幻想禍津星   作:七黒八白

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最近呪術廻戦に嵌ってるんですよね、好きなキャラは真人です。


オリ主無双物小説は作者も好物ですが、でもやっぱり主人公は艱難辛苦を歩んでほしいですよね(暗黒微笑)。

頑張ります(何を?とは言わない)。




第三話 孵化

 子供の頃は夏が好きだった、何が楽しいのか虫網片手に走り回って蝉とりに勤しんでいた。

 

 どこまでも透き通った青い空が好きだった、積乱雲を見るとなぜだか元気が沸いた、自転車で何処までも走っていけそうな万能感があった。

 

 

 でもある年の夏だけは好きになれなかった。

 

 

 いつもは碌に水分を取らずとも、ずっと走り回れるくらい元気があり待っていたのに、その時だけは子供心ながら人間の体力は有限であると思い知った。

 

 見慣れた道、小学校や近くのスーパーに向かう際に通る自宅に繋がる道。

 

 夕焼けとアスファルトで熱せられた空気、鬱陶しい熱風を浴びながらヨタヨタと進む、数日程風呂に入っていない自分の体からは、すえたような嫌な臭いがする。

 

 周囲の人達はこちらを見ながら何かを話している、その目はまるで動物園で珍しい動物を見るような印象を受けた。

 

 

 ────────あぁ、またか

 

 

 だが完全に体力が尽きて、惰性と根性だけで歩いている自分はそんな事に気が回らない。数日ぶりに見る我が家、その扉を見る為にどれだけ苦労したか。

 

 

 ────────やめろ

 

 

 鍵は持っていない、だから中に誰かいる事を賭けるしかない。扉にもたれかかりドアノブに手を掛ける。

 

 

 ────────開けるな

 

 

 祈りが通じたのかドアノブは抵抗なくすんなり開いた、靴脱ぐことすら忘れ自分は駆けあがる。

 

 

 

 ────────駄目だ その先は

 

 

 

   リビングに向かい  

 

 

 

     窓から差し込む夕焼けに照らされた  

 

 

 

       部屋の真ん中には────────影が一人、否──────― ()()

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────────―ッッッ!!!!!!」

 

 どんな空調が効いているのか、クーラーも無いのにやたら涼しい高級ホテル顔負けの豪華な客室で目が覚めた。

 

 高級ホテルなんてものに泊まった事は無いのだが、それでも自分が住んでいたボロいアパートと比べると天地程の差がある、強いて言えば赤色で揃えられているのが不服だが、一泊にしてもう慣れ始めている自分がいた。

 

「あ゛ーーーーー………………チッ、最高の目覚めだ」

 

 寝汗に塗れた寝巻を、大きな舌打ちを鳴らしながら脱ぎ捨てる。

 紅魔館側から提供された客室が今の自分の寝泊りする場所であった、壁に掛けられている時計を見ると七時半、そろそろ十六夜咲夜が朝食を運んでくる時間だった。

 

(とりあえず着替えるか…………あと美鈴さんに会いに行けって言われたけど、何をさせられる? 門番? 流石にないよな?)

 

 着替えに使えと渡されたカッターシャツとスラックス、そして汚れが目立たなさそうな黒い華人服の上着と白いズボン。恐らく、というか間違いなく紅美鈴が着ている服の色違いである。

 

 正直これを着て本人の前に出てもいいのかと思うが、多分新品だろうと気にせず袖を通す。意外と着心地が良く、例え力仕事を任されたとしても動きを阻害する事は無いだろう。

 

(別にここに就職するつもりは無いが、タダ飯食うだけってのもな…………)

 

 あの後軽く紅魔館内を案内された、といっても自分に関係がありそうな場所などほとんどなかったが図書館があるのは嬉しい。一週間以上あるにも関わらず食って寝て過ごすのは精神衛生上よろしくない。この幻想郷について、妖怪がいるのならそのあたりの知識は欲しい。

 

 そして近寄ってはいけないという幾何学的な模様が刻まれた扉、階段直通の地下室。恐らく魔法陣的な物で封印もしくは鍵を掛けているのだろう。

 何があるのかは知らないが言われなくとも近寄るつもりは全くない。地下室というだけで大体察しはつくというものだ。

 

(俺自身、現状をちゃんと理解しているかすら怪しいしな。帰れるなら帰りたいが…………外で俺の行方不明が大騒ぎになっていたら────────)

 

 考えるだけで憂鬱になる、大きな溜息を吐いていると規則正しくドアがノックされる。扉を開けてみると食事を運んで来た銀髪メイド、十六夜咲夜だった。

 

「おはようございます、良く眠れましたか? 朝食をお持ち致しました」

 

 流麗な所作と挨拶はそれだけこの人が完成されたメイドである事を思わせるが、自分は正確には客人ではないため、そこまで畏まる必要は無いと思うがそんな事は彼女には関係無いのだろう、丁寧に食事を乗せたカートを部屋に入れる。カートの上には白米、味噌汁、焼き魚等々、意外なことに和食であった。

 

「ありがとうございます。和食なんですね、少し意外でした」

 

「紅魔館の者達は普段洋食ですが、嶋上様にはこちらの方が馴染みがあるかと腕を振るわせて頂きました…………お気に障りましたか?」

 

 勿論そんな事は無いので、感謝を述べて誤解は解いておく。食べ終えたら部屋の外にカートごと置いておけば回収すると言い残し、一礼の後十六夜咲夜は部屋の外に出る。食事を食堂では無く客室で食べたいと言ったのは自分なので彼女には余計な手間を掛けさせてしまっているのは少し申し訳なく感じる。

 

 しかし、正直なところ自分は彼女にはかなり警戒しているのが本音だ。初めてレミリア・スカーレットと話していた時、彼女が急に現れたあの現象。

 

(瞬間移動、か…………或いは…………)

 

 いくら何でもあり得ないと、何度も脳内で否定しているが確証がないため否定しきれない。仮に()()だとして何故自分はそれを認識出来たのか、全く分からない…………もういっそ聞いてみるか? 

 

「すみません十六夜さん──────―って、もういないのかよ…………」

 

 外の長い廊下は左右どちらも曲がり角まで十メートル以上ある、走ったのなら未だしも歩いたのであれば姿位見えてもよさそうな物だが、どちらの角を曲がった先にも十六夜咲夜の姿は見当たらなかった。

 

 まぁ、どうせダメ元であったしその手の異能は相手には晒さない物だろう。ましてや自分を取り逃がさない事をレミリアから厳命されているので教えるはずがない。特に落ち込むことも無く部屋に戻り、朝食を食べながら今後の方針について考える。

 

(俺がやるべき事、というか目的は大まかに分けて二つ。『外の世界への脱出』と『人里への移住』)

 

 どちらも情報が足りないため、矛盾している方針であっても並行して進める事にする。一番知りたいのは自分が意識を失い、森で目覚めてからどの位の時間が経っていたのか。流石に時間の流れまで違わないだろうとは考えていたのだが──────。

 

(────―可能性が皆無、では無いよな。全くとんだ人外魔境に来てしまった)

 

 次におそらくこの幻想郷で唯一人が住んでいる人里、この世界でもし生きていくのだとしたらここしかない。レミリアは何か自分に力が秘められている的な事を言っていたが、だからといって妖怪やらがそこら辺でエンカウントするこの世界で、一人で暮らせるとは全く思わない。

 

(せめて場所が知りたい、十、二十キロ程度なら走り続ければ俺の足なら一時間は掛からない)

 

 問題があるとすればその間、間違いなく妖怪に襲われるという事。結果論に過ぎないが、紅魔館に監禁されたのはそこまで悪い事では無かったのかもしれない。レミリアの機嫌次第で死にかねないという点に目を瞑れるのであれば、という条件付きだが。

 

「…………ふぅ、やる事も考える事も多いな。ご馳走様」

 

 そうこうしている米粒一つ残さず食べ終わる、中々に美味だった。十六夜咲夜が腕を振るったと言っていたが彼女は料理長なども兼任しているのだろうか。食器をカートに載せて部屋の外に出しておき、そのまま紅美鈴がいるであろう正門まで向かう。

 

「まずは美鈴さんの用事を済ませて、そのあと図書館で情報収集だな」

 

 もっとも、自分が求めている情報は間違いなく規制されているだろうが。

 やれる事と出来る事を考え、今後の展開を虎視眈々と計画しながら階段を降りていく、どう生きるにしてもどう死ぬにしても『諦める』という選択だけはあり得無い、そのことだけは固く自身に誓って。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────────最初はどう鍛えればいいのか、と紅美鈴は考えていた。

 

「──────セイッ!!」

 

 目の前の本気で拳を打ち込んでくる青年────―嶋上輝雄の手首から廻し受けの要領で軽く打ち払い、勢いを殺さず足払いを掛ける。

 

「フッ!!」

 

「(反応が早い、かなり筋はいいですね)──────―お見事! 良く避けましたね!」

 

 しかしそれを見切り、跳んで避けると同時に飛び後ろ回し蹴りを放つ、しかも側頭部に。人間が相手ならば辺りどころが悪ければ死んでもおかしくない、そんな技を平然と使うあたり、彼の人を傷つける事への心理的ハードルは極めて低い、または全くないのだろう。

 

(しかし間違いなく武術や武道に精通した動きでは無い、でも粗削りながらかなり慣れた動きをしている。少なくとも高速戦闘の中で局所的な部位を狙える程────────間違いなく体術は天賦の域!)

 

 彼女が仕えている主人、レミリア・スカーレットには純粋な戦闘力では及ばないが、それでも美鈴は長い年月武に打ち込み続け、人間妖怪問わず多くの戦いを経験してきた。

 

 相手の戦力や経験を動きなどから把握するのは当然の技術、そんな彼女の嶋上輝雄の評価は本人自身意外な程高評価である。だがしかし、霊力も碌に使えない外来人に遅れは取らない。

 

 柔軟な股関節を使う事を意識し、足を開く事で回し蹴りを頭上に通しやり過ごし、すかさず着地と同時に輝雄の足をつかみ取り地面に引き倒す。避けられる事は想定していたのだろう、しかし一瞬のうちに足まで刈られる事までは考えていなかったのか受け身も取れず墜落する。

 

「────―ッ!!」

 

 しかしそれでも目の前の青年は諦めず、頭部と腕で体を支え足を振り回し飽くまで攻勢に出る。彼はブレイクダンスの見よう見まねで、美鈴が知る動きではカポエラーに近い動きで、顔を目掛けて蹴りが飛び込んでくる。常人であればその勢いと速度に距離を取ろうとするかもしれないが────────―

 

「やっぱり器用ですね、でも怪我する前にやめましょうか。それ」

 

 ──────―容易くその蹴りを見切り足首を掴み取る。振りほどこうとかなりの力を籠めるが、美鈴の腕力を上回る事は流石に不可能であった。

 

「………………成程、勝てないな、コレは」

 

「いえ、そうでもありませんよ? 正直見くびっていました、思った以上にいい動きをしますね輝雄さん。身体能力も人間離れしてますし」

 

 降参の意を示し、そのまま地面に倒れる。一回の立ち合いを十分程に設定し十回程立ち合い勿論美鈴が十勝した。彼は息を整えながら服の汚れを払い落し、立ち上がる。全力で動いていたはずだが体力の回復もかなり早い様だ、これで素人なのだから磨けばかなり光るだろう。

 

「何より私を女と侮らず一戦目から全力で攻めてきたのも高評価です、武道家としても、そして幻想郷で生きる上でもその心構えは必須ですよ」

 

 女性に手をあげる事に引け目を感じないと言うと聞こえが悪いが、始めから競う為に戦っているのに手を抜くことは決して褒められた事ではないと美鈴は考えている。

 

 そして幻想郷では女性だからといって男性より弱いなどという外の世界の常識は通じない、寧ろそういった人外や強者達は不思議と女性が多い。その点この輝雄はという青年は外の世界では狂人と呼ばれる部類だったのかもしれないが、案外幻想郷に馴染める精神性を持ってると考えられる。

 

「別に自分は武道家ではありませんが…………格上なのは始めから分かっていましたので」

 

「それでも腐らずに、本気で勝とうと立ち向かってきたのもポイント高いですね────────それでは輝雄さん、貴方は何故私に負けたか分かりますか?」

 

 さて、ここから本題だ。

 紅美鈴は意識を切り替え、今日一番重要な事を教えるため輝雄に何が足りていないのかを思考させる。幻想郷で妖怪や人外の類と向き合うのであれば必須といってもいい能力を彼は使っていない、どれだけ体術の才能が有ってもそれだけでは幻想郷では生きてはいけない。

 

「何故って、戦いの素人と玄人だからですよね?」

 

「確かにそういった研鑽や経験は時に才能すら凌駕し勝敗を覆しますが、『剛よく柔を断つ』とも言います。私より体格で勝っている貴方が何故力負けしたのか、それはズバリ────────貴方が人間であるにも関わらず()()()()()()()妖怪の私に立ち向かったからです」

 

「………………つまりどういうことですか?」

 

 全く要領を得ないのか、その頭上には疑問符が浮かんでいるように見える。当然と言えば当然である、曰く彼は全くその手の力に今まで触れてこなかったのだから。

 

「人間は基本弱い生き物です、その身体能力は武器有りでも一対一では野生の獣にも負けます…………尤も貴方は多分刃物さえあれば熊や虎と渡り合えそうですが」

 

 言いながら美鈴は手に妖力を集中させ、小さな光弾を作り出した。

 輝雄は突然の出来事に目をむきながらも観察している。前日からも思っていたが、やはり彼は適応力がかなり高い。理解できない事を理解できないままにはせず、冷静に考えているようだ。

 

「ましてや妖怪は野獣の比ではありません、知性がある程の妖怪なら翼も無く空を飛ぶ者も珍しくありません」

 

「────────それは虎が翼を得る方がまだ可愛げが有りますね、では人間も同じような力が使えるんですか?」

 

「結論から言えば使えます、個人よって多寡の差は有りますが魂がある生き物ならどれだけ微量であっても霊力が宿ります──────特にこの幻想郷では」

 

 霊力も妖力も、一部の例外を除いて内臓などに物理的に蓄えている力ではない。その精神や魂に宿る力だ、なので基本的にはどんな生き物にも霊力はあるし、妖怪ならば絶対に妖力がある。そして精神に依存する妖怪にとって妖力は生命力であり、全て枯渇するようなことがあれば命にかかわる。

 

(────―と言っても輝雄さんの霊力はそこまで多い訳じゃない……間違いなく咲夜さんよりは少ない。でも空を飛ぶ位は出来るでしょう)

 

 手合わせしながら彼の力量は大体測れた、噂に聞く博麗の巫女には遠く足元にも及ばないだろうが元から高い身体能力と合わせれば、そこいらの雑魚妖怪────ルーミア程度になら負けはしないだろう。

 

「本来なら長い時間を掛けて意識と霊力を結び付け、自在に操れるようにするのですが、私の『気を使う程度の能力』でその過程を省略します」

 

「…………大丈夫何ですか? それ?」

 

 妖力はそのまま人間に流し込むことは毒だが、それを能力を使って気に変換すれば人体を害する事は無い。しかし本当の事を言えばあまり良い事ではない、自身の霊力と言えど無理矢理覚醒させたりすれば肉体への負担、限界以上放出すれば一歩も動けない程疲労することは十分にありえる。

 

(────―でも異変まで時間が無い。スペルカードルールを博麗の巫女が破る事は無いでしょうがそれでも基本的な霊力操作も使えないようでは、最悪事故死もあり得る)

 

 始めはそこまで乗り気では無かったが、美鈴は目の前の原石を少しだけ惜しく思い始めていた。紅魔館に対してやや不信感はあるようだが、身の安全が保障されている以上敵対する事はないだろうし、彼自身そこまで悪い性格ではない様に思う。

 

 従者である以上主人には逆らえない。レミリアが何を考えているのか、なぜ彼に自分の能力は通じ、レミリアの能力が通じなかったか。不確定要素が多い以上、異変で彼の身の安全は完全に保障されるとは言い切れない、門番である以上自分も巫女と戦う事になるだろう、守ってあげられるとは限らない。

 

(彼にはせめて自衛できる程度の実力をつけてもらわなくては)

 

 自分に出来る事はこれが精一杯だ、流石に主人の意向は無視できないが『鍛えろ』という命令からはこれならばそこまで外れていない。

 

「大丈夫です、私の気を流し込み輝雄さんの内に眠る霊力を揺り起こします。輝雄さんはそれを意識して自由にコントロールしてみて下さい」

 

「(……ハンターハンターの天空闘技場のアレみたいな感じか?)──────分かりました。やってみます」

 

 その場に胡坐で座らせ細心の注意を払い、能力を行使する。その肩に手を置いてゆっくり気を流し込む。満月まで一週間と少し、幻想入りしたばかりで霊力も何も使ったことが無いどころか感じた事すら無い外来人を鍛えるにはあまりにも心許ない。

 

 せめて弾幕や空を飛ぶまで行かずとも、霊力纏うことによる身体能力強化を使えれば事故死するような事態は絶対に避けられる。そう願いながら、美鈴は慎重に彼の体と霊力を気で操作する。

 

(漏れ出ていた気でも分かっていましたけど常人離れし過ぎてますね…………これなら霊力で強化している方が、まだ納得できる)

 

 相手が何十年も鍛え続けてた武道家ならまだ分かる、しかし先の立ち合いから彼にそんな動きは感じられなかった、才はあれど精々喧嘩慣れしている子供程度だ。平和なはずの外の世界で、生きて二十年程度の青年が到達できる領域では無い。改めて目の前の青年の異常性を精査しながら分析する。

 

 輝雄の膨大な気を押さえ込み、そこに美鈴は自身の気を混ぜる。徐々に張り巡らせて体の中心まで気を満たす、そして彼の体に眠っている霊力を外側から干渉しようとするが──────────―

 

「(うん? 何ですかね、これは? 簡易的ですけど…………封印?)──────―輝雄さん、外の世界で何か、お祓いみたいなものを受けたことが有りますか?」

 

 ────────―輝雄の内側に、霊力を抑える術式の様な物が刻まれているのが感じ取れた。

 強固な物では無い、いつも地下の図書館で読書している魔女に比べれば美鈴はそこまでその手の呪術に精通しているわけでは無いが、その気になれば自分でも力づくで破れるであろう一時しのぎ的な封印。

 

「いえ、ありません。どうかしましたか」

 

「(…………やっぱり嘘はついてない、本人も知らない間に刻まれた?)ちょっと霊力が、あーーーー何と言いますか凝り固まった状態になってまして…………無いなら良いんです、そのまま集中してて下さい」

 

 恐らく彼が自然と霊力を覚醒させないため、誰かが知らせずに封印したのだろう。何故神秘的な力が幻想の物となり、廃れてしまった外の世界でそのような事になったのか不思議に思うが今は邪魔なので美鈴は封印を解くことにする。

 

 この封印は彼自身の霊力を感じさせなくする程度のもの、始めから彼が霊力を使えていたとしたら内側から力づくで破れていてもおかしくはない弱い封印。

 

 気を集中させて、彼の力を薄い膜の様な物で遮っている封印を圧迫し捻じる。霊力を水とすれば封印が水風船、弾性や靭性が限界を迎えるまで圧し続ければ解くことが出来る。彼の体に負担を与えない様に気を付けながら気を操作し続けようとしたが────―

 

「──────ん? これが霊力か」

 

「え、ちょ、待っ────―」

 

 ────―言い切る前に彼が霊力を自分を中心に暴発に近い形で放出する。

 封印に無理矢理干渉した結果。霊力の輪郭を掴み、結果的だが感覚が通ったのだろう。淡い水色の波動が砂埃を立て周囲に突風を巻き起こす、その勢いに思わず美鈴は顔を庇う。

 

「────────ッッッッ!!?」

 

「あ、すみません。体に纏う感じで操作したんですけど…………何か思ったより勢いが出てしまって」

 

(──────―信じられない)

 

 目の前には霊力を身に纏いほんの数十センチ程度だが空を浮き、両手で小さな光弾を作りだしている輝雄がいた。

 

 興味深そうに水色の弾を掌で転がしながら、同時に空を飛ぶ感覚も掴んだのか緩やかに上下している。暴発する形で放出されていた霊力は落ち着き、必要以上浪費しないように最低限の出力に収め、内側に押さえ込んでいるようだ。

 

(操作できている、しかも完全に…………!! 成長が早いなんてものじゃない、明らかに異常だ! 本当にこの人霊力や能力の事を知らないただの外来人だったんですか!?)

 

 当初、美鈴の目的は精々霊力を何となく感じ取り、そして自分が補助する形で少しづつ霊力を操作する感覚を教えるつもりだった。しかし彼は覚醒すると同時に霊力の弾を作りだし、軽く飛翔している。この様子なら恐らく身体能力の強化も出来ている。

 外の世界で例えるなら目の前の彼は補助輪なしで自転車を漕ぎ出すどころか、いきなり大型バイクを乗りこなす程の成果を叩き出した。

 

「何とか感覚は掴めました、次はどうすればいいですか? ………………美鈴さん?」

 

「────―え!? あぁ、はい、思ったより上達が早いので今日は怪我しない程度に霊力を自由に操作してて下さい、私はちょっとお嬢様に報告が有りますので」

 

 落下したら危ないのであまり高くは飛ばない様にだけ注意し、美鈴は足早にレミリアがいつも紅茶を飲んでいるバルコニーに向かう。

 

 逃げようとしても紅魔館周辺までなら気の感知で追跡できるので逃げられたとしても問題はない。今問題なのは────────彼の異常な成長性。

 

(霊力を使ったことが無いのは嘘じゃない、でもだとしたらあの霊力の操作と封印は一体…………?)

 

 褒められた行為では無いが、事が事だけに飛翔し直接バルコニーに向かう。そこにはいつも通りメイドの咲夜とその咲夜が淹れた紅茶を飲んでいる主が居た、そして珍しくいつもは図書館に籠っているはずの魔女──────パチュリー・ノーレッジも本を読みながらいた。

 

「ちょっと美鈴、いきなり何よ? カガオの育成と門番は?」

 

「無礼を承知で失礼します、お嬢様。そのことで少し報告が有ります」

 

 いくら気心が知れ上下関係がやや緩い所があるとは言え、それでも主人のティータイムに騒々しい真似に僅かに眉をひそめるが、片膝を着きレミリアの側に控える姿に何かあったと察し、テーカップを置く。

 

「何? 思ったより才能無かったのアイツ?」

 

「むしろその逆です──────―あれは異端です、確実に何かあります」

 

 美鈴は何故か本人も気づいていない封印があったこと、解除した瞬間飛行と弾幕の生成が出来た事を話した。今現在は彼の実力は美鈴や咲夜でもどうにかなる程度だがあの青年には無視しがたい謎が多いのも事実。今の内に何らかの手を打つべきではないか。

 

 始末とまではいかずとも最悪人里に解放した方が良いのではないかと美鈴は考え始めていた、美鈴自身彼を害する様なつもりは全くない。しかし彼は囚われの現状をあまり快くは思ってないだろうことは分かる。

 

(私はてっきり、彼は賢者の神隠しにあったのかと思った…………でも、もしそうでないとしたら? 多くの妖怪や神仏と同じように彼も幻想となってここに流れ着いたのだとしたら?)

 

 紅魔館は思っている以上に厄介な物を引き込んでしまったのかも知れない。美鈴にはその不安が募る──────―が、レミリアは

 

 

「────────何よそれ、思った以上に面白そうじゃない」

 

 

 ただ愉しそうに笑っていた。

 

 レミリアとしてはもとよりどう転んでも良かったのだ、嶋上輝雄に才能があり、異変でもそれなりに活躍できる目があるのなら、ただそれだけで全ての不安要素に目を瞑る。それに如何に強かろうと所詮は人間、吸血鬼である自分には敵わないだろうと高を括っていた。

 

 異変時に巫女の力削ってくれるのがベストな展開だが、いくら才能が有っても博麗の巫女相手には無謀だろう。精々面白おかしく引っ掻きまわしてくれればそれでいいとレミリアは美鈴の不安を切り捨てる。

 

「しかしお嬢様、嶋上様はお嬢様の能力が通じなかったのですよね? その謎だけでも判明させておいた方が良いのでは?」

 

「あーーーーそうね、それもあったわ…………ちょうどいいわ、パチェ頼める?」

 

「…………来ると思ったわ、わざわざ図書館に足を運んでお茶に誘ったのはそれね?」

 

 パチュリーはややウンザリしたように本から顔を上げてレミリアをジットリと睨む。おかしいとは思っていたのだ、パチュリーはいつも図書館に籠り読書と魔法の研究に没頭している。

 

 そして自身の友人もそれを理解しているので、いつもは必要以上に干渉はしてこないが何故か今日はお茶に誘われたのだ。夜なら断っていたが昼間という事もあり折角なので付き合う事にしたのだが、どうやらまんまと嵌められたらしい。

 

「いいじゃない別に、本ばっかり読んでてもつまんないでしょ?」

 

「つまらなくないわ、寧ろ本を読む以外は極力したくないわ」

 

「それじゃ私がつまらないじゃない」

 

 暴君、唯我独尊、レミリアはさも当然の様に言い切った。今度こそパチュリーはウンザリしながら溜息を吐き、気分を変える為に紅茶を一口飲む。程よい熱さの紅茶を口に含みながらどうせ目の前の友人は首を縦振らないと駄々を捏ねる事は簡単に予想出来たので、パチュリーはいつもの事だと諦めた。

 

「…………ふぅ、いいわ。レミィの無茶ぶりは今に始まった事じゃないしね。その外来人が何らかの魔法の進展に繋がる事を期待しましょう」

 

 望み薄でしょうけど、魔女は本を閉じながら席を立ち図書館に向かい始める。

 そもそも外来人を招いている事自体今初めて聞いたのだが、何から調べるか、こちらの準備など全く整っていない。適当に調べてレミリアには何もなかったと言えばいいかと考える。

 

 異変を起こす時、そのシマカミがどうなろうともはっきり言ってパチュリーの与りの知るところでは無いが異変決行時に邪魔されるのは避けたい。ただでさえ自分にはレミリアでも手を焼く()()()()を抑える役目があるのだから。

 

「美鈴その外来人、シマカミとか言ったかしら? 後で図書館に来るように言っておいて」

 

 何より、読書と魔導の研究に邪魔しない様に言っておかなくてはこちらが目を離した隙に勝手死なれても困る。

 

「さて…………美鈴の能力は効いて、レミィの能力は防いだのよね…………となると何らかの条件付きで遮断していると考えるのが自然ね、ならその条件は? 何の為の封印だったかも気になるわね」

 

 魔女は一人、地下の図書館に向かいながら思考に没頭する。面倒とは言いつつも未知を前にした時無意識ながら心が躍るのを自覚しながら、まだ見ぬ外来人に興味を深めていく。

 

 




美鈴の色違いの服きてる描写がありましたが、男性用になってると思って下さい。流石にフリルついているのは彼は着ないので。


一応補足、現時点ではオリ主は霊力が使える様になっても「純粋な」力量は美鈴と咲夜以下
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