんな状態で行く気にはなれなかったけど。

 

あの怪しげな声は妄想と思いたところだったけど、もし本当に友奈が入院していたらと思うと、常識的な判断は放り投げてここまで来た。

そして、目の前の名前のプレートが現実であると主張する。

間違いなくあのプレートだ。

 

意識不明…漫画かドラマの設定でしか聞いたことがない言葉。

しかも、友奈は先週までは健康そのもので、事故にあったわけでもない。

 

(まだだよ。もしかしたら武術の練習で怪我でもしたのかもしれないじゃない)

 

何度かの深呼吸の後、扉を開くと、そこには…

 

 

「なに、これ…こんなの意識不明なんてものじゃ…」

 

意識不明と聞いて真っ先に浮かんだのは、目を閉じ横たわる友奈の姿だったけど、

実際は全く違った。

 

友奈らしいピンクのパジャマでベッドの上に"座っている"。

目も開いているし、心臓の音も聞こえているし、胸が上下していることから

自分で呼吸もできているんだろう。

 

これで確定だ。

 

私は、ボクは、友奈がこの世界のために戦って、満開の代償…

散華のために全身が供物になってしまっていることなんて知らないはず。

 

つまり…あの声が見せたものも全部妄想ですませられない。

なにより友奈がこんな状態で放っておけるはずがない。

 

見た記憶も、得た情報も、あの声の正体も、分からなかった。

何も分からない。

答えはあったけど、それはただの事実の集まりで、本を読んているのと変わらなかった。

 

でも、今目の前にいる友奈は…

 

「嘘…じゃない。嘘じゃないんだよね。これ」

 

本当は現実だって分かっている。確かに目は開いているけど、何も見ていない。

心臓の音は相変わらず聞こえているし、呼吸もできている。手に触れてみてもこんなに暖かい。

 

でも、それだけだ。

 

目には何も映っていない。耳は震えても音を聞いていない。触れてみても力を感じない。

 

視界が波打ち、鼻のあたりが熱い。

 

「こんな、こんなのってない。こんなのってないよ…」

 

本当は叫びたかったんだと思う。けど、言葉が詰まって出てこない。息が苦しい。

犬のように口を開けたまま息を吐き出す。とにかく吐き出す。

めまいのように景色が回る。病院のエアコンで冷やされたはずの汗が再び吹き出す。

情報としては知っていても、やっぱり目の前で起こっている出来事だとは信じられない。

 

「これは、こんなのは間違ってる。それなのに…」

 

呼吸と一緒に感情も収える。もう一度、友奈の様子を見る。

 

看護師の人に聞くと重体と言っていたけど正確には違う。

おじいちゃんの手伝いで病気の人も、ケガの人もたくさん見てきたけど、気を失っている人たちとは全然違う。

まして、その瞳はきちんと見えている。

瞳孔自体は正常で"見えているけど感じていない"状態に見える。

 

なにより、自分で座っている。自立ほどではなくても座っていることも人間の随意運動だ。

大赦所属の専門医が診ても分からないのだから、手伝い程度のボクが正しいなんてあり得ないけど、意識がない状態の友奈に点滴や人工呼吸器の準備さえしていないのは、どうしてなんだろう。

 

(これじゃ、まるで"絶対に死なない"保証でもあるみたいじゃない!)

 

実際に保障はあるのだろう。だけど、だからって準備すらしないなんて…

 

「これが散華…物理的な機能も、生物学的な意識も、論理的な結果も関係ない。ただの神の…神々の」

 

自分の声とは思えないくらい低くうめくような音。

続く言葉はない。どんな言葉を持ってきても、こんなものは認めたくない。

 

――こんなものは、認めない――

 

ボクの声と電話の向こうから聞こえた"ワタシ"の声が重なる。

 

何とかしないとこのままじゃ…けど、家族でもなくおじいちゃんみたいにお医者さんでもない

ボクにできることがあるの?

 

「もちろんあるよ。なにもできないんじゃない。あきらめないことができる」

 

完全に信用できるわけじゃないけど、あの声は友奈が意識を失った原因を、バーテックスとかいう化け物との戦いのせいだと言っていた。

ここまでくれば単なる妄想や詐欺じゃないだろう。確認したら友奈がここに担ぎ込まれたのは昨日の夕方。

たぶんボクがプラネタリウムにいた頃だ。

 

あの声の正体は分からないけど、時刻を考えれば病院に着くよりも早くあの声は友奈が意識を失ったことを知っていた。

だったら、あの声と共に"ワタシ"に刻まれた情報にも意味があるはず。

 

乱れた思考と呼吸と視界を無理やり平常に戻すと、立ち上がり病室を後にする。

 

「待ってて、友奈。今度はボクが会いに行くから」

 

面会時間はまだ少し残っているけど、そうと決まればすぐに動く。ここには友奈の体しかない。

本当の意味で心ここにあらずの状態。

 

まずは、一人称を戻そう。

 

「ボクは私だ。You Have Control」

 

いつも通りの儀式を済ませると、そのまま病室を出る。

ナースセンターへの挨拶もそこそこに廊下を進む。

途中でどこかで見たような美人な女の子が松葉杖で歩いているのが、何故か目についた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

友奈の家を出ると、一番近い国道から南に下りて、山越えをしながら1日程度をかけて移動するのが徒歩移動の一般的な動作だ。

今回は自由に"迷子"になれるから長距離の移動だって簡単なはず…だったんだけど、

何故か変な場所に出てしまった。

 

まだイメージ通りの時間と場所に移動するのは難しいみたい。

 

讃州の町から港に出て西10kmにある伊吹島。何故かそんなところに立っていた。

 

多分私が今いるのは島の中央にあるヘリポートの跡だと思う。

遠くに立ち入り禁止のマークと放置されたヘリコプターが見えた。

 

――空への恐怖――

 

それは確実に航空機の出番を減らし、島の人口減少と相まって、このヘリポートも人の姿はない。

名産と言われたいりこもそのうち取れなくなるかもしれない。

 

(予定と違うところに出ちゃったけど、ここから迷子になって家まで帰っても見つからないよね?)

 

いや、もうある程度自分で使えるんだから、迷子じゃないのかな?

 

刻み込まれた記録には私自身のこともたくさんあった。

その中には私が迷子になっていた原因。そして、その利用方法さえも…

 

「…おお、ホントに浮いてる!」

 

と思ったのも束の間、気が付くと宙にはじき出される。

 

原因…といってもホントの原因じゃなくて起こっていた現象が何かを知っただけだけど、私の肉体が素粒子レベルみたいな状態になって、特定の素粒子に再構成される。

物質を構成するものだけでなく、かつて宇宙誕生の際にしかなかったような特殊なものまで含まれている…らしい。

そもそも、それは本当に素粒子と呼べるようなものなのかさえも、よくわからない。

 

(今までだと、このまま私自身がインフラトンとかいうものに変換されていたみたいだけど、今は変換されないように、ゆっくりと…)

 

ただ一人、闇の中を飛ぶ。正確には飛んでいるのは私ではなく、電子そのものだけど。

家々の明かりが灯る町。そして…

 

「…さようなら、神樹様。あなたに怨みはないけど、もう貴方のことを神様とは思わない」

 

ここからだと他県になるはずなのに、その威容はしっかりと視界の左に存在している。

 

もちろん答えはないけれど、答えはもう必要ない。

振り返ってみるととおかしなことだらけだ。

確かに友奈は心配をかけないように味覚のことをおじさんやおばさんに隠したのかもしれない。

けど、病気だというなら二人に相談していたはず。それをしなかったということは…

 

(友奈は自分の味覚がなくなった原因を知っていた。それでも戦って…そして、今度は意識も戻らなくなった)

 

先は見えないけど、さんざん否定されてきた空を夢見たことさえ、今はこうして飛んでいる。

変換…自分の体の構成を変換できる今だったら、本当に宇宙にだって飛べるのかもしれない。

だったら、友奈の意識を戻す方法だって絶対にある。

 

 

「何もできなくても、何をするかは私が決めてみせるよ。思い通りになんてさせない」

 

 

 

――誰かが間違ってると言った気がした。――

 

 

けれど、その声を聞こえなかったふりをする。

そのまま、光となった私は夜空を鳥よりも早く飛び立っていった。

 

 




始めてしまった。右も左も分からないので、勢いで突っ切ります。
誤字脱字とか文法間違いとかあったら直すかもしれません。ご容赦を。
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