もしもマンハッタンカフェが愛が重くて女優でポンコツだったなら 作:明石しじま
気づけば9000字弱まで長くなっちゃった
ウマ娘という生き物は年中行事をしっかりと楽しむ者が多い。
春になれば花見をするし、夏になれば海で泳ぐ。
秋になれば聖蹄祭で盛り上がり、冬になれば雪をぶつけ合う。
彼女たちは何も本能に基づいた食べることや走り争うことだけを生きがいにしているわけではない。
人より競争心が強く、恵まれた心肺機能と脚力を兼ね備えてはいるが、我々と同じように景色の変化を慈しみ、巡り廻る四季折々ならではの遊びを楽しむ感性を持つ彼女たちにとっては捨てがたい楽しみなのだ。
最も、ウマ娘の身体能力に年中行事を独自にかけあわせた結果、巨大な札を取り合うかるたや自力で山を駆け上がる流鏑馬など独自の進化を遂げてしまったものも幾つかあるが。
時は10/31。
ここトレセン学園では、聖蹄祭と並ぶ秋の一大行事であるハロウィンパーティーが開かれようとしていた。
「ブルボン。今日は大きなトラブルも無くパーティーまでいけそうやな」
「ええ。当初は色々ありましたが、私も周りを頼ることを学習しました。お陰で恙なくイベントを乗り越えられそうです」
このミホノブルボン。当初は極力自分のタスクを頼らずにこなそうとする、まるでシンボリルドルフの様な社畜精神強い責任感に囚われていた。
だがその精神性を看破したスーパークリークやお節介が染みついたタマモクロス、そんな彼女のことを知りつつも手を差し伸べたかったライスシャワー達の協力もあり、今ではより柔軟なリーダーとして成長を遂げることが出来ていた。
「会場の設営も問題なしです~」
二人の後ろから突然現れたスーパークリークがタマモクロスを抱き上げながら報告をする。
一見適当に巻かれたようで、ほどけないよう綿密に計算された包帯が彼女の恵まれた肢体を包み、ギリギリで服としての機能をこなしている。
当の本人はそこまで気にしていないが、同性の生徒たちですらその大胆な姿の前には赤面しながら顔を背けるしかない。
「おいコラいきなり何すんねんクリーク!」
「ありがとうございます。クリークさん。それでは我々実行委員会の仕事は一区切りですね」
「ええ。ブルボンちゃんも、タマちゃんも、本当にお疲れ様でした♪」
「いや聞いとんのか!? おい何でブルボンもスルーしてんねん、何か言ってくれや! ああもう、ええからはよ下ろさんかい!」
その後もタマモクロスはギャンギャンと騒ぎどうにか手から離れようとするもこうなったスーパークリークから離れるのは至難の業。
結局暫く頬ずりしたりゆりかごの様に揺らしたりと好き勝手されてからやっと解放されたのであった。スーパークリークは妙にツヤツヤしていた。
「ああ~エラい目にあったわ……。ふっふっふ、確かに準備という意味では終わりやな。だけどウチらには最後にもう一仕事あること、忘れてないやろな?」
疲れた顔をしたかと思えば一転、悪だくみを思いついた小学生の様に不敵に笑うタマモクロスを見て、二人も思い出したかのように顔を見合わせた。
「ああ~そうでした、
「……この後のスケジュールを一新。スキャンの結果プランに影響は無いと判断。タスクを一件解凍しました」(忘れていた)
「っよし! じゃあ今のうちに最後のうちらの大一番、始めるとしよか!」
「ええ」「はい!」
そして3人は意気揚々と道具を回収しに一回寮へ戻っていった。
ここはトレーナー寮の一画。とあるトレーナーはハロウィンに浮かれる暇も無く、次のレースに備えて黙々とトレーニング案を練っていた。
この時期は秋天や菊花賞、秋華賞だけでなく、G2では京都大賞典やアルゼンチン共和国杯など、目玉のレースが目白押しとなりそのまま冬までもつれこむ。
いくらあっても時間が足りないが、自分の担当に名誉を与えたい。次こそステージのセンターに立たせてやりたい。
そんな思いから大量の仕事を苦にもせずにこなしていると、突然電気がフッと消えた。
照明の調子が悪いのだろうか、と思っていると後ろの扉からノックの音が鳴り響き、扉が勢いよく開いた。
とあるトレーナーは驚いて振り返る。彼は扉に鍵をかけていなかったことを思い出す。
不審者を警戒していると、部屋の電気がついた。
そこには一体のお化けと二体のミイラ。そして声を合わせてこう言った。
「うまくいったな! 調子は上々やで!」
「そうですね~。タマちゃんもブルボンちゃんも、堂々としたお化けっぷりでしたよ。えらいえらい♪」
「ふっふっふ。昔からチビ連れて、色んな家廻っておねだりしてきたんや、腕には自信あるで!」
作戦が上手くいき上機嫌な3人。その手元には袋が握られており、中にはトレーナー達から獲得した戦利品であるお菓子が入っている。
特にタマモクロスは、かつて後輩たちにお菓子を配りに歩いてみたら当初よりも数が増えていた、なんて伝説もあり、この作戦にはピッタリな人材だった。
「……にしても、先輩たちも面白い伝統残してくれはったわ」
「ええ、トレーナー寮に突撃してお菓子を貰いに行く。単純明快なタスクですが、このハロウィンというお祭りに即した伝統と判断します」
このイベントは、元々昔のかつての先輩が寮合同ハロウィンパーティーを準備していた時から始まったと語り継がれている。
その年のパーティーは当日予想よりも盛況であり、お菓子が足りなくなるという誤算が生じたのだ。どうしようか迷っていた時に実行委員の一人が閃いた案こそ、自分たちの仮装を使って伝統にのっとり、トレーナー達からお菓子を貰っちゃおう、というものだった。
トレーナーも普段長時間過ごしている仕事場なので、普段からお菓子を常備している者は多い。
そこを突いた作戦だったが、トレーナー達から見てもハロウィンの生徒たちと楽しめるいい機会だとして意外と好意的に受け止められて今日まで続いている。
そして時代を経る度に、先輩たちが様々な秘密道具も残してくれた。
トレーナー寮の部屋の電気を遠隔で消す機械、部屋のスピーカーに指向性を向けて声を伝えるマイクや低音ボイスチェンジャー。
これらはかつて電気工学に優れた才を持ったウマ娘が開発したという道具で、ハロウィン以外に使わない、悪用しない等の条件で特別に使用が認められた道具たちだった。
「これらを使いこなせば、一気にお化け屋敷顔負けの状況を作り出せるもんなー、ホンマすごいわ」
「ええ。この調子で回っていくとしましょう」
「了解。……次は私が裏方に回ることを提案します。その機械をこちらに貸与していただけますか?」
「ブルボンは触ったらあかんよ。ブルボンが触ったら壊れてはいチャンチャン、なんて安直なオチはウチ認めへんからな? ちょい! 触ろうとするなや! 聞いとんのか!?」
♦♦
それから三人は順調にトレーナー室を訪問し、お菓子を集めることができた。手元の袋も膨らみを増し、成果としては充分だろうと判断できる。
「……ふぅ! 割と数としてはこなせたんちゃうか?」
「ええ。回収した袋の中の質量を判断するに、ノルマは達成と判断しても妥当でしょう」
「そしたら、これで終わりにしてパーティ会場に戻りますか~?」
「……いや! 最後に一か所だけ挑みたいところがあるねん」
「え? どこですか?」
「カフェのトレーナーのところや。何せ心霊の噂に事欠かないカフェやで。きっとトレーナーもそういう現象には慣れてるんとちゃうかと思うねん」
スーパークリークの意見に対し、タマモクロスが勝負心をたぎらせた目で提案をした。
どうせここまでしたのだ。最後に最も難易度が高いであろう相手を怖がらせてから戻りたいという思いがタマモクロスに湧いたのだった。
「だから、最後に純粋に試してみたいんや! ウチらの本気で、あのトレーナーをビビらすことが出来るのか!? 検証してみいひん!?」
「まぁ! ……うふふ、そうですね。どうせなら、もう少し楽しんでみましょうか」
「……了解。追加ミッションを受諾。ミッション、開始します」
そんな彼女の提案に内なる闘争本能が刺激されたか、残る二人も賛同し、気持ちを新たに二階へと歩を進めた。
「トレーナーさん……どうでしょうか」
私ことマンハッタンカフェは、トレーナーさんの部屋にて、用意していた自分の仮装を見せていた。
ライブの練習で魅せ方は多少は学んできている。それを活かして私の姿を少しでも映えるように振る舞う。
ハロウィンパーティーの参加者は皆何かしらの仮装をしなければならない。
そして私は吸血鬼の仮装を選んだ。
吸血鬼というのはハロウィンの仮装としては定番も定番。誰しもがまず思い付く王道だろう。
だがあえてそれを選んだ。種類が多い分格好の研究もしやすいし、王道には王道なりの奥深さと良さがあるからだ。
それを私なりにうまく落とし込めるよう頑張った。我ながら見事な仮装なのではないか。
礼装に近い服をベースにしたかったので本当は勝負服に縫い付けたかったが、流石に出来なかった。
なので勝負服に造形が近い、影に溶けていく様な真っ黒な私服を選んだ。
それをベースにして、ゴシック調のメイクや長い赤マント、また要所要所にカボチャやお化けの小物をあしらっている。
自分で言うのもあれだが結構苦労した。各パーツ自体は通販で買ったり、コスプレ用の商品を多く扱う店まで出向いて揃えたがそれを縫い付けるところは自分でやらざるを得なかったのだ。
尤も、物事に取り組む際、ある一定ラインより上のレベルに上げたければそれはもう半分自己満足の領域に入るものだ。
例えばマントを留めるのも安全ピンを使えば簡単に出来るし、それも面倒ならもう少しお金を出して服まで一式買ってしまえばいい。
実際それですましてる生徒も多いし、充分映える仮装は出来るだろう。
それでも私は細部までこだわりたかった。元々の気質が凝り性というのもあるが、ただ楽しむ以上の報酬を期待していたから。
「良い! 可愛い! 完成度が高い、素晴らしい吸血鬼っぷりだ!」
「ふふ……ありがとうございます」
トレーナーさんが大袈裟に拍手をして、褒めちぎってくれた。
ああ、報酬、頂きました……。
今までの頑張りが報われたような気がしてくる。こうして素直に褒めてくれると頑張った甲斐があったというものだ。
あとさりげなく可愛いって……えへへ。可愛さを押し出したつもりは無かったんだけど、悪い気はしないや。
「カフェも案外好きなんだな、こういうの」
「ええまぁ……学園に入る前はする機会もありませんでしたが……こうしてはまり込むことに意外と抵抗は無いですね……」
まぁ、はまり込むといっても劇に出るわけでも無いが。
こうして格好だけでも異世界の住民になってみるというのは悪くないものだ。
「勝負服もそうだがやっぱカフェは襟付きとかの礼装が似合うな。男装とかも似合うんじゃないか?」
「あ……あの……褒めてくれるのはとてもありがたいのですが……あまり注視されると恥ずかしいというか……」
「はは、カフェが見てほしいって連絡くれたんじゃないか」
「ほら、折角だから写真も撮ろう」
「……吸血鬼らしさを出すなら写真に映らないのが正解ではないでしょうか……?」
「そ、そこまでリアリティを求めるのか……?」
「ふふ……冗談です。撮りましょう。折角の機会です」
窓から夜を見上げる私。マントをたなびかせた私。
トレーナーさんが専門のカメラマンの様に私に姿勢を指示しては、写真に収める。
中でもトレーナーさんが気に入った一枚は、普段の私のように、傍らにマグカップを置いてサイフォンを右手に構えた写真だった。
「ああ、この写真いいな! あえてコーヒーを飲んでるのがカフェらしさがあって面白い」
「ふふ……吸血鬼の苦手なものだって伝承によって変わります……。コーヒーが好きな吸血鬼だっていると思いますよ……?」
「ははは、確かにな。だけどやっぱり、吸血鬼だったら赤ワインとかの方がイメージに合うな。尤も、カフェは飲めないが……」
「…………いえ、吸血鬼であれば、もっと適したものがあります……」
そう言って、私はトレーナーさんの腕を両手で掴みかぱっと口を開いた。
そのまま見上げると驚いた顔のトレーナーさんが映っている。
きっと彼から見たら、私のつけ牙が照明に照らされていることだろう。
「……ほら、こうやって……あなたの……血を……なんて……」
しまった。ついテンションが上がってしまった。
みるみるうちに顔に熱が帯びていく。まるでレース後のように熱い。しかも途中で恥ずかしくなって声も小さくなっちゃったし。
ああ、引かれちゃったらどうしよう! ちゃんと最後までやりきれば良かった!
いやもう、こうなったら逆に聞こえなかった方が有耶無耶に出来てまだマシかもしれない。
「はっはっは! なりきってるなカフェ! 俺の血なんで飲んでも美味くは無いだろうが、もし本当にお前が吸血鬼になったらいくらでも飲ませてやるよ!」
「な……! なんでこういう時だけ耳敏いんですかあなたは……!」
く、無念……。バッチリ聞こえてたみたいだ。
あ、でもそうなったら飲ませてくれるんだ……良いこと聞いちゃった。
「ああ、楽しかった。だがカフェ、ここにいるのもいいが流石にパーティー会場に移動した方がいいんじゃないか?」
「……そうですね。名残惜しいですが、そろそろお暇するとしま」
「なっ!?」「!?」
会場に向かおうとしたその時、突然切れるような音がしたかと思うと部屋が暗転して闇に包まれた。
よく分からないうちに扉が重く鳴り響く。そして部屋のスピーカーから謎のうめき声も聞こえてくる。
ドンドン! ドンドン!!
「うううおおおぉぉぉおおあああああ!!!」
「タスけてぇぇぇぇ……アケロオオオオオ!!」
──な、何これ!?
唸り声や叫び声、この世の者では無いような声が響きわたる。
声にあっけにとられていると、何やら足元が冷えてきた。
視界が悪いがよくよく目をこらしてみると何やら霧のようなものが部屋に充満していた。
匂いからして毒性は無さそうだが、換気のために窓を開けた。
一瞬ここから外に出られるかとも思ったがここは二階。私はともかく、トレーナーさんは怪我をしてしまうかもしれない。飛び降りるのは最終手段だろう。
──もしかして、今まで遊び半分で幽霊が見えるとか騙ったりしたから、バチがあたったのかな……
思えばずっと、霊感があると言ったりしていた。もしかして言霊の力とかが働いて、霊感を持ってしまったのだろうか?
それともこんな私に対して怒っている? 罰を与えるために、"よくないもの"を引き込んでしまった?
──ど、どうしよう……私のせいだったら。私のせいでトレーナーさんまで巻き込んじゃったとしたら……
ドンドンドンドン!! バンバンバンバンバン!!!
「アアアアアア!!! ウガアアアアアア!!!!」
「アケロ!! アケロオオオオ!!!!」
そんなことを考えている間にも、扉を叩く音がどんどんと勢いを増し、けたたましく鳴り響く。
トレーナーさんは扉をじっと見つめながら何やら思案しているのか、その場から動こうとしない。
ああ、足が震える。マントでくるまってみても寒気がすごい。
目の前を直視したくない。でも目をつぶっていても聴覚に訴えている音達が現実を突きつけている。
あの扉はあの世の物からも守り続けてくれるのだろうか。このまま籠っていていいのだろうか。
私は、覚悟を決めた。
「ト、トレーナーさん。大丈夫です……貴方は、ここにいてください……」
なけなしの勇気を振り絞って扉に足をむけ、トレーナーに声をかけた。
私のせいで呼び寄せてしまったならもう私は仕方ない。だけど、トレーナーさんまでは巻き込むわけにはいかない。
大好きなこの人だけは、絶対に助けなければいけない。
大丈夫だ。扉を開けて、彼らに謝って。最悪、私がい、生贄になれば……。
……ダメだ。泣くな。泣くな。トレーナーさんに、余計な心配をかけるな。
「わ、私が一緒にいるので、あ、安心してください……ト、トレーナーさんを……ま、守ります……」
自分で言いながら何を言っているのだろうと思う。私が居なければ、トレーナーさんをこんな目に遭わせなくて済んだかもしれないのに。
暗くてよかった。涙ぐんでいることはバレてなさそうだ。何とか声だけは涙声にならないよう、今まで培ってきたポーカーフェイスを全力でフル活用する。
一歩、一歩。
……ああ、でも、やっぱり、土下座とかで許してくれないだろうか。
すると、私の左手から、ふっと何かに包まれた感触を覚えた。
掌から、とても温かいものが感じられる……。
「え、……トレーナーさん?」
振り返ると、トレーナーさんが、私の手を握って引き留めていた。
突然のことに固まっている私にかまわず、ドアの前の存在に聞こえないようだろうか。小声でこちらに語りかけてきた。
「大丈夫。行かなくていいよ。彼らはハロウィンに便乗してやって来ただけさ。このままここでじっとしてればいつか去る」
そう言って私の緊張を解きほぐすように、ゆっくり、ゆっくりと彼女の手を温める。
「カフェ。俺は嬉しいよ。まだ不慣れな俺を見限りもせずに、今もこうして助けようとさえしてくれる。改めて言うのも気恥ずかしいが、ありがとう。お前を担当できて、本当に良かった」
そんな彼の言葉を聞いている内に、やがて声が遠ざかっていった。
声がしなくなると同時に部屋の電気も元に戻り、眩しい光が目に刺さる。
「ほら、カフェ。居なくなったみたいだ。カフェが傍に居てくれたお陰だよ……ってカフェ!?」
「……あ、いぇ……その……」
もう限界だった。
"よくないもの"が去っていった安心感。不意打ちの感謝の言葉。
恐怖心やら嬉しさやら恥ずかしさやらで私の情緒はもうグチャグチャだ。
人前で泣くことなんてめっきり無かったというのに。
「と、とりあえずこれで涙を拭くんだ。もう少しして落ち着いたら、今度こそ会場に……ってカフェ?」
私は彼の言葉を無視して、近くから椅子を持ってきた。そのままいそいそと横に置く。
そこによいしょと座ると、もう一度彼の右手を固く握りしめた。彼が握ってくれたよりも強く握りしめた。
少し気が済んだ私は、ゆっくりと私の細い指を動かして、彼のたくましい指をつたう様に、ゆっくりとなぞらせる。
指先は人体で最も神経が密だという。少し動かす度に、それを裏付けるかのように感触が私に伝わってきて心地良い。
そのまま小指から、彼の指の間に差し込んでいく。
薬指、中指と続き、やがて所謂恋人繋ぎが完成。
ただの握手とは全然違う。痺れるような、溶けていくような不思議な感覚にそのまま溺れてしまいたくなる。
そのまま彼の肩に私の体重を預けた。私の長い前髪が彼の体にかかっている。
「も……もしかしたら、あの霊につ、つられてまたやって来ちゃったりとか、あるかもしれませんし。と、とりあえずこのままで様子を見ては……どうでしょうか……」
「…………分かった。もう少しだけな」
その姿勢のまま、私は彼を見上げて、精一杯のおねだりをした。
そして、私の気がすむまで彼は傍にいてくれた。
パーティーに合流した時には当初の予定よりも遅れていた。
今度こそカフェが去った後、俺は見られていないことを確認しながらそろりそろりと部屋を抜け出した。
そのまま栗東寮の入口付近までたどり着いた。
メッセージアプリを起動し、ここに来た旨を伝えた。
窓からは幾つもの光や笑い声が響き渡ってこちらまで届いている。きっとカフェも楽しんでいることだろう。
そんな思いをはせていると入口がガチャリと開き、先ほど呼んだ相手がやってきた。
「おーさっきぶりやな! 尤も顔突き合わしてはいないんやけどな! アハハ!」
今しがた俺が呼んだであるタマモクロスがひょっこりと顔を出してきた。
「さっきは出れなくて済まなかったな。ほら、これお前たちが欲しがってたやつ」
俺は手元からお菓子の袋詰めを取り出し、彼女に手渡した。
「おー! 助かるわ! ありがとうな!」
「それにしても、やっぱ勘づいてたかぁ。ウチらも本気でビビらせようとしたんやけどな。マジで色々工夫したんやで?」
「だろうな。他のトレーナーにまでここまでしてるのか? スモークマシンまで持ち出して……」
「いやいや。皆にこんなことしてたら流石に大事やわ。最後にどでかいのかましたろってことでウチらで計画したんや。だけど何でバレたんや?」
「ははは、俺ら側でも結構話題にしてたんだよ。毎年実行委員がやってることだしな。それで俺らもちょっとした占いみたいなことしてるんだわ。お前たちがやって来た部屋のトレーナーは来年良い成績を残せる、とか言ってな」
「なんや、ウチらのこと座敷わらしみたいに噂してたんか……って誰が童の妖怪や!」
「言ってねえよ」
「それはともかく、お菓子ありがとな! ほなな!」
「おう、ハッピーハロウィン、タマモクロス」
恐らくタマモクロス達は、カフェが中に居たことには気づいていない。
さっき俺が出なかったのは、それがバレたく無かったからだった。
勿論、規則としてはトレーナー寮に彼女が居ることは何ら問題は無い。
しかし、カフェはハロウィンパーティーを態々途中参加にしてまでこちらにやってきた。
個人的な感情としては嬉しい反面、生徒たちにばれるのを避けたかった。
生徒たちには噂好きも多い。
俺たちが例え何もやましいことをしていなくても、それであらぬ噂がたてばカフェにも迷惑がかかってしまうだろう。
だから俺は扉を開けようとするカフェを引き留めてまで部屋に籠ることにしたのだ。
カフェも恐らく今日の事は周りには言わないだろうから、きっとこれでうまくやり過ごせるだろう。
だが、結果的には今日の騒動の原因は彼女たちで霊とかでは無かったが、カフェが俺のことを助けようとしてくれたのは純粋に心強かったし、嬉しかった。
「…………トレーナー冥利につきるよ、ホント」
霊能力も何も無いし、『お友だち』に追いつけない彼女の孤独を分かち合うことは俺には出来ない。
だから俺にはせめて、自分の役割を全うすることでしか恩を返すことは出来ない。だから。
「次の有馬記念、絶対勝たせてやるからな」
ハロウィンの空に決意を示した。今日は残業上等でプランニングをしよう。
だが、最後にカフェが手を繋いできながら、頬を赤らめて笑いかけてきた顔。いくら仕事をしてもあの顔だけは俺の頭から離れることはなかった。
彼らはやましいことは何もしていません!決して!
ただちょっと掛かり気味になったカフェが書きたかっただけなんです!
さて、他の小説の息抜きとして書いていたこの小説ですが、今回の話できりも良く、書きたい話はとりあえず書き尽くしたので、一旦一区切りといたします。
とはいえ、またアイディアが湧いたら何事も無かったかのようにしれっと続きを書くつもりですが。その時はまた読んでいただけたら本当に嬉しいです。ではでは。