あの子の夢を、もう一度   作:はすき

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第九話

 夏場はとにかくスタミナトレーニングを主に行い、持久力の強化を行ってきた。自信をつけてきたことと、今回挑む京都レース場の予習もある程度出来たこともあり意気揚々と一路京都へ向かう。

 

 本来はレースの2-3日前までに到着していれば良いのだが、俺たちは事前のコースの研究……もとい京都の美味しいご飯を食べる名目で一か月間のミニ京都キャンプを行っている。レース場近辺には遠征ウマ娘とトレーナーが宿泊できるようなホテルやトレーニング施設が多数そろっている。トレセン学園からも遠征資金などが出るため、本人たちがトレセン学園の自室や食堂の料理などが恋しく無い限りは長期間の遠征でも可能ではある。大抵はそんなことが出来ないため、レース2-3日前に来るのが定番ではある。

 

 

「さーてっ、明日はいよいよ初めての重賞レースだね! アタシ出たこと無いから分からないけど!」

 

「そっか……ようやく来たんだよね。重賞レースまで、長かったようで短かったなあ」

 

 

 時間は流れてレース前日。11月前半に行われた黄菊賞も問題なく勝ち抜いたこともあり、いいイメージで明日の京都ジュニアステークスに向かえそうだ。そんな中、初めてアンカーが話した『初めての重賞レース』という言葉。未勝利とオープンウマ娘の一番の壁。重賞レース。これに出たくてみんなまずは未勝利レースを勝ち進むことを望むのだ、だが現実は誰もがオープンウマ娘に行けるほど優しくはない。事実俺とアンカーは未勝利からオープンへの壁を乗り越えられずに終了した。

 

 

「よしっ、午前中で今日の練習はおしまーい! 後はリフレッシュして、美味しいもの食べて、明日に備えよっか」

 

「そうだね、流石にホテルとトレーニング場の行き来ばかりだったからね。少し美味しいものを食べに行こうか」

 

 

 明日のレースに不安がありながらも午後は完全フリーで外出をすることに決めたのだった。お互いにトレーニング時のジャージから私服に着替えると、京都の街に繰り出すのだった。久しぶりの外出でお互いに少しはしゃぎっぱなしになるとは、まだ考えもしなかったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「あー美味しかった! 湯豆腐ってあんなにも美味しい物なんだね!」

 

「そうだね、でも……どうやって帰ろっか。流石に帰り道までウロウロ歩き回るのも大変だし、タクシーでも呼ぼうか」

 

「なんや迷子か、ほらどこ行くか教えてみ?」

 

 秋の京都は少し肌寒い、いくつかどこに行くかなどを考えていたが慣れていない土地、勢いと見た目だけでどんどん進んでいくアンカーのフォローをしていた結果、行きたかった和食料理店には行けたのだがすっかり迷ってしまった。

 

 何とか地図アプリなども使って元のホテルまで帰りたいところだが、一挙手一投足ですぐに地図の情報も変わっていくため中々に曲者だ。最終的に現在地を通知してタクシーを呼んだ方がいいかと考えていたところ、一人のウマ娘に声を掛けられる。栗毛のウマ娘だ。身長もかなり高い、ロングヘアのウマ娘。それでも俺よりかは少し小さいから170cmぐらいだろうか。キャップにサングラスをかけてすらっとした佇まいだ。

 

 

「あーここか、それならこっちの道行って右行きゃ問題ない……ああもうメンドイ。連れてくからついてきな?」

 

「優しい人に出会えて良かったね! 帰り道がすぐに探せるよ!」

 

「あのさ……帰り道はすぐ探すってものじゃないと思うんだ。すみません、急に案内して貰って。ありがとうございます」

 

 

 急に出会ったウマ娘さんのおかげで俺たちは行きにかかった時間の半分ぐらいで宿泊元のホテルに辿り着いた。感謝してもしきれない。わざわざ送って貰ったことへの感謝の意を告げると、ひらひらと手を振りながらウマ娘さんは質問するのだった。

 

「いやー分かんなくなるのも仕方ないし、いいからいいから。そういや道が分からないってことはアレか? キミら明日とかの京都ウマ娘ステークスとか見に来た感じかな?」

 

「違うんだよ、こっちにアタシの担当のルーラーノーツちゃんが明日初めての重賞レースなんだ!」

 

「──ふーん、初めての重賞レースかあ。そりゃあ、とってもおめでたいねえ。明日ウチも京都レース場に行く用事があるし、もし会えたら応援しようかな。そんじゃ、またどこかでー」

 

 

 俺とアンカーの目的地であるホテルを見て、どうやらそのウマ娘さんはレースの応援に来たのかと想像したようだ。無難に流そうかと思ったが、横のアンカーが全部喋った。もしこれが今後のレースを走るライバルとかだったらどうするんだ。こっちの情報全部丸出しは困るから流石に今晩強く伝えておこう。喋ってしまったので仕方なく明日レースに出るところを伝えると、そのウマ娘さんは俺たちを一瞥する。そしてその後、もしかしたら応援しに行くかも知れないから頑張ってとだけ告げて立ち去った。

 

 夜寝る前には必要以上に自分たちの情報を開けっ広げに話し過ぎてはいけないと、小一時間説教コースだ。流石に涙目でもうしないと伝えてきたのでほどほどで切り上げて後は二人でホテル内にある浴場にて、アンカーの髪と身体を洗って寝かしつける。

 さあ、明日は大事な重賞レースだ。気を引き締めて臨まなければ。

 

 

 

 

 前回の黄菊賞で慣れていることもあり、控え室からパドックアピールまでは問題なく完了したのだった。前回のメイクデビューレースから変わった点で言うと、タイツを穿くようになった。白か黒か迷ったが、アンカーが白がいいと強く推してくるので白タイツに決定した。何故穿いたのかについてだが、単純に寒かった。あとはふとももが太く見え過ぎないようにという魂胆だったが……パドックでは白タイツもアリ派と生脚を出せ派で少し争っている声が聞こえた……ような気がする。

 

 パドックアピールを終え、地下道からレース場に向かう途中。思わぬ人物に出会うのだった。栗毛のウマ娘、あの時帰り道を案内してくれたウマ娘さんが、どうしてこんなところにいるのだろうか。

 

 

「やっほー、元気にしてる?」

 

「──元気にって……昨日接触してきたのは何かの偵察だったんですか?」

 

「いやいや、それは全く関係なーし。練習すっぽかして散策してたら、丁度よくおのぼりさんみたいな二人組がいただけだから」

 

 

 栗毛のウマ娘は昨日と同じようにひらひらと手を動かしながら、いかにも軽そうに答える。まるで他人からの評価など関係ないように。特に評価なども気にしないような素振りで。そして、俺のことを見つめこう告げたのだった。

 

 

「ウチの名前はアジアタメンテ。前回の黄菊賞、いい走りだったね。いい走りをしてくれる子がいるんだから、重賞レースをちょっと早く走り始めたウチも全力で楽しまないとね? ルーラーノーツちゃん?」

 

「はい、よろしくお願いします。アジアタメンテさん。まずはお互い、全力でいきましょう」

 

 

 そうして昨日あったウマ娘……アジアタメンテさんも含めた京都ジュニアステークスが始まるのだった。

 レースは合計参加人数16人、俺は3枠5番で比較的内側の方だがアジアタメンテさんは大外の8枠16番だ。単純に考えれば俺の方が有利と考えたいが、実際はそこまで甘くないだろう。重賞レースになり周りのレベルも上がってきている。ゲートからスムーズに飛び出した俺は、逃げで進む二人の後ろに構成されている先頭から離れた二番手軍団を構成していた。だがこの集団にはアジアタメンテさんはいない。恐らくこの二番手グループにいないとなると、恐らく戦法は差しか追い込みだろう。後ろから感じる嫌な気配も十二分に受けつつ、向こう正面までレースが何も問題なく進んでいることが、何か不安を感じるくらいだった。

 

 

 向こう正面に入り、第三コーナーに入っていく。京都レース場の上り坂と下り坂。同じ京都レース場の外回りコースほどではないが、内回りコースであってもかなり上り坂になっている。第三コーナーを回れば登った分だけ一気に第四コーナーにかけて下る。京都レース場の一番の難所であり、一番の腕の見せ所。俺がアンカーを教えているときは勢いに乗り過ぎず、落ち着いて登って落ち着いて下った所からが勝負というのがトレンドだったような気がする。

 

 今は下りの勢いを使った最終直線に向かった加速をしていくのが、トレンドになっている。トレンドになっていたとしても出来るかどうかはトレーナーの指導方法と担当ウマ娘の適性になるため、絶対的な正解とは言えないところが悩ましいことだ。しかも俺も含めたジュニア級ウマ娘に、G1ウマ娘達の戦法など当然出来る訳がないため安定策を取るだろう。

 

 だからこそ、未完成ながらも俺はこの勝負所に臆せずに飛び込んでいく。もし第四コーナーで引いたら、安定して抜け出せるだろう。だが、安定するだけであって勝てる保証はどこにもない。幸いまだジュニア級だ。昨日出会ったアジアタメンテさんも含めてお互いに実力などほぼ変わらない。変わらないのであれば、これからのための可能性を試したい。スタミナ練習などを重ねていたおかげでコーナーも難なく回ることが出来た。前の二人の逃げウマ娘を二馬身ほど開いていた距離を半馬身以内に詰め込んだ。後は最終直線のスタミナ勝負。後ろで見ていたからこそ分かるが、上り坂付近から少しずつ垂れてきているのも分かっている。最後の一仕上げで前の二人をちぎるだけだ。そのはずだが、俺よりも速い足が迫ってきている。大外を回ってるからそのウマ娘は横目に映ってる……アジアタメンテさんだ。

 

 

「──さあ、勝負といこうか!」

 

 

 そんな様にも聞こえた気がした。恐らく俺よりも上り坂と下り坂への対応の完成度が高い。一般的なジュニア級のウマ娘の回答の、一回りも二回りも上の走りで回答している。プレッシャーを感じていた距離感から考えると、俺のスパートを掛ける位置よりもより前の位置でスパートを始めている。そうでなければスパートを掛けているウマ娘に追いつけないはずなのだ。早い位置からスパートしているということは、結果としてラストも使える末脚が残っていることに繋がる。これからの勝負は前の垂れたウマ娘ではない。後ろから迫る差しウマ娘でもない。もうすぐ俺の間近に迫っているアジアタメンテさんだ。

 

 昨日会ったばかりだが、絶対に、いや簡単に負ける訳にはいかない。強く決心しながら、体力気力の残りをふり絞るように入る。最終直線で負けじとアジアタメンテさんもついてくる。二人であっさりと前を進んでいた逃げウマ娘を追い抜くと、そのまま一着でゴール板まで駆け抜けた。大外を回っていたこともあるからか、リードはじりじりと詰められながらも、なんとか一馬身のリードを保ちつつ走り切ったのだった。

 

 

「──勝った。重賞レースに勝ったんだ……」

 

「あー負けた負けた。けど、走って、戦って、競って、それでも勝って、キミはどうだい?」

 

「いや、どうだいって言われても……やっぱり勝って楽しかったし、うれしかった」

 

「そっか、なら良かったじゃん。せっかく走るんだもの、少しくらいは楽しくいかないとね」

 

 レースを終えて、一人のウマ娘として、ようやく大きな一歩を踏み出せた気がする。少し感慨深い思いを抱いていると、二着となったアジアタメンテさんが話しかけてくる。まだ上がり気味な俺に比べて向こうは普通に話せるくらいもう息が整っている。勝負所で攻めた結果で何とかもぎ取った勝利だ。無難に小さくまとめていたら、前を走っていた逃げウマ娘達と一緒にあっさりと差し切られていただろう。

 

 そんな彼女から質問のようなことを投げかけられる。回答は……ウマ娘としてレースに勝って嬉しいし楽しいと言った簡単なことしか伝えられなかった。でもアジアタメンテさんは、俺の回答を聞いて何か納得したらしい。そしてレース後のウイニングライブのために各ウマ娘がレース場から戻る一瞬のすれ違いざまに、こう告げられたのだった。

 

 

「──ウチ、キミの今日の走りについて、『ホープフルステークス』でリベンジするから」

 

 

 昨日会ったばかりだが、実力はこのレースの中でも抜きんでていた。もちろんホープフルステークスに出て来るライバルとしても想定できると、身をもって実感した。だからこそ、アジアタメンテさんとすれ違う時に俺もこのように告げたのだった。

 

 

「──ええ、もちろんです。俺より先でのゴールには、決して行かせませんから」

 

 ホープフルステークスまで後一か月。俺の走りがアジアタメンテさんよりも早いことを、もう一度証明するのだ。

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