「寝たら元に戻ってる……なんて夢物語は、流石になかったか。それにしても、『デカいな』色々と」
しばらく寝ることができ、ようやくスッキリした。目覚めたら今までのことはすっかり夢でした……なんて都合の良いことはないため、今もウマ娘の姿だ。部屋には鏡も併設されているため、ある程度確認が取れる。落ち着いたため、今の身体の状態を確認するところからスタートだ。
まず感じたのが、身長が高くなっていることだ。元々四捨五入して160に届くか届かないかギリギリの身長だったはずの俺の体は、背伸びをしないと部屋に備え付けの棚の上段部分には届かない。それが背伸びなしで余裕で取れていることを考えると、最低でも10センチ……いや15センチはデカくなっていると見越しておいていいだろう。そして洋服については、まあ当然の如くサイズが合わない。上着類は正直胸の部分で全く服が入らない。ズボン類は腰まで届かずお尻部分でストッパーだ。何を着ても完璧なへそ出しルックスになるのは・・・・・・非常にマズイ。一応救いだったのが、極寒時に使うロングコートであれば何とか身体を隠せそうなのと、靴のサイズが今まで使っていたサイズがそのまま使えそうなところだ。取りあえずロングコートを羽織りつつ足りないものを何とか買い揃えれないか思案する。一応外出する時に裸足やサンダル……なんてことは避けられそうで一安心だ。
「それにしても、やっぱり綺麗だよな。ウマ娘の顔。この色の毛色だと……葦毛なのかな? 銀色っぽいけどこうやって光に透かすと綺麗に輝くもんなんだなあ」
珍しく鏡を見て色々と見ていると興味が湧いてくる。自然と動くウマ耳や、アメジストのような目を見ていると引き込まれる魅力はあると思う。教官としてウマ娘達の顔は見てきているがこうやって自分がウマ娘になってみるとみんな特徴的というか、魅力あると感じる。色々と身体つきなどを確認していたところ、ノック音が聞こえてくる。
「──トレーナーさん? お体大丈夫ですか?」
この声には聞き覚えがある。トレセン学園の理事長秘書のたづなさんこと『駿川 たづな』さんの声だ。まさか体調不良で休んでいることに関して心配して来てくれたのだろうか。そうだとするなら頭が上がらない……だが今はそれよりも緊急事態だ。何せ中の住人がトレーナーからウマ娘への入れ替わりコース。普通であれば即警察コースだ。どう言い訳をするかどうか……
「あらっ……鍵が開いていますね。トレーナーさん? ちょっと入りますね?」
優しいたづなさんだからこそ、何か鍵が開いているのを心配したのか軽くノックをして入ってくる。当然こちらはロングコートの中は何も着れている訳ではない。当然入口は一つしかないわけで、遅かれ早かれたづなさんに出会うのは確実だった。
「──ええ……っと。トレーナー…………さんであってますよね?」
「はい……今はこんなのですけど。立派なトレーナーです。この免許証に描かれてる俺が、急に今こんな感じに」
「まあ・・・・・・それは一大事ですね・・・・・・取りあえず……色々と聞きたいこともありますので……少し、場所を変えましょうか」
困惑している俺とたづなさん。そりゃそうだろう。一方はトレーナーから急にウマ娘になった俺、もう一方は看病でトレーナーの部屋に向かったらコート一枚羽織りの謎のウマ娘を目撃したたづなさん。聞きたいことなどあれやこれやで山ほどあるだろう。
取りあえずは、たづなさんの問いかけに答えられているような答えていないような回答をし、たづなさんの先導に従って移動するのだった。
「──なるほど、それじゃあトレーナーさんは急にウマ娘になっちゃった感じなんですね」
「そう……なりますね。信じられないですけど、だって俺だって急に明日からウマ娘になってくださいって言われても当然受け付けがたいですし」
「でもかわいらしいウマ娘さんになっているので、良かったと思いますよ?」
「一応生徒たちのですけどジャージまでお借りしてお気遣いありがとうございます……」
「いえいえ……でも今一番大きなサイズでもちょっと丈とかが足りてませんもんね。今後留学生もくることを考えると、もう少し大きなサイズも作ることを考えないといけませんね」
ところ変わって理事長室。たづなさんの先導で、比較的人通りが少ない道を選び、ここまで辿り着いた。入口の鍵を締めているため、急に誰かが入ってくることもないだろう。つかの間の安息を得られたため、ようやく肩の荷が降りる。俺はたづなさんからトレセン学園のジャージをいただいたため着用する。ようやく裸にロングコート一枚のヤバいウマ娘から脱却だ。中に体操着とショートパンツ……は穿けなかったためブルマ着用の上にジャージだ。当然最初は女性ものしかなくて困惑した。だが着用出来るものが本当にこの程度しか候補がないこと、あっさりとショートパンツすらも穿くことが出来ないことも分かると、顔を真っ赤にしながら穿いた。そりゃそうだ。ほぼアラフォー近かった俺が、若くなってウマ娘になったとはいえ緊張するに決まっている。穿いた姿はまあウマ娘何だししっくり来ている気はする。まずは全く着るものがなかったことが解消されたこと関してはたづなさんにお礼を告げる。一応本来はここにトレセン学園の理事長もいるはずなのだが、今は別の会議で席を外しているようだ。俺はたづなさんに経緯を話しつつ、たづなさんも俺の話をまとめた簡単なメモも作っている。そして少し色々考えすぎではということでたづなさんに準備してもらった緑茶をいただく。うん、やはり緑茶は心を落ち着かせる。気遣いをして貰ったことに関してもたづなさんにお礼を伝えるのだった。
「ウマ娘に急になってしまったとはいえ、この後どうしましょうか? 流石にそう何日も教官業休むわけにもいかないですし」
「それについては私から理事長にもお伝えしておきます。トレセン学園の大事なトレーナーさんですし……これからも一緒にいられるように私たちもサポートします。後日連絡をしますので、その時まではごめんなさい。自室待機でお願いします」
「──その言葉だけでもありがたいです。これからどうしようか悩んで泣きそうでしたけど、少し……気が楽になりました」
これから自分はどうなるのか。正直全く関係のないウマ娘に変わったためこのまま退職させられることも脳裏ではよぎっていた。とりあえずは何かしらの仕事で一先ずは生活出来そう……
「なので……トレーナーさんの身体を、測らせて貰えませんか? これからもしトレセン学園に高身長だったりする留学生とか来た時の参考になりますから……」
「────はい?」
たづなさんの発言に目を丸くする。何を測るのだろうか……どこを測るかなんて分からない程、理解力が無い訳はない。緊張するし何よりも……恥ずかしい気持ちがふつふつと湧いている。トレセン学園の中ではウマ娘たちの成長度合いなどの観察のために定期的に身体測定が行われる……が嫌がる生徒も多い。年頃の女の子だし仕方ないとは感じていたが、いざ自分の番となると……やっぱり嫌だ。身長は良いが、それ以外は……色々とマズイ。たづなさんには悪いがここらで帰らせて貰おう。うん、そうだ。それがいい。
「いやあ……これから自室待機が必要ですし、速やかに退散した方がいいと思いましてね……?」
腰かけていたソファーから立ち上がろうとするも、たづなさんに肩から抑えられている。そして、何も言わずにこちらを見つめてくる。一応ウマ娘の能力がどのくらい凄いかは、トレーナーになる前の研修などでも十分に周知がされる。普通のヒトではまず勝負にならないとされているが、たづなさん一人に対して、ウマ娘になりたての俺が完全に押し負けている。数分頑張って立ち上がろうとするも……結果は変わらない。結局諦めて降参した俺は、そのままたづなさんの目を見て従いますというアピールを送る。そして、そのままニコニコしたたづなさんが俺の身体について色々と測定をした後、測定結果をメモした用紙を渡して、解散となった。一応の情けで、体重測定だけは、回避させて貰ったのだった。