あの子の夢を、もう一度   作:はすき

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第五話

「──いや、俺とアンカーの二人とはいえ……デカすぎるだろ、この建物。俺の住んでた部屋よりも広くねえか?」

 

 トレセン学園に出来た新しい建物を前に、唖然とする。これはデカい。一応たづなさんからタッチで開けられるカードキーを受け取った辺りで察しはついていたのだが……部屋というよりは屋敷のようなものだろう。少なくとも今まで過ごしていた部屋に比べるともう全然違う。一応カードキーを受け取る前にたづなさんからの視線で理事長がちょっと怯えているような表情が見えたが、深くは触れずに退散したのだった。あの時のたづなさんには逆らわない方がいい。

 

「──リビングもあってミーティングルームに風呂場もキッチンも部屋もある……二人でやるにもまだまだ部屋も多いし、取りあえずは何かに使えるからそのままにしておくか。確かアンカーがくるのがたづなさんからの話だと明日って話だし、取りあえず荷物の整理……しておくか」

 

 恐らく理事長が気を使ってくれたのだろう。トレセン学園内に新しく建物を作る辺りまでは豪快な人だと感じる。一応トレセン学園内は広大な敷地にレース場まで完備しているため、正直なところもっと建物を建てようと思えばチームルームとしても何棟か建てることは容易に可能だろう。うん、きっとそうだ。今後準備される各チーム向けのチームハウスのプレスタート、予行演習としてのプレゼントとして割り切っておこう。さて、どこに何を置くかなどの算段をしながら荷ほどきをすると、一つの日記を手に取るのだった。

 

 

「──やっぱり、捨てられないよな。アンカーとの『交換日記』机に飾るってのは流石にアイツにもバレるだろうし、トレーナー用の教本と混ぜて棚に置いておけばばれないか。そして一番問題なのは……制服だよなあ。準備してもらったとはいえ……恥ずかしいよな」

 

 交換日記、これは俺とアンカーが二人で出会った時から続けていたものだ。今日は何を頑張った、食堂のこれが美味しかったなどの大したものでは無かったが、アンカーとの大事な思い出だ。最終的に彼女と別れる時に手渡されたものを今でも手放せずに残している。そんな大事なもののため、遠くに置いておく訳にもいかず、なおかつバレにくいであろう本棚に隠すことに決めたのだった。

 そして悩みの第二関門はトレセン学園の制服だ。これはトレセン学園の生徒にもなるし、当然準備されるのは分かってはいたのだが……これは恥ずかしい。上はまあ百歩譲っていい、着るだけだからまだ耐えきれる。だが問題は下だ、スカートなんて穿けるか。ひらひらしてるしスースーする。そして何よりもこの年で急にスカート穿いてはいこれから日中はこれ着て過ごしてくださいは罰ゲームだ。コスプレかって言いたいくらいだ。流石に制服をすぐに着る訳にはいかないため、顔が赤くなっているのを自覚しながら、制服を箱の中に押し込んだのだった。

 

「いやー! おっきいねここ! 玄関も冷蔵庫もお部屋も広いし大満足!」

 

「えっ、たづなさんからの話だと明日来るんじゃ?」

 

「ああ、それのこと? 楽しみになってすぐ来ちゃった! サプライズってやつだよ!」

 

 手早く準備をして明日アンカーが来るまで備えようとしていたが後ろのドアが思い切り開いた音で振り返る。そこにはアンカーゲートの姿がもうそこにはある。一体どうして、これは想定外。明日の予定で考えていた物事が一気に吹き飛んでしまった。本人はサプライズの登場らしいがこっちにとってはありがた迷惑のサプライズだ。

 

「ああっ、そうなのか。それじゃあ今日からよろしくな」

 

「うん! 今日からよろしくね! アタシはアンカーゲートって言うんだ。これからトレーナーとして頑張るからよろしくね?」

 

「ああ、よろしくお願いするよ。俺の名前は、ルーラーノーツっていうんだ。よろしくね」

 

「よろしくね、ルーラーちゃん! アタシのことはどんな風に呼んでも大丈夫だからねっ!!」

 

 よし、ファーストミッションの自己紹介は上手くいった。名前だけ話せればまずオッケーだろうと考えるも、アンカーは部屋の中をグルグル見回す。引っ越してきたネコじゃあるまいし、ナワバリというかマーキングかと言わんばかりに、まだほとんど空っぽの部屋を調査している。果たしてほとんど何も置いていない部屋に、どこまで興味があるのか。いや、しばらく見守っているとすぐ飽きて別の部屋に突撃した。そして、数分見回ると今度は見ていない部屋に突撃していっている。アンカーのやっていることは、本当に何だったんだろう……

 

「──ふう、ようやく整理終わった……でなんで俺がアンカーの荷物整理まで手伝ってるんだ?」

 

「あーありがと、ありがと! アタシいっぱい持ってきちゃったからさ、手伝ってくれて助かるんだ!」

 

「まあ、流石に段ボール箱の山に埋もれてるのを見て流石に手伝わない訳にはいかないだろ……ほとんどゴミみたいなものじゃないのか?」

 

「みんな大事なものだから残してるんだよ? アタシの思い出の品がたっぷりとあるんだー」

 

 結局自分の荷物を整理した後、アンカーの荷物整理を手伝っていた。俺の荷物が段ボール3つ分ぐらいに対して、アンカーの段ボールは20を超えている。そして開けるとゴミなのか骨董品なのか分からない物がもう沢山出てくる。粗大ゴミのようにも見えるものが全て並び終えて段ボールの海の中でアンカーと話すのだった。

 

「それで……どうするのさ。寝るところ。流石に片づけてからじゃ無いと寝られないだろ?」

 

「えっ、寝る場所あるでしょ? ほら、あそこの部屋に」

 

「いや、それ俺の部屋だから。ベットはそれぞれ別々だから」

 

「えーっ! いいじゃんベットなんだし、ケチんぼ」

 

「いや、ケチんぼって言われてもさあ……」

 

 視線の奥に見えたのが、俺の部屋だった。いや待て待て、部屋がそれぞれ分かれているのに何故一緒になろうとしたがる。小学生じゃあるまいし、一緒に寝られないと困るってのは流石に大人なんだから辞めて欲しいとアピールする。だが、決してアンカーは譲らないとばかりにじっと見つめてくる。昔からいつもそうだ。何か欲しいものや譲れないものがあった時は、じっと見つめてくる。そしていつも折れるのはこちら側だ。流石にそう何度も要求を飲ませてたまるものか。少しは手伝ったんだから、最後の片づけぐらいキチンとやってから寝るべきなのだ。そういう分別をしっかり付けるのとは別に、後はウマ娘同士であってもキチンと線引きをしっかりと…………

 

「──今日だけだから、早くおいで」

 

「ほんとほんと? ありがとー!!」

 

 ──結局、また彼女の目線攻撃に惨敗したのだった。

 

 

 

 

「ああっ、狭い……くっついてくるな……アンカーはもうぐっすりだし。良く寝れるなあ」

 

「すう……すう……すう……」

 

「でもまあ、良く寝てるし。良いことなのかな……結構な頻度で蹴られてるのが、痛いんだけどねえ」

 

 ついでに余談だが、アンカーゲートの寝相が悪く、くっつき魔かつ蹴り魔だったことが今晩の就寝で分かったのだった。痛みと眠気がありつつも、明日からは別々でと言いながら、アンカーは今日だけは今日だけはと迫る。

 そうして一日一日と一緒に寝る時間が伸びていった結果、寝不足気味な日々が続くことになるのはまだこの時点では分からないのであった。

 最終的に理事長に謝罪しつつ、シングルベットを二台撤去して大きいキングサイズのベットを導入することに。こうして俺とアンカーは最終的に俺が折れる形で、二人して寝ることになっていくのだった。

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