松永沙耶は神である   作:スナックザップ

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燃える心 Fiery my heart

人が困難を乗り越えてこられたのは何故か。

 

魂、心、想い、

知恵、経験、学習、

団結、役割、集団。

 

そういった答えを出す人は多い。

 

だけど、本当は忘却こそが人間の最大の強さだと勝手に思っている。

これは天の神(ボク)がそう創ったからではなく、

すべての平行世界とすべての時間とすべての場所を見渡して、私がそう考えていること。

 

思い出すこととセットにはなってしまうけど、客観的事実と主観的真実を分けて認識し、

どちらを主とするかを選択できることで適当な場所で適応した時間の情報処理を行い、

正確性より"自分にとって都合の良い"対応を可能とできる。

希望を生み出すために必要な機能。

 

ある意味で、全知全能であるボクに"できない"こと。

ボクは忘れなかった。

 

死んで灰になろうと、記憶を消しても、宇宙そのものが亡くなっても、

結局はこうして友奈たちと対決する結果になる。

だから、いつまでも同じ気持ちを抱えて走り続ける。

 

実際は難しい言葉で考える必要はなく、痛みに竦んで立ち止まらなくなり、

思い出すことで、自分に大切なことを力に変える。

 

でも、それは自分縛り、時に大切なものを見失わせる。

 

東郷も園子も未だ三ノ輪銀を忘れられない。

それは、きちんと"終わり"にできていないからだ。

 

だったら、その機会を用意してあげないと、今度は友奈達まで引きずられる。

 

そのために三ノ輪銀を呼び出したんだけど、自分の復活の機会を捨ててまでカッコつけるなんて、

嘘とは言わないけれど、考えなしにもほどがある。

 

「本当にこのまま攻め続けて良いんだよな。園子。」

「うん、ミノさんと私は絶対に離れないようにして。

わっしーはバーテックスが邪魔してこないようにお願い。」

「分かってるわ。でも、こんな風に話していたら、聞こえてるわよ?」

「同じだよ。どうせ未来予知で知られちゃうんだから、こそこそ話しなくても良いから。」

「そういうことね。だったら、遠慮なく、撃てー。」

 

満開で数を増した砲身からビームが発射されて、星屑たちが撃ち落とされる。

別に邪魔をさせようとしていたわけじゃないけど、やられると気になる。

 

矛を振るおうにも息がかかるほどの至近距離の戦闘では、長柄が邪魔になる。

知られていてもやるというなら、園子の思惑に乗ってお互い十分に武器の特性を活かせない

この戦いを続けよう。

 

銀も斧の持ち手を普段よりかなり短く持って、大振りをせずに鋭い振るい方をする。

そんな訓練は受けていないはずだけど、読んだ漫画の真似だ。

園子も持ち手を短くしているけど、ボクと同じで扱いにくいはずだけど、

ずいぶんと器用に動かしている。

 

後は誰が一番得意な距離か、誰が一番早く苦手な距離に慣れるかで、この撃ち合いは決まる。

学習能力が高いのは園子だし、銀は戦う距離は普段と違うとはいえ、そのまま斧を使っている。

当然、ボクの天沼矛は、時を置かずに銀に撥ね飛ばされる。だけど、それで終わってあげない。

 

「これで、どうだ! って、おわ!?」

 

クロスカウンターで突き出したボクの拳を銀は受け止めるけど、

そのまま手が切れるのも構わず斧をつかんでの投げ技までは防げなかった。

普段の銀なら瞬間的に斧の形成を解除することもできただろうけど、

あまりに至近距離で戦いすぎたために僅かにボクの方が速い。

 

何より、無手なら"この距離"に慣れている。

 

「ミノさん!? この動きって、ゆーゆと同じ。」

「キミ達の前では使ったことないけど、ボクは友奈と同じ時と場所で生まれたんだよ。

当然同じように自分の動かし方は友奈のおじさんに習ったことがある。

できれば天の神として戦いたかったけどね。」

 

ホントはウソだけど、習ったことを元に自分なりに長いときの間に修行した結果だから、

間違いじゃない。

 

「いてて、まさか素手の方が得意だったなんてな。」

「大丈夫ミノさん。ごめんね。」

「いや、実際、あれを撃たせるわけにいかなかったしな。

で、どうする。こっちが動いたらすぐに撃ってくるぞ。」

 

銀のいう通り、ボクはすでに天沼矛を手元に戻してすぐにでも攻撃できる。

もともとタイムラグなしで使うこともできるのに、さらに距離が開けば大技を出しやすい。

でも、それは園子と銀の話。

 

「でも、ここは私の距離よ。」

 

目を反らそうと、次々に飛んでくるビームがボクに着弾していく。

いつものような狙いすました通りというより、少しでも2人が隙を見つけられるようにしたいのか。

でも、こんな弾幕の中では味方も近づけない。

 

「それで、ここからどうする? そっちが来ないなら、これでおしまいにしよう。」

「それは……」

「こうするんだよ。勇者キィ~ック。」

「友奈!?」

 

真上からの声に仰ぎ見ると、自動防壁が解除されてボクの本来の質量が一気にあふれだす。

 

「あ。」

「友奈ちゃん!」

 

声をあげたのはボクかそれとも別の誰かなのか。

空気がなくても声が聞こえるのは、ボクが全知全能の権能を持つがため。

 

触れた友奈の地球ごと、自動防壁を失ったことで、宇宙の全点が無尽蔵の斥力に満たされて、

耐えきれずに時空ごと引き裂かれる。

虚空発散(Divergence emptiness)という言葉だって、本当は方向性(ベクトル)を持たせるための意識づけ。

全天周囲が同時に引き裂かれれば、球子や雀みたいな"盾"で防ぐ方法も意味がない。

自分の細胞一つ、原子が留まる空間一点が、バラバラになっちゃうんだから。

水を足して薄くなったスープのように何かを存在させる機構を失う。

 

「だけど、こんなのボクの望みじゃない。だからもう一度。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今度は障壁は展開せず、アッパーカットの要領で勇者キックを弾き返す。

代わりに東郷の攻撃にボコボコに撃たれてしまうけど、

意識しなけれあ自動防壁が解除されて、また特異点が顔を出してしまう。

 

「東郷さん!」

「友奈ちゃん!」

 

先行した東郷、園子に追い付いた友奈達。

 

「友奈…だけじゃないか、バーテックスでは止めきれなかったかな。

時間稼ぎくらいはして欲しかったんだけど。」

 

風、樹、夏凜、ということは十華以外は全員追い付いたってことか。

ゴールドタワーの方もなんだかザワザワする感じだし、あんまりうまくいってない。

これだけ好き勝手やっても上手くいかないってなんでなんだろう。

 

いい加減、ボクの思考も人間離れし始めている。

これ以上、繰り返すようなら、もう一度記憶を消去して、

また最初から初めていくしかない。

 

「これだけ見届ける人が多いなら、問題ないでしょ。

ボクの使徒になる気も、地の神の眷族になる気もないなら、貴方達はここまで。

死者は天に戻って、生者は地に残ってもらう。」

 

構えた天沼矛を水平線まで巨大化させ、そのまま振り払う。

本当は地平線まで掃いてしまうつもりだったけど、せっかく友奈が追い付いたのなら、

倒すのは銀だけで十分。

 

「危ない。」

 

最初は受け流そうとした風が無理せず避けることに専念する。

今の勇者の武器はこういう時にパッと出したり消したりできるから

デッドウェイトにならなくなった。

細かいことだけど、歌野はそうじゃなかった。

歩みは目に映らないほど小さく、時に間違った方向に向かうけれど、

確かに進んではいる。

 

だけど、それでは根本的な構造は変わらない。

今のままだと、どうせ友奈を犠牲にするに決まっている。

 

「いい加減にしろ。」

 

満開した夏凜の2対の刀が、クルクルと廻るように斬りかかかる。

放っておいても良いけど、受けてあげるのがラスボスの役割だ。

 

どれだけ夏凜が早く刀を繰り出そうと、未来予知は覆らない。

 

そのまま影から蠍の尾をあふれるほどの数で繰り出す。

 

「く、この。」

 

夏凜が少しずつ後ろに下がりながら、10程切り落として追い付くと思ったところで、

後ろ髪を引かれるように動きがとまる。

 

「させません。」

「これで、反省しろー。」

 

ワイヤー拘束されて防御できない状態での大剣をハンマーのように使った面攻撃。

回避も防御もできない。

 

生身ならば。

 

だけど、ボクは実体を絶対的に必要としない。

瞬時に自分を消滅させて10m程離れたところで出現する。

 

「嘘でしょ。」

「あれをかわすなんて。」

 

姉妹の息の合ったコンビネーションに張り合うほど暇じゃない。

だから、追撃しにきた銀と園子の逆サイドからの攻撃を竜巻で浮かせることも、

東郷のビームを"天に弓引く者"で反射させることも、最初から用意したとおり。

 

「わっしー。大丈夫。」

「ええ、跳ね返されるのは分かっていたから。大丈夫。

精霊が自動攻撃してくれる川蛍まで反射されるのね。」

「アタシ達の意識だけじゃなくて、精霊が自動的に行う行動まで反射するのかよ。

園子、なんか良い方法ないのか?」

「うーん、ミノさんの期待に応えたいけど、とにかく、攻め続けるしかないかな。

私達と戦っている間は他の人に攻撃しないと思うから。」

 

本人目の前にして堂々と言い切られてしまった。

 

でも、まあ、それはそう。

 

ボクは友奈以外どうでも良いって態度をとってきたからそう思われるのは、

ちっとも不思議じゃない。

 

だけど、本当は少し違う。

 

ボクは見たくないし、考えたくないけど、世界は続くものだ。

 

どんな素晴らしいものでも、終わらなければならないし、

どんな残酷な現実でも、いつか誰かが歩き続けて、

どんな無意味に見える命も、無意味であること自体さえ意味を持つ。

 

それなのに、全部を守っていくためには仕方ないと、失ってきたのだから。

 

そして、今度は友奈がその番だというのなら、全部を壊してその根本。

 

"ずっと続いて来たみんな"を終わらせる。

 

もう、諏訪の時のような抵抗をしてくれることを夢見たりはしない。

ボクを使いこなすに相応しい"次"は顕れなかった。

それが永遠の終わり。

 

「防人のみんなが来るまで待つか考えたけど、

ま、今回は銀が揃った時点で良しとしよっか。」

 

「何をするつもり。」

 

「何って、前に言っているじゃない。これは世界すべての人が関係ある事なんだよ。

顔も知らない誰かを犠牲にして生き延びることが"仕方ない"。と言うのなら……。」

 

できない、は仕方ない。

能力の問題は現実的な壁がある。

別にそこに注目すべきものはない。

 

知らない、は仕方ない。

世界のすべてを知覚するのは大変だ。

別にそこに注目すべきものはない。

 

忘れる、は仕方ない。

本当の危機では命を守るために優先順位がある。

別にそこに注目すべきものはない。

 

でも……。

 

「諦めるのだけは違うでしょ。例え現実的に無理だとしても、

膝を折って、泣いて祈って、顔をそむけて、"仕方なかった"なんて。

後になってから、お前は何もできないなんてボクはイヤだ。

そっちがその気なら他力なんて要らない。ボクの望みはボク自身の手で叶える。

お前たちが友奈達を犠牲にしたように今度は世界を犠牲にする。」

 

今度こそボクは諦めない。

 

「私は、そんなことして欲しくない。」

 

友奈の拳を掌で受け止める。

 

「当然。これはボクの望みだ。」

 

ボクの振るう拳は友奈に受け止められる。

 

友奈の瞳に映るボクがいて、その中にボクの瞳の中に映る友奈が見える。

合わせ鏡のように永遠に続くんじゃないかって思えた日々の落日。

それはもうすぐそこに、手の届くところまで着ている。

 

例えどれだけ友奈を傷つけることになろうとも、

最後に笑顔でいてくれるならそうするまでだ。

ボクの記憶なんて後で消しておけば問題ない。

 

入れ替わり立ち替わり、ボクに世界を滅ぼさせないと武器を振るい続ける勇者達。

すでに何時間も戦い続け、疲れは隠しようもない。

それでも、誰一人として瞳の輝きだけは落ちていない。

 

本当は人間すべてがこんな輝きを持てていれば良かったんだろうけれど、

そうはならなかった。

 

(やっぱり、諏訪の時とは違う。みんながみんなを思うには、人は多すぎた。)

 

そして、生きてつないでいくには少なすぎる。

 

だから、"ずっと続いて来たみんな"が必要無くなれば良い。

 

「ボクが大きな力で世界を滅ぼさないようにしたかったみたいだけど、

ちょっとだけ足りなかったみたいだね。空を見ろ。

貴方達の見上げる太陽はもう訪れない。」

 

ボクの声が大気を震わせる。

 

「お姉ちゃん、あれ。」

「太陽が大きくなってる?」

 

「当然。だって高天原が地上に近づいているんだから。そして完全に一つになった時、

日常は永遠となって繰り返し続ける。もう、誰も未来を憂うことなく、

好きな人と好きなだけ好きな時間を過ごせるの。これが、ボクの最後の決定。

お前たちにもう未来は訪れない。そしてそのことに気づくこともない。」

 

やっぱりこういう時に最初に動くのは園子だけど、それでも遅すぎる。

はるか300年前から用意していたトラップだもの。

間に合う道理なんて最初から無い。

 

太陽の幻視となった高天原がインフラトンの力で瞬時に膨張し、

0秒置かずに地上のすべてを覆う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

これで、おしまい。

 

友奈たちも永遠の幸福にあるだろう。

好きな人と一緒に毎日いられることは何により幸せな形。

だからこそ、誰も抗えない。

 

「これっでぇーー、追われるかーー!」

 

目を閉じていたって知覚に影響は無かったはずなのに、その声が聞こえるまで、

ボクは見ていなかった。

4本の刀を矛をクルクル回すことで何とか弾き返したものの、そう来るなんて。

 

「夏凜、キミにとっての幸せって……。」

「アタシは……、アタシにとっては勇者部の、その戦いの日々がすべてだ。

だからアンタが呼ぶ日常も闘いの日々も、どっちもアタシだ。」

 

知覚するまでもなく、他の人達には勇者になる前にも幸せの起源となる記憶がある。

 

だから、地上が高天原に飲まれた時点で、それぞれの幸せな時間に配置されている。

 

「そう、キミは今が一番大切、だったんだね。

でも、それだけじゃない。十華を吸収したんだ。」

「ええ、そうね。コイツもアタシと同じだったみたい。

分かっているんでしょう。コイツが使徒になったのも、

アンタや茉莉と一緒にいた時間が幸せだったから。

だから、世を滅ぼす大罪を負うことになったとしても、幸せだったのに。

それなのにアンタはあっけなくコイツを役に立たないって。

アタシ達は、命は、作って、飽きたら棄てて良い道具じゃない。」

 

十華は自分から望んで吸収されたのか、アルならまだしも、

使徒としての完成に至らなかった十華では、もう分離はできない。

それは十華がいなくなるだけじゃない。夏凜だって変質していしまうことになる。

 

「それでもやるのかい。それでこそボクの選んだ使徒。だったら抗うことを赦そう。」

「許されなくても、生きてやる。」

 

瞳孔は細長く、犬歯は下唇を突き破るほど伸び、文字通りの獣相。

 

はるか前の宇宙で、十華の勘違いを始まりとして2人が渾沌に落ちたことがあった。

その時にお互いの一部が好感されていたけど、拒絶反応がでなかった。

血筋の縁も、魂の在り方も違うのに不思議な縁だ。

 

感傷に浸り過ぎたのか、今度こそ夏凜の刀は実体を解いたにも関わらず、ボクに届く。

 

「おおお、だけど、こんな程度の傷では致命にはほど遠いぞ。

分かってるかあ。十華。」

 

拳を握り防御の上から銀河フィラメントの運動エネルギーをぶつける。

 

友奈も地球も気にしなくて良いから、思う存分宇宙規模の力を解放する。

 

ああ、なんて清々しい。

 

「まだまだあああ!」

 

技量も力も関係ない。宇宙すべてに行き渡るほどの質量同士のただの殴り合い。

 

てっきり、アルと夕海子の方が同調がしやすいと思っていたから、これは望外。

それなら、望み通り正面から向き合おう。

 

 

「十華、アルでもない。お前は、夏凜ンンン!」

 

殴り飛ばした勢いが衝撃となって星々を星屑のようにバラバラにしていく。

 

「そんなせこい手ばっかり使っている奴に負けるかああああああ!」

 

息が炎となり吐き出され、思考は頭蓋から漏れ出て稲妻が駆け巡る。

ただ、生きているだけで、思うだけで、本当の宇宙規模の破壊。

 

「ふふふふ、せこいだって。言われなくても分かってる。

ボクも繊細な作業で息苦しかったんだ。

ああ、変な理屈ばっかりで気が狂いそうだ。さあ存分にやらせてもらう。

本当は友奈が良かったけど、こうやって気のすむまで戦いたかったんだから。」

 

そうとも、ホントはこんな風に何も考えずに、

あの日の続きで決着をつけたかっただけなんだ。

始まりはそんなちっぽけな気持だけだったのに。

友奈との喧嘩は聞きつけた先生たちに止められてしまったから、

決着をつけられなかったんだから。

 

喜びは天上に満ち、解放はそれだけで空を晴れ渡り、闘志はまるで炎のように熱い。

 

「さあ来い、夏凜。

それだけ大切なら、お前が友奈の代わりをできるというならやって見せろ。」

 

 

 

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