あの子の夢を、もう一度   作:はすき

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第四話

「──アンカーゲート、君の名前がそう、呼ぶのか?」

 

「ええっ! そうですよ? あっ、理事長さん? この子が私の担当する子で良いんですか? 大きくて美人さんだあ……」

 

「うむッ! そこにいる彼女が、君の担当するウマ娘だ!」

 

 今でも信じられない。目の前にいるのが、10年も前に担当していたウマ娘が急に目の前に現れてくるなど誰が期待していただろうか。小さい体ながらもG1勝利を目指して、共に走ってきたパートナー。結果としては10戦0勝、メイクデビューや未勝利戦を勝たせることが出来ずに終わってしまった。ああ、俺がこんな身体じゃ無ければ抱きしめてねぎらいでも出来ただろうに。いや、いなくなった俺が急にフォローをし始めても嫌がるだけか。考え事をしている俺の周りをチョロチョロと動きながら彼女は話している。10年経ってもそういうところは変わらないらしい。

 

「そうだそうだっ! ねえねえ、あなたのお名前も教えてくれるかな?」

 

「えっ……ああ、俺の名前か? ええっと……」

 

 自分の名前はと聞かれて困惑する。今までの名前を言ったら絶対に動揺するに決まっている。かといって今の事情を話す訳にもいかない。そしてなおかつ、俺と理事長とたづなさんの三人で共有している問題を誰かに押し広げることはしたくはない。という訳でどう返答していいか分からない状態に関して、たづなさんが助け舟を出してくれた。

 

「そうだ、アンカーゲートさん。せっかくトレセン学園で生徒を持つんですから、まずは一度少し練習してみればいかかですか?」

 

「そうだね! 私もあなたの走りを見てみたい! そうと決まれば早くトレーニング場に行くよーッ!」

 

「ああ……分かったから、ちょっと引っ張るのはやめてくれー!」

 

 助け舟を出してくれた結果。名前の確認からはいったん注意がそれた。だからこそ一件落着かと言えば、そんなことは無く名前に興味を持ったか練習に興味を持ったに変わっただけで問答無用で俺の手を引っ張っていく。いやあ怖い、怖すぎる。急にグンっと引っ張られる感覚に、抵抗することが出来ないままトレーニング場へと向かうのだった。

 

 

「さーて、トレーニング場にとうちゃーく! あっ、あれっ速かったかな? 凄く辛そうな顔してる……」

 

「ああ……うん、大丈夫。ちょっとびっくりしただけだから。少しストレッチしたら軽くやってみようか」

 

 場所は変わってトレセン学園にある芝コース。一周が2000mあり、選抜レースなどを行うときにも利用が出来るし、後は日々の練習でも多く使う事が多い。当然、アンカーゲートが現役の頃にもよく使っていた場所だ。簡単にストレッチをしながら、感触を確かめる。よし、しっかりと足も踏み込めそうで問題なく走れそうだ。

 

「それじゃあいくよー? 位置について、よーい、スタートッ!」

 

「──このペースならまだまだ行けそう……」

 

 特にただどこまで走れるかを判断するための評価走だ。特段今の時点でタイムは必要ない。トレーナー教本にも載っている走り方を再現しつつ飛ばせるところまでやっていく。人間の時と違って風を切る音、自分の芝を踏みしめる音も聞こえる。これは堪らないだろう。ウマ娘になりたての俺でさえそう感じるのだ。普通のウマ娘には楽しくて仕方のないことだろう。理由は分からぬとはいえ、せっかくならば喜びは理解したい。そう決心すると、走るスピードをより一層早めるのだった。

 

 

「──うーん、1400mかぁ……短距離やマイル向きってことだね! 今日はストレッチして解散で! じゃっ、アタシ呼ばれているからまた明日ね!」

 

「あっ、はい……ありがとうございました」

 

 一通り走って、スタミナ切れになるまでを測定したところどうやら短距離やマイルに適性があるらしい。それよりも走って思ったのが、今走った距離よりも長く走ったかのように感じる。体感では1800m……いや、2000m以上走った気分だ。感覚と実際の疲れが違うことなんて、別に珍しいわけではないだろう。だが何故だろう、このモヤモヤが離れずじまいだ。ストレッチを済ませた後、俺は自室へと戻ることにする。

 

 

「──結局調べても分からずじまいか……何なんだ? あの違和感。後はたづなさんからも言われてたこれからの名前も考えないといけないし……今日はもう寝るか」

 

 部屋へと戻る前に図書室などで資料や自室にあるトレーニング概論などの教本を調べるも、今日の感じた違和感に関する答えは見当たらない。探せば探すだけ袋小路に突き進むような気もしてくる。一通り自分の部屋にある本も調べつくすも、結局見当たらないためこれからの課題にすることで、取りあえず就寝の準備をすることに決めたのだった。

 

「あっ、たづなさんからのメッセージだ。えーっと? 『自分のことに悩んだら両手を胸に当ててゆっくりと深呼吸するといい』、本当か? けど悩んでいることは事実だし、寝る時にでもやってみるか」

 

 部屋の電気を消す前にたづなさんからメッセージが急に届いた。中身としては、明日中に新しい証明書も作るためこれからの名前を決めといて欲しいということと、ちょっとしたアドバイスであった。正直参考になるのかどうかは分からないが、ないよりかは気持ちマシだろう。メッセージに書いてあったことを実際に実践しながら就寝するとする。結果は──めちゃくちゃよく眠れたのだった。翌朝、すっきりと起床した俺は頭も冴えている。なんというか走った時の違和感はともかくとして、名前に関して悩んでいたモヤが晴れた気がする。手早くいつも通り、ジャージに着替えた後は理事長室に向かうのだった。

 

 

「──今後変更することが出来ないので、良く考えて決めたということでこちらのお名前で大丈夫ですか?」

「同意ッ! これからの大事な名前なのだから、今伝えてくれた名前で手続きを進めて問題ないか?」

 

「はい、大丈夫です。たづなさんからのアドバイスのおかげで決められたので、この名前で行こうと思います」

 

 

 確認のためにたづなさんと理事長が確認してくる。だがそれには問題ないと答える。昨日まで名前の考えで四苦八苦していたが、今は問題ない。たづなさんからのアドバイスのおかげか、俺の中に名前のアイデアが急に湧いてきたからだ。他の候補も考えたがそれ以外にはもう考えられない。まさに『自分にぴったり』の名前案が出てきたから、たづなさんには感謝するしかない。

 

「了承ッ! それではもう一度名前を私たちに教えてくれたまえ!」

 

「分かりました、理事長。これからお世話になる『ルーラーノーツ』です。アンカーゲートと共にこれから頑張りますのでよろしくお願いします」

 

 名前も決まりこれから、彼女と共に新しい日々が少しずつゆっくりと始まっていく。さて何からやっていくか……

 

「はいっ、これからよろしくお願いします。ルーラーさん。あと、お部屋については今の部屋からアンカーゲートさんとの二人で生活できるように新しい部屋を準備してますので、これから二人でよろしくお願いしますね?」

 

「──えっ?」

 

 前言撤回。これから元担当との二人暮らしに、少し胃が痛くなるような予感がするのだった。

 

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