松永沙耶は神である   作:スナックザップ

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きっと貴方は約束を守る Keep your promise

「本当に、よくもやってくれたな。この姿は友奈にもう一度会えるまで取っておきたかったのに。」

 

ウソだ。全部嘘。

 

本当にそう思っているなら、最初に全力で全ての存在を対消滅してしまえば良い。

 

それこそ別天津神や渾沌を消した時と同じだ。

1秒後、あるいは、1秒前の同じ存在同士を同一時空座標上に存在させれば良い。

もっと簡単な手段だって、たくさん知っているんだ。

 

それでおしまい。

 

(……のはずだったのに、結局ここまでズルズルと悲劇を繰り返しただけだった。)

 

どこかに予想外の奇跡が眠っていて、神様がいなくても全部うまくいく。

本当はそんな可能性なんてないって知っていたけど、勇者のことを直に知っていれば、

そこまで割り切れたりしない。

 

だから、ずっと、ずーっと、繰り返してきた。

 

でも、もう良いんだ。

 

私が味方の時より、私が敵になった時の方が、諏訪の人たちが頑張れたのは

歌野が頑張った時間が長かったから。

 

だから、私も頑張って長い時間をかければ、

同じようにできるんじゃないかって歩いて来たけど、

それは、もう私でもボクでもない。

歌野だからできることがあって、私だからできることがあって、

そして、きっと友奈にしかできないことがある。

 

最初から知っていたのに、私にだって色んなことができるって、意地を張り続けてきたけど、

やっぱり全知全能と段階まで進んだのは私一人。

 

「私は天の神。全知全能としてあるべき存在。誕生の時も、終わりの時もなく、

好きなものも、得意なものもない。過去に在り、現在にあり、未来にある。」

 

私にもできることがあるんだって、生まれた時からずっと一緒だったんだ。

きっと、私も同じだってずっと思ってきた。

 

同じ服を買ってみたり、

友奈の真似をしておじさんに武術を習ってみたり、

ちょこちょこと友奈の後ろをついて行ったり。

 

でも、友奈と私は違う。

ずっと同じが良いって思ってたけど、もう違うんだ。

 

同じ誰かは存在しない。

 

スワンプマンを作っても、

全く同じ原子配列の存在がいても、

エントロピーで宇宙が死んだ後にトンネル効果で再創造しても、違うものは違う。

 

昨日でも、現在でも、明日でも、

ここでも、そこでも、あそこでも、

誰でも、違う世界でも、理を越えても。

 

だから、最初から答えはそこに在った。

 

あの時は友奈因子が引き継がれないことで友奈が観測できなくなったと

思っていたけど、全知全能になっても私が覚えている友奈は見えなかった。

 

だって、友奈は何も変わってなかった。

変わったのは私だけ。

 

渾沌を焼き捨てて、別天津神の代わりになった。見たくないものだって見えてしまう。

 

ただ、人間の視点では見えないものが見えてしまったから、"違う"と思ってしまっただけ。

 

思い出の中の友奈を歪めて、友奈ならこうだって言い張って、意地になっていた。

 

茉莉さんに刺された傷が、痛くて、痛くて、痛くてたまらない。

この痛みは本物。そして、そういう未来を考えなかったわけじゃない。

だけど、茉莉さんに刺されるなら、もういいや、って思ってた。

 

私の欲しかったものなんて、最初からどこにもなかったんだから。

 

でも、今、本当の最初期に半分吹っ飛ばされて以来の傷を得て、ようやく分かった。

 

やっぱり、私はまた友奈に会いたい。

 

もう、私の思い出の中の友奈なんて、本当はいなくて、ただ思い出を美化しているだけど、

実は友奈が腹黒さんで、私のことなんて全然知らないんだけど、もう構わない。

 

全ての連続性を断ち切って、ただ、友奈と会って、ちゃんと素直な気持ちで向き合いたい。

 

「何を言っているんだ。お前は。」

 

乃木若葉が再び鳥のように、まっすぐに翔ける。

 

無限の加速力。

 

例えアルの力を借り受けていても、本当によくここまで来てくれた。

絶対に越えられないはずの無限の先にまで到達するなんて、

やっぱりすごい人だったんだろう。

同じようにはならなかったけど、少しは歌野が最後に願った未来に近づけただろうか。

 

「なに!?」

 

無限の加速力とは、どんな物でも破壊できるだけの力を持っている。

だから、若葉の驚きは正当なもの。

 

事実、アルが熱となったまま震えている。

 

「確かにキミは無限の加速力と言う形で、私が見せたような無限の力を手に入れた。

でも、それはボクの1つの面でしかない。力とは対象から対象に

相互作用して初めて現象になる。

どれほどの加速力でも、こうやってキミの慣性質量をゼロにすれば、

刃は通らない。」

 

天の神の力、全ての世界を織り成す無限の力、そして最後。

表現できるすべてを任意の値とする理外の力。

 

"斬る"という行為は強い力で物質間の結合を解く行為だ。

だから力の元である慣性質量か速度のどちらかを零にすれば、

物質間の結合を支える4つの力のいずれも越えられない。

たとえ、それが一番弱い重力であっても。

 

「若葉ちゃん、一緒に攻撃しよう。勇者パンチ!」

「友奈、分かった。行くぞ。」

「だから、結果は同じだって。」

 

高嶋の拳も、若葉の太刀も、結局は何かの力でしかない。

 

時間を越えても、空間を切り裂いても、あらゆる物質を消滅させても、

そうできるってことは自分以外の何かを認めている。

 

私は違う。

 

友奈が私と違ってるんだったら、私はもう他の何とも相容れない。

 

ただ、私は私だけで完成してしまう。

 

ただ、この私でさえも、その”場”から素粒子として励起されているだけ。

本質はもっと根深いところ、時空構造それ自体さえ私に内包され、

所属する一部分でしかない。

 

「続けても良いけど、戦えない人には邪魔してほしくないかな。」

 

正直、この先はスプラッタなので、茉莉さんに見せるわけにはいかない。

 

「ひなた? どこだ!?。」

「心配しなくても元に世界に還しただけって言っても信じられないだろうけど。」

 

いつか誰か気づくだろうか。

 

私は…ううん、私だけじゃなく、天の神は敵のくせに人類にとって都合が良すぎる。

 

粛清完了の寸前まで追い込んだのに、急に和睦に応じたり、

壁が破壊されて起こっていたのにタタリなんて遠回りな方法取ってみたり、

こうやって、見られたくないって勇者たちの弱点になる彼女達を無事に還したり。

 

中途半端な対応しかしてこなかったのは私も同じ。

 

ちょっと人間より優れているから、人間にできないこともできるんじゃないかって、

余計なものばかり持ちたがってしまう。

 

超越者の度量を見せたい余分。

優れているからこその慢心。

絶対の自分に対する誇り。

 

「私は迷わない。だから大きな攻撃なんてしなくても、これだけで十分。」

 

別に動作も音声も必要ない。

 

 

単純にアルと若葉以外の全員の心臓を抜き取る。

 

距離も、動作も、時間も、何も関係ない。

 

すべての次元軸を原点にずらして、欲しいものを取り出すだけ。

 

「ああ、やっぱりこうなるんだ。」

 

意図が切れた操り人形のように、バタバタとあっさり倒れる勇者達。

 

十華と那由多は同一時空座標にお互いを重ねて対消滅させたから、

たぶん100年くらいは戻ってこれないだろう。

 

「え?」

 

事態を飲み込めてないのか、若葉が1呼吸遅れて気の抜けたような声を出す。

 

さっきまで拮抗しているつもりで、私も重傷だから、もっと剣を振るうつもりだったんだろう。

 

「はあぁ~。やっぱりこうなるんだ。なんでだよ。私だってキミ達と戦うのは、結構辛いんだぞ。

それを毎回毎回、中途半場な状態で挑んできて。」

 

理不尽な怒り。

 

だけど、本当に腹が立つし悔しくてたまらない。

 

なんで、そんなんで挑んでくるんだ。

 

「アルなら分かっていたはずだ。そんなくらいじゃ私を倒せないって。

どうして勇者を死地に向かわせるんだ。なんで自分から死に急ぐんだ!」

 

制御を失った天の刻印が胸から全身に一気に広がる。

 

「こっちは適当なちょっかいしか出してないのに、毎回毎回、

そこらへんをうろうろしている星屑を倒したからって、すぐに調子に乗って。

そんなんだったら、引きこもってれば誰も死なずに済んだんだ。」

 

私の怒りの感情が世界に満ちて、刻印が若葉にも転写される。

 

「く、熱っ、触れずにこんなことが。」

 

「触れてない? いいえ、貴方達は常に世界(わたし)に触れている。

だから、さっきみたいに離れているように見えても、あっけなくみんなの命を奪える。

貴方達の行き場所なんてどこにもない。だって、私はすべてなんだから。

地に足をつけ、空気を吸うのであれば、それは私に触れているも同然。」

 

けれど、タタリを受けてなお、若葉は高速で居合を放つ。

 

きっと、若葉にはそんな体力は残ってないけど、

タタリの灼熱さえ、アルが若葉の命へと変換しているんだろう。

そうでなければ、天の神としてのタタリでとっくに動けなくなっている。

 

 

「おっと。」

 

ヒラリと避けたつもりだったけど、杏さんの遺体の近くを通り抜けた時に、

転がっていたボウガンを避けようとして、変なステップになってしまう。

 

ということは、みんなが倒れ伏している場所だ。

 

私が最後にこの時代でやっておきたいこと。

本当はやらなくて良いんだけど、そうやって逃げ回るのは止めると決めたのだから。

 

「ちょっと、邪魔だなあ。同じ顔なんて紛らわしいんだよね。友奈は2人もいらない。」

 

大丈夫だろうか?

声が震えていたりしないだろうか?

軽い感じやなく重々しい方がよかったかな?

 

でも、言葉は放たれた矢のようにひっこめることはできない。

 

球子の近くを通り抜け、千景を飛び越え、彼女の近くにたどり着く。

 

私の知っている友奈とそっくりの笑顔と、

青空を晴れ渡らせる太陽のような瞳。

小さな体のどこ宿っているのだろうと思うような命。

 

そのどれもがもう永遠に失われた。

 

時を巻き戻ることは、もうない。

必要がなくなったから。

 

だから、私自身も戻れなくする。

 

 

かるく、本当につま先で突っつくように、足を振り上げる。

何故か星を壊すよりもずっと重たい。

 

「もういらないよ。貴方もそうでしょ。ただの抜け殻なんだし、予定通りに神樹…にあげる。」

 

ふわっと浮いた高嶋の体を地上に向けて、トンと押すように向ける。

それだけで、全身が総毛立ち、冷や汗が流れ出す。

腰砕けに座り込んで、立ち上がれなくなりそう。

 

例え違うってわかっていても、私が直接友奈を雑に扱うなんて、

もう2度と死んでもやるもんかって思っていたのに。

 

 

本当は遺体蹴りなんてパフォーマンスは必要ない。

でも、こうしないと、私はまたやり直したくなる。

どんなにひどいことでも、無かったことにすれば良いってできてしまう。

 

だから私自身の残るように、刻み込まれるような行為を残す。

歌野と倒してしまった時のように。

 

時間を巻き戻しても、世界から忘れ去られても、ちゃんと復活させても、私が覚えている。

 

「お前はああああああああ!」

 

そして、やっぱりアルの制止さえ振り切って、タタリ負ったまま若葉が切り抜ける。

 

 

ああ、悲しいかな。

 

どれほどの気持ちを込めようとも、もう私には届かない。

質量でも熱量でも、簡単に孤立させてしまえば、どんな力も意味をなさない。

 

一太刀、二振り、三度、いくら切り返そうとも私には届かない。

 

けれど、何の力もないはずのその視線が痛い。

怖くて仕方がない。

 

今すぐ若葉を払いのけて高天原に帰りたい。

 

何のダメージもないのに、呼吸なんか形ばっかりで止めても何も感じないはずなのに、

喉が息苦しさを感じてしまう。

 

「そんなもの効きやしない。さっきから言ってあげてるのに、いっつも無視ばっかり。

私を倒せるのはあの子だけだ。他の誰かの手なんか触れてほしくない。」

 

言葉は力そのもので、私の力は世界そのもの。

 

崩壊していく相転移実験施設から放り出される直前。

若葉の指が私の首元に伸びて、ペンダントの鎖に引っかかる。

 

(ああ、そう言えば、それはただの鏡のついたペンダントだもんね。触れられるか。)

 

「いいよ。もう貴方に残るものは形あるものは何もないないもの。それくらいは託すよ。」

 

演技でなく、意図もなく、意味もなく、ふと零れた言葉。

 

それが乃木若葉がこの別宇宙で聞いた最後の言葉だ。

 

 

静寂。無音。沈黙。

 

高嶋友奈以外の遺体は丁寧に目を閉じて、腕を組ませてから、元の世界に流し出す。

彼女たちを待つ人たちのところへ。

 

 

時間停止を解除したことで、真空崩壊が一瞬のうちに地球も、何もかもを消失させてしまった。

私が最初にバーテックスを倒して、友奈を守りたい一心で身に着けた宇宙さえ滅ぼしかねない力。

 

それも今となっては、無邪気で懐かしい。

 

勇者も使徒も人もいなくなった宇宙で、理が書き換えられ、既存の物質がすべて消えていく。

こんな光景を何度も普通に見ている。

 

やがて崩壊は光速に等しい速度で広がり、この宇宙は再加熱されて新しいビッグバンが始まる。

 

 

「……行こう。これで良かったんだ。これで私は友奈さえ傷つけてしまうようになったんだ。」

 

友奈をタタリに曝す。

 

それで、今まで通りの大満開が実現されるだろう。

すべてはそれでおしまい。

 

何度も繰り返した通りだ。

 

 

今までと違うのは、解放された世界は友奈にとって都合の良いように、

私が直接的に運命を操作するという1点だけ。

 

もう終わりにしよう。

 

すべての奇跡を惜しみなく出し尽くて、私の幼い願望の時間はもう終わり。

 

 

「さようなら西暦。いつか、この日が終わりじゃないって、ちゃんと続いていける。

その時にもう一度だけ覗かせてもらうよ。」

 

その時には、私は今の形ではいないのだろうけれど、それがきっと最善になる。

 

 

そうして、今度こそ西暦の時代は終わりを迎える。

 

 




予定より長くなったものの、これで西暦編としては終わりです。
なんかすっきり終われなかった。難しい。

次から最終章。

勇者の章の時間軸に移って、防人とか人間側の主人公とか勇者部チームとか、
いろいろ視点が忙しくなりそう。
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