あの子の夢を、もう一度   作:はすき

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第十二話

 新年から月日は流れて三月上旬、ここからクラシック級に向かうウマ娘達の前哨戦が始まってくる。クラシック路線第一弾皐月賞に向けた、トライアルレースの弥生賞とスプリングステークス。ティアラ路線第一弾桜花賞に向けた、チューリップ賞とフィリーズレビュー。ジュニア級上がりの期待の若手がぶつかってくる前哨戦だ。

 

 俺たちは二つの前哨戦レースから、弥生賞を選んだ。本番と同じ中山レース場で、距離も同じ2000m。同じ皐月賞の前哨レースになるスプリングステークスよりも狙いを定めて来るウマ娘が多い傾向もあるところも踏まえての選択だ。直前にホープフルステークス後に連絡先を交換していたアジアタメンテさんからもメッセージで連絡があり、簡単な応援メッセージと俺と同じくクラシック三冠路線を走ると連絡を受けていた。このレースには出走しないことから、恐らくもう一つのスプリングステークスで調整をするのだろう。控室にいながら、レースの時間までを過ごしていたのだが……

 

 

「──また雨じゃん。しかも大雨。ねえ、アンカー。数えてないんだけど、晴れてたレースってあったっけ」

 

「うーん、最初のメイクデビューレースくらい? でもあの時も曇り気味だったから……ちゃんとお日様がピッカピカしてたのは、無かった気がする!」

 

 

 絶賛今日のレースも大雨である。普通は大体晴れか曇り、馬場状態は良馬場メイン、悪くて稍重ぐらいが関の山だろう。アンカーのトレーナーをやっていた時だって、天候が雨になることはあったが馬場状態まではここまで酷くはなかったはずだ。だが、トレーニング中も気持ち雨が降っていることが多い気がする。普段はコースで走るトレーニングを中々しないから、天候なんて気にしてもいなかった。タイム測定の際も、天気が急にぐずついてきそうになる前に、数本だけのチェックで急いで測っていたくらいだ。

 

「じゃあ一応URAでも纏めている、競争ウマ娘レース結果でも見てみる? 各レースの結果とか纏めてるページがあったはず! ──うん、最初のレース以外は全部曇りか雨か雪だね! 馬場状態は今までで良馬場は一回もないよ!」

 

「いやいや、ありえないでしょう。だって流石に前のホープフルはあんだけの大雪だし不良馬場だったのは仕方ないけど、普通は95%ぐらいは良馬場か稍重馬場なんだよ? ──えっ、嘘だろ? メイクデビュー以外は全部重馬場以下じゃん。今度からレース前にはてるてる坊主とか出しておこう……」

 

 俺の走っているレースはメイクデビューレースを除くと全部重馬場以下だ。トレーナー試験時に目安として、良馬場の出現率が約85%、稍重馬場が約10%程だと覚えていた。そうすると、俺はデビューしてからずっと5%以下の珍しいものを引き続けているらしい。

 

 こんな珍しいものを引くくらいなら、もっと普段から抽選会で良い物を当てたいところだ。今のところ近くの商店街での抽選会イベントでもティッシュぐらいしか受け取った試しが無い。運があるのか、それとも微妙にツイてないのか悩みつつも、出走時間が近付いたためレース場に向かった。

 

 

 

 

 

 ──結果から言うと、後続に6バ身差をつけての快勝だった。パドックまでは目ぼしい強敵になりそうなウマ娘が何人かは確認できた。だがレースになると重馬場に慣れていないせいなのか、思ったよりも序盤から終盤にかけての伸びが弱かった。それでも俺をマークするために、何人かのウマ娘達が一番人気である俺を狙ってくる。だとしても今まで京都ジュニアステークスやホープフルステークスで圧力を掛けてきたアジアタメンテさんには遠く及ばない。

 

 いつもよりも少ないプレッシャー、前の先頭集団の逃げも伸びがない。自分以外の周りはみな、この不慣れな重馬場に苦戦している。ここまでお膳立てされていると、自分をマークするウマ娘達が多くてもするりと抜け出せる結果だった。第四コーナーの頭付近で先導していた逃げウマ娘達を悠々と抜き去り、最後の急坂も登り切ってのゴール。皐月賞に向けていいイメージは出来たが、結果として更に目立ってマークを増やす結果になっただろう。

 

 

「──凄かったね! 余裕でスパーっと駆け抜けちゃって一着だったよ! これなら皐月賞だってらくしょーだねっ!」

 

「あのさ……あくまでもこれは『弥生賞』なんだよ? 本番になったらもっとみんな凄くなる。それに……アジアタメンテさんだって出てきていないんだから」

 

 

 ウイニングライブも終えた帰り道。俺が傘をさしながら、同じ傘に入ってくるアンカーと二人で帰る。意気揚々と次のレースも楽勝だと告げるアンカーに対して釘を刺す。まだ本番の皐月賞は始まっていない。ここでの反省点を活かしてきっと皐月賞本番では更なる仕上がりを見せてくるだろう。そして雨の重馬場の中、軽々と走り抜けてしまったことで、より目指す仮想敵としてターゲットされやすくなったかも知れないと伝える。

 

 そして一番は、アジアタメンテさんがいないこと。ここまでまだ二回しか戦って無いが、あの出会った時のお気楽そうな雰囲気などから全く違う、策を練ったレース展開を仕掛けてくる。だからこそレース終盤まで足を溜めて、爆発させる追い込み走法が似合うのだろう。遠く離れた前方位置であってもプレッシャーを感じられる。大きく分けてこの二要素がこれからの皐月賞に向けて、重要なポイントになってくる。

 

 

「そっかあ……確かにまだまだ不安点は一杯あるけど、きっとアタシとルーラーちゃんなら大丈夫だよ!」

 

 

 根拠の無い発言であるが、それでも嬉しかった。雨も少し止み、虹が見えてきそうだ。夢のクラシック三冠戦線、皐月賞までにはまだ時間がある。これから始まる皐月賞、日本ダービー、菊花賞。トゥインクル・シリーズで数あるレースでも一度しかない貴重な三レース。そのレースのスタートが始まるまでにはまだ時間はある。更なる飛躍を目指して、俺とアンカーは走り続けるのだ。

 

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