本年もよろしくお願いいたします。
2024年内に本編終われるかな、と思っていたんですけど、
2025年に入ってしまいました。
再び勇者は魔王の元に顕れます。
もう、良いんだよ。魔王。僕はもう1人じゃない。
だから、キミも分かってくれる人が必ずいるから。
そう、勇者はもう、1人ではなかったのです。
魔王はそのことに気づいていなかったのです。
だから、勇者がひとりぼっちになってはいけないと思い込んでいたのです。
勇者もそのことに気づいていなかったのです。
だから、魔王はひとりぼっちになってしまうのが怖いのだと思い込んでいたのです。
本当は魔王はひとりぼっちでなかったことなどほとんどなかったのに、
魔王は自分のせいで勇者がひとりぼっちになってしまったことが
信じたくなかったのです。
でも、2人ともそんなことを話すことはできませんでした。
なぜなら、2人は勇者と魔王なのだから。
「せんぱい、芽吹先輩」
「亜耶ちゃん……? 私達、夏凜を追って、また天の神と戦って……。」
芽吹の意識がゆっくりと浮上し、視界の焦点があってくる。
(ここは、ゴールドタワー、千景殿の中か。)
「目覚めたのですね。楠隊長。」
亜耶の後ろに芽吹達を監督していた女神官が立っている。
「天の神は……いえ、戦いはどうなりましたか。」
「勇者達と防人番外・松永沙耶は以前行方不明。
貴方達はこちらに突然呼び寄せられました。
しかし、防人の装備にそのようなものは無かった。」
そこまで言われて芽吹は気が付く。
沙耶はすべてを大赦に明かしたわけでは無かったのだ。
(未だに"天の神"と同一視される表向きの役割でしか彼女を見れていない?)
芽吹が見てきた女神官は他の大赦の神官と同じく、芽吹達防人はもちろんのこと、
勇者達に対しても人間的な感情を抑制したような対応と取っていた。
だが、今の芽吹は過去や平行世界において、
安芸先生と呼ばれて慕われていたことも知っている。
大赦の神官としての彼女ではなく、彼女自身のことを。
「貴方に伝える…いえ、知ってもらうべきことがあります。三ノ輪銀のことです。
そして、天の神と私達が呼んでいたものが何を考えていたのか。」
「…………続けてください。」
芽吹達に見えている安芸は凪のように静かで、三ノ輪銀の名前さえ、
何も感じていないように見える。
だが、仮面の下よりももっと深いところで、嵐は確かに残っていた。
後悔、責任、無力、言葉にすれば短いが、2年間忘れたことなどない。
「天の神は、三ノ輪銀を復活させて見せました。
そして自分に従うのなら返すとも、でも……。」
「あの子達はそれで良いと?」
「そんなはずがない。勇者がただ敵が強いからと言う理由だけで、
諦めないことは貴方も知っているでしょう。」
「そうですね。ですが、我々大赦は、いえ、人間が勇者と言う生贄なしに
今日まで生き残れなかった。」
「そんなもの、私は、私達は認めるわけにいかない。みんなで帰るんだ。」
言葉では言い合いのようになりながら、芽吹は希望があるとも感じていた。
(この人は、まだあの3人の先生だったころを棄ててはいない。
そして、きっと他の神官たちだって、神樹様が見せてくれた世界のことを覚えている。)
あの世界の記憶は持って帰れない。
それはそれなのに、どうやって覚えているのかも知らない。
だが、自分の知っている沙耶はそういう人間だ。
だから、こういう結果も驚きはない。
「安芸、もうよいのではありませんか。本来なら神婚を進めるべきだが、
我々もまた情報ではない勇者様達のことを知っている。ならば、もう。」
「……元老院はそれを認めると?」
それでも、女神官の態度は揺るがない。
さっきの言葉は聞き間違いだったのかと、芽吹は思ってしまうほど。
「それは、ちょっと違います。安芸先生。
元老院、そして神樹様の中の世界に行けなかった人達は
全員拘束させてもらいました。」
「沙耶!」
登場タイミングを図ったように沙耶が姿を見せる。
対消滅で消滅した肉体の修復は完了したということだろうか。
「松永さん、どういうことです。」
「ふっふーん、内輪もめは人間のお家芸ですからね。クーデーターというやつです。
対消滅で完全回復まで時間があったから、こっちも片をつけさせてもらいました。
案の定、天の神襲来で混乱していたから、あっけなくいけました。
アイツが全人類に神樹様の中の世界に行ったときの記憶まで接続させていたから、
第三種兵装で情報処理の負担を減らせば、
直接勇者に触れた神官さん達なら分かってくれると思っていました。
足りない制圧部隊の歩兵は神人兵器と那由多達平行世界の軍隊の力を借りてね。」
すごく殴りたくなるような自信ありげな顔で、
動けない間にやっていたことを沙耶が説明する。
「安芸先生、もう、貴方が何かを背負う必要はありません。
何故なら貴方がかつて言った通り、私達は未来を持っている。
これから、ここから始める。」
女神官の仮面は揺れない。
「それで、どうしようというのです。天の神、
いえ、天の神さえ滅ぼし簒奪を成し遂げたもう一人の貴方に抗う術が残っていると?
あれほどの科学技術を持ち、複数の宇宙につながる平行世界間国家でさえ、
届かなかった彼女に対峙するというのですか?」
いつの間にか室内に姿を見せた那由多やその上官も含めて、みんなが注目する。
「できます。何故ならアイツ自身が望んでいるから。
白鳥歌野と戦ったその時から、ずっと続く、
アイツ自身さえ見ようとしていない本当の気持ちがある。
だから、できないことなんて何一つない。
神樹様ご自身にだってできない彼の地の記憶を再び手にできるくらいに。」
沙耶が自信にみちた顔で言い切ると、クルリと一回転し、白い花びらが舞う。
その姿は防人の装備ではなく、勇者たちと同じ。
「最も慈悲深く寛大な神樹様の御名において、
この言葉はこの世に生きるすべて、そして、天の神の内にあるすべての世界の人々、
皆さんの終焉の時に聞こえていることでしょう。
尊敬すべき西暦の勇者達、
同じ時を生きる親愛なる友。
異なる理を生きる平行世界の人々。
私の言葉は特異点を通じて、すべての世界の貴方達の中にある。
そして、貴方達の目の前にも既に天の神は顕れていることでしょう。
今、私は神と言いました。それは比喩などではありません。
私達の前にある困難は唯一絶対の神。あらゆるすべての源であり、終焉でもあります。
私達を守ってくださっていた神樹様でさえ天の神の計画の一部でしかないのです。
それでも、私は、私達は戦うでしょう。
そうすることでしか、人として生きられないのだから。
過去で、今も、未来であっても、
私達はそこがどこであっても戦う。
私達の世界でなく、貴方達の世界であっても戦う。
宇宙の果てでも、天の世界でも、例えあの世であっても。
それでも、きっと、私達の心がバラバラでは届かない。
だから、力を貸してください。」
一度だけ、沙耶は言葉を止めて、刹那の間、思考する。
(ここまでは何度も繰り返してきている。でも、本当のこの先はやってもいいの? )
次の言葉には真実でないことを沙耶自身が分かっていた。
次などないことも、それでも、言わなければ今までと変わらない。
それでも、誰かに『勇者』だけに委ねることは終わりにしようと。
「絶対の存在にできなくて、私達にできることたった1つだけ残っています。
私がお願いしたいことは唯一つだけです。隣にいる人の手を取ってください。
片手では手を打てないように、唯一の存在は誰の手も取れない。
世界を超えても、無限を越えても、時間を越えても、彼の者は常に唯一絶対。
でも、私達は、人間は、命は、ひとりぼっちではありません。
だから、こそ、今、こそ、この時、こそが、私達みんなで生きるために。
だけど、もし、私はそんなことは絶対に信じないけど、
私達が勝てないとしても、どうか信じてください。
それは決して終わりではなく、また始めればよいのだと。
だから、私は絶対に諦めない。
誰かが諦めたら、みんなが諦めることと同じだから、
そして、諦めたら、本当に終わるのです。
もし、この言葉を聞いているみなさんにも通じたのなら、
何度でもお願いします。どうか手を、と。
その時こそ、私達は天の神の恐怖に怯えず、向き合い、
何年でも耐え、何十年でも戦い、何百年でも立ち向かって見せる。
例え最後過ぎても、例え誰の手も見えなくても、そこに貴方がいると信じて。
今、申し上げた何百年と言う言葉は比喩ではありません。
尊敬すべき西暦の勇者達、同じ時を生きる親愛なる友は、
三百年にわたり戦い続けてきました。
そして、何度も天の神に敗れました。
他ならない、天の神から分かたれた私はそのことを知っています。
しかし、それは無駄を意味しなかったのです。
結果だけを見れば敗北です。無駄な犠牲を出しただけではないかと思ってしまうでしょう。
ですが、彼女達が戦ったからこそ、その姿を見たからこそ、
人はもう一度立ち上がったのです。
その勇気を思い出したのです。
そして、その人々をご覧になったからこそ、
神樹様は三百年の間、この地を守り続けてくださいました。
今、再び、思い出してください。貴方達が何のために戦ってきたのか。
そして、本当の願いを叶えるために、今一度、私達に人として戦う力を。
今度はみんなで生きていくために。」
沙耶の言葉は虚空に消える。
だが、その先には何も見えない。
「松永さん、いったい誰に…。」
安芸の呟きは続く光に飲み込まれる。
「これは……千景砲の霊力が臨界値を越えている? いったいなぜ?」
神官達の驚きの声。
青い光が降り注ぐ。
どこからともない眼差しだけを残して。
赤い光が千景殿をより強く際立出せる。
芯から満ちるような暖かさだけを残して。
黒い光が天の光を翳らせる。
いくら弱くなっても決して消えずに。
白い光が背中を押す。
か細い道をを進めるように。
「アイツが、天の神が全部ぶちまけたからだよ。
調子に乗ったのか計画通りかは分からないけど、
外の世界にウイルスなんていない、お前たちを追い詰めるのは自分だってことを、
すべての世界で明かして、やっぱり人類は終わりだって告げたから。
基本的に
それなのに、真実を隠したり、神婚とか、
まあ、タタリはちょっと棚ぼた的に上手くいっただけみたいだけど、
試行錯誤の繰り返しでしかなかった。
でも、結局アイツの思う通りにはならなかった。
どこの世界でも結局結城さん達に負担をかけるしかない。
彼女達は永遠に自由になれない。」
残った大赦の神官たちは顔を見合わせ頷く。
「であれば、現人類、いえ、すべての時代と世界を越えた全身全霊で
天の神を迎撃しましょう。今度は我々の意思で。
楠隊長、状況は変わっていますが、やることは同じ。お願いできますか。」
「ええ、分かっているわ。防人隊全員出撃。今度こそ終わりにする。」
勇者と神。
二つの拳がぶつかる度に無数の星々が、その形を失い、また衝突のエネルギーで誕生していく。
まるで、巻き戻しのように同じではない星々が繰り返し、誕生と消滅を繰り返す。
本来であれば、地上は失われ、誰も見ることがないはずの光景。
だが、ここは天の世界。
地上にその力が伝わるまでには何万年もの時間がある。
「いいぞ、いいぞ、やっぱり友奈には才能がある。
力で己を見失わない。恐怖しない。永遠にボクと互角に戦える。」
「そんなことないよ。それはみんながいたから。みんなが大切だから。私は……。」
喜色満面と言った風に天の神の唇が歪む。
「そうだよ。だけど、それじゃ、友奈だけが永遠に苦しむ。
戦いが終わっても、友奈は引きずられる。
危険な冒険など子供にだけさせるべきではないはずなのに。
どれだけ繰り返しても、結局、それしかなかった。」
「私は……。それでも、私が決めたことだから。」
どちらも譲らない。
誰かは1人のために。誰かはみんなのために。
それは永遠の平行線。
どれほど、見つめても、近づいても、決して交わらない。
だから、外から誰かが干渉しない限り永遠に終わらない。
「友奈ちゃん! やらせないわ。」
東郷は意識を取り戻すと同時に見敵必中とばかりに発砲する。
「三ノ輪銀がいてもダメか。勇者相手に夢の国へご招待は効果的じゃないとは思っていたけど、
時間稼ぎにもならないなんてね。」
天の神に触れた端から銃弾は蒸発し、ビームもレーザーも周囲の質量が大きすぎてまっすぐ飛ぶことができない。
「そっちの都合ばかり知ったことじゃないって言うの。」
まるで鉄の壁のようになった風の大剣を、天の神は腕を突き出し、
今度は質量だけでなく速度も消滅させて瞬時に停止させる。
だが、風が大剣の装備を解除すると、そこには友奈も風も見当たらない。
「どこへ……おっと、これは。」
大剣の大きな動きに紛れて、天の神の全身に、
いつの間にか目に見えないくらい細くなったワイヤーが絡みついている。
「だけど、このワイヤーでもボクの全身は切れないよ。樹ちゃん。
それにこれだとこっちからもつながるんだよ。こんな風に。」
「わぅっ!?」
ビクッと、一回だけ反応すると樹は冷静さを取り戻して、ワイヤーを切り離す。
「樹、大丈夫。」
「う、うん。あのままだと危なかったかも。ワイヤーには影響なかったのに。」
ワイヤーには今も電流による火花がパチパチと踊り狂っている。
天の神は絡まった火花散らすワイヤーを解こうと全身をかきむしる。
「これはお餅? いや、似ているけどどっちかって言うと工作
よくこんなものをワイヤーに仕掛けられたね。無理に取ろうとすると面倒そうだから、自爆しよっと。」
「え…?」
樹の不思議そうな表情が満足だったのか、天の神はニヤリと口を歪めると、
自爆と言うより人体発火と言う方が近い現象を引き起こし、一瞬で灰となってしまう。
「倒せた?」
「わからないよ。」
「うーん、うーん、そこかな?」
「きゃっ、そのっち、急に槍を投げて……。」
「危ないじゃないか、友奈に当たったらどうするんだ。」
何もない高天原の一点から突然腕だけが突き出され、園子の投げ槍を受け止める。
「うん、ちゃんと投げ槍の使い方をあの子に聞いておいて正解だったよ。
でも、これってやっぱりそういうことなんだよね。……わっしー。ミノさん。」
「何、そのっち。」
「少しだけ、ここをお願いするね。」
「わかった。お前がそう言うなら、それが一番良いんだろう。」
「ありがとう。すぐに戻ってくるから。
ゆーゆ、フーミン先輩、樹ちゃん。ごめんなさい。
でも、これは"話せない"ことだから。」
顔を見合わせる3人に代表するように、風がため息をつく。
「なんか、勝手にわかり合っているみたいだけど、全部終わったら話しなさいよ。園子。」
「はい、行ってきます。」
言葉が終わると同時に園子の姿が一瞬で消える。
「え? 園子さん? どこへ行ったんですか? 園子さん。」
「大丈夫だよ。樹ちゃん。きっとそのちゃんはこの世界の仕組みが分かったから、
地上と行き来できるようになったんじゃないかな。そうでしょ。沙耶。」
友奈の視線の先にはしかめっ面で佇む天の神が棒立ちになっている。
「うん、まあ、友奈の言う通り。園子はボクによって禁止された空間跳躍でなく、
時間の方を移動する方法を取ったみたいだね。アルから聞いていたようには思えないけどな。
まあ、気づいたところで何も変わらないから、早く戻ってきて欲しいな。」
そう言いながら、天の神は、自身の武器である天沼矛を引き出す。
「友奈とは拳で語らいたいところだけど、全員なら天の神らしく、
こっちを使わせてもらうよ。
第2ラウンドは団体様ご招待戦だ。」
開口と共にリングベルのように、再び炎が高天原を燎原のように覆いつくす……はずだった。
炎が十戒の海のように二つに割れる。
「いい加減、おちおち寝てもいられないわね。」
「夏凜ちゃん!」
だが、友奈の声に呼ばれたはずの夏凜は見当違いの方向に向き直る。
「誰? ああ、ごめん、ちょっと今、目とか耳とか使えないから。
適当に返事させてもらうわね。”友奈”。」
戸惑うように全員が顔を見合わせる。天の神も含めて。
「は? 感覚が残ってないくせにどうやって動いているんだ?
それって、直観だけで動いてるのか。」
「そうよ、魂だけは十華が入れ直してくれたみたいだけど、
肉体とのリンクは切れたままだから、
むき出しの魂だけで来たのよ。と言うわけで勝手に動かせてもらうわ。」
「夏凜さん、そっちじゃないです。ああ、もう調整前に動くなんて。
これ、わたしの感覚を使ってください。」
「ありがと、十華、って、なによ、これ。」
急激に視界が回復する夏凜。
広がる高天原に驚く。
「夏凜ちゃん。聞こえるの?」
「友奈、ええ、何とかね。電話の音みたいな感じだけど。園子は?」
「入れ違いです。何か気づいたことがあるって。」
「そう、園子がそう言うならそう言うことなんでしょうね。で、そっちの人は?」
夏凜にとっては初めて見る顔。
「あ、アタシは三ノ輪銀。その端末の前の持ち主さ。えっと。」
「そう、貴方が。私は三好夏凜。よろしく、先輩。」
「ああ、そっか、そうなるのか? なんか違和感あるな。じゃ、よろしく夏凜。」
2人が握手するその姿をどこか淋しそうに東郷だけが見つめる。
――最も慈悲深く寛大な神樹様の御名において――
「お姉ちゃん、この声って。」
「ええ、樹も聞こえているのね。友奈。間違いない?」
「うん、沙耶ちゃんだよ。人間の方の。」
その声は高天原にさえ届いた。
そのことを心の中でほくそ笑む天の神。
(そうだよ。私。その方法しかボクを滅ぼすことはできない。
そして、それを以って友奈は解放されるのだから。)
「さあ、勇者達、ここまで待ったんだ。
園子や防人達が戻ってくるまでくらいは、存分に戦わせてくれよ。」
できるだけ、神の名に相応しく見えるように、天の神は鷹揚に構えを再開する。