月姫とともに届く。
仕事忙しすぎて受け取るタイミングなかったけど、ようやく受け取れる。
「これは…役には立ちそうだけど…。うーん、やっぱりオカルトは知識がないからな」
翌日から、早速私は友奈の意識を戻す方法を探していた。
正確には刻まれた言葉を思い出せばいいだけなんだけど、この情報量がとんでもなく多い。
私の行動は無駄かも知れないけど、ただじっと待っているなんてできなかった。
何よりまだ友奈の目覚める気配はない。
「魂だけがどこかに幽閉されている、って言われても…。ううーん、さっぱり意味わかんない」
だいたい魂とか人間に分からないもののせいで、人間の…友奈が意識を失うなんて。
いや、神樹様なんていたんだからこの世界自体がオカルトなのか?
どっちにしても、一方的にもほどがある。
こっちからは手を出せないのに、向こうからは一方的にって、バーテックスもそうだっていうし、この世界って一体…。
まあ、深く考えずに、神樹の加護をあたり前にしていた私達にも問題はあったんだろう。
困ったのは自分の身近に不都合が起きにくいから、誰も疑問に思わない。
逆におかしいって言ったほうがおかしいって言い返されそうだ。
「はあ、ダメ元で聞いてみよ。もしもし、友奈の魂はどこにあるんですかー?」
――高天原。天の神が道を閉ざしている。だから宇宙規模のエネルギーが必要――
投げやりにスマホに問いかけると、画面に文字が浮かんできた。
「は? 知ってる? ふざけてんの? だったら早く答えなさいよ」
文句を言いつつも頬が緩んでしまう。何せこんなに簡単に解決したんだから。
でも、行くためには宇宙規模エネルギーが必要って…それは答えてくれないんだろうか?
「宇宙規模のエネルギーを手に入れる方法も教えて」
――あなたの役割はそれを探すこと――
「ちっ、使えないやつ」
昔はこうやって舌打ちするたびに友奈と比べられてたな。そういえば…
まあ、昔のことは置いといて、そこまで都合よくは行かないか。
ん? 一番大変じゃないこれって?
具体的にどのくらいのエネルギーが必要なんだろ?
しばらく待っても何の反応もなかった。
どうも、与えられた情報源は内容に偏りがあるみたい。
「ネットで出るかな宇宙規模のエネルギー…うーん、あたり前だけど、直接的じゃないよね…」
だいたい、宇宙規模ってのが曖昧過ぎる。
まさか宇宙を作れるエネルギーが必要なんてことは……
やめとこ。とりあえず宇宙全体が明るくなるとかそんな物が必要ってことだろうし、
とにかく、そこまで来たら普通の手段じゃ無理だ。
宇宙規模のエネルギー、どこかにアプリで手に入ったりしないかな……
「あ」
宇宙規模のエネルギーではないけど、宇宙規模と言えるものがある。
「炎の世界…あれって、全宇宙規模で広がってるんだよね。そっか、あれを起こしたのが天の神だから、天の神の閉じた高天原への道を開くには同じくらいの力が必要ってことなんだ…」
さすがに宇宙を作るよりはマシかもしれないけど、スケールがおかしすぎて、きっかけさえ思いつかない。
もう一度整理した情報とにらめっこしてみる。
今のところ、確実に宇宙規模と言えるのは炎の世界だけだ。
かつて、伝説の勇者乃木若葉が見たという天沼矛がそのきっかけらしいけど、さすがにそれは情報以上のものがないから、当てにはできない。
「壁の向こうか、さすがに近づいたらバレそうだよね」
子供のいたずらで許される範囲かどうかは微妙なところだけど、方法だけを考えるなら空からが一番良いだろう。
ただ、問題はそれだけじゃない。
いつも燃えている世界なんて生身でいけるはずもない。
まして、その秘密を解き明かすなら、ただ行くだけじゃダメだ。
「観測する方法を考えて…ダメだ。友奈もいつまで時間があるか分からない」
もう一度刻まれた情報を脳の中から掘り起こしていく。
西暦の時代に天の神の怒り?に触れて、最終的に天沼矛による宇宙規模の結界と炎の世界が作られたから…
結界ってことはどこかと切り離しているってこと?
それに、天沼矛は神話の時代にもイザナギとイザナミが使って…
あれ? 天の神ってイザナギ?
ま、誰でも良いのか、そこは。
とりあえず天沼矛は"2回"使われていて、2回目で宇宙規模の結界が作られた?
それが今の私たちの世界なんだろう。
それとも作ったのは炎の世界だけで、宇宙規模の結界はまた別?
結界と言えば神樹様だけど、結局誰が何をしているのか…
(う~ん、肝心な情報が少なすぎる。とりあえず宇宙規模なんだから、外の炎の世界と結界を使うしかないのか…)
神樹様は四国に張った結界を維持するのにかなり力を使っているらしいから、
ちょっと違う気がする。
完全に行き詰った感じがする。
いくら過去の情報を持ってこれてもこれじゃ意味がない。
「ああ、もう、とりあえず情報を漁ってみるか。結界を作ったのは、っと…」
答えはすぐに返ってきた。これ、ホントに私必要かな?
この答えてる知識があれば大赦とかが何とかしてくれないだろうか?
(誰かに相談することはできないか…危険性が高すぎる。よく考えたらこんなわけわかんない情報が四国中に広がったら大混乱だろう)
このことは保留しておこう。
まず炎の世界とは、元の世界を宇宙規模の結界で閉じた後に
新しい世界として作られたと考えていいみたいだ。
つまり、結界がなくなれば元の世界が姿を見せる。
それから、天沼矛が使われたのは2回。
「西暦の終わり300年前と、神話どおりならだいたい3000年前かな。ということは西暦の時代も何かの結界の世界だったってこと? まあ、これは今は良いか」
ひとくちに宇宙規模と言ってもピンからキリまであるみたいだ。
どれも人間の想像を超えているのは一緒だけど。
「一番旧い過去の情報って何?」
アプローチの仕方を変えてみよう。
確認できる一番古い情報から何が起こっているのか確認すれば…って、一番古いのは300年前なのか。
これはもう昔の情報を新しく手に入れるしかない。
方法自体は記録があるんだから、再現してみればいい。
「ええっと、結局これってイタコ的に誰かの魂を呼び出して、お伺いを立てるってことかな? これだと大赦の巫女みたいだけど何が違うんだろ?」
まあ、大赦の奥に隠されている巫女なんて、ただの中学生の私は見たことも聞いたこともないけど。
この方法は厳密には私の遺伝子上の記憶を遡って、過去の情報を人間に分かる形で翻訳している状態だ。
だから正しくは過去というより私を構成する情報が経験した事象ということみたい。
(これで、私に引き継がれてきた遺伝子情報やら分子構造がはじめの天沼矛生成の情報まで遡れなかったら、振り出しに戻るけど、まあ、その時はその時だ)
そういえば、なんで伝説の勇者の記憶なんて私は見れたんだろう。
大赦でも最高位の乃木家の親戚なんていないはずだけど。
遺伝子だけじゃなく分子構造の情報も手に入るみたいだし、そのことが何か関係しているのかな?
おかしな話だけど、情報自体に意味はない。
意味を作るのはいつだって今を生きている人間の役割だ。
与えられた情報をつなぎ合わせて理解できる形にしないと、テレビのニュース番組と同じでただ見ているだけになっちゃうんだろう。
私のほしいものまで遡れるだろうか?
西暦の時代の勇者はそんなに事情通じゃなさそうだし、もっと旧い時代の人、できれば3000年前の最初に天沼矛が使われた時の人の記憶が欲しいけど、まずは300年前に行けば……
「ッ……痛」
再び激しい頭痛と幻の声が終わり、目を開くとそこはまた違う風景だった。
ただし、今度は私も変わっている。いや、厳密には私はいないから"視点"だけで宙に浮いて、VRゲームが進化したみたいな感じだ。
痛覚は余計だと思うけど。
半分ほどの高さになったビル。ひび割れめくれ上がったアスファルト。
どこかで火災でも起きているのか、石油ストーブのような匂いがする。
そして、大地に点き立つような光の柱がぐるぐると回り始める。
西暦2020年。はるか向こうには結界に包まれた四国とその前に立つ2人の少女がいる。
たぶん背の高いポニーテールのコスプレみたいな恰好をした子が乃木若葉だろう。
もう一人は誰だろう? 巫女みたいだけど、よくわからない。
と、いけない、いけない。今は歴史上の人物よりも天の神に集中しないと。
私の目的はこの時代で行われようとしている天沼矛の顕現を確認して、友奈救出に役立てること。他は失敗しても、そこだけは間違っちゃいけない。
今度は四国と反対側を見る。
光の柱の中心には巨大な円盤が浮いている。
何だから分からないけどノスタルジックな感傷を覚えてしまう。ただの円盤なのに。
けれど、今のところ矛らしいものは見当たらない。
突然円盤の中心から巨大な光が地上に突き刺さる。
輝きは視界を埋め尽くし、感じないはずの熱を幻覚で感じているよう。
いつの間にか乃木若葉達は結界の中に戻ったみたいだ。
でも、私は光を見つめ続ける。きっとここにヒントがあるはずだ。
炎の世界を生み出し、宇宙規模の結界を生み出したこの瞬間なら、必ず高天原に通じるヒントが。
(目、目が見えない。光が大すぎる。ううう)
これ以上見続けるとまずいかも知れない。
そう思い始めたころ、光が私を通り過ぎて代りに赤と黒が視界を覆う。
(これが……炎の世界…。さっきの光が天沼矛だったんだ。って、いけない。ボーっとしている場合じゃない。この後の天沼矛も高天原に戻るはず)
円盤のお化けみたいな物体の後ろに黒い点が現れる。
それは、少しずつあたりの光を飲み込むけど、中心の大きさは変わらず、光を失った空間が広がっていく。
(これ、吸い込まれている? まるでブラックホールみたい。あたりの炎もどんどん吸い込んでる)
すると突然円盤が黒い点に向かって動いていく。
(あの点に向かっている? もしかして、あそこから高天原にいけるの)
――そう、あの向こうこそが天の神のいるべき場所。でも、天の神はこの時代、この瞬間にだけ姿を見せた。――
スマホを開いていないはずなのに、例の声が聞こえる。
(それじゃ、天の神はどこ?)
――目の前にいる――
目の前って? まさか、この円盤?
神様っていうから人型だと思ってたけど、これじゃ神様っていうよりエイリアンの侵略だ。
(とにかく、高天原へ)
天の神へ置いて行かれないように、黒い点へと飛び込む。
(んなあーー!?)
飛び込んだと思ったら、暗い空がどこまでも続いている。
"視点"だけの今はなんてことないけど、実際のブラックホールだったら、今頃ぺちゃんこだっただろう。
どんどんと中心に向かって落ちていく。まだ円盤は向こうに見えているから、ブラックホールは閉じていないと思うけど、間に合うだろうか?
と思うまでもなく、天の神がどんどん大きくなっていく。
(そりゃ、そうか、だって見ているだけで実際に起こってるわけじゃないもんね。あ…)
ブラックホールに飛び込んだはずなのに、目の前が光でいっぱいになる。
さっきの天沼矛ほどじゃないけど、目が明けていられるような状態じゃない。
(ここは…って、風景が映った珠みたいなのがたくさん浮いてる?
これって私が刻まれた情報と同じ?)
――"ワタシ"が私に情報を見せたのはここと同じ方法――
な、なんだってー? というのは置いておいて。
(ねぇ、誰かがこの場所のこと知っていたってことでしょ。だったら今更どうして…)
――知っていても、たどり着けなければ意味がない。それに高天原はまだ先――
まだ続くの?
気が付くとたくさんの風景が雨や流星のように降り注ぐ不思議な宇宙だった。
"視点"だけになっている今の私は平気だけど、そのどれもが燃えている。
それこそ星の光に等しいような熱さだ。
触れれば体どころか魂まで焼かれてしまいそうになる。
――届いた――
聞き返す間もなく、また風景が変わっている。
今度は何もない空間だ。真っ暗じゃないけどぼんやりとした光と、黒と灰色の水平線を鏡合わせにしたような空間。
不意に影が差す。意識せずとも見上げてしまうその先に…それはいた。
(天の神。それじゃ、ここが……)
ここが高天原。
友奈の魂が囚われている場所。私が目指す到達点。
気が付くと、自分の部屋に戻っていた。今度は"視点"だけじゃない。
きちんと自分の体が見える。
(あんなところに友奈の魂だけが閉じ込められているっていうの?)
あんな何もない場所。ううん、友奈のことだから何もないより、"誰もいない"のは耐えられないだろう。
(助けなきゃ、何とかして…ううん、何とでもしてみせる)
友奈の笑顔、泣き顔、膨れっ面、起こった顔、寝ている顔、
そして、夕暮れで殴りあった時の顔。
「落ち着いて、落ち着いて、大丈夫、大丈夫だから…」
怖い夢ばかり見て泣いてばかりだった私に、友奈がおまじないのように言っていた言葉。
まずは、今見てきた体験を一つずつ考えてみる。
宇宙規模っていうのは高天原にたどり着くために、ブラックホールみたいに世界に穴を開けるような方法が必要ってことだろう。
距離だけじゃなくて、そもそも別の…時間や空間が地球とつながっていないような
場所なんだろう。
昔からブラックホールの特異点とその先については、学者さん達の中では議論がされてきたっていうし。
問題はブラックホールなんて作れないってことと、ちゃんと高天原につなげられるのかってことだけど、どっちも難しい。
正確にはブラックホール自体は存在しているけど、私がそこを通り抜けていく方法がない。
まずはブラックホールを見つけるか、作るかしないと。
見つけるのは無理だろうか? 炎の世界の記録を見てきたけど、普段はブラックホールどころか星一つない世界だった。
作るのはちょっと想像がつかない。
単純にとんでもない重さを集めるといっても地球より重いのだから。
考えながら、今見てきた光景と与えられた情報を思い出していく。
天地の神、バーテックス、勇者……どれも神様に選ばれた存在。
とてもじゃないけど、なろうとしてなれるものでもない。
一応、可能性だけで行くならブラックホールでも宇宙誕生でも起こらないわけじゃないけど、それこそ宇宙規模の時間が必要な確率。
「あ、もしかして、宇宙の始まりとか戻れる?」
思わず、本当に思わずスマホに聞いてしまった。当然答えは無かった。けれど…
「こ、これは…」
(こ、これは…)
さっきと同じように風景が切り替わり、"視点"だけになった感覚。
なのに、自分ではない誰かの声がする。
白い布と髪飾りだけのシンプルな服装の男の人とこちらもシンプルな服装の女の人。二人ともすごくきれいな人たちだ。
男の人は自分の背丈よりも長い槍のようなもので海をかき回している。
時々水面から姿を見せる槍には、教科書に乗っていた勾玉のようなものがくっついてる。
そして…
(高天原…ってことは、ここは宇宙誕生の瞬間だったり?)
でも、スマホから例の声はしない。
これはただの記録なんだから、実際にはスマホが近くにあるはずなのに。
さっきもだけど、高天原の記録なんてどうして見てるんだろう?
人間に縁がある記憶か何かだと思っていたけど、ここまでくると違うよね。
妄想にしても知らない情報を見れるっていうのは変だし…
とにかく、見えているのは確かだし、妄想にしてももうちょっと自分に都合がよいものだったり、自分が望むものになると思うんだけど、そういった特徴がほとんどない。
ただの映像の羅列が続いていく。
(それにしても何をかき混ぜているんだろう? 星座が多いギリシャ神話ならまだ知っているんだけど)
"視点"だけを移動して真上から槍――多分これが本当の天沼矛――が掻き混ぜている渦を覗いてみる。
(えっ、しまっ・・・)
"視点"だけだったはずなのに、気が付くと私は"足を滑らせて"落ちていく。
二人をすり抜け、槍の先を超えて、何の抵抗もなくその先にある黒い泥のような海に沈んでいく。
(た、助けて、息ができない)
ただの幻を見ていたはずなのに息苦しさを覚える。
信じられないけど、この泥は実際に私の体には触れていなくても、そこにある情報だけで押しつぶされるような重圧を私の意識にかけてくる。
混ざっていく。"世界"として…
(これ、記憶にあるだけで、こんな…)
搔き混ぜられているように見えているだけなのに、まるで自分がうどんのように広げられているような感じだ。
確実に私の意識は薄くなっていく。
暗い、昏い、真っ暗な海のような泥に私が混ざる。
それは神様よりも旧く人間よりも新しいもの。
ただ、ただ、沈んでいく。
空が揺らめく。希望に満ちた二人の顔も涙で滲んだよう。
けれど、そんな二人の姿もすぐに見えなくなる。
搔き混ぜていた槍も通り越して、私はただ沈んでいく。深く、遠く、永く。
初めに見えているものが分からなくなった。"視点"のはずなのに。
目を閉じた覚えはないから本当は見えているはずなのに、同じものばかりで分からない。
次に音がなくなった。もしかして寝っ転がってたから、何かで耳がふさがれているのだろうか?
お昼にしようとテーブルに置いたパンの匂いが分からない。
チョココロネだから、たぶん匂いはしているはずなんだけど。
独り言が出てこない。こうして考えているのに言葉にできない。
今私はどうなっているの?
あれほど感じていた重圧感を感じない。
だいぶ前からかき混ぜていた流れも感じなくなっている。
でも、これはただの情報で、私は今も自分の部屋にいるはず?
あれ? 私の部屋ってどんなんだっけ?
(ダメ、意思を強く持つの。私はまだ何もできていないじゃない。もう一度貴方に会いたい…友奈。話したいことがいっぱいあるの。聞きたいこともたくさん。だから…)
どれくらい時間が経ったのかも分からない。
周りはこの意識を薄くさせる泥のような海のようなものばかリ。
さっきまで感じてきた不安や孤独感が薄くなってきた気がする。
相変わらず見渡しても分からないし、聞こえているのかどうかも分からない。
口の動かし方は思い出せないままだし、匂いがしないのにも慣れてしまった。
まだ泥の中を落ちているのか分からないし、いろんなことを思い出すのがしんどい。
けれど、不安だけじゃなく、焦りも恐れも後悔さえもない。
ちょっと違うかな。なくなったわけじゃないけど、そういうものとして感じている。
ええっと、これは感じなくなったから?
そうなってくるとあたりを見まわしたり、いろんなことを考える余裕が出てくる。
と言っても、相変わらず泥の中だけど。
"視点"だけの私にあれほどの重圧をかけてくるなんて、もしかして、ホントに宇宙誕生の瞬間でも見ているのだろうか?
だとすればこの泥は、古典の授業か何かで出てきた混沌とか言うものだろうか?
そんなどうしようもないことばかりを考えてみる。
(ダメだ。ホントになんの手がかりも無さ過ぎる。もう、こうなったら時間でも数えてみよう。もうだいぶ経ったけど、まだ体感で2,3日くらいだろうし、すぐに終わるならその程度って思える)
暇をつぶすことはできるだろう。
…
……
………
…………
……………
………………
…………………
……………………
………………………
…………………………
……………………………
………………………………
…………………………………
……………………………………
………………………………………
…………………………………………
数えられる桁数がなくなった。
それでも、暗闇の中をただ落ち続ける。
どうしよう。何も考えることがない。
私もじっとしているのは苦手だけど、考えることすらないのはつらい。
いや、考えることはいっぱいあるけど、さっきから気を抜くと気が抜けると言うか、感覚が鈍い。
ただでさえ気が付くと自分がどんな形だったかも忘れそうになるのに、このままだと本当に意識を失いそう。
たぶん、10億くらいまでは数えていたと思うけど、結局は体感時間だから当てにならない。
それでも、落ち続けている。
ううん、本当は上っているのかもしれない。
止まっているのかもしれない。
横に流されているのかもしれない。
眠い。なんだかとても眠い。いや、眠いんだろうか? そもそも眠いってどんなんだったっけ?
ああ、あくびも出ないくらい眠い。
…………………………………………
………………………………………
……………………………………
…………………………………
………………………………
……………………………
…………………………
………………………
……………………
…………………
………………
……………
…………
………
……
…
ぞくり、と寒気を感じる。誰かに見られてる?
でも、これってただの幻のはずじゃ…
(誰? 誰なの)
あたり前だけど返事なんかない。
スマホから聞こえていた声なんかじゃない。間違いなくここにいる。
でもそんなことって…ここはただの記録なのに、それじゃまるでコンピュータゲームのキャラクターがプレーヤーを見ているみたいじゃない。
今のAIはそれほど便利じゃないはずだし…
気のせいかもしれない。でも、この視線に見られている限り私は嫌でも自分のことを認識する。
また不安が目を覚ます。私は本当に幻を見ているだけなの?
本当におぼれていたりしない?
(戻り方……って、どうしたら良いの? やだ、この視線はなんか怖い)
この時は、ただ怖かった視線だけど、あとで考えてみると、私を見つめる視線のおかげで私は意識を取り戻したのかもしれない。
でも、視線は私が探していた友奈のそれとは似ても似つかなかった。
(でも、これは友奈と同じくらい旧いころから知っている気がする。あなたは誰?)
当然。返事なんてあるわけがない。
(ちょっと、いるんでしょ。答えなよ)
気が付くと、口を動かしていた。
独り言が耳を打つ。
どこかで甘いにおいを感じる。
匂いのせいなのか、口を動かすたびに感じないはずの泥の味がする。
目を開けば私がここにいることで波紋が広がり泥の海を動かしているのが分かる。
手を動かせば波紋は大きくなり、足を動かせば波紋は広がる。
それでも、落ちていく。沈んでいく。上ではなく下に。
(私は…私は――)
終われない。まだ終われない。
(私は絶対に諦めない!)
ようやく、というか終にと言うか、私は自分がどこにいるのか分かった。
これは幻でも夢でも現実でもない。
これは、これは…
(渾沌…そうなんだ。やっぱりこれは私の私たちの記憶なんだ。そしてここは今もある。ここなら…本当に宇宙規模)
天沼矛で天地が創造されるよりも前の記憶。天の神、いえ、そのご先祖様になる神様たちが
私達を作り出した元の元。
生まれる前の宇宙。そしていつか帰る
これは、これなら、宇宙規模の力に近づけないだろうか?
そのままじゃ無理でも、宇宙だって元はこれを材料にしているんだし。
(ようやく、やっと、手がかりを見つけたよ)
――誰かが間違ってると言った気がした。――
けれど、また私はその声を無視する。もし、誰かにそんなものに人が触れるべきではないと言われても鼻で笑っていたんだと思う。
そして、自分がそうできることにも疑問を持たない。
友奈がピンチだと言う事実が、都合よく私の優先順位を書き換える。
あたり前をあたり前と思わず、異常を異常と感じないままに。