せっかくなので、追憶の園子と銀色の記憶も読んでみようかな。
引き戻すのは僅か数十秒。
その間に焔を下げるか、友奈の方にバフを与えて焔を押し切れるようにするか。
もちろん、やるのは後者だ。
「勇者パ~ンチ!」
さっきと違って、友奈の拳はまるで吸いつけるように
ボクから漏れ出た焔を吸い寄せて、一か所に集める
後はそのまま拳で衝撃を与えられて、爆発する。
「ふう、確かに私は焔に焼かれたって……。」
焔が消えた後も、時間を巻き戻す前の記憶は残る。
今度は誰の記憶も触らない。
だから、今も友奈の拳は少し震えている。
自分が焼けて灰になった記憶がのこっているのだから当然だ。
「友奈ちゃん!」
空から降りる天女のように東郷が友奈に駆け寄る。
ただ、ボクの周りには砲弾が落ちてきたせいで、ボクの視点ではなく、
全体を見ている神様としての瞳でみているだけ。
「東郷さん、大丈夫。なんとか街の人たちも、私も無事だよ。」
「ああ、本当に生きた心地がしないわ。」
「ごめんなさい。でも、あのままだったら、
みんな炎に巻かれて死んじゃうところだったんだ。
でも、このとおり大丈夫だっただから……。」
東郷を安心させようと友奈が小さなガッツポーズを決めて見せる。
「大丈夫じゃないよ。友奈。それは確かにあったんだよ。
今だけじゃない、何度も何度も。友奈は傷ついて、
取り返しがつかないような怪我もして、時には命だって落としてきた。」
ボクの言葉を全ての人が聞いている。
勇者だけじゃない、防人だけじゃない、大赦だけじゃない、文字通り全てだ。
神樹様や世界中に散らばった神様たち。
すでに鬼籍にある鎮められた魂。
今を生きるこの世に形を成し存在する者。
音を伝える媒介も、言葉を理解する知性の有無も、世界の壁だって関係ない。
「沙耶……。それって、私達を守ってくれていたの? 私達が死んじゃったら、
その度にやり直してきたの? だったら、どうしてバーテックスなんか!」
ああ、友奈の気持ちはすごく分かる。
最初からバーテックスなんかいなければ、みんな幸せだったんじゃないか。
ボクならそう言う世界にすることだってできたんじゃないか?
まさしくその通り。
だけど、それには、たった一つだけ条件がある。
量子トンネル効果により、宇宙を始められるエネルギーを得られるけど、
どこかでポテンシャルエネルギーの閾値を越える現象が発生しなくてはならない。
確率論的には起こり得るけど、そもそも時間も流れてないのに、
"起こり得る"なんて確率に意味がない。
「もう答えは知っているはずだよ。"そうするしかなかった"。
そうでなければこの世界は生まれない。
本当はボクにとって世界を始める必要なんてなかったんだ。
ボクだけで満ち足りた静寂の虚空。まん丸のっぺらぼうみたいに何にもない平穏。
何もない代わりに得られる無限の静寂。ボクにはそれだけあれば良かったんだ。
前提が違うんだよ、友奈。最初に世界があったんじゃない。
"何もなかったんだよ"。本当は。」
理解してほしいけれど、きっと友奈は認めないだろう。
だから、こうして喋っているのは独り言に近い。
全ての事象はボクの独り言でしかない。
原因も結果も過程もすべて知っているし、すべてボクに始まりボクに還る。
最初から綴られていた物語を読んでいるだけ。
「だけど、ボクは友奈を見てしまった。友奈が歩む未来を見てしまった。
友奈だけじゃなく、"勇者である"みんなの命の火を、魂の輝きを、輝く未来を。
だから"こうするしかなかった"。
完全充足したはずのボクの中にざわめき。暖かく、眩しく、ずっと見ていたいと。
それなのに人間はその尊さに気づかない。
いいえ、それを守ろうとさえしなかったくせに、始まりを迎えたとたんに、
我々は選ばれたと、
そんな身勝手な者たちに友奈の未来を託せるわけがない。
それなら、ボク自身の手で……。」
「そんなの勝手よ。誰もいなくなった世界で友奈ちゃんが喜ぶわけないじゃない。」
「貴方がそれを言うの? 東郷。口ではどれだけ大切と言っても、
暴走したとか言って友奈ごと心中を図った貴方が? それでどう安心できると?
本当に友奈が心から幸せだって言えるような世界なの?
友達と傷つけあうような世界が?」
別に東郷が悪いというわけじゃない。
あれは誰かに責任があるというものじゃなく、ただの失敗。
でも、その失敗が起こりとなって、天をも貫いて見せたの。
本当だったら、あそこで終わりでよかったはずなんだけど、
物語のようにハッピーエンドで終わりはしなかったんだ。
「違うわ。以前に失敗しても、今が良くなくっても、まだ何も終わってない。」
東郷もずいぶんと言うようになった。
どのくらい前か忘れたけれど、似たようなことを責めた時はずいぶん悩んでいたのに。
もっとも、あの時と違って、責める意思は無いのだけれども。
だけど、言いたいことはそこじゃない。
「どの可能性を照らしても無かったよ。
お役目が辛いなら、嫌だって言えばよかったんだ。
それができないんだとしても、逃げることだってできたはずだ。
ええ、そんな余裕が無かったんでしょ。でも、貴方達の選択は悪手すぎる。
いろんな偶然が重なって、上手くいっているだけだ。
その次は、そのまた次は、キミ達は破綻する運命を出たとこ勝負で当たってないだけ。」
一度手を上げた者は、きっとそのまた次も手を上げる。
東郷が友奈のことを好いていてくれるのは分かるけど、
テンパった時にどんな行動をするのか分からない。
「ボクが信じられるのは、今となってはボク自身だけ。
だから、ボク自身の手で変えて見せる。」
友奈達の後方。
立ちはだかった彼女達の向こうにいる人々の近くに、
巨大なスコーピオンの尾が無数に出現する。
「そんな! 一体どこから。」
「戻ろう。東郷さん。」
「ダメ! 友奈が戻ったら、他のところを攻撃するよ。」
「どうして!」
「どうしても!」
何かあればさっきみたいに時間をまき戻せばよい。
だけど、ボクは不安に突き動かされるて友奈たちの前に立ちふさがる。
今まで見たいに大きな方針ごとに戻すのではなく、1つの事象ごとに
"正しい"未来にしていけば、ボクの望み通りの結果が得られるだろう。
例え友奈が近くにいなくても、世界のあらゆる出来事を瞬時に知覚できる
ボクにとって、時間も距離も関係ない。
それでも、不安は消えはしない。
何回繰り返しても、歌野がやってみせたように人々の間を
つなぐことはできなかったから。
ボクの代理にと考えた使徒達もボクの代わりとなって
世界を治めるには至らなかったから。
もう、ここまで来れば300年前のような和平ではなく、
人類すべてをボクが支配するしかない。
だから、今ある人類は不要。すべて消し去って新しく再配置する。
昨日までと変わらない街と人々が配置されるだろう。
違いは直接ボクが敷いた運命の上をただ繰り返すだけ。
「……東郷さん行って。沙耶は私が何とかする。」
「無理よ。さっきみたいに友奈ちゃんが死んでしまう。」
「その時はきっと沙耶がやり直すよ。だから、何度だって戦って見せる。
私の知っている沙耶はそういう子だったから。」
「友奈ちゃん……。ダメよ。そんな。殺しに来る相手を信じるようなものじゃない。」
喋っている間に、街を襲おうとしたスコーピオンの尾が瞬時に燃え尽きる。
どうやら、アルも絶好調みたいだ。
数万もの蠍座を全て補足して、街に被害を出さずに燃焼させてみせてくれた。
「神様! もうこんなことは止めて!」
十華が吐き出したいくつものブラックホールが地上に影響を及ぼさないように、
出現と同時にボクに目掛けて光速に等しい速度で衝突する。
だけど、今更ブラックホールや真空の相転移くらいで、ボクに影響は起こせない。
ブラックホールの影から飛び出した2つ。いや、4つか。
「わっしー、ゆーゆ、無事?」
「全く勝手に飛び出すんじゃないわよ。」
園子と夏凜か。
「今更そんな小さな棘みたいな武器なんて。ふん。」
彼女達の肺腑の中で今まさに体に入ろうとしている空気を
元素転換で催涙ガスへと変える。
「けほ、何よこれ。」
「にぼっしー、離れるよ。」
「やっぱり、この程度の奇襲じゃ神様には通用しないの。」
十華の発生させたブラックホールを攻撃だけに使うのではなく、
歪んだ時空に隠れて園子と夏凜に強襲させるためでもあったみたいだ。
「未来予知でも時空が歪んでいれば、正確性に欠けるという発想は悪くない。
けど、ボクが知覚しているのは個人や対象に絞った居所的な未来予知じゃないよ。
全宇宙の素粒子の1つ1つに至るまですべての世界線を読んでいるんだから、
僅かな時間ずれたところで補正は容易にできる。」
喋っている間に回り込んできていた芽吹とシズクの背後からの銃撃を反射する。
「やっぱり、飛び道具は跳ね返されるのね。」
「ち、小技ばっかり使いやがって、正面から来いよ。」
跳ね返された銃弾は雀がすべて盾から広げたエネルギーで防いでいる。
いつの間に進めていたのか、天石盾を使いこなせている。
だけど、あれは一方向の守りでしかない。
宇宙のすべての場を崩壊させる今となっては絶対にはならない。
「勘違いしているようだけど、それを以てしても今のボクからは護れないよ。
さっきみたいに非局所的崩壊だって可能なんだから。」
何も考える必要はない。ただ全ての焼いてしまえばよい。
今度はビッグバンの再加熱を実行する。
止まっていた時計の針が動き出すように、宇宙全域の熱量が膨張する。
「そ、そんなこと知ってるよ。でも、死んじゃうのはダメなんだから、
誰も死なせないって決めたんだから!」
雀の持つ盾が一際大きな光を放つ。
再加熱状態のビッグバンが急速に秩序を失い、熱量が縮退する。
「少しは使えるようになったみたいじゃない。
だけど、それっていつまで維持できるの?」
再び再加熱を始める。あとは力と根気の押し比べ。
その間も斬りかかる勇者の、防人たちの、人間たちの攻撃を跳ね返し続ける。
友奈の拳に打ち合い、夏凜や風の斬撃を天沼矛で払いのける。
防人たちの斉射を全て捻じ曲げて、
樹や園子の変則的な攻撃は全周囲の燃焼で近づけさせない。
十華のブラックホールを蒸発させて、アルがぶつけてくる熱量を時間加速で消費する。
どんな攻撃も、存在でも、移ろいゆく事象でも、ボクは傷つかないし、倒れない。
「時間はキミ達の味方にならない。おおおおおおおお!!」
加速する時間がみんなの体力と精神力を奪っていく。
今の加速状態のままだと、10分程度動くだけで、1年分のカロリーを消費してしまう。
特に雀の精神力は限界が近いだろう。
あの盾を使えるようになる人間たちなら、歌野に約束した通り
ボクを最高の道具として使い切ることができたのだろうけれど、
これだけの時間をかけてもそんな人間はいなかった。
それどころか、1足す1を2に満たすことさえ碌にできていない。
"一片の穢れもなき"なんて条件で作ったものに対応できる生命なんて、
どの世界にもいなかったのだから。
「そろそろ雀から限界じゃないかな。まあ、死んじゃったらボクが
時間を巻き戻してあげるから、安心だよね。記憶は残すけど。」
「沙耶、止めて、やっぱり変だよ。私達と一緒にいたいだけなら、
こんなことしなくても良い!」
打撃も斬撃も銃撃もダメだと分かった友奈が、
今度は柔道なんかで見るような関節技をかけてくる。
「いいえ、もう、人間たちに期待して待つだけなんてできない。
友奈の未来を照らせるのはやっぱりボクだけだったんだ!」
「この! 分からずや。友奈がどれだけアンタのことで悩んでると思ってるのよ。」
夏凜の言い分も、友奈が痛めた心も分かっている。
だからこそ、今度で終わりにすると決めたんだ。でも、未だ足りない。
後一言、ボクは答えなければならない。そうでないと、終われない。
本当に正しい物語のハッピーエンドに届かない。
「さあ、もう一度始めよっか。友奈。ボクはキミが幸せに生を全うできるなら、
他なんてどうだって良かったんだ。でも、人間にそれができないというなら、
ボクがその世界を創世する。今あるすべて葬世するとしても。」
もう一度時間をまき戻そう。今度はどの程度にしようか?
そう考えた瞬間、ボクの思考を打ち破るような声が響く。
「いいや、このままでいい。人を忘れたもう一人の私。
やっぱりお前はここで終わりにするべきだ! 弥勒さん、アル。」
「分かっておりますわ。」
「お嬢様も貴方も、本当に仕方ない方達だ。」
姿を見せないと思っていたら、沙耶、夕海子、アルまでこんなタイミングで来るのか。
「遅すぎるよ。それじゃ雀がフルで稼働できないでしょ。」
「十分ですわ、これ以上雀さん負担をかけなければよいだけです。
アルフレッド!!」
「承知いたしました。我が魂のすべては共に。」
確かにアルを夕海子につけたのは、こういうところが合ったからだけど、
だからといって本当に夕海子は本番に強いのかもしれない。
本質的にスカラー場でありゲージ粒子存在状態を取れるアルなら、
存在としてではなく、意思持つ力として活動することだって可能だろう。
物質を構成する素粒子であるフェルミ粒子と相互作用して、力の交流させることで、
最後の西暦で乃木若葉がやって見せたように、アルの操る宇宙全てのエネルギーを
使った戦い方もできなくはない。
それでもだ。常に己を鍛え続けた乃木若葉でも長時間は無理だった。
それを時間加速状態で消耗が激しいはずなのに。
銃弾の1つ1つが宇宙1つ1つにも等しい熱量。
指向性を持たせてスカラー場が拡散しないように圧縮しなければ、
こんな真似はできない。
「なんでそこまで。その戦い方の危険性が分からないのか。
アル、お前だって主を止めろよ。」
「それはこちらのセリフですわ。
大切な人がいらっしゃるのに、どうして悲しませるようなことを。」
「お前に答える理由などない。
ええい、そんなに死にたいなら、勝手に一人でやれば良いものを。」
どうせ時間をまき戻すつもりだったんだ。
今はこの訳の分からない奴を黙らせる。
天沼矛を構え、全ての素粒子にダークエネルギーを満たす。
「前と同じ結果になるだけだと思い知れ。これこそ無限の力。
全てを最果ての彼方へ。
「それはもう見た。もう一人の私。お前が何も変わらなくても私達は変わっていく。
変わって見せる。天逆矛システム起動。」
近づいてきていた沙耶が天沼矛にもう一つの天の矛を突き立てる。
「欲しければ力なんてあげるよ。どうせ無限の力は減じることなどない。
このまま終わりにしてもう一度だ。」
「だったら、だったら、私だってお前だ。
だから、一度見た技くらい使いこなして見せる。
思わず、そう、本当に久しぶりに思わず目を見開いてしまう。
「ずいぶんと思い切ったね。
お前たちに無限の力なんて理解すらできていないくせに。」
「でも、私はお前だ。だったら、やって見せる。みんなで生きていくためなら!!
いけぇえええー!」
暴走したダークエネルギー同士が臨界点に到達する。
勇者である乃木若葉ならまだしも、防人に過ぎない夕海子と
人間のままの私がこんな真似をしてみせるなんて。
「狂ってる。何を考えているんだ。ボクで無ければ世界が消えて終わりだぞ。」
「狂ってて上等。お前が結城さんのいる世界であっても滅ぼせると分かった時から、
私達に選択肢なんてない。」
無限の加速力同士が衝突し続けて、時間も空間も遠くに流れていく。
同じ顔のボク達だけが取り残されたような感覚。
実際には友奈達の時間はほとんど流れていないだろう。
こうなってしまってはお互いの力を零状態に変更するしかない。
ダークエネルギーと他の素粒子との干渉を零に変更する。
これでダークエネルギーが空間内に潜在したり、縮退したりすることはない。
ただ飛び去るだけ。
ただ、そのままだとインフラトロンの膨張エネルギーもなくなるから、
重力に負けてビッグクランチ状態にならないように、ボクの力で支えておかないと。
それで終わりと言う方法もなくもないけど、それでは人類が何もできない。
若葉と戦った時と違って、まだ今の人類にそこまで絶望していない。
同時にその事実に気づかれると余計な手間になる。
うまくやる気を出してもらいながら、全力で戦ってもらいたいところだけど、
私がボクがこの程度のことも切り抜けられないと思っていたのかどうか。
「やっぱり、お前は無限の力を持つ誰かによる攻撃も想定していたんだな。」
「それを分かっていて、こんなことを? ずいぶんと大掛かりな確認だね。」
「ええ、というより未練かな。もしかして、これで痛み分けとかならないかなって。」
何だろう?
今までの彼女のように、いえ、いつもの私と違って走り続けていない。
「だから、もう良いの。」
何が?
「弥勒さん、アル。みんなをサンド・レコナーまでお願い。
そこで第3種兵装への変更をお願い。」
「承知しましたわ。アルフレッド。」
「全員の位置情報を捕捉できております。」
ボクを倒すための武器を作っていたのか。
これは少し待ってから来て上げた方が良かったかな。
普通なら、友奈や芽吹が残るって言うんだろうけど、
時間が極限まで微分されてしまっているので、言動がとれないだろう。
第3種兵装も、時間や空間が存在しない特殊な環境下で戦えるための用意みたいだし。
「邪魔しないんだ。」
「神にとってはどっちでも良いよ。
ただ今の旧い世界は終わらせて、新しい世界を創るだけ。
過ちは速やかに修正されるべきだから。」
すうっと目の前の私が一度だけ深呼吸する。
自分から分枝したとは思えないような落ち着きよう。
「ずっと、考えてた。」
「何を?」
と言っても西暦で記憶を失っていたボクを倒したのに、
あっけなく復活したことだろう。
正確には復活ではなく、新しく出現しただけなんだけど。
「お前は倒しても再生する。それは蘇生とかではなく、新しいお前が出現する。
今、目の前にいるお前をいくら倒しても意味がない。それじゃダメだったんだ。
だったら、やり方はこれしかない。」
言うが早いか、それからの行動は劇的だった。
確かに光速度で行動できる
それでも、無策にも思えるただの突撃なんて意味がない。
「接近戦のつもり? 零距離でも加速力も熱量も使えるんだよ。こんな風に。」
我が身諸共に突っかかってきたもう一人の私を光分解する。
だけど、この子は少しも慌てた様子を見せずに、その言葉をつぶやく。
「いいえ、これで終わり。平衡状態
「対消滅? いえ、別天津神を消滅させた時にボクが使った方法か!」
確かに全知全能なる神を滅ぼす手段としては上級だろう。
でも、欠点が2つある。
1つは時間軸上で同一であったものを用意する必要がある。
ボクはまるごと1つの宇宙を時空泡に包んで別宇宙に持ってくることで、
相手より格上になって押し切った。
そして、もう1つ。
そもそも、こんな方法を取らなければならない相手と言うのは、
全知全能かそれに近い。
つまり、何かをしようとした瞬間に対応してくる相手だ。
それは今回も例外じゃない。
(それなのに、全然気が付かなかった。やっぱり……。)
「やってくれたな。本当にボクと同じ真似を。
バレないように自分の記憶自体を消しておくなんて。
でも、ボクと違ってお前に再現能力はない。消えた思い出は戻らない。」
「思い出ならまた作れば良い。どんなに大切だったとしても、
私は大切な人たちとの未来を選ぶ!
お前はずっと諏訪のことを引きずって、結城さんから逃げたんだ!
そんなお前に人類を粛清する資格なんかない!」
「だが、気づいているの? この世界の時間軸上からボクを消しても、
今度は平行世界からコピーされてくるだけ、ボクを倒すことはなんて誰にも……。」
そこで、スマホの電池が切れたようにボクの意識は遮断されていった。